駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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 後編です


第14話 初めての秘書艦 午後

 鎮守府の食堂は業者に委託されているが、艦娘や将兵が自由に厨房を利用することができ、金曜日のカレーなど特定の日の食事を艦娘の賄いにしている鎮守府も多い。

「さて、何をつくろうかな」

「サンドイッチとオムレツにしよう!」

 エディとリッチは冷蔵庫からパンと野菜(レタスのつもりのキャベツとトマトの代わりのナス)、ベーコン、ジャガイモが無かったので赤い皮の芋(サツマイモ)を取り出した。

「包丁ってどうやって使うんだっけ?」

「さあ?」

 実はエディもリッチも料理をしたことがなかった。アメリカでは食事は食堂でとっていたし、サバイバル講習では食べられる虫の知識は習っても料理の仕方は習わなかった。料理や菓子作りの好きな艦娘はいたが、特に一緒に作ることもなかったのだ。

「テレビで見たようにやってみたらどうかな?」

 エディとリッチは危なっかしいやり方で野菜を切り始めた。

「なかなかサイズが揃わないね・・・」

 エディは無残にもバラバラになった野菜を見て呟いた。

「できないことを嘆いても仕方ないよ、次に行こう」

 リッチがそういってかき混ぜた卵と野菜を熱したフライパンに入れる。だが油を敷いていなかったため卵がフライパンにこびりついてしまった。

「どうしよう、このままじゃ真っ黒焦げになっちゃうよ!」

「あ、ベーコン入れるの忘れてた」

「リッチのバカ!そうだ、油を敷けばいいんだ!」

 ここにきてエディは基本的なことを思い出し、オイルボトルを持ってくる。だが、そこでまたも非常識が炸裂した。エディはボトルの油をフライパンになみなみと注いだのだ。こぼれた油が引火して、フライパンが火の海になる。

「うわああ!火事だ!どうしようリッチ!」

「お、落ち着いてエディ、これぐらい特攻に比べれば怖くないよ!とにかく消火器を!」

 二人があたふたしていると、誰かが厨房に入ってきて火を消した。

「おい、何があった!大丈夫か?」

 それは山岸少佐だった。

 

 

 

「本当にごめんなさい!」

 エディとリッチは山岸に謝った。今彼女たちは食堂のテーブルで山岸に向かい合って座っている。彼女たちの前には、山岸が作り直した昼食が置かれていた。

「火災については本来なら厳正に処罰すべきところだが、私の監督不行き届きでもあり、悪気があってやったことではないので、今回は不問とする。くれぐれも気をつけてくれ」

「ありがとうございます・・・」

「そんなに落ち込まなくていい。初めてに失敗はつきものだ。ここは戦場じゃない、まだ失敗しても何とかなる。ただ、自分の力量を見極めて足りなければ人に頼ることを忘れるな」

 山岸はそういうと、料理の皿を二人に押し付けた。作ったのはくず野菜の炒め物を載せたどんぶりだ。エディ達は食べてみる。

「おいしい!」

「ならいい。午後からは午前の訓練の報告書の作成と事務作業をしてもらう。資料は置いておくから、食べ終わったら事務室を使え」

「了解しました!」

 山岸は出て行った。

 

 

 

 エディは報告書をまとめるとリッチに他の作業を預けて、司令室に向かった。すると何やら怒声が聞こえる。司令室の中で誰か口論をしているようだった。エディはとりあえず部屋の外で聞き耳を立てる。

「落ち着いてください、長門さん!」

「どうして私の出撃許可が下りないんだ!前線には私が必要なはずだ!」

「駄目だ。お前にはここにいてもらう」

「今の戦況でなぜそんな悠長なことを言える? どうして私だけこんなお飾り鎮守府なんだ!」

「お前は連合艦隊旗艦だ、万が一のことがあっては困る・・・」

「旗艦は大和がやればいいだろ!陸奥も大和も武蔵も出撃しているのに、このままではまた私は・・・」

「もういい、出て行け。しばらく頭を冷やすんだ」

 扉が開き、長門が出てきた。長門はエディを見ると、彼女を忌々しげに見つめた。

「くそっ、あの時出て行っていれば・・・」

 長門はそう呟くと、大股で立ち去って行った。エディは恐る恐る部屋を覗く。

「おお、エディちゃんか。入ってきてくれたまえ」

 エディに気付いた佐々木が声を掛けた。

「あ、あの。さっきのは?」

「うむ、聞いておったか。気にすることはない。昔のことを思い出して焦っておるのじゃろう。山岸は今演習場に行っておる。すぐに帰ってくるじゃろうから、少し話をしよう」

 佐々木はそういうと自ら珈琲を淹れてカップに注ぎ、ソファーに座ったエディの前に置いた。

「薄めに入れたが、苦かったらそこの砂糖とミルクを入れるといい」

「お気づかい、ありがとうございます」

「どうかね、基地には慣れたかな?」

「はい。ですが、わたしも長門さんと同じで、もっと前線に出て戦いたいです」

「ほう。どうしてかね?」

「わたしは日本の人たちと友達になって、一緒に戦いたくてここに来ました。ここの皆さんは優しいです。だけど、なんだか気を使われてる感じもあって。もっと前に出て実績を上げれば、みんなに受け入れられるんじゃないかな・・・って」

「そうかそうか。それはすまんな。儂は昔ちょっとしたまぐれで功績をあげて大将になったが、所詮は昼行燈。こんな内地に引っ込まされている身じゃから、手持ちも少なく、あまり外向きの任務が回ってこない。君達に少し退屈されるのも当然じゃな。じゃが、砲火に身をさらすことだけが戦争ではない。那珂のように、広報で艦娘や海軍への理解を深めてもらうことも戦いに貢献できる。現にどの国でも艦娘の広告は海軍の貴重な収入源じゃ。君も君なりにできる範囲で自分の戦いを見つければいい。ここは暇じゃから、考える時間はいくらでもある」

 戦艦には戦艦の、駆逐艦には駆逐艦の役割があるように、戦う以外にも自分の使命を見いだすことができる。エディはそう受け取った。

「わかりました、ありがとうございます」

「他に聞きたいことはあるかね」

「実は、わたしまだあまり山岸少佐のことを知らないんです。何か面白いお話はありますか?」

「おお、それならとっておきのがあるぞ。確か奴の机の中に・・・」

 そういって佐々木は山岸の机の引き出しをあさり始めた。

「うむむ、この前はあったはずなんじゃが・・・」

 と、ここでガチャリと扉が開いて山岸が帰ってくる。

「し、司令、何をやってるんですか?」

「エディちゃんに山岸君の面白い写真を見せようと思って探してたんじゃ」

「アルバムなら私の居室にありますよ。人の机を勝手に探らないでください」

 そういうと山岸は引き出しを閉じた。

「エドワーズ。報告書は出来上がっているか?」

「はい。これです」

 エディは報告書を渡した。

「今は勤務中だから許可できないが、アルバムなら今度見せてやる。暇なときに私の部屋に来るといい」

「はい!楽しみにしてます。あ、リッチに仕事任せたままだった。ちょっと戻ります」

 エディはそういうと部屋を出て行った。

「何気に女の子を自分の部屋に誘うとは、侮れんの」

「茶化さないでください。別に彼女に興味があるわけではありません」

 山岸は佐々木の茶化しに表情を変えずに答える。

「もう少し男らしく女に興味を持ったらどうだ。お前は顔も頭も悪くないし、ちょうどいい年頃なのだから、艦娘でも普通の女性でもいいから所帯をこしらえろ」

「今は仕事が楽しいので」

 山岸は相手にしない。実際、新入りというだけで窮屈にお茶くみや雑用ばかりやらされていた海軍省より、忙しくとも佐々木の指導の下でより実践的な任務につける鎮守府の方が、山岸は将来役立つと思っていた。海軍省では安定した出世ができるが背広組のような役人連中に媚びていては戦争に勝てないし、基地や護衛艦勤務では出世に時間がかかりすぎる。そんな中、防衛大時代の恩師である佐々木から鎮守府に来ないかと誘われ、二つ返事で飛びついたのだった。

「そういっておるといき遅れるぞ。退役した未婚の艦娘なら心当たりがあるから、儂が仲介してやろうか?」

「なら、司令が先にもらってください。その年で独り身では老後がつらいですよ」

「儂は生涯現役じゃ。ここにはかわいい子たちもたくさんおる。別に不足もない」

「では、私も不足がないことにしておきます」

「口だけは達者じゃな」

「司令に似たもので」

 佐々木はそれを聞くと大笑いした。

「まあ、政治は大事じゃがあまり飲まれるな。でないとお前の嫌いな背広組のようになるぞ」

「肝に銘じておきます」

 二人は仕事に戻った。

 

 

 

 エディが事務室に戻ると、リッチはパソコンを操作しながら答えた。

「遅くなってごめん。佐々木司令と長話になっちゃってさ」

「大丈夫。後は書類を印刷して切り貼りするだけだから」

 リッチはパソコンのウィンドウを切り替えてエディに見せた。

「あはは、わたしって足手まとい?」

「そんなことないよ。エディにできないことがあるから、私が頑張るんだから」

 リッチは嬉しそうに言う。それを聞いてエディは安心した。

「じゃあ、作業終わらせちゃおう」

「うん」

 

 

 

「今日の仕事はこれで終わりだ。二人とも、お疲れ様」

 午後7時。エディとリッチは資料を提出して業務を終了した。

「今日はゆっくり休んでくれ」

 そういって資料に目を遣る山岸に、エディが話しかけた。

「あの、少佐」

 エディは隠し持っていたタッパーを取り出した。中には大学芋が入っている。

「今日も夜は遅いと聞いて、初春さんに手伝ってもらって作ったの。よかったら食べてください!」

 エディもリッチも手を見ると絆創膏が張ってあった。山岸はそれを見て微笑む。

「ありがとう、二人とも。また秘書艦を頼むかもしれないが、その時はよろしく」

「もちろんです。その時には、少佐ももっと偉くなって、いろんな所へ連れてってくださいね」

「ああ。努力しよう」

(結局山岸さんのことあまり知れなかったな・・・)

 こうしてエディとリッチの初めての秘書艦は終わった。

 

 

 

「ただいま。山岸さん、起きてる?」

 午後11時、鞄と両手にゲームや漫画、ブルーレイから同人誌まで様々なサブカルグッズを満載にした夕張が司令室に入ってきた。

「夕張か、休暇は楽しめたか?」

「楽しくてちょっと買いすぎちゃいました。今度ゲームパーティしてもいいかも、って山岸さん、何食べてるんですか?いったい誰が作ったんですか?」

 夕張は山岸が大学芋を、それも手料理のように見えるものを食べているので驚いて詰め寄った。

「ああ、エドワーズたちが私が夜勤だからと気を使って作ってくれたんだ」

「私のいない間に山岸さんに餌付けとは、あの子たちもえげつないわね」

「彼女たちにそういう気はないだろうし、私も小学生には手を付けないさ」

「仕事ぶりはどうだったんですか?」

「だいぶまかせっきりだったが、言われた程度のことはやっていた。鎮守府祭の那珂ちゃんライブの原稿の入力はリチャードがやったそうだが、意図的に混ぜておいた誤字が勝手に修正されていた」

「それは便利ね」

「見方を変えれば命令を自己裁量で勝手に変えたことになるがな。それより、頼んでたものは買ってきたか」

「ええ。でも、通販は搬入時に検閲がかかるからって、こんな手段を使わなくても・・・」

「こんなことでもなければ、休暇届なんか受け取らんよ。鎮守府に本屋はないし、横須賀基地のコンビニはこっち系のは置いてないからな」

 山岸は夕張に渡された包みを開ける。半裸の男が淫靡なポーズで立っているパッケージはまさしくゲイビデオであった。

「ホント山岸さんも物好きね」

「でなきゃ女だらけの職場で正気ではいられんさ」

 パッケージを嬉しそうな表情で眺める山岸を見て夕張は呆れかえる。

(まあ、山岸さんが好きものである限りは誰ともくっつかないから。秘密を守れば私の一人勝ち・・・なのかな?)

 夕張はどこかずれた結論を無理やり納得していた。夜は更ける。

 

 

 

???《はい、あれは現状では入手困難です・・・あれを使うんですか・・・解りました。その手筈でお願いします》

 




 皆さんお疲れ様です。投稿間隔的にも字数的にも長くなって申し訳ありません。
 やっぱり普通の日常って難しいですね。私は笑いのストックが無いので、どうすれば面白くなるか大変悩みました。

補足

横鎮の位置関係・・・安保失効後、米軍横須賀基地跡北側に通常護衛艦の泊地および対深海棲艦用要塞が建設され、旧三笠公園や神奈川歯科大学に隣接する南側に艦娘関連の施設が集約されている(両施設の通行は自由。売店などは護衛艦泊地に集中しており、買い物をしに海軍基地に入ってくる艦娘の姿も見受けられる)。三笠公園は三笠の艦娘化のために三笠を解体され、公園も取り潰されて憲兵隊詰所になっている。

深海棲艦と通常兵器の関係・・・深海棲艦に対しては、通常兵器であっても必要な火力を持って対処すれば倒すことができる。通常駆逐艦の127㎜砲でイ級を撃てば沈めることができ、ハープーンの直撃を食らえばル級であっても無事では済まない。問題は深海棲艦が人型サイズであるということと、無尽蔵に発生するためミサイルではコストパフォーマンスが悪すぎるということである。地上の要塞砲からの射撃も有効なので、重要な湾口の外延部に砲台が多く建てられた。このころの護衛艦は旧ソ連の艦船のようにごちゃごちゃとした小型砲を搭載した船が多い。駆逐艦以下の小型棲艦に対しては攻撃ヘリでの掃討が有効。

山岸をホモにしたことについて・・・イケメン以外に男にキャラをたてさせる方法がホモしか思いつかなかったのです。佐々木に対してはあくまで恩師なのでそういう感情はない。
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