その日、リッチが行ってみたいと言うので、エディは漣と共にコンビニの食事を取った。騒ぎが起きたのは、エディが二つ目におにぎりの袋を開けた頃であった。
医務官がどこかへと走っていくのが見えて、その数分後には救急車が食堂の前に泊まって海軍の将兵たちが運び込まれていった。
「何かあったのかな?」
「食中毒じゃないのかな?」
心配するエディをよそにリッチは特に気にすることもなくサンドイッチを食べている。
「なんか嫌な予感がするわ。鎮守府に戻りましょ」
漣が提案し、食べ終わったエディとリッチも立ち上がって鎮守府へ足を向けた。
同様のことが鎮守府でも発生していた。
「まさか集団食中毒が起きるとはのう・・・」
「海軍基地の食堂でも同じことが起きているそうです。同じ業者に任せてますから、恐らく大量搬入した食材が腐っていたのが原因かと思われます」
仕事の都合で奇跡的に難を逃れた佐々木と山岸は惨状を見ながら分析する。
「それより・・・どうすんだ。軽巡と駆逐艦がかなりやられた。訓練や哨戒なら兎も角、今日は確か午後から護衛任務があったぞ・・・ウゥ、苦しい」
天龍が苦しそうにうずくまって言った。
「うーむ。困ったのう」
「今からでは他の鎮守府の戦力を借りることはできないし、船団運行を止めるわけにもいかない。誰でもいいから無事な艦娘は・・・」
「ここもひどいですね・・・」
「おっ」
食堂の左右からエディ達と島風がそれぞれ入ってきた。
「彼女らとここに倒れている者以外に駆逐艦はいたか?」
佐々木は山岸に確認する。
「いいえ、今日いる分はこれですべてです」
「うむ。仕方ないか」
佐々木は4人を集めて言った。
「皆、不測の事態が起きたため、すまないがこれからひと仕事してもらう。アメリカの輸送船が物資を買いに寄港するから、その出迎えをしてほしい」
「えー、護衛とかやりたくない!」
島風が駄々をこねる。高速の水雷戦に特化した「戦闘向き」の駆逐艦である島風は、船団に張り付いていなければならない護衛戦には消極的だ。
「護衛艦だって向こうが出せばいいでしょ。それに安全水域を通って来る船団に護衛なんていらないじゃん」
日本政府は多額の資金を投じて本土周辺にレーダー網を隙間なく配置すると同時に、要所には砲台を、そうでないところにはミサイル基地を建設して本土周辺と対馬海峡、台湾までをその射程に収めたグリーンゾーンにした。この海域では地上基地からの火力の傘の下、護衛なしに航行できる。
「第7艦隊は現在南シナ海にいるが落ち目の悲しさ、寄港させてもらえる港がなく食料の調達にすら支障をきたしておるそうじゃ。彼らとしては飢えに苦しんでいる仲間を待たせたくない心情なのだろう。安全水域外を通ってでも早く物資を受け取りたいそうじゃ」
「・・・・・・」
流石にそういわれると島風も黙り込んでしまう。
「エディ達は文句ないか?」
「いいえ、任務なら喜んでやります。人助けになるならなおさらです」
「漣は大丈夫です」
「私も」
エディ達は久々の任務に意気盛んだ。山岸はそれを確認すると、改めて命令する。
「では、島風を旗艦にして出撃だ。船団との合流地点と航路は地図に書いてあるから、その座標へ向かってくれ、もし船団が危機にさらされた場合は安全水域に逃げ込むように。第7艦隊が海賊になる前に物資を届けろ。いいな」
「了解。早く終わらせましょ」
こうしてエディ達は合流地点へと向かった。不満だった島風も、エディ達に目をつけていたこともあって東京湾を出るころには機嫌がよくなった。
「みんなおっそいーい!」
「島風ちゃん、そんな急いだら着く前に燃料なくなっちゃうよ」
島風はちょっと目立つ者を見つけると競争すると言って速度を上げ、それを他の艦娘達が止めるということを繰り返した。
「そういえば島風ちゃんはどうして昼間食堂にいなかったの?」
エディは島風に問う。
「今日は雑誌の撮影会だったの。ホントは一週間あとのはずだったんだけど、急に前倒しになって今日になったの。おかげで食堂に一番乗りできなかったけど、災難は避けれたからいいか」
(((いつも食堂で会わないと思ったらぼっち飯してたんだ)))
三人は島風の小さな謎の回答に、なるほど島風らしいと納得した。
「ねえ島風ちゃん、たまにはみんなと一緒に食べたらどうかな?その方がきっとおいしいよ」
エディは当然のことを指摘する。こんなことは何度も言われているので、島風は少し不機嫌な表情をしたが、すぐに考え直していった。
「うーん。普通の子に合わせるのは癪だけど、そうねぇ・・・リッチ、あなたなら一緒に食べてもいいわ」
「え、私が・・・」
「私と少しでも一騎打ちしたんだもの。それぐらいしてあげてもいいわ」
「で、でも。エディも一緒じゃないと・・・」
「ならエディも来ていいわよ。これが終わったら何か食べに行きましょう」
エディは心から喜ぶ。日本一の駆逐艦島風と仲良くなれたのはもちろんのこと、何よりリッチが自分とセットではなく個人として認識されていることがうれしかったのだ。
「やったねリッチ。友達ができて」
「エディのおかげさ」
「もう、いつまでも私の陰に隠れちゃダメ。リッチは自分の友達を作らないと」
「ごめん」
「謝ってどうするの」
そうこうしているうちに、合流地点が近づいてきた。
「そろそろ船団が見えて来るはずよ、通信機を入れてみましょう」
漣は無線機を取り出すと連絡を取ってみる。
「こちら輸送艦護衛艦隊の漣です。米輸送船、応答してください」
《こちら米軍輸送船のトライデント号だ。現在合流地点の南3000を航行中、時間通りに合流できるはずだ》
「了解しました。すぐにそちらに向かいます」
漣が通信を切る。
「またあの船か」
「エディたち、知ってるの?」
「行きに護衛した船さ。過積載で速度が低下して、船団が敵に捕捉される原因を作った船だよ。目的地のフィリピンが陥落したから、第7艦隊に編入されたんだろうね。本国の権威を傘にこっちの指示を聞かない可能性があるから、気をつけた方がいいよ」
「うわぁ・・・また面倒なのが来たわね」
リッチの説明を聞いて漣はため息をつく。
「今は積み荷が空だろうから速度低下はないよ。早く終わらせましょう!」
島風がそういうと合流地点へ向かおうとする。ところがここで突然通信が入った。
《こちら中部方面防空管制室。周辺を航行中の米軍船団および艦娘へ、哨戒機が接近する敵艦隊を発見した。現在敵艦は船団の南東3000を航行中。安全水域の港へ退避せよ》
艦娘達の表情が引き締まる。
《安全水域への移動が推奨されていますが、どうしますか?》
《こちらが沈んでは元も子もない。我々は安全水域へ向かいたい。防空管制室へ、我々を誤射しないでくれよ》
《防空管制室了解。港にはこちらから連絡を入れる。艦娘達は船団の護衛に着くか?》
漣が鎮守府に指示を仰ぎたいと言おうとした。そこに島風が割って入る。
「敵艦隊の数はどれぐらい?」
《レーダーの反応では敵艦隊は軽巡1駆逐艦3先行する魚雷艇と思われる小型ものが1だ》
「了解。それぐらいなら私達が掃除しておくわ」
《わかった。手間が省ける》
そこで無線が切れる。平然と敵艦隊へ向かおうと進路変更する島風に、エディと漣は抗議した。
「島風ちゃん、いくらなんでもこれは勝手すぎるよ」
「提督も危険の場合は安全水域に逃げ込むように指示してるし・・・」
「だから?それは船団でしょう。ちょうど今は夕暮れ時だし、これから夜になれば十分叩けるわ」
島風は当然のように言う。事実、島風の実力があれば小規模水雷戦隊など簡単につぶせるのだ。
「でも、万が一のことがあれば・・・」
エディは心配そうに言った。夜戦は駆逐艦が最も活躍できる場だが、何が起こるかわからないのも事実である。提督の指示なく夜戦に入るのは危険だ。
「ここで功績をあげれば、エディもきっと提督に喜んでもらえるわよ。もっと戦って速くなりたいんでしょ」
その言葉にエディは迷う。軍規に多少触るかもしれないが、チャンスのように思えた。
「私は行ってもいいと思う。島風さんの戦闘も見てみたいし」
意外にもエディより先にリッチが答えた。
「でも、リッチ」
「なら、私とリッチで敵を叩いて、エディ達は船団を護衛したら?リッチなら私と組んでも十分よ!さあ、行きましょう」
「え、でも」
「旗艦の命令よ。護衛は漣が指揮を取って。リッチ、行きましょう」
「じゃあ、エディ、またあとで」
そう言って島風とリッチは行ってしまった。残されたエディと漣はため息をつく。
「大丈夫かな?」
「島風ならきっと一人でも行ったと思うし、大丈夫だよ」
漣はエディを励ますと、船団に向けて舵を切る。エディも島風の向かった夕闇を振り返りながら舵を切ろうとするが、ソナーから耳障りな音が流れ出した。
(またこの音だ、ほんと壊れてるのかな?)
エディ達は港へ向かった。