駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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 一章も終盤に入ります。一気に書き上げたら3話分になったので、1章完結まで3日間隔で連載できるかもしれません。とはいってもこれから期末テストに入るので、微妙なところでまた途切れてしまうかもしれません。


第一七話 The Only Easy Day…Was Yesterday

 2日後、鎮守府のフェンスの向こうの横須賀海軍基地は、朝から慌ただしい様相を呈していた。忙しなく将兵が行き来し、何やら華やかな祝典の準備をしているようだ。関係者の家族と思しき民間人も基地に入り、埠頭に向かっていた。

「基地祭でもあるのかな?」

 エディは当番で駆逐艦寮の窓を拭きながら、フェンスの向こうの人々を見て呟いた。

「うーんと、今日は出征式らしいよ!」

 子日も雑巾を絞りながら言った。今日の午前中は掃除に費やす。今リッチはトイレ掃除をしているので、ここにいるのはエディと初春型の面々だ。

「先日入港したアメリカの護衛船団についていって、第7艦隊と合流するそうです」

 初霜も窓を拭きながら答える。

「来週には軍事協力の規定も含めた日米相互援助条約の調印も行われるそうじゃ。両国とも大筋で合意しておるから、条約締結と同時にシンガポールへ侵攻するつもりなどと風のうわさで聞いておる」

 シンガポールは1か月前、深海棲艦の大攻勢で陥落し、米陸軍は東南アジア各地に分散して戦力を再編中だ。最前線のマレー半島では日本陸軍や現地政府軍と協力してゲリラ戦が展開されている。

「現場はすでにまとまった・・・あとは政治だけ」

 前線では何年も前から救援要請や物資の融通が行われてきた。これを公式に行おうというわけである。

「じゃが、頑固者どももいるらしいからのう」

 初春は基地の中から基地外にいる人々に目を移して言った。彼らの横断幕には「日本単独継戦」、「海軍をアメリカの犬にするな!」、「アメリカの戦争に国民を巻き込むな」、「米国貸与艦反対」、「深海棲艦よりも先にアメリカ排除を!」などと書かれて、星条旗が燃やされていた。

「こんなことをしている場合でもないのにのう・・・」

 初春は僅かに苛立ちの入った声音で言う。

「米国貸与艦反対って、わたしのこと?」

 エディは悲しそうに見つめる。体が少し震えていた。

「エディさん。心苦しいなら部屋に戻ってもいいですよ。今日は外に出ない方がいいかもしれません」

「・・・だ、大丈夫だよ。これぐらいの反発があることぐらいわかってたし」

 エディは笑ってみせるが、顔が引きつっているのが解る。

「無理に強がらんでもよい。艦娘が初めてできた頃もあんな感じじゃったらしい。ああゆう輩はいつの時代にも湧いて出てくる。実利を見せれば、すぐに手のひらを返すじゃろう」

 初春は寮に向けてカメラを向ける者を見つけると、苦笑いしながらカーテンを閉めた。

 

 

 

 埠頭には多くの人が詰めかけ、式典が始まった。鎮守府からも佐々木と山岸、夕張と長門も参列した。長門はいつもの戦闘服ではなく、海軍2種服に着替えていた。

「私はいつもの服でよかったんだが・・・」

「あれで式典に参加させられるか」

 艦娘の服装は独特なデザインが多いが、長門型はひときわふざけた格好である。長門曰はく露出が多いのは長門型の強靭な船体を肉体美で再現しているらしいが、式典に出せる格好ではない。

「しかし、やっとスタート地点ですね」

 夕張は護衛艦の甲板で敬礼している兵士たちを見て言う。

「ああ、長かった。日米安保が失効して、国民が独立万歳と叫んだ時、儂は恐ろしかった。ユトラントの決戦の後、アメリカがモンロー主義と軍縮を掲げた時もじゃ。深海棲艦との戦争は、人類すべてが係るべき重要な事態じゃ。これで世界があるべき姿に戻る。やっとあいつにも詫びに行くことができるかのう・・・いや、まだまだこれからじゃ。山岸君にも頑張って・・・」

《敵襲!敵襲!護衛艦は直ちに出撃せよ!》

 佐々木が言い終わらないうちに、けたたましくサイレンが鳴った。音が上がり続ける警戒警報のサイレンだ。

「くっ、こんな時に。山岸君は自衛艦隊司令部に行って情報収集を、緊急合同作戦本部ができる手筈になっとる。長門と夕張は儂と鎮守府に戻るぞ!」

「「「了解!」」」

 

 

 

《臨時ニュースを申し上げます。深海棲艦の本土接近に伴い、午前10時現在政府は、有事関連法に基づく警戒措置を発令しました。東京都、神奈川県、千葉県、茨木県に現在警戒警報が発令されています。住民の皆様は、直ちに帰宅し、必要がない限り外には出ないでください。沿岸地域にお住まいの方は、直ちに最寄りの防空壕に避難してください。また、お車にお乗りの方は緊急車両が通行するため、国道や幹線道路から車を退避させ、近くの防空壕や地下鉄構内に避難してください。繰り返します。現在・・・》

《防空司令部は何をしていた!どうしてここまで接近されたんだ!》

《敵艦のECMで通信が不安定になっている。有線に切り替えろ!》

《哨戒機、敵の数と場所を早く教えろ!》

《上げられる機体は全て出せ!都市部に侵入される前に撃墜しろ!》

《万が一もある。陸軍にも出動要請を出しておけ!》

「総員、出撃準備ができ次第、通常編成で部隊ごとに待機。司令官の指示を待ってください!」

 無線やテレビから情報を拾いつつ、高雄は発進場待機室(鎮守府の実質の戦闘指揮室)で司令官代理として指揮に忙殺されていた。

「高雄さん!状況は?」

 夕張と佐々木が発進場に入ってきた。

「基地にいる子はみんな出撃準備完了してます。哨戒に出ていた五十鈴さんたちがすでに接敵していますが、旗色が悪いので救援がほしいとのことです」

 発進場のパソコンに合同作戦本部からの通信が入った。内容は会議室とのテレビ電話で、大淀がパソコンを操作してテレビ画面に繋ぎ、マイクも準備した。

《佐々木司令、こちら会議室の山岸です。聞こえますか?作戦本部より指示を送ります。敵の総数は現在確認されている数が30。駆逐艦型16隻、巡洋艦7隻、空母型4隻、戦艦2隻と浮遊要塞型1機です。現在敵艦隊は戦艦2隻を中心とした20隻が浮島の東1kmを北上中、現在五十鈴の哨戒部隊と交戦中です。遅れて浮遊要塞と空母機動部隊を中心とした部隊が三浦半島南西から北上して東京湾を目指しています。鎮守府艦隊は水雷戦隊で敵前衛艦隊を味方第一護衛艦隊と共同で迎撃、戦艦長門は敵前衛を突破して空軍と共同で浮遊要塞を撃破せよとのことです》

「了解だ。夕張と神通は水雷戦隊を率いて敵前衛を迎撃。長門と高雄、愛宕は浮遊要塞を迎撃せよ。大淀と大鳳は鎮守府正面で待機し、情報収集と航空支援を適宜行え。解散!」

 各自部屋を出て出撃する。大淀も部屋を出ようとするが、何かを思い出したのか部屋に留まった。

「あの、司令官。島風とリチャードは出撃停止で待機させてますが・・・」

「大鳳の護衛に着けておけ。不意を突かれたが、戦力はこちらが優勢だ。負けるはずはない」

 

 

 

 エディは艤装を装着するとすぐに入水する。またしてもソナーに異音が入った。

(またあの音・・・それも今までになく強い)

 エディの表情が厳しくなる。底なしの奈落へと引き込まれるような不気味な音に犯され、胃の中のすっぱいものがのどを伝ってきた。

「大丈夫?顔色悪いよ」

 漣が心配して声を掛ける。エディは慌てて取り繕った。

「心配ないよ。動ける」

(調子が悪いのはリッチがいないから・・・だよね。こんなことで落ち込んでいられない)

「お前ら行くぞ!天龍様に続け!」

 天龍が先導して、漣達第7駆逐隊が発進した。

「皆さん。私がついているので落ち着いて戦いましょう」

「那珂ちゃんの歌(物理)を敵にも聞かせてあげるよー!」

 神通と那珂が舞風と陽炎を連れて出撃した。

「さ、私達もいきましょう!」

「天龍に後れを取るな!提督に最高の勝利を持って帰るぞ!」

 夕張と木曽に率いられて山岸艦隊も出撃した。夕張が先頭を行こうとするが、もともと速度が遅いうえに追加武装をしたために遅れてしまい、最後尾に着く。

「ちょっと待って!置いてかないでよー!」

 11時12分、鎮守府艦隊が出撃した。

 




 1章が終わったら外伝で過去話(5話程度)とR-18(短編)を企画しています。R-18は本編には関係ありません。過去話は毎章の終わりに5話ずつ別の話を書くつもりで、あると後書き注釈をいちいち書かなくて済むのですが、本編連載が遅れるかもしれません。
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