駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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第十九話 AIRBORNE DESTROYER

1時間前 鎮守府

 

 

 鎮守府に残った佐々木司令は作戦本部と通信を取りつつ、大鳳に対する航空支援要請を捌いていた。

 

《東京湾上空の敵航空機排除。護衛艦部隊は前進を開始せよ》

《こちら陸軍第一戦車大隊。戦闘車両は現在首都高を移動中。お台場には2時30分に到着予定》

《こちら中空エリア防空管制室。横田基地のUAV部隊発進準備完了。浮遊要塞迎撃に向かう。妖精軍陸攻隊も発進した。大鳳航空隊は制空権確保を頼めるか》

「こちら大鳳。当方に戦闘機の余剰なし。他の部隊に融通してもらえますか?」

《了解。アルファ・ブラボーチームは空中給油後、制空権確保に向かえ。チャーリーは弾薬補充、デルタは・・・》

「神通、五十鈴の部隊は見つかったか?」

《エディさんが確保しました。現在離脱中。五十鈴さんと霞さんが中破、初霜さんが大破して重傷です。大潮さんは無事ですが疲労が激しいとのことです。処置の準備を》

「了解した。敵のECM艦が特定できた。敵艦隊中央、戦艦二隻に守られているホ級だ。引き続き残敵の掃討に当たれ」

《こちら作戦司令部の山岸です。浮遊要塞が北へ進路変更。江田島方面へ向かい進行中》

「了解。長門、浮遊要塞は東京湾突入を諦めて江田島に向かった」

「了解した。そうなると上陸される心配があるが大丈夫か?」

《東名高速を移動中の中部方面隊戦車部隊が現在防衛陣地を形成中です》

《わかった。陸の連中に手柄を取られんように、我々も急がんとな》

 長門はそう言って通信を切った。佐々木は椅子に座ると、コーヒーを飲んで一息つく。朝からずっと立ちっぱなしで疲労が出てきた。

「やはり立ち仕事は老体には堪えるのう・・・」

 もう一口コーヒーを飲もうと手を伸ばした直後、作戦本部の様子が慌ただしくなったのに気付いた。

「山岸、どうかしたか」

 佐々木は画面越しに山岸に話しかける。山岸は焦った様子である。

《敵の機動部隊が発見されました》

「なに!?場所はどこだ!」

《房総半島東側、犬吠埼沖合12海里に敵正規空母4隻、駆逐艦4隻》

「奇襲部隊か。はなからこちらをおびき出して首都を空襲するつもりだったのか。迎撃は間に合うのか?」

《現在空軍の航空機は東京湾防衛と浮遊要塞迎撃に向かっていて手が空いてません。高射砲部隊も首都に移動中で呼び戻してみますが間に合いそうにありません》

「まずいな・・・」

 浮遊要塞は厚さ3mのコンクリート製外殻でおおわれており、現状の戦力でこれに有効な打撃を与えられるのは空軍のバンカーバスターと長門の40.6cm主砲だけだ。もし航空隊を空襲阻止のために帰投させれば浮遊要塞の上陸で陸軍に甚大な損害が出る。かといって機動部隊を放置すれば首都に大きな被害が出ることは避けられない。

「あの・・・いいですか?」

 手を上げたのはリッチだった。

「どうした?」

「以前アメリカで、艦娘の運用法の実験として艦娘のエアボーンによる奇襲戦法の研究がされたことがあります。私とエディも訓練学校で陸戦訓練の一環としてHALO降下をしたことがあるので、高高度から航空機で接近して降下し、敵空母部隊を奇襲するのはどうでしょうか?」

 リッチの一発逆転の策に佐々木も作戦本部の山岸も驚いた。

《艤装をつけたままの降下訓練はやったのか?》

 山岸が問う。

「いいえ。ですが、実験では艦娘の空挺投入は成功したと聞きました。感覚は変わらないので、できないことはないはずです」

「うむ・・・じゃが、対空砲も心配じゃ。たとえ降下できたとしても敵を倒しきれるかは怪しい」

「リスクは承知の上です。深海棲艦の戦闘機や対空兵装の限界射程はせいぜい300mですから、高高度から侵入すれば敵はこちらを攻撃できませんし、空母さえ叩けば敵は撤退します」

「うむ。現状でこれより良い手段はない、か。山岸君、すぐに将軍方に打診してくれ」

《わかりました》

 それから15分もしないうちに鎮守府にV-22が降り立ち、リッチはヘリに向かう。すると突然島風が弾薬庫に走っていき、すぐに戻ってきてリッチに何か手渡した。

「61㎝4連装酸素魚雷よ。こっちはエディの分。必ず勝ってきなさい!」

「ありがとう、島風。行ってくるよ」

 飛び立つV-22に佐々木や島風達だけでなく、整備兵妖精たちも並んで敬礼した。

「頼むぞ。リチャード、エドワーズ」

 佐々木が再び指揮に戻ろうとすると通信が入った。

《こちら五十鈴水雷戦隊。間もなく帰投する。すぐにドッグを開けて》

「解っている。すでに準備はしておる」

《ありがと。こっちはけが人を4人抱えてるから。助かるわ》

 

 

「当機は高度1万から敵機動部隊上空へ侵入します。お二人は降下して空母を攻撃、離脱せよとのことです。緊急事態のため、制空権確保ができない状態での降下になります。注意してください」

 オスプレイのパイロットが言った。エディはパラシュートや酸素ボンベなど降下用の装備を取り付ける。ちなみにパラシュートは人間用ではなく物資投下用のやや丈夫なものである。

「エアボーン訓練なんて、一年も前の話なのに。リッチも大胆だね」

「僕らにできるのはこれぐらいだよ。それに、これ以上のチャンスはないから・・・」

 リッチは酸素魚雷を見つめて言った。

「酸素魚雷・・・漣ちゃんでも撃ったことないんだよね」

「空母を撃破するにはこれしかない。着水したらすぐに使って離脱。いいね」

 敵機動部隊の中に降下したら、酸素魚雷で空母だけを沈めて、すぐに撤退する。一撃必殺のヒット・アンド・アウェイ。失敗は許されない。

「・・・必ず成功させるよ」

「うん、必ずね」

 エディがリッチの手を握る。緊張しているのか、或いは寒いのかリッチの手は冷たく震えていたが、エディの温かい手に包まれると、強く握り返した。

「エディ、これが終わったら、話したいことがあるんだけど・・・」

「それ、死亡フラグじゃない?」

「わかったよ。でも、必ず伝えたいことがあるんだ」

 リッチはエディの目を見つめて言った。

「間もなく降下ポイントに入ります。現在西北西より緩い風が吹いています。ご武運を」

 ハッチが開く。3時55分、高度1万m。エディは勇み足でハッチへ向かうも、下を見て少し躊躇ってしまう。

「さすがにちょっと怖いかな?」

 少しまごついていると、長門から無線が入った。

《エドワーズ!リチャード!聞こえているか?今浮遊要塞を片付けた。後はお前達だけだ。必ず成功しろ!今日一番の活躍を見せてくれ!!》

 これを聞いてエディは腹を括った。

「じゃあ、行ってきます!」

 エディは両足で大空へと飛びたった。日が傾きかけている空を、弾丸のように落ちていく。後ろを振り返ると、リッチも降りたようだ。

(見つけた!)

 エディは海面に小さな点を見つけた。そしてそれが目標だと確信し、少しずつ姿勢をずらしながら、その真上に向かう。

(パラシュート!)

 索具を操作してパラシュートを開き、ゆっくり降りていく。エディは武装の確認をした。大丈夫だ、壊たものはない。酸素魚雷も調べようとした瞬間、周りで何かが爆発した。

「気づかれた!」

 エディは主砲で応戦した。リッチも攻撃する。狙うのはもちろん、デカ帽子をかぶった空母ヲ級だ。ヲ級は帽子の口から艦載機を吐き出そうとしていた。そのうちの1隻に真上から砲撃が命中、帽子を撃ちぬいて大爆発を起こし、首を失った体が倒れるのが見えた。

(60・・・40・・・20・・・)

 10m、ここでヲ級の対空機銃がパラシュートに当たり、エディは急落下した。艤装によって死ぬことはないが、足を折ってしまったようだ。深海棲艦の集中攻撃を転がって避けて、痛みに耐えつつも手近なヲ級に魚雷を一斉射した。魚雷はヲ級に命中して、ヲ級は体が真っ二つになって沈んだ。

(・・・っ、動けない!)

 ヲ級が主砲を向けてくる。必死の抵抗で主砲を乱射するが、127㎜砲は正規空母には豆鉄砲だ。もはやここまでと思った瞬間、ヲ級の脳天を何かが貫いた。

「はーーっ!」

 リッチが空から落下しつつ碇でヲ級の頭を狙ったのだった。碇はヲ級の後頭部を直撃、ヲ級は血のようにオイルを吹き出しながら倒れた。最後に残ったヲ級は完全に怖気づいて逃亡しようとする。が、

「逃がさない!」

 エディが撃った砲弾が足を捉えた。流石に足が壊れることはなかったがヲ級は前のめりになって転ぶ。

「ヲッ・・・!ヲヲヲ!」

 ヲ級は足を引きずりながらなおも逃げようとする。

「リッチ!」

「これで終わりだ!」

 リッチが酸素魚雷を3発撃つ。高速の魚雷は確実にヲ級を捉えた。護衛の駆逐艦が庇おうとするが、

「もう同じ手は食わない!」

 エディとリッチは護衛艦を主砲で次々と食い尽くしていった。

「ヲ゛ヲ゛ッー!」

 ヲ級は断末魔の叫びをあげて沈んでいった。守る者を失ったロ級は雲の子を散らすように逃げ去る。それを確認すると、リッチはエディに駆け寄った。

「大丈夫?」

「立てない、引っ張って」

 リッチはエディを背負うと、呟いた。

「帰ろう・・・」

「うん」

 夕日が沈もうとしていた。

 




注釈:
艦娘の空挺投入
 人間兵器である艦娘の特性を生かした戦術の一つとして、艦娘の空挺投入が各国で提案された。しかし、訓練にかかるコストと人材から、本格的な実証段階に至ったのはイギリスとアメリカのみであった。アメリカは広域な太平洋戦線をカバーするため、イギリスはフィヨルドに立てこもる敵艦隊への奇襲攻撃の手段としてそれぞれ少数の艦娘が空挺訓練を受けた。実験結果は良好であり、アメリカでは艦娘教育プログラムですべての艦娘に空挺投入能力を与える計画となったが(レンジャー課程履修はその前段階であったと思われる)、訓練コストと釣り合わない空挺作戦の成功率や、そもそも空挺作戦自体の発生率の低さから、計画は頓挫した。
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