投稿も火力だと思った(小並感)
充実した日本の鉄道網により、舞鶴までの旅路は快適なものとなった。横須賀から東京駅まで1時間、東京で中央新幹線に乗り込む。30年に開通したリニアモーターカーの新鉄道は、24年の南海地震と富士山噴火によって東海道新幹線が断線したことや、深海棲艦の懸念による鉄道疎開によって建造が進められ、東京―大阪間を1時間弱で結ぶ新しい鉄道として運用されている。
普通の艦娘なら基地の外に出るだけではしゃぐものだと聞いていたが、エディとリッチはなぜか終始緊張していて、落ち着かない様子でこちらをチラチラ見て、何か話していた。
「2人とも、新しい任務にやっぱり緊張してるのかな?」
見かねて話しかける。高速鉄道で制服の少女2人を連れた男が会話もせずに座っているのはやはり危ない感じがするのか、周囲の視線が痛い。
「い、いえ。任務には全力で挑むつもりです。必ず大本営に満足していただける人材を育成する所存です」
「私の心は日本と共にです。アメリカへの未練はありません。大本営にもそのように伝えてください」
大本営?何のことだろう?
「アメリカに未練がないとは、ずいぶんな入れ込みようだね。日本はそんなに気に入ったのかい」
「ええ。いろいろありましたが、やっぱりここがわたしの居場所なんだなぁって。ここに来たのも逃げられない運命なんだって・・・選択肢がない以上、全力でやります!」
「そうです。なんだってやります!」
ずいぶん喰い気味な反応だ。こんな子達だったか。というか、周りの目がさらに痛くなった。正直居づらい。
「じゃあ、飲み物買ってくるから、待っててくれ」
少し席を外そう。
「ふぅ、やっといなくなったね」
「息が詰まっちゃう」
ハミルトンが立ち去ると、エディとリッチはやっと息を抜く。ハミルトンが日本軍の監視役だと思い込んでいるため、機嫌を取るために必死だ。
「これからずっとこれなのかな・・・」
「今こうしている内にも僕らのことを連絡してるに違いない。CIAの下働きよりはましだけど先行きはとても不安だよ。万が一の時は・・・」
暗い思案に沈みかけたリッチの目の前にエディの不機嫌そうな顔が迫った。
暗いトンネルの中、窓際の席に座るリッチにエディが体をひねって覆いかぶさる。窓の冷たい感覚がリッチの背に伝わり、エディの吐息の温かさとのコントラストが心臓を高鳴らせて、何も考えられなくさせる。
「もう、またそんなこと考えて。わたしとリッチは2人で1つ。リッチが立ち去るっていうなら、わたしは何処までも追いかける。わたしを幸せにしたいなら、リッチが幸せにならなきゃ絶対だめだよ」
エディは暗闇を怖がる子供を寝かしつける母親のようにリッチを諭した。
「ごめん。思い詰めちゃって・・・わかったよ。僕たちは2人で一つだったね・・・じゃあ」
リッチは顔を近づけてそのまま唇を合わせた。不意打ちに緊張するエディの頭を押さえて、そのまま舌を入れた。
「!?・・・・・・・ぷはぁ・・・はあ、はあ・・・いきなりずるいよ!」
「あんまり顔が近かったから。つい」
「もう。あれからすっかりえっちな子になっちゃって」
エディは顔を真っ赤にして言う。甘えることは前からあったが、リッチはファーストキスからというもの、隙あらばエディの唇を奪おうとするようになった。別にキスが嫌いというわけではないが、人前でも憚らずにキスを求めるのにはエディも手を焼いている。
「2人とも、飲み物買ってきたよ。あっ!そのままでいてくれないか。今日のブログに貼るから」
「焼き増しお願いします!」
「ちょっと、恥ずかしいからやめてよ!」
ハミルトンが写真を撮り続ける。本国への連絡を兼ねて活動記録用のブログを始めたらしい。だが、記念すべき創刊号の表紙がこれではまずすぎる。
「よし、これで人気間違いなしだ」
満足げにカメラをパソコンにつなげるハミルトンさんとご機嫌なリッチ、すっかり茹で上がったエディの3人。周りの人の視線がさらに痛いものとなっているが、仕事モードのハミルトンと自分の世界に入り込んだリッチはお構いなしで、エディは恥ずかしさと怒りからそのあと口を利かなかった。
京都駅から在来線で3時間。東舞鶴駅へ到着したときには、まだ日は暮れていなかった。
「ふぅ~やっと着いた!」
エディは体を伸ばして言った。
「山岸少佐を通して基地に連絡が入ってるから、とりあえず基地に入ろう。地図を見るから、ちょっと待ってくれ」
舞鶴市街地は五老岳を境に城下町である西舞鶴と、いま私たちのいる軍事都市である東舞鶴に分かれている。天皇の浴槽に面した舞鶴湾は海軍の寄港地として最適で、内地でも比較的安全な港であることから、海軍の造船所や訓練所として現在も利用されている。
深海棲艦との戦いで造船産業が活況のため、近年は造船所が次々と建設されて、労働者も東西舞鶴へ大挙移住してきている。私達が到着したのが午後6時30分で、調度帰宅ラッシュであったので私達が載ってきた側と反対側のホームは人でごった返していた。
「すごい人だかり・・・」
「人口密度だけならロス以上かもね」
私達は人の波をかき分けながら海軍基地へと向かった。舞鶴の海軍総監部はメインストリートを直進してから丹後街道を西へ行ったところにある。バスに揺られて10分ほどで到着して、正面玄関で身分証を示すと、中に入れてもらえた。
門衛の男に案内されて司令室に入る。司令官の男性は以外にも30代前半の若い男性だった。
「やあやあこんにちは・・・。僕がこの基地を預かってる狭川幸治大佐だ。えっと、明日新設される第56駆逐隊のヘイウッド・L・エドワーズ君とリチャード・P・リアリー君。それと・・・」
「アメリカから取材に来ました。アレン・C・ハミルトンです。よろしくお願いします」
「そうそう、派遣将校の人だったね。よろしく」
そう言って狭山は人のよさそうな丸い顔を笑顔にして握手を求めてきた。派遣将校?何のことだ?
「あの、わたしは軍属ではなく・・・」
「いやいや遠慮はいらないよ。佐々木の爺さんから話は聞いてる。ここでもアメリカ軍時代と同じ階級として行動する権限を僕名義で与えるから、何かあったら僕の兵士たちを好きに使うといい」
「あの・・・私の階級は・・・」
「ん?階級章と制服はココにあるよ。明日からはこれを着て勤務してくれ。なに、ここは戦争もない平和な職場さ。安心して事務に励んでくれ」
渡された軍服(海軍2種服)の階級章には、大尉の階級章がつけられていた。
・・・・・・どうなってるんだ
「よかったんですか?あんな誤魔化し方で」
大鳳は佐々木司令にお茶を出すと言った。
「何分急なことじゃったからの。部隊新設の予算を下ろすために、1週間でパイプの無いアメリカ海軍省と交渉して軍事顧問を連れてこられるわけがない。ハミルトン君には悪いことをした。なに、訓練部隊新設の話を出せば向こうから顧問を差し出してくるはずじゃ。本命までの繋ぎとしてせいぜいがんばってくれればいい。それよりも深刻なのはリッチの件じゃ。アレを知っとるのはあの場にいた者と、司令室にいた将軍方、憲兵と外交官。そして君だけという筋書きじゃったが・・・」
「露呈したんですか?」
「ああ。あの件の次の日に、電話で呉の方に連絡したとき、向こうの取り次ぎをやっていた佐竹とかいう若造が突っかかってきてのう」
「呉ですか・・・厄介ですね」
「後で岸田に直接電話したら、あの防衛戦で指揮を執っていた指揮官連中の中に、奴の教え子がいて、そこから話が漏れたようじゃ。一応これ以上話を拡散せんと約束させたが、すでに話を聞いた連中はどうしようもない」
「岸田中将は同盟反対派で、司令官とも犬猿の仲と聞いてます。この事を出汁に大本営に脅しをかけてくることは・・・」
「岸田はそんなことはせん。奴とは兵学校からの付き合いじゃ。いくら仲が悪くても一度した約束を破るようなことは奴にはできん。儂と違ってな」
「それと舞鶴への異動には関係が?」
「もちろん。岸田はリチャードを帰国させるか解体しろと言ってきたが、エドワーズとリチャードは2人いなければ意味がない。かといって何の処分もなしでは諸将の非難を浴びかねんから、舞鶴にほとぼりが冷めるまで移すことにしたんじゃ。あそこの司令官の狭川は七光りのボンクラじゃが、根は悪くないし、何より儂の教え子じゃ。あそこに置いておけば誰も文句はいえん」
佐々木は日本茶をすすった。
「岸田も頑固じゃが、儂と同じくらい頭はいいから日本がもう単独では戦えんことくらい理解しとる。世界最強の海軍とはいっても、開戦からもう5年・・・すべての始まりは30年も前じゃったな。最初は特需でわいとった国民もそろそろ懐が寒くなってきた頃合い、奴の采配もあって主力艦こそ損なわずに来れたが、疲弊は目に見えておる。これ以上の戦線維持は国民に出血を強いることとなる」
イギリス東洋艦隊やアメリカ第7艦隊がアジアのシーレーンを肩代わりしていたこともあって、国民の生活水準はかろうじて維持されてきた。艦娘などの広告活動も功を奏し、志願兵だけで戦線を維持できていた。しかし、シンガポール、フィリピン、ジャワが陥落し、さらにフィリピンへ侵攻した深海棲艦がパラオ、ブイン泊地にも攻勢を強めている今、資源・人材枯渇が現実のものとなろうとしていた。
「ブイン陥落はもはや避けられん。敵はソロモン海の制海権を握り、さらにジャワ、フィリピンを手中に収めた。シンガポールを支配した南方棲戦姫の死でシンガポール奪還の目立は立ったが、他の地域を奪還するには陸軍兵力が圧倒的に足らん。かといって放置すれば敵はそこを拠点に通商破壊を開始するじゃろう。そうなれば日本は資源供給を断たれ、後は『史実通り』じゃ」
日々海戦での日本の勝利が伝えられ、本土の国民は日本の単独優勢を疑わないが、実情は首に縄を掛けられたも同然だ。陸軍の主戦場であるガタルカナル島は転進を余儀なくされ、ブーゲンビルも陥落寸前、もう一つの主戦線であるAL列島も北極氷山空母戦姫旗下の艦隊に加え、ダッヂハーバーに新種の港湾棲姫が現れて制空権が失われた。先日の東京襲撃で本土の兵力を動かすのも困難になり、戦力不足は深刻さを増している。
「つまり、現状戦線を維持するには米軍の援軍が必要」
「いや、アメリカの関心は欧州にある。戦艦部隊と新造のエセックス級をすべて大西洋に投入していることから見て明白じゃ。米軍主力はあと2か月は帰ってこないじゃろう。自由に動かせる兵力はせいぜい2個師団。空母はヨークタウン、エンタープライズ、サラトガだけじゃ」
それでは決定的な打撃にはならない。深海棲艦相手に中途半端な攻勢では長期化と被害の増加を招くだけだ。
「せめて雲龍と私が戦力になれば・・・」
「できないことを悔いても仕方ない。お前たちはまだ温存せねばならん。かといって今攻めねば一方的にやられる。ハイリスクでも、思い切った戦力の再配分が必要じゃ。一方で国民や将兵は士気旺盛だが危機感に欠けている。勢いのまま攻めても足を踏み外すだけ。外患内憂じゃの・・・」
佐々木は西の窓を見る。おそらく岸田も同じことを考えているだろう。いや、彼の場合、逸る将兵たちを宥めなければならない分、より厳しい状況に違いない。彼の采配は自分以上だが、自分ほど政治はうまくない。いっそ自分が直接行けば・・・いや、それではかえって相手を逆なでするだけだろう。自分には状況を変える策はない、それを作り出す力があるのはむしろ・・・
そんなことを考えていると、司令室の扉が開いて、つなぎ姿の山岸と夕張が入ってきた。
「失礼します。エドワーズちゃん達の艤装の調整、終わりました」
「おお、ご苦労様。早速届けてくれ。速達でな」
「ですが、いったいどういう意味があるんです?これじゃとても実戦には・・・」
「簡単なことじゃ。『大和魂を注入する』、それだけじゃよ」
そう言って大笑いする佐々木司令。夕張はその言葉が理解できなかったが、山岸はうなずいていたので、とりあえず良い事なのだろうと考えるのをやめた。
氷山空母戦姫:欧州版艦これのラスボス。北極海に拠点を置き、欧州を氷漬けにすべく南進する。欧州の深海棲艦は北極海、ノルウェー全土、バルト海(デンマーク、ペトログラード)、コタンタン半島(ノルマンディー)、エーゲ海やアドリア海の島々、そしてモロッコ、チュニジア、アレクサンドリアとスエズ運河を占拠している。戦域の特性上、強力な戦車棲艦など陸上戦力を持ち、占領地を凍土で覆うことで地上をも侵略する。欧州はBF2142みたいな状況になっている。また、ソロモン海との連絡路を確保するため、AL・MI海域へと攻勢を強めている。