駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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第28話 教えるということ

「いやー楽しかったよ。また演習があったら呼んで。それじゃ」

 狭川大佐はそれだけ言うとふらりとどこかへ歩き去ってしまった。私は目論見が外れてかなり混乱していたが、かといって何も言わないわけにもいかないので、埠頭まで行って艦隊を出迎えた。

「みんな演習お疲れ様。日本チームもよく頑張ったね。まさか初日からエディ達を倒すとは思わなかったよ」

 私は短く講評を述べると、エディに向き直った。エディは怒られると思ったのか、怯えた表情で後ずさりした。

「あ、あの・・・司令官さん。負けてしまって、ごめんなさい」

「誰だって上手くいかないときはある。向こうだってプロだ、君より強くても不思議じゃない、そうだろ?」

 ここは上手くフォローしてあげる。

「それに・・・隊列や動きは君たちの方がよかったよ。1回負けたぐらいで落ち込まず、明日からの任務にも励んでほしい。いいね」

「はい!」

 これだけ言っておけば大丈夫だろう。私はエディと、日本艦隊のリーダーだった浦風に弾薬集計と報告書作成を指示すると、執務室に戻る。買い出しから帰って来たときに司令室のポストに大本営からの書類が届いていたので、その処理に午後を費やすこととなった。

 

 

「大姉ちゃんは演習で負けたときも素直に相手を褒めてあげてたよ。弱い子には強くなる手助けを、強い子は素直に認めてあげて、支えてあげるのがいいって言ってた」

 姉の言葉を思い出したエディは帰還するとすぐに日本組に話しかけようとしたが、間の悪いことにハミルトンがやって来た。

 エディはリッチを自分の後ろに隠すと、1人でハミルトンの相手をする。後がない身であるエディとリッチにとってハミルトンは恐怖の対象でしかない。さらに自分たちは負けたのだ。頭に『解体』の2文字が浮かび後ずさりしてしまったが、何とか恐怖を抑えた。

「あ、あの・・・司令官さん。負けちゃいました」

 解体されようものなら、身元が確かな自分はともかく、人間だった頃の記憶すらないリッチはどうされるかわからない。祖国から遠く離れたこの島国で人体実験に使われるかもしれないし、最悪売り飛ばされて金持ちの玩具にされる可能性もある。

(リッチは何が何でも私が守らなきゃ)

 だが特に処分を言い渡されることも無く、報告書の提出を求められただけで終わった。日本組に話しかけようとも思ったが、報告書をまとめたり、自主練をしたいと逃げられてしまった。リッチも2人だけで話したいと提案したので、Верныйを帰させると弾薬庫に入った。

「もう!何が上手くいかない時もあるよ!上手くいかなかったのはそっちが勝手に改造したせいじゃない!」

 弾薬庫の鍵を閉めるや否やエディは演習の不満をぶちまける。ハミルトンのフォローはかなり的外れで、反感を生んだだけであったようだ。

「それにあの講評。いかにも向こうが有利に組ませて負けさせたって意図が目に浮かぶ・・・とりあえず、まだ解体炉に連れて行かれないだけ猶予はある。善後策を考えよう」

 エディとリッチは弾薬箱に腰掛けた。艤装は装着したままであったので、改めて主砲を取り出して検分する。

「こちらの弾薬消費は総622発、命中弾4。相手は203発。命中弾17。慣れない主砲での打ち合いに負けたのが今回の敗因だ・・・急に重量が増したこの主砲は日本の駆逐艦のものと見て間違いないだろうね。弾薬補充の都合から換装したんだろう」

 リッチは主砲から弾薬を取り出した。確かにアメリカ製のものとは異なる。

「扱ってみて思ったのは、遠くに飛ぶってことかな。たぶん精度は前のより高い。慣れればかなり命中率が高そう。あ、でも見て、個人の弾薬消費量だと、Верныйちゃんは私達とそれほど変わらないよ」

 Верныйとエディとの砲撃回数の差は10も無かった。Верныйは演習中も終始エディについてきて陣形を崩さなかったし、砲弾にひるみもしなかった。装備も扱いなれているはずだから、装填も命中率も高いはずだ。

「うーん、これは説明できないな。本人の射撃への素養が無いか、あるいは・・・わからないね」

 Верныйへの疑問の答えは出ない。

「魚雷の換わりに付いたこれもわからない。最悪僕らを裏切れなくする自爆装置かもしれないとも思ったけど、取り外しできる装備にそれは無いだろうし、まず何より軽すぎる」

「いったい何が入ってるんだろうね・・・ん?」

 エディは箱を観察していると扉のようなものに気づく。艤装はああ見えて妖精さんが手動で動かしていたりするので、中に誰かいるかもしれないと戸を叩いてみた。

「こんこん、誰かいませんか?」

 扉は意外と素直に開いた。中を覗き込んでみると、中からも無数の目がこちらを覗いていた。

「うわっ!?」

 エディは思わず箱を放り投げてしまった。暫くおろおろしながらそれを見ていたが、箱の中からぞろぞろと妖精さんが出てきて・・・

「ぴゃあああ!」

「あ、ちょっと待って!」

 そのまま散り散りに逃げてしまった。リッチも箱を開けてみるが・・・

「うわぁ!?」

「ネコさんだ!」

 中から仔猫がたくさん出てきてエディとリッチの頭や肩に乗る。

「うーん、装備品と一緒に紛れ込んだのかな?肝心の妖精も逃げてしまったし、ホント何なんだろう?」

 頭に猫を載せたままリッチは考える。猫はエディやリッチに張り付いたり、なにやら電車ごっこのように繋がって動く猫もいた。

「うーん、どこか引っかかるんだけどね・・・」

 エディも船の記憶を探るが、上手く思い出せなかった。

「これは保留にしよう。ダメ元で魚雷発射管の支給を申請してみるけど、当面はこの武装でやってくしかない。それよりも・・・」

 リッチは姿勢を正して目つきも真剣になった。空気を読んだのか、猫たちは箱に戻っていく。

「これから彼女達とどう向き合っていくかだけど・・・」

「こっちの事情もわからない彼女達に言い訳は利かないよね」

「正直、彼女達のことを侮ってたところもある。僕らだってただの駆逐艦じゃないが、それでも彼女らは旧海軍だ。艦歴も実戦経験も上と見て間違いないだろう」

 今も昔も劣勢な状況の中で常に前線に張り付くことを強制されている日本軍である。その分叩き上げのアドバンテージがあるのは当然加味すべきところであった。向こうだってプロだ、癪だがハミルトンの言葉も正しかった。エディは今までの自分は装備に任せた戦い方で勝ってきたのだと痛感する。そして天狗になっていたという後悔と同時に、彼女達と実力で戦いたいという感情がわきあがってきた。なぜなら自分達も戦後日本に貸与された海軍の後継者であるからだ。そう考えていると、頭の奥から何かが湧き上がってきた。

「そうだ!思い出した!思いついた!リッチ、ちょっといい?・・・」

「・・・ああ、発想があいつからなのは癪だがさすがエディだ。早速準備しよう」

 

 

「失礼します。司令官さん、報告書を提出しに来ました」

 エディが執務室に入って来たのは5時を過ぎてからであった。浦風は早々と報告書を提出したので、丁度それを読んでいる途中である。

「ああ、ありがとう。ん?何だその猫たちは?」

「艤装の中にもぐりこんじゃってて、行く宛ても無いし、飼ってもいい?」

「世話さえすれば猫ぐらいかまわないよ。それより、気分はどう?あんまり遅いから落ち込んでるんじゃないかって心配だったから・・・」

「お気づかいに感謝します。でももう大丈夫です。それでは夕食の準備があるから、さようなら」

 エディは執務室から出て行った。どうやらいつもの調子を取り戻したようだ。報告書を取ってみてみる。まず最初に、でかでかと魚雷の予備パーツが不足しているから調達してほしいと書かれていた。

 

 

 翌朝、エディは艦娘たちを教室に集めた。昨日のこともあってか、日本艦たちはエディが入ってきても雑談を続けていたが、教室は一般的な生徒の机より一段高い教台と黒板があるものだ。エディは教壇に立って深呼吸してから静かに!と大声で言って黙らせると、一息おいて話し始めた。

「みんな、お早う。授業を始めるにあたって、みんなに話しておきたいことがあるの」

「はい、教官」

 手を上げたのは深雪だ。寝不足なのか、目に隈ができていて目つきも悪い。

「深雪ちゃん、私のことはエディって呼んでほしいって・・・」

「・・・教官はどうして私達より弱いのに私達に物を教えようとしてるんですか」

 深雪はいつものしゃべり方ではなく、意図的に敬語を使って話す。完全に心の距離を置いた話し方であり、彼女にエディへの信頼が無いことをあらわしている。その様子にエディの心は悲鳴を上げたが、エディはいつもの明るく素直な本来の彼女を保ったまま言った。

「そのことなんだけど、わたしは自分の装備がいいことに逃げ回る戦いをして、結果ボロ負けして・・・自分の戦い方にこだわって、みんなを教育するって考えてたけど、でもそれは間違ってた。みんなはもうプロの駆逐艦なんだってわかった。だから・・・」

 ガタンとエディは教壇を教台から降ろして、自分も教台から降りて皆と同じ視点に立った。

「この教室は、わたし達が皆に教えるだけじゃなく、みんなと議論しながら一緒に成長する場所にします!」

 エディは今一度日本の駆逐艦として、その先達に教えを請うことにしたのだ。

「あ、あの?つまりどういうことでしょうか?」

 春雨が目を丸くして手を上げた。他の艦娘も一様に驚いている。

「この艦隊は3つの国と4つの艦種、そして条約、条約明け、戦後の3世代のJapan Navyが集まった特別な艦隊だ。僕らと君たちの知識と多彩な経歴を生かせば、駆逐艦全体の利益に繋がるような発見ができるかもしれない。ここでは基本的な訓練に加えて、君たちにも意見をもらったり、特定の時間は君たちが主導で訓練を行うこともある」

「みんなで協力して、知恵を出し合えば、きっと戦艦にだって負けない力になる。わたし達じゃ未熟かもしれないけど、だからこそ、わたしはみんなの力を貸してほしいんだ」

 エディは手を伸ばして笑顔を向ける。日本組もしばらく黙っていたが・・・

「Хорошо!実にアメリカ的だ・・・惹かれるな」

 Верныйがまず賛同した。

「面白そうやな。それなら、うちも教官さんのこと、ビシバシしごいても構わんな?」

「もちろん!どんどん強くしてちょうだい」

 浦風もやる気になったようだ。

「わ、私も・・・」

 春雨も加わった。エディは深雪の方に向き直る。

「納得した?深雪ちゃん」

「・・・・・・」

 深雪はそっぽを向いたまま答えなかった。エディはどうしていいかわからなかったが、リッチが代わりに語りかけた。

「このプログラムが君のためになるかどうかは、君が判断すればいい。だけど、部隊として君には一緒に行動する義務がある」

「んなこと軍人だからわかってるよ・・・」

 深雪は背を向けたまま答えた。リッチはエディに合図する。

「とりあえず今日は射撃練習を予定してるから、まずは射撃場に行こう」

「おっ、なら早速教官をしごいたるな」

「私も頑張ります」

 浦風と春雨は早速教官を指導できると意気込む。

「私も射撃には思うところがあるから、頑張るよ」

 昨日の演習の結果に心当たりがあるのか、Верныйも進んで加わる。

「それじゃあ、早く演習場に行こう」

 問題を抱えながらも、小さな教室は歩みを始めた。

 

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