駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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 2週間あけて申し訳ありません。2話連続投稿です。



第30話 深雪の戦争

「まぁ、こんな感じじゃ」

 エディ達が報告書をまとめに行った後、私は司令室に戻り、浦風からの報告を聞く。エディたちは夕食が終わった後に報告書を出すので、彼女達が訓練から戻ってから夕食までの間、浦風が当番でない日はほぼ毎日、浦風からその日の訓練のことを聞いている。

「うーん、上達してるが・・・」

「まだ実戦レベルには程遠い。元の砲身は何とかならんか?」

 初日の演習の後、両艦隊にバラバラに報告書を書かせたのだが、先に提出に来た浦風に、あの演習は司令官が指示したのでは?と言われた。無論覚えがなかったので否定したら怒られた。言うに事欠いて自分が正規の軍人ではないことを白状してしまったのだ。浦風は私が司令官に任命された経緯を聞くと呆れていたが、仕方ないといって相談に乗ってくれるようになった。

「こちらでも部品メーカーに問い合わせているんだが、元の大砲がないと再現できないと言われた。対空重視にするなら10cm高射砲や12.7cm45口径砲身に付け替えさせてもいいと思うが」

「止めとき、余計混乱するだけじゃ。うちと同じ武装使ったほうが助かる。教官もほしいとは言っとらんし・・・それより、魚雷は?こっちは再三求められとるけど」

「こっちもダメだ。作れない製造してないの一点張りで・・・」

「妖精さんは気まぐれじゃからな、粘り強うやってくしかない」

 装備の問題も重大だが、そもそもエディ達が問題があると解っていながら私に相談してくれないことがショックだった。特にリッチからは敵視されている様子もある。

「はぁ、どうして2人とも信じてくれないんだ」

 上手くいかないことが重なると落ち込んでしまう。

「まぁ、そう気難しい顔せんと。ちょっと怖いで」

 浦風はコーヒーを淹れてくれる。そういえば、ジュネットにも考え事をしていると顔が怖いと言われたな。

「こういうときこそ司令官らしくビシッとして、堂々とすればええ。今夜にでも腹を割って話せば、きっと答えてくれるわ」

「ありがとう、浦風。頼りになるよ」

「何のこれしき。私はお節介焼きの浦風じゃ」

 浦風は前の鎮守府では秘書艦だったらしい。気立てがよく細かいところによく気がつく。エディもそういう子のはずなのだが、どういうわけだろうか。

「はは、頼もしい限りだよ」

「・・・ただ、あんまし教官の前で私に話しかけるのも考えもんじゃ。妬かれたらかなわんし」

「ああ、解った。善処しよう」

 部屋の外から足音が聞こえた。エディが来たのだろう。

「早速来たみたいだ」

「じゃあ、邪魔者は隠れるよ」

 浦風を執務机の裏に隠す。ここ数日毎日していることだ。私はエディが現れることを期待したが、開いた扉から息を切らして入ってきたのは、夕飯を作っていたのか割烹着姿のままの春雨だった。

「春雨!?どうしたんだ」

「た、大変です司令官!」

 春雨は一枚の紙を渡してきた。見ると深雪の字で「探さないでください」と書いてあった。

「その・・・ご飯の支度ができて呼びに言ったら・・・この手紙だけ置いてあって」

 深雪がエディ達と不仲なのは知っていた。深雪と妹であるВерныйも連れて話し合う機会も持ったが、いまひとつ本心を聞き出せなかった。まさかこんなことになるとは・・・

 頭を抱えるが、こうなった以上止むを得ない。窓を見ると倉庫に明かりがついている。海は暗くて解りにくいが何か動く影があった。

「浦風、今すぐ追いかけるんだ!春雨はВерныйを、私はエディを呼んでくる」

「了解!」

 机から出て浦風が港に走っていった。

「さぁ、春雨も早く」

「あ、あの?何で浦風さんが机の下から」

「気にするな、それよりも早くみんなを集めるんだ」

「はい!」

 エディの部屋に行ったがエディ達はいなかった。春雨がВерныйが弾薬庫に向かったことを思い出し、すぐに弾薬庫に向かう。弾薬庫にはВерныйだけでなく、エディ達もいた。

「司令官、何かあったんですか?」

 エディが驚いた様子で訊いてきた。

「ああ、非常事態だ。深雪が脱走した」

「え!?」

「くっ、遅かったか」

 エディ達は驚いた様子であったが、Верныйは歯がゆそうにこぶしを握り締めた。

「今浦風が追っているから、君達もすぐに出撃してくれ!」

「了解!」

 エディ達はすぐに埠頭に向かっていった。

「皆、頼む。必ず連れて戻ってきてくれ」

 

 

 

 ハミルトン

 

 エディ達を見送ったあと、司令室に戻った私は自分の無力さに打ちひしがれた。自分など所詮は飛行機に詳しいだけの民間人。一介のジャーナリストでしかないのだ。彼女達の手助けができるわけもなく、一人悩んでいた仲間の相談相手にもなれなかった。

「祈るしか・・・ないのか」

 エディ達に歩み寄らずに、仕事と勉強に逃げていた自分が恥ずかしい。結局のところ、今までの自分は無知にかこつけて彼女達を放任したに過ぎない。その結果がこれだ。理由はどうあっても重要な地位に着いた大人として、責任は司令官たる自分にある。それにもかかわらず、事態の収拾を人任せにしてただ一人祈るというのは男としてどうかしている。

「自分にできることを・・・少しでも皆のために」

 すぐにパソコンをつけて机の中を探る。司令室においてあったマニュアルに、この司令室は緊急時の簡易指揮所として使えると書いてあった。

「確かこの中に・・・あった!」

 マイクホンを取り出すと、無線の周波数を合わせ、通信をつなぐ。

「浦風、聞こえるか?」

《はい!何?司令官さん、お留守番が寂しくなった?》

「あぁ、早く7人で晩飯にしたい。状況は?」

《舞鶴港から北東20kmを現在35ktで航行中。ポンコツ電探は役に立たんし、見つかると逃げられるから明かりを消して捜索し取るけど、おかげで捗らん》

 夜陰に乗じられると目視に頼る艦娘では厳しいか。

「解った。こちらから手を尽くす」

《食事は賑やかなほうが楽しいけぇ、頼みます》

 浦風が無線を切る。いくら夜戦が得意な日本艦であっても広い海で捜索するのは効率が悪い。相手はとにかくこちらから距離をとりたいのだから、全速力でまっすぐ逃げるはず。相手が逃げた方向がわからない以上、たとえ電探を持った浦風やエディを使っても、見つけることすらかなわない可能性がある。

「くそ・・・飛行機があれば」

 飛行機さえあれば自分で探しにいけるが、そんなものはない。どうすれば・・・。考えていると、ひとつ案が思い浮かんだ。

「難しいが、やるしかないか」

 私は机端の電話を手に取った。

 

 

 

「Верныйちゃん、深雪ちゃんが行った場所に心あたりは?」

 深雪がどこに逃げたか不明なので、エディはВерныйに聞いてみた。

「さぁ、わからない。吹雪のところに行ったのかもしれないし、単に基地から離れるならまっすぐ北にいくことも考えられる」

「浦風は北東を捜索しているらしい、わたし達は北と北西を調べよう」

 エディとВерный、リッチと春雨に分かれて2方向で探すことにした。この日は雲が多く、月は僅かに見え隠れする程度の暗い海を疾走する。電探で位置はわかるのだが、やはりВерныйが着いて来ているか気になる(単に暗いところに一人で居たくないという事もあるが)エディはチラチラと後ろを振り返った。するとВерныйは弾薬庫で言いかけていたことを説明し始めた。

「以前深雪が34年没だって言ったことは覚えてる?」

「うん。ってことは、まさか」

「そう、深雪は戦争が始まる何年も前に、演習で衝突事故を起こして沈んだ」

 34年となればまだ日中戦争も始まっていない時期である。それが幸か不幸かは判別できないが、深雪は戦争を知らない艦なのだ。

「でも、訓練し直せばきっと」

 エディの末妹の中にも戦闘に参加していない子や、地上砲撃や安全な後方支援しかしたことのない子もいる。だが、彼女達は訓練カリキュラムを受けて問題なく前線に投入されている。

「その学校は彼女が入る前に廃止された」

 鎮守府に来た日、吹雪が言っていたことを思い出す。

「さらに悪いことに、深雪が建造されたときには既に深雪の後任だった叢雲が彼女の部隊にいた。深雪は艦隊に居場所を失い、出撃できたとしても安全圏での輸送任務ばかりだった。だから教育部隊が再建されることに、深雪は賭けていたんだ」

 アメリカからはるばる教官が来て、自分を指導してくれる。そこで教育を受ければ、自分もきっと生まれ変われる。彼女がそう確信したのは疑う余地がない。

「だけどそれは、わたし達が負けて打ち破られた・・・」

「そう、彼女は自分がお払い箱になったと思い込んでいる・・・教官、ここは本当にそういう部隊なのかい?」

 Верныйが不安げに聞いてきた。深雪だけではない、Верныйも春雨も浦風も、抱えている悩みは皆同じだ。

「違う、わたしはわたしに宿った特別な記憶を使って、世界をつなぐ架け橋になるために日本に来た。それはどんな状況でも変わらない。それだけは誓って言える。この艦隊はそのための特別な存在だよ」

 エディはそう言い切った。それはまだ土に埋もれて見えないが、エディの存在の根底にある意思から出た言葉であった。Верныйもそれを感じ取ったのか、静かに微笑む。

「そうか、ならそれを深雪に伝えてくれ」

「うん」

《こちら浦風じゃ。教官、深雪をみつけた!すぐに北北西に変針して網を張って。そちらに追い込む》

 折よく浦風から通信が入る。エディは浦風に電探演習の成果が出たと思い、笑顔になる。

「ありがとう、浦風ちゃん。Верныйちゃん!」

「ああ」

 すぐに浦風に言われたとおり変針し、深雪を待ち構える。すると電探に2つの反応が現れた。

「探射燈をつけているのは浦風ちゃんだから・・・Верныйちゃん、北西に300m移動して合図で探射燈をつけて!」

「了解」

「3、2、1、今!」

「う、うわぁっ!?」

 深雪を正面捉えて、間近に来たところで探射燈をつける。突然目の前にエディ達が現れたので、深雪は驚いてバランスを崩し、そのまま転んでしまった。

「いてて・・・ちっくしょう!離せ!」

 エディは混乱して暴れる深雪を取り押さえようとするが、

「くっそう・・・殺すなら殺せ!どうせ解体したいんだろう」

「落ち着き深雪。司令官も怒ってないし、鎮守府に帰ろう」

 浦風も加わって3人がかりで何とか取り押さえた。

「深雪ちゃん、どこに行こうとしてたの?」

 エディは深雪が動けないようにして聞いてみた。

「どこって、戦場に決まってるだろ!私は艦娘だ!戦わなくてどうすんだよ!私はこんなところで終わらない!私は・・・」

 乾いた音が響く。押さえつけられてなお喚き散らす深雪の頬を、Верныйがひっぱたいたのだ。

「戦う自信もないくせに?私がどんな思いで生き抜いてきたと?」

 Верныйの顔には強い怒りと悲しみが滲み出ていた。深雪も黙り込む。

「深雪ちゃん、Верныйちゃんから全部聞いたよ。ごめん、深雪ちゃんの期待、壊しちゃって。たしかにわたしはみんなを引っ張ってくには弱いかもしれない。でも、だからこそ。深雪ちゃんにはこの艦隊にいてほしいの」

 エディは深雪の手を握ろうとした。しかし、深雪はその手を突っぱねる。

「あんたに・・・私の何がわかるんだよ!建造されたときには元の部隊には居場所はないし、姉妹艦はみんな私より強くて、いつも足引っ張ってばっかで・・・いくら頑張ったって、戦争を知ってるみんなには勝てない。戦争で得た絆の中には入れない。挙句回された教育部隊も、こんな外れ者の集まり。なぁ、私の人生って何なんだ!何の価値があるんだよ・・・・・・」

 深雪は溜まっていた涙と理不尽への苛立ちを吐き出した。

「外れ者だっていいじゃない。深雪ちゃんの価値を決めるのは、深雪ちゃんだけだよ。それに、深雪ちゃんには十分価値があるよ。だって、わたしの事怖がらなかったじゃん。わたしは日本とアメリカの架け橋になりたくて日本に来たんだけど、最初はみんなから怖がられたり、気を使われたりで。アメリカでも日本の子は怖いって思ってる子も多かったから、やっぱり難しいなって思うこともあるの。でも、深雪ちゃんは最初から物怖じせずに話しかけてくれたよね」

 戦争を知らないから、深雪は尻込みせずに話しかけられた。無知は愚かさでもあるが、同時に無知でなければ、先入観のない好奇心も生まれない。そこにエディは、深雪の価値を見出したのだ。

「強いことは大事だけど、それだけじゃ戦えなくなる時が必ず来る。そんなとき、この国だけじゃない、いろんな国の艦娘と協力できる体制を作る。そのための第一歩がこの艦隊。それに深雪ちゃんが選ばれたのはきっと意味があることだったって思える艦隊に、絶対してみせるから。だから、もう一度わたし(世界)と繋がってみない?」

 エディはもう一度手を伸ばして、笑顔を見せる。明るく穢れのない笑顔に、深雪はなぜか心が晴れていく気がした。

「自分の価値は自分で作れ、か。あんたの考えはなんとなくわかったよ。強さ以外に大切なことも・・・でも」

 深雪は武器を持って立ち上がった。浦風は警戒して構えるが、エディは手でそれを制した。

「やっぱり、私だけ戦争しなかったってのは納得いかねぇ。もう一度、あんたと勝負したい」

 深雪の眼差しはまっすぐだった。エディも嬉しそうに答える。

「もちろん、それくらいで納得してくれるなら、いいよ!」

 エディも武器を展開した。

「浦風ちゃん、魚雷貸して」

「教官さん、大丈夫なん?」

 浦風は心配そうに聞く。実際、深雪が逃げないとも限らないし、エディが勝つとも考えられない。しかし、エディは迷いなく答えた。

「大丈夫、信じてるから。それに、前みたいにはいかない」

 エディはそう言うと、深雪と距離をとって対峙した。

「じゃあ、2人とも、用意。はじめ!」

 浦風の合図とともに、2人は駆け出した。エディは主砲をばら撒きながら一直線に深雪へ突進する。深雪は逆に引きながら砲撃を加えた。

「まるで前回と逆だね」

「じゃけどエディのほうが速い。距離をつめとる」

 エディは経験の差で深雪の動きを先読みして一気に距離をつめた。追い込まれた深雪は転進して魚雷を斉射しようとする。エディもそれに反応して魚雷を発射した。

「っ!」

「あっぶな」

 2人の発射した魚雷が交差する。しかし両者の魚雷は相手をすりぬけていった。深雪は勝利を確信した。射撃なら深雪のほうが分がある上に、Верныйが試合を見るためにエディに探射燈を当て続けているために電探の優位性もない。ゆえにエディは突っ込まざるを得ないため、さらに容易く撃破できると考えたためだ。

 実際に、エディは深雪に突っ込んできた。深雪は砲撃を加える。エディは被弾しながらも深雪との距離を詰め、それによってまた被弾するが、まったく勢いが衰えない。

(有効打が与えられてない!どうなって!?)

 焦りから深雪の動きが鈍くなる。そしてエディは砲撃を受けているせいか少なくなった主砲で砲撃し、深雪も被弾し始める。

(主砲が少なくなったってのになんで被弾するんだ!・・・ってまさか)

 エディは致命傷となる機関部を避けて被弾し、武装を捨てていたのである。

「もらった!」

「しまった、機関部が!?」

 機関部に直撃弾を加えられて深雪の動きが停止する。深雪は主砲を乱射するが、エディは気にせず一方的に距離を詰めてきた。機銃も使った必死の阻止放火で、機関部を破壊したが、エディは慣性で突っ込んできて・・・

「どりゃああああああああああ」

 そのまま深雪を背負い投げした。そのまま手を捻って馬乗りになり、深雪を拘束してしまう。

「う、動けない。こんなのありかよ!」

「伊達にレンジャー過程は通ってない!武器なしでも戦えるよ」

「いてて・・・ちょ、痛いって」

「ギブするまで許してあげない」

「ギブ!ギブアップ!もう無理!」

 エディによって武装解除させられた深雪はそのままギブアップした。浦風は唖然としながらも事の顛末を見届けると、勝敗を宣言した。

「え、エディの勝利じゃ」

「は、ハラショー」

「やったあ!」

 エディは子供らしく喜ぶ。

「・・・結局、私カッコつかないな。まぁ、こんなもの、か」

 深雪は滑稽な事の顛末に、笑みを浮かべる。こうして、ヘイウッド・L・エドワーズと深雪との海戦は、深雪の奮闘でエディを大破させるも、エディの体術で深雪が武装解除して幕を下ろした。

「深雪ちゃん、これでよかった?」

「あぁ、さっきやったこと、私にも教えてくれるか?・・・教官」

「うん、もちろんだよ!」

 2人は固く握手を交わす。始めて出会ったときのフランクな関係を取り戻した2人は、さらに深い友情で結ばれた。

「Верныйちゃん、ありがとう。Верныйちゃんのおかげで素直な気持ちで話せたよ」

「私は何もしてないさ」

 エディはВерныйにお礼を言った後、深雪を見つけてくれた浦風にも感謝を伝える。

「浦風ちゃんも、今回はありがとう。電探もすっかり使えるようになって、教官としてうれしいよ」

「いや、深雪を見つけたんは司令官じゃ」

「え?」

「司令官さんが防空局に話しつけてレーダーをかりてくれたそうじゃ」

 ハミルトンがそんな事をしていたとは、エディは少しだけ感心する。

「今回だけは、司令官さんにもお礼言わないといけないかな?」

「おーい!エディ!」

「ヘイウッド教官!」

 リッチと春雨も合流した。

「じゃあ、そろそろ帰ろう」

 夕飯を楽しみにしながら、6人は帰路を急いだ。

 

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