駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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 めっちゃ長い後編


第34話 妖精さんとひみつのへいきこうじょう 後編

 朝食後、私とエディは妖精さんの案内で妖精さんの町に向かった。

「エディ、ついて来てくれてありがとう」

「どうってことないって」

 当初、私一人で妖精の町に行くことにしていた。しかし、艤装には疎い私ひとりでは辛いものがある。助手として誰かを連れて行くべきだろうと思った私は、浦風を指名した。しかし、エディ達が秘書艦である自分の仕事だと反対したので、エディを連れて行くこととなった。

「司令官だけじゃ頼りないからね。それに」

「「わーい。にんげんさーん」」

「妖精さん、わたしの中気に入ったみたいだし」

 箱の中に入った妖精さんが顔を出す。妖精さん達は食べ終わると箱の中に戻っていった。閉じ込められたときはパニックで阿鼻叫喚だったが、妖精さんにとって箱は居心地がいいらしい。すっかり居ついてしまった。

「羅針盤ちゃん、町には弾薬だけじゃなくて、兵器の製造も行っているんだよね」

 エディは余所者さん改め羅針盤ちゃんに訊いた。妖精さんは個体に名前をつける習慣がないらしく、彼女は羅針盤を持っていたので便宜上羅針盤ちゃんと呼ぶことにした。ちなみに他の妖精さんの名前は、岩本さん、西沢さん、坂井さん、笹井さん、杉田さんだ。

「はい、かくしゃの技術者たちが、兵器のせいぞうをしています。わたしのなかまのなんにんかは、技術者としてはたらいてます。わたしは航海士なので、専門職にはつけなかったですが」

 妖精さんの町の前に来た。鎮守府の敷地の隣にある町は、山を背にして広がり、表通りだけ石畳で舗装されている。電気も通っているようで、電線が張りめぐらされ、トラックやバス、鉄道の駅もあり、郊外には軽飛行機の飛行場まであった。ミニチュアサイズの家々は、表通りは洋式や和洋折衷式の家々が立ち並ぶが、裏路地は日本家屋や長屋風の建物も並ぶ大正・昭和初期の香りのする町並みだ。

「毎日何気なく見てたけど、近づいてみると結構おしゃれだね」

「でも、町に妖精さんはいませんね」

 町にはほとんど人気がなく、お巡りさんの格好をした妖精さんが1人歩いているのをやっと見つけたほどだ。

「今頃はみなしごとに出ていますから、居住区にはほとんどいません」

「工場は別の場所にあるんですか?」

「ええ、産業区はむこうです」

 羅針盤さんが指差した先には大きな建物がいくつも並んでいた。町の鉄道も工場に通じており、住人は鉄道で移動しているのがわかる。

「あれですか?てっきり、普通の工場だと思ってました」

 私達は居住区を迂回して産業区へ歩く。産業区の工場は大小さまざまだが、どれも人間の工場と同じくらい(というか流用したのかもしれない)で、ひとつの工場にひとつのメーカーが入っているらしい。わたし達はその中でも一番大きな工場の前に来た。PAの文字が壁に大きく書かれている。

「ここがわたしの勤めているぴくしー・あーまめんつです」

 PA社、確か弾薬を卸している企業だったはずだ。砲身もここで作っているのだろう。私は表で作業している妖精さんを見つけると「こんにちは」と挨拶してみた。妖精さんは私達に気付くと、驚いた様子で中に入っていった。

「岩元さんといい、恥ずかしがり屋さんなのかな?」

 エディが呟いた。

 暫く様子を伺っていると、突然工場全体でサイレンが鳴り響いて、中からたくさんの妖精さんが出てきて私達を取り囲んだ。

「にんげんさんだ」

「にんげんさんきたのなんねんぶり?」

「でもまえのにんげんさんとちがいまんがな」

「かんむすさんもみたことない」

「ふしんしゃでは?」

「しゅけんしんがい?」

「じつりょくこうしもじさずってこと?」

「ん?あれ、マスターじゃね?」

「な、何!?わたし達、敵と思われてるの?って、あれは!?」

 工場の正面扉が開き、中から列車砲が出てきた。空にも飛行機が飛び交い、背中は岸壁、上も下も完全包囲されてしまった。

「ど、どうするの司令官?」

 艤装を起動させつつ、エディがこちらを見てきた。列車砲はミニチュアサイズだが、艦娘の艤装と同じものだろう。喰らったらエディでも無事ではすまないはずだ。最悪エディと海に飛び込こめば逃げられるが、妖精さんと直接会う機会は永遠に失われる。

「妖精さん、私達は決して怪しいものではありません」

 とりあえず私はテンプレなことをしゃべっていた。しかし、妖精さん達はこちらを遠めに見たまま「あやしいひとはたいていそういう」「うそつきはどろぼうのはじまり」「つまりこのひとどろぼう?」「徹甲弾装填かんりょう、もくひょう、マスターのとなりのにんげんさん!」と順調にわたし達を排除する準備を進める。

「司令官さん、逃げて!」

 エディが背後で叫ぶ。しかし私は足がすくんで逃げられない。どちらにしろ退路はないのだ。こうなったら死ぬまで続けるてやる。

「お、お近づきのしるしに、このお菓子を受け取ってください!」

 私は準備していたクッキーの缶(一昨日狭川司令に頂いた物)を差し出した。妖精さんの動きが止まる。

「それってあまい?」

「えぇ、それはもちろん」

 妖精さんが聞いてきた。缶から取り出して、妖精さんの一人にあげた。山吹色に輝くお菓子を目にして、少し躊躇いながらも、妖精さんはクッキーをかじった。

「あま~い!」

 妖精さんがそう叫ぶと、他の妖精さんもクッキーにかじりついた。

「まだまだありますよ。ほら、あなたにも」

 私は他の妖精さんにもお菓子をあげた。

「おかしくれました」

「もしかしていいにんげんさん?」

 妖精さんの心が揺らぎ始める。とここで羅針盤ちゃんが出てきた。

「みんな、この人はわたしのマスターの司令官でちゃんとした軍人さんです。武器をおさめてください!」

 羅針盤ちゃんが出てきたことで、妖精さんたちも「よそものちゃんがいる」「かえってこないとおもったらそういうことでしたか」「ほかの5にんはどこです?」「やっぱりマスターだったですね」と警戒が和らいできた。

「そうです」

「かんきんされましたけど」

「おかしいただきました」

「このひといなかったらみんなしごとなくてうえじにしてたです」

「にんげんさんはかみさまです」

 箱に入っていた岩本さんたちも出てきてとり成してくれた。

「そうでしたか」

「しつれいしましたな」

「しゅくほうのよういです!」

「ぎぶみーちょこれーと、ぜねらるまっかーさー」

 妖精さんたちもわかってくれたようだ。手のひらを返したかのように私達に近づいてきた。

「お菓子はここにあるだけあげますよ。皆さんで分け合って食べてください」

「私もチョコレート持ってきてたんだった。これもあげるね。って、脚に張り付かないで、恥ずかしいよ」

 私とエディは押し寄せる妖精さんの対応をする。すると妖精達の中から背広を着た身なりのいい妖精さんが出てきた。他の妖精さんはそれを見て道を開けた。

「あ、しゃちょうだー」

 岩本さんも手を振っている。背広の妖精さんは名刺を取り出して挨拶した。

「わたくし、ぴくしー・あーまめんつ・まいづるのしゃちょうをつとめさせていただいているものです」

「この町の市長さんでもあります」

 羅針盤ちゃんが補足した。

「舞鶴鎮守府司令官のハミルトンです。こちらは私の艦隊のヘイウッド・L・エドワーズです」

「よろしくね」

 私は市長さんと名刺を交換した。

「さきほどはしつれいしました。あなたたちのおかげでまちはうるおっておりますのに」

「いえいえ、こちらも社員さんを勝手に攫ったので、お互い様です。それよりも、今日は商談があって伺ったのですが」

 私は近々艦娘の1斉メンテナンスと近代化改修を行う旨を伝えた。

「ふむふむ、メンテナンスにつきましては妖精重工さん・・・ドックを管理している企業が艤装データも持っているので、そちらにそうだんしてください。装備品については、わが町じまんの企業をちょくせつほうもんいただけるとさいわいです」

「どうも、造船、艤装の妖精グループです。整備改修は我々がさいこうのしあがりをやくそくします。電探なども我々がせいぞうしています」

「大型艦船から航空機まで、エンジンのことなら、フェアリー・サイエンス・エンジン係にお任せを」

「航空機ならわれらフェアリー・サイエンス・クラフト係の元に」

「兵器にかくめいをもたらすロケットのフェアリー・サイエンス・ロケット係!」

 気がつくと各企業のセールスマンが足元にいて、次々と名刺を渡してきた。

「それじゃあ・・・とりあえず、フェアリー・サイエンス・クラフトに行こうかな?」

「司令官、飛行機なんか見てどうするの?」

 

 

 私達はまず妖精重工を尋ね、メンテナンスの相談をした。

「はい、艤装はドックでまいにちみてるので、わたしたちにおまかせください。近代化改修については、今日こうにゅうした武装をもとに、こちらで再設計しておきます」

「はい、請求書はメールで送って下さい。それでは、よろしくお願いします」

 私は造船科の妖精さんに話をつけて、艤装の鑑定をしてもらっているエディと合流するために歩き始めた。妖精重工は艦娘の建造や改修を行う造船科と、電探などの艤装を製作する開発科があり、妖精達の使う車両などもここで作っているらしい。

「トラックや機関車もここで作っているのか・・・」

 新型艦首の取り付けや、追加バルジ。変わったものでは衝角なども薦められたが、大規模な改修が必要になるので後回しにする。それよりも重要なのは無線機や電探だ。私は開発科の中に入ってみる。中では妖精さんたちがエディの艤装を鑑定していた。

 エディは例の箱の鑑定をしてもらうために開発科へ入ったのだが、日本の妖精さんにとっては未知の技術の塊であるエディは、あっという間に連れ込まれて全身検査をすることとなった。

「調子はどうですか?」

「いやぁ、きょうみぶかい」

「こんなにちいさな電探はじめてみたです」

「あめりかきょういのぎじゅつりょく、さすがマスター」

「レーダー手さんでもわからない?」

「つかえるのとつくれるのはちがいます」

 エディに載っていたと思われる妖精を発見!後で報告しよう。

「ありあけなのにはつはるでない・・・なにゆえ?」

 ありあけ、何のことだろう。

「ありあけって誰です?」

 私はレーダー手ちゃんに訊いてみる。

「マスターです。本社からおくられてきたずめんにそうかいていたので」

「彼女はヘイウッド・L・エドワーズ、完全な外国製ですよ。それよりも、電探の再現はどうですか?」

 我が艦隊の電探普及率はエディ、リッチ、浦風の僅か50%である。エディが電探前提の戦術を取る以上、可能な限り全員がエディと同じ水準の電探やソナーを装備させたい。

「われわれのぎじゅつりょくではむずかしいです」

「そもそもマスターのきおくがあんていしてませんゆえ」

「そうですか・・・」

 やはり技術格差が大きいか、そうなると国産電探も考えるべきだろうか?

「あ、司令官も来てたんだ」

 背後からエディが現れた。

「エディ、メンテの話はつけたよ。電探なんだが、やはり再現は難しいそうだ。最悪国産を買うか?」

「いくつか見たけど、重量の割に性能が低いから、今はわたしとリッチだけで十分だと思う。装備の鑑定はまだ少しかかるみたいだから、他の工場も回ろう」

 

 

 PA社

 

「わが社は機関砲から戦艦の主砲にいたるまで多彩な火器をせいぞうしています」

 市長さんがPA社を案内しながら言った。大きな炉がいくつもある工場には、大小さまざまな砲が、列車やクレーンに乗せられたり、或いは無造作に山積みにされていたりしている。山積みの砲身や弾薬箱の山が壁をうめて、気をつけなければ転びそうなところを歩く。

「それで、魚雷は生産してないの?」

 弾薬の製造ラインまで来たところで、エディが訊く。

「むかしはつくってましたが、いまはすたれちゃいました」

「昔って、どれぐらいまえに?」

「5ねんほどです。とつぜんにんげんさんのじゅちゅうがとぎれたんです」

 恐らく前の舞鶴鎮守府が閉鎖されたときだろう。

「あのときはくるしかった」

「こうじょういくつもつぶれた」

「きぎょうをしゅうやくして、すくないでんりょくでこうじょうのぎじゅつをいじ」

「きびしいはいきゅうせいと計画経済です」

 列車砲にまで改造された巨大砲や、床を埋めるまでの弾薬箱は、技術維持の賜物というわけか。

「商品を他の鎮守府に輸入したり、町を捨てたりはしなかったんですか?」

「われわれの輸送能力では、とうていたのコロニーにたどりつけません」

「にんげんさんたちからのでんりょくきょうきゅうもとぎれなかったですゆえ」

 基地の再利用と在庫投資の可能性を見越して、町自体は最低限維持させたということか。上層部も実質生殺しにされる妖精さん達の気持ちを考えられなかったのだろうか?

「さいきんになってじゅようがはっせいして、わがしゃはとくにうるおっておりまする」

「げんざいかんむすさんのでーたをもとに、ぎょらいのしさくをすすめておりますが・・・」

「もーたーけいのきおくがふそくしているのです」

「記憶が不足?どういうことだ?」

「司令官、そんなことも知らないの?」

 エディが信じられないといった表情で見てきた。

「すまん、教えてくれ」

「・・・・・・はぁ、いい?艦娘の艤装は、昔存在した船の船体を再現して、その記憶を定着させ、素体の人格に融合させ命あるものにするの。だから、サイズは変わっても、オリジナルと同じ力を発揮することができる。つまり、物理的に模倣するんじゃなくて、記憶を持たなければ効果を発揮しないの。稀に記憶だけじゃなくて、再現する対象に対して抱かれていた感情や意思、期待から、事実と異なる力が発生したり、仮想の装備品が再現されることがあるって教科書に書いてた」

 なるほど、さっぱりわからん。

「りかいできなくてもむりはありませんよ」

「ぶっしつぶんめいにいぞんするにんげんさんのかがくたいけいとはこんぽんてきにちがいますゆえ」

 うーむ、妖精さんの謎は深まるばかりだ。

「わたしの主砲が再現できないのも、それが理由なんだよね?」

「火砲にかんしては、われわれもじしんがありますが」

「じつぶつをみなければ、再現はふかのうです」

「はぁ、慣れていくしかないのかな・・・」

 エディはため息をついた。わたし達が工場を出ようとすると、工場の搬入口が開いて、中に列車砲が入って来た。2両の機関車に引かれた車両は、工場内に敷かれた資材搬入用レールを通って、エディのまえで止まった。

「よ、マスター!」

 列車砲に載った妖精さんがエディに挨拶した。列車砲と声からして私に照準を向けてきた妖精だ。というか、あの時エディがマスターだと気付いてたよなコイツ。

「マスターってことは、あなたもわたしに乗ってたの?」

「ああ、砲手としてあんたにのってた。しっかしヘッタクソな射撃でしたな?」

「妖精さんにまで言われちゃ形無しだよ・・・」

 妖精さんに酷評されて、エディは涙目になる。この妖精さん、結構毒舌だ。

「それより、マスター、この大砲かってよ、なんでも呉からぱちった46cm砲の砲身。これさえあればマスターもうまれかわります!」

「それ多分わたしよりも重いよ」

「うちには戦艦もいないので、残念ながら提案は却下です」

「ちぇっ」

 砲手さんは列車砲と一緒に工場の奥へと行ってしまった。

「ここも無駄足だったね」

「じゃあ、次はフェアリー・サイエンスだな」

「司令官、何でそんなにニヤついてるの?」

「とに角急ごう。時間ももうないし」

 

 

 フェアリー・サイエンス社

 

「わがしゃの新型高温缶高圧缶は、われわれのしんらいせいのたかいタービンとあいまって、かんむすさんのうんどうせいのうをひやくてきにこうじょうさせます」

 この会社は他の会社とちがってなんと映画で自社製品をPRしてきた。ちなみに映像に合わせて解説してくれている妖精さんが、エディの機関士妖精さんだった。

「だいふきょうかにおいても、クラフト部が長距離飛行艇によるコロニーかんれんらくせんを維持していたわがしゃのたかいぎじゅつりょくは、たのきぎょうとはくらべようがありません・・・」

 こうしてわざわざ作った商品PVを見せてもらったが、残念ながら機関の入れ替えまですると予算オーバーになるので、購入は取りやめになった。

「さ、用は済んだし、重工さんに・・・」

「いや、待て」

「え?」

 まだ重要なところが残っている。行かないわけには行かない、最重要区域が。

「どーも、クラフト部です。ハミルトンさん、こちらへいらして下さい」

「ほら、飛行機が私を呼んでいる。わ た し を呼んでいる」

「はぁ、わたし先に行ってるね・・・」

 

 

 鳥のようなしなやかさと、猛獣のような力強さ。重力によって地上に縛り付けられた人間が、その運命からの自由を得るために文明の知恵を結集して作り上げた飛行機は、間違いなく人類最大の発明だろう。

「ははっ、ふはははははは!」

 私は今、楽園にいる。妖精さんの再現力は驚くべきものだった。オリジナルのほとんどが失われた日本の航空機の数々が、精巧に再現され、今、私の手にあるのだ。

「2式大艇があるのは遠めに見て知っていたが、海軍機だけでなく陸軍の隼や98軽爆、99襲撃機、呑竜や飛龍まで生産してるのか」

「じつはわれわれはにんげんさんと秘密のコネクションを持っていて、そういった好事家さんむけのじゅようがあるんです。にんげんさんも陸攻をこうにゅうしたりしたので・・・」

「はい、今後とも良好な関係を結べるよう、いくらか飛行機を譲っていただけますか?」

 私はこのとき既に冷静な判断力を失っていた。脳汁があふれ出し、飛行機のことしか頭に無くなっていたのだ。

「えぇ、われわれに「とうし」していただけば、もっとよいものをつくれます。ぜっさんしゃようちゅうのロケット部もいまは兵器用固体燃料ロケットばかりつくってますが、ロケットのぽてんしゃるがはなひらけば、飛行機にかくめいをもたらします」

「えぇ、ドイツとか、液体燃料とか、誘導爆弾とか・・・」

 妖精さんが過去の兵器を再現しているということなら、その行き着く先は自ずとわかる。

「というわけでこれにサインを、航空産業のみらいとわがしゃとのつながりをつよくするこうきです。そちらにとっても、わるいはなしではないとおもいますが?」

 妖精さんが株券を私に見せた。私は妖精界のハワード・ヒューズとなることを夢見て、契約書にサインした。

 

 

「まいどあり~♪」

 FS社から社員総出で見送られた私は、鼻歌交じりに妖精重工へ向かう。エディはきっと待ちくたびれているだろう。だが、今日の私は機嫌がいい。嫌味のひとつぐらいで落ち込む私ではないのだ。世界は希望にあふれている。西の海原に沈もうとしている夕日は赤く美しく、その後には夜の闇がやってくるが、それは星達が煌くためにあるのだ。そして再び朝が来て、素晴らしい一日がまた始まる。世界は輝きに満ちて、そして今日よりも良い明日が待っているのだ・・・。

 私は心軽やかに妖精重工に辿り着くと、妖精さんを踏まないようにステップを踏みながら、造船部の扉に手を掛けた。

「エディ、遅くなったね・・・」

 差し込む夕日、伸びる影、小さな少女、落ちる輝き、それは床に小さな染みを作り・・・

「うぐぅ・・・う・・・ヒク・・・」

 エディは膝を付いて静かに泣いていた。艤装はぴかぴかに磨き上げられ、塗装もきれいになって台に置かれている。ただ、例の箱と、コルクボードがエディの目の前の床に散乱していた。妖精さん達が遠巻きにそれを見ている。

「エディ、一体何があった?」

 私はエディの肩に触れようとした。しかし、エディはそれを払いのけた。

「誰のせいでこんなことになってると・・・」

 私はコルクボードを拾った。艤装鑑定の報告書が貼り付けられていた。

「調査の結果、兵装・特殊装置の類は見つからず、当人の記憶との整合性・不明なれど、艤装との親和性高し。人員、或いは物資輸送用のコンテナと見られる・・・」

「・・・結局、ただの箱だったんだ・・・」

 エディは自嘲気味に言う。

「司令官・・・わたし、ちょっと期待してたんだ・・・魚雷まで捨てて取り付けられたんだから、何かきっと意味があるんじゃないのかって。でも、ただの箱なんて・・・滑稽すぎるよ。世界一早い高速輸送艦、それがわたしの正体だったなんて・・・」

「エディ・・・」

「わたしは司令官のこと、ちょっとは信じていいかなって思ってたのに、こんなの、あんまりだよ・・・いまのわたしはこの箱と同じ、何の役にも立たない。こんな小さなポケットで何を運べっていうの?魚雷もないただの駆逐艦で、どうやってみんなを守るの?どうやって世界を繋ぐの・・・こんな、中途半端なわたしが。やったことの責任はわかるし、これが罰なんだってこともわかってる。でも、こんなの理不尽だよ!」

 エディはそのままわたしに縋り付いた。

「ねぇ、司令官。わたしはずっとこのままなの?みんなと一緒に戦えないの?記憶は、日本との架け橋は?わたしは何のために生きてるの?」

 エディは涙ながらにわたしに問いかける。もう知らなかったでは済まされない。深雪の件で十分わかったはずだ。なのに今日自分は楽しみに浮かれて、エディを放置してしまった。

「すまない、少しはしゃぎすぎていた。エディの艤装のことについてもだ。だが、エディに価値が無いなんて思ってはいない。みんなを戦場に連れて行くことは深雪との約束だし、初めてあったとき、君が言った日本とアメリカとの架け橋になるという言葉は今も覚えてる。私は、その言葉を見届けるために日本に来たんだからな」

「司令官さん」

「君は戦えない?仲間がいるだろう。高速輸送艦?なら結構じゃないか。艦隊には輜重が必要だろ。予備弾薬でも、修理要員でも、必要なものを載せればいい」

「そうです!」

 部屋に妖精さん達が入って来た。見ると、エディの妖精達が並んでいた。

「マスター、わたし、うみが好きなんです。遠くへ行く時は、わたしも連れてってください」

「羅針盤ちゃん・・・」

「マスターの射撃はヘッタクソもいいところです。それじゃあこの先生きのこれないです!わたしが1からたたきこんでやるです!」

「砲手ちゃん・・・」

「機関はわたしにおまかせを、燃費もやすくてすみます。マスターにとっても、わるいはなしではないはずですよ」

「機関士ちゃん・・・」

「レーダー手もひつようでしょう?」

「火器管制はわたしに!」

「対空戦闘は我輩が!」

「料理ならおまかせを!」

「わが社からも応急修理のプロを同伴させましょう」

「艦内けんがくちけっと3まんえんです!」

 妖精さん達がエディの周りに集まる。その一人ひとりが、その道のプロなのだ。

「みんな・・・」

「こんなに皆君の事を慕ってくれているんだ。活用しない手はないだろう?」

「うん・・・みんな、ありがとう。皆さんのわたしへの乗船を許可します。ただし、船に乗ったからには、わたしに力を貸してね」

 エディは精一杯の笑顔で乗組員達に敬礼した。妖精さんも敬礼を返す。

「わたしここにのるです!」

「わたしがさき!」

「ここわたしのせきです!」

「こらっ、けんかしちゃダメ!ちゃんと並んで」

 早速妖精さん達が大挙して乗り込もうとするので、エディが叱る。重工側も箱の使い道について「長距離航海用に寝台をふやすほうがいいです!」「弾薬庫にしましょう!」「いや、しみんのいやしの場としてきっさてんを」と、議論し始めた。

「司令官、助けて!」

 エディは妖精さんにもみくちゃにされているが、自信を取り戻せたようだ。何はともあれ、一件落着だろう。

「そろそろ帰るか」

「待って!司令官!」

 

 

 

 

「おぉ、ちゃんと作れとるんじゃ」

 メンテ翌日、浦風は魚雷発射管を見て喜んでいた。僕達は艤装のテストのために射撃場へ向かう。

「何やかんやで妖精さんも何とか間に合わせたみたいだね」

「えへへ、てれますなぁ」

 エディの頭の上に載った技術者妖精さんが言った。

「あれ以来教官さんも妖精さんに好かれてますね」

 妖精の町を訪れてから、日常的に妖精さんも食卓に加わり基地でも見かけることが増えたのだ。僕の猫ともよく遊んでいる。

「それで、エディ?結局その箱は何だったの?」

 僕が訊いてみる。昨日言ったのは浦風のことはもちろん、艤装を調べてもらうためだ。

「ん?なんでもなかったよ」

「え?」

「でも、だからこそ、何でも詰めることができるって司令官が言ってた」

 そういうエディの顔はどこか楽しげだ。アイツと何かあったのか。

「それって上手く言いくるめられたんじゃ」

 やはり姉さん一人で行かせたのは問題だったか?

「細かいことはいいの。リッチだって、猫好きでしょ?」

「そうだけど・・・」

 こう言われると僕も反論できない。

「じゃぁ、早速撃ってみるな」

 浦風は魚雷の照準を合わせて発射した。魚雷発射管から発射された飛翔体は噴煙を上げながら目標まで飛んで行き派手に爆発した・・・ん?

「へ?なにこれ?」

「発射管はまにあったものの、魚雷のもんだいはかいけつされず」

「かわりにロケットにしました」

「「・・・・・・」」

 全員が沈黙した。ただ1人、Верныйだけが

「ハラショー!」

 と手を叩いる。なんなんだ・・・これ。

「標的は健在だね。大口径でもやっぱり威力不足だ。春雨、砲撃で処分して」

「はい」

 春雨が砲撃する。1発目が外れた。

「やっぱり前のとは癖がちがいますね・・・」

すると姉さんは、春雨の腕を掴んで姿勢を変えさせた。

「腕はもうちょっと下で・・・うん、これでいい?・・・じゃあ、春雨ちゃん撃っていいよ」

「え?あ、はい!」

 春雨が砲撃すると、今度は直撃した。

「あ・・・あれ?凄いです、教官さん!」

「反動制御もしやすいでしょ。わたしもやってみるね」

 姉さんは何か呟きながら砲撃をする。なんと1発で命中して、的が完全に破壊された。

「教官が当てた・・・だと」

「今日は槍が降るね」

「な、なぁ、教官工場で何かされへんかった?主に頭に」

「えっへへ、ひ・み・つ!」

 姉さんは笑顔で言った。艤装の影に双眼鏡を持った妖精さんが隠れていることには、後ろに立っていた僕以外は気付くはずも無い事であった。

 

 

 結局、魚雷のモーターはフェアリーとの共同開発を行うことで復旧に成功したそうだ。

 




おまけ ハミルトンの手帳

 舞鶴の三大妖精企業

1.妖精重工グループ
 艦娘の建造、船体・艤装の製造、修理を行う妖精企業。造船以外にも自動車や列車の製造を行い、重工業全体を担っている。さらに居住区と工場を結ぶ鉄道も彼らが管理しているらしい。
 かつては艦娘建造の雄として、鎮守府との強い結びつきのもと、特型駆逐艦1番艦を始め多くの艦娘を建造した由緒ある企業である。舞鶴鎮守府閉鎖後はその重厚長大型の企業スタイルが裏目に出て、需要の減少を招き大きく衰退してしまった。現在、鎮守府復活によって離散していた技術者たちを再雇用しており、かつての力を回復させつつある。


2.ぴくしー・あーまめんつ・まいづる(PAM)
 主に艦娘の火砲や魚雷など、兵装及びその付属品分野を担当する企業。全国に支社を置くぴくしー・あーまめんつの支社のひとつである。多くの支社の中の完全軍需専門の工場のひとつであり、弾薬製造関連であることから舞鶴鎮守府復活の恩恵を最も受けた企業といえる。妖精重工同様、鎮守府閉鎖によって大きな打撃を受け、本社からの連絡も途絶えてしまった。そのまま消滅するかと思われていたが、社会政策として政府からの供給電力を利用して工場を回し、労働者を雇用し続ける役割を持つことで企業を存続、結果的に町の最大企業となった。鎮守府復活によって収益が入ったが、同時に抱え込んだ大量の在庫問題が表面化し、他企業も息を吹き返したことによってその地位も薄氷の上のものとなっている。


3.フェアリー・サイエンス社
 精密機器やエンジンの製造に特化した企業。艦娘用のタービン製造も行う傍ら、エンジン製造の関連から航空機も扱う。PAMと同じく、全国に兄弟企業を持つグループ企業の1社であるが、PAMと違い、鎮守府閉鎖後も長距離飛行艇によるコロニー間連絡路を維持し、新型機の開発・実験を行い、生産力の大きい兄弟会社からライセンス料を取るやり方で利益を上げていた。また、人間の好事家のために再現機を限定生産・販売するなど、少数精鋭主義と抜け目の無い儲け方で他の二企業のような規模はないが、大きな収益を上げている。
 その企業スタイルから、先進性と技術優位を維持する努力を絶えず行い、このために進機関部門(ロケット部門)を設立した。PA社の兵器市場に介入するために噴進砲製造を行ったり、ドイツからもたらされた設計図をもとにジェット・ロケットの研究を進めているが、未知の部分の多い事業の業績は芳しくない。それでも、この兵器がもたらすであろう技術上の進歩が計り知れないものであることは間違いなく、今後の躍進が期待される。
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