「それじゃあ、大姉ちゃん、行ってくるね」
「行ってきます」
50もの艦娘が一斉に発進できる基地の巨大埠頭の隅で、エディとリッチは大姉・・・フレッチャーに別れを告げた。
「二人共、すっかり立派になってお姉ちゃんも感激なのです!所属は変わっても、私たちは家族だから、困ったらいつでも頼るんですよ」
「大姉様に迷惑はかけません」
「リッチ、その心がけは嬉しいけど、あなたは一人でなんでもしようとするところがあるから、困ったときはまずエディに相談するのです。それとエディはこの子がどうしようもなくなったときに助けてくれる、信頼できる友達を作る手助けをしてあげてね。どんな人とも壁を作らないあなたなら、きっと出来るわ」
「はい!頑張ります」
「ど、努力します・・・」
フレッチャーの指摘にふたりはそれぞれ答えながら、この姉にはかなわないなぁと思った。見た目は無邪気な少女でいつも笑顔を絶やさないフレッチャーだが、175隻の大家族のリーダーとして常に模範となるよう行動し、全員の名前と顔を把握するだけでなく、他級との折衝や部隊指揮なども担当し、訓練学校にいた3年間常に駆逐艦の先頭に立って引っ張ってきたのだ。姉妹の誰もが彼女を愛し、彼女を尊敬していた。
そんな彼女を思い出していると、エディの瞳には涙が溢れてきた。
「おねぇちゃん・・・今まで、今までほんとにあり・・・がとう。わたし、何もあげられなかったけど・・・頑張るから・・・」
エディが泣きじゃくると、今度はフレッチャーまで泣き出した。
「その言葉が私にとって一番の宝よ・・・もう、また泣いちゃった・・・みんなにさよならいうまで、もつ・・・かな?」
実はフレッチャーは今日ずっとこんな様子だった。全員の出撃を見送ろうと早朝から起きて、出発する姉妹一人ひとりに別れを告げにいっては、涙を流していた。彼女の目は真っ赤に腫れて、頬には涙が流れた跡が何筋も通っていた。
「ごめぇんねぇ、おねぇちゃんを泣かせちゃった・・・」
「いいのです・・・そのかわりエディはたくさん友達を作るのです、夢を叶えるのです!」
「うん・・・うん!わたし、必ず向こうで夢を叶えるよ!」
エディは固く誓った。リッチは時計を見てエディに出発を促す。
「エディ、そろそろ行くよ」
「じゃあ行ってくるね、大姉ちゃん!」
さっきと同じ台詞。だが、さっきよりも強い決意を持ってエディは言った。
「いってらっしゃい」
フレッチャーはいつもと同じ、まるで学校に出かける子供を見送る母のような口調で優しく答えた。
エディとリッチは埠頭を出発する。後ろは振り返らなかった。まだ見ぬ未来の海原へと駆け出す妹たちに、フレッチャーはいつまでも手を振った。
「みんな行っちゃったか・・・」
最後に旅立ったエディとリッチを見送ったフレッチャーは、大きな埠頭にただひとりぽつんと佇んでいた。妹たちは立派に育ち、旅立っていった。姉としてこれほど嬉しいことはない。満足感に満ちながらも、今まで心の多くを占めていたモノがなくなった寂しさが溢れ出す。
「・・・ッ!・・・・ッ・・・」
耐え切れずに泣き出すが、もはや涙も出尽くして、喉も枯れて、ただ大きく口を開けて震えていた。やがて睡魔に耐え切れずに意識が遠のいた。
「ぁれぇ・・ゎたしぃ・・・ぃつの間に・・・」
フレッチャーが再び目を覚ました時にはすっかり夜が深けていた。暗い埠頭には、彼女一人しかいない。フレッチャーは顔を叩いて意識をはっきりさせると、立ち上がって艤装室に足を向ける。
「行かなきゃ」
妹たちの様に、彼女も彼女の戦場へ向かうため、フレッチャーは姉妹艦の誰の物よりもピカピカに磨かれた艤装に手をかけた。
今回はかなり短いです。校正をしてもらっている姉に本筋に関係ない内容は書くなと言われてしまいました。
アメリカ編はここで終了なので、主人公が本格的に活躍するのは次からです。