駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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タイトル二転三転兄貴


第37話 Can I draw my trust in advance?

「いや、ごめんね。あの人はちょっと気難しい人だから」

 堤大佐が退出して、呆然としている私に、狭川大佐はすぐにフォローに入った。

「随分と提督を嫌っているようでしたが・・・」

「まぁ、予算も仕事もとられてるからね。実戦一筋で出世してきた人だから、余計意地張っちゃうんだよ」

 戦争というわかりやすく功績を立てる機会があるものの、軍隊も硬直的な官僚組織に過ぎない。艦長や艦隊司令のような日の目を見る地位に着く前に、何十年もの砲術士官やら航海士やら中間管理職の下積みがあるものだ。一方で提督は士官学校卒でいきなり艦隊司令だ。しかも駆逐艦どころか空母も戦艦も思うまま、当然出世も早い。いくら提督がトップエリートとはいえ、これでは真面目にキャリアを積んでいるのが馬鹿みたいだ。

「え、あれ?じゃあ何で狭川司令はその年で大佐なんですか?」

「そりゃ親の七光りさ」

「・・・・・・」

「本来なら年功で堤さんが幕僚長なんだけどね、僕をここに置いときたい親父の意向で司令官やってるわけ。堤さんがやりたがらないってのもあるけど」

 どうやら堤大佐は根っからの艦長らしい。地上勤に回されるのが嫌で大尉止まりのベテランパイロットの話はよく聞くので、気持ちはわからないでもないが。

「彼にも立場はあるし、初対面でいきなり提案はやっぱり無理だったかな。いやぁ悪いね、力になれなくてさ」

 狭川大佐は軽い雰囲気で私の肩を叩いた。

「いえ、本来はこちらが気づくべきことでした。お時間を頂戴して申し訳ありません」

 

 

 

「で、つき返されてそのまま戻ってきたと」

 鎮守府に戻りいつもの様に仕事をしたあと、浦風と今日の出来事を報告しあう。

「あぁ。実績なし、階級も低いじゃ打つ手なしだ」

「そもそもの話、その階級もおかしいじゃろう。本来提督業は最低でも佐官任命なのに、大尉任命なんて・・・その基地司令も基地司令じゃ。いくら親の七光りにしたって、30の前半で大佐になるなんて、それこそ提督でもない限り不可能じゃ。だいいち幕僚長は将官がなるもんじゃけん。この鎮守府って何なんじゃろう?」

 教育部隊とは銘打ってはいるものの、素人任官、低すぎる階級、懐かない教官に調整不足の艤装。そのものも不可解なこの舞鶴基地。

「やっぱり、何もするなってことなのか?」

 もしかしなくても、何かの陰謀で最低限の設備と人員を置いただけの、いわゆるダミー団体なのかもしれない。魚雷を降ろされたエディ達、実戦経験の無い深雪、海外艦のBерный・・・。

 足音が近づいてくるのを聞こえて浦風は机の裏に隠れる。入って来たのはエディだった。

「報告書、書いたよ」

「あぁ、ありがとう」

 こうして報告書を受け取るごとに、罪悪感を感じる。私は結局エディとの約束を守っていない。

「司令官、元気ないよ。今日の基地会議、何かあったの?」

「あ、いや・・・」

 私がいつものように誤魔化しかけたとき、浦風が服の裾を引っ張った。言うことは言えという事なのだろう。

「エディ、ちょっといいかな?」

「ん?なに、司令官」

「エディは、正直この部隊のこと、どう思ってるんだ?こっちの力不足で、いろいろ振り回してばかりで・・・正直、嫌じゃないか?」

 エディは少し考えると、ゆっくりと話し始めた。

「確かに司令官には言いたいことが山ほどあるよ。指導は丸投げだし、知らない間に艤装は改造されるし、出撃もさせてくれない。でも、よく考えたら司令官がいたから深雪ちゃんの事件も解決したし、深雪ちゃんは新しい自分を見つけられた。工場でわたしが落ち込んだときもそう。だから、わたし達のために司令官が司令官なりに考えてくれてるなら、わたしはその通りにしたいと思う。それが最善じゃなくても、きっと司令官じゃなかったら見つけられなかった答えがあると思うから。だから、わたしは司令官のこと、信じてるよ」

 エディはにっこり笑ってそう言った。それを見ていると心のもやが晴れる気がした。

「そうだな・・・前にも、信じてるって言われたばかりだったな。すまない、疑って」

「気にしないで。わたしもちょっと前に注意されてはじめて気付いたことだから」

 エディも彼女なりに悩んでいるのだろう。そして彼女なりに努力している。重要なのは立場がどうこうとか、そういうことに甘んじるのではなく、今ある立場をどのように改善していくかなのだ。

「話はそれだけ?なら、わたしからちょっと相談したいことがあるんだけど?」

 エディが何か言いかけたとき、リッチが部屋に入って来た。

「失礼します。司令官、来週の訓練計画について追加したいことがあるんですが」

「あぁ、リッチ。先に言っていいよ」

「えっと、・・・」

 訓練時間の変更で必要な許可が増えるかもしれないとのことだった。

「それじゃあ、確認と必要があれば申請もしておくよ」

「お願いします。それじゃあエディ、お風呂に行こう」

「うん。それじゃあ、おやすみなさい」

「おやすみなさい。あぁ、それとエディ」

「何?」

「ありがとう。やるべきことがわかった気がする」

「それはどうも。お役に立てて嬉しいわ」

 私は2人を見送ると、すぐに次にするべきことの見通しをたてる。

「なんかわかった?」

「あぁ。浦風も手伝ってくれ。君の経験が必要だ」

「ウチで良ければ何でも言ぅて」

 私にできることは限られている。なら、そのやり方を貫き通すまでだ。自分のやり方で、自分の経験で。

(待ってろエディ、必ず期待にこたえてみせるからな)

 

 この時、エディの言わんとしたことを聞いておけばと後悔するのは、少し先のことになる。

 

 

 1週間後

 

 いつものように航行訓練を終えて帰還したエディは、いつもよりもさらに陽気なかわいらしさを振りまいてブリーフィングのためにドックに立った。

「今日はみんなに大事なお知らせがあります」

「なんだい、教官?」

 Bерныйが食いつく。深雪と春雨も、教官が今日は妙にエディの調子がよかったので、何かあるかと踏んでいた。

「えっとね・・・それは」

「それは?」

 エディはもったいぶったように言葉を溜めると、深雪たちも釣られて聞き返す。面白かったのでもう一回言葉を溜めてみる。3度目は流石に飽きられたのか、浦風がニヨニヨしながら「もったいぶらんとはよいい!」と、催促したので、見透かされたように思えて(実際見透かされていたのだが)興ざめになり、気を取り直して本題に入る。

「なんと!わたし達第56水雷戦隊の演習遠征が決まりました!」

「「「!!」」」

 静寂。あまりにびっくりしたのか、みな固まってしまう。

「あ、あれ?・・・みんな知ってたりした?」

 大喝采が沸くと思ったエディは反応がないのでオロオロする。一人だけ固まっていなかった浦風が見かねてフォローした。

「教官さん、みんな信じられんくて頭が真っ白になっとるだけじゃ。もういっぺんゆうたれ!」

「あ、うん!みんな、第56水雷戦隊は、演習遠征に行くことになりました!」

「「「やったー!」」」

 今度こそ大喝采。全員が喜んで、リッチもエディに抱き着いた。

「エディ、それは本当かい?」

「うん。私も昨日の夜に聞いたことだから、驚かそうと思ってリッチにも内緒にしてたの」

「やったな教官!説得した甲斐があった!」

「ありがとう深雪ちゃん」

 深雪もエディとハイタッチする。

「しかし、あの司令官がどうして急に」

 Bерныйが言った。まだ訓練が足りないといったのは、つい2週間程前なのだ。

「よくわからないけど、詳しいことは夜に話すって」

「何はともあれ、これで僕らもやっと外に出られる」

 リッチが安堵して言う。どういう形であれ、少なくとも外の部隊とコンタクトを取れる程度には、上は自分達を危険視していないということだ。

「あたし達相当強くなったからな!外で名を売れば、自然と任務が来るぜ!」

 深雪は喜んで言うと、突然右肩に重みを感じた。振り返ると、春雨がひざに手をついて意気を荒くしている。

「すいません、ちょっと・・・目眩が・・・」

 春雨は頭を抑えて苦しそうにしている。深雪はきっと訓練疲れからの嬉しさで頭が真っ白になったのだろうと考えて、肩を貸していすに座らせた。その後は何事も無くブリーフィングは続いた。

「それじゃあ、今日の訓練はここまで!夕食まで解散!」

 エディがそういってブリーフィングが終わり、それぞれドックから退出していく。普段は事務的なリッチも深雪に「浮かれて転ぶなよ」と軽口を叩きながら出て行った。ただ一人、ベンチに座ったままうずくまる春雨を除いて。

 

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