「ということで、エンブレムを作ろうと思います」
夕食後のブリーフィングタイム。私はみんなを工作室に集めた。
「司令官」
「何だ春雨?」
「エンブレムって何ですか?」
真面目に聞いてくる春雨に、
「あのね春雨ちゃん、エンブレムって言うのは、部隊とか家とかの象徴的なものを形にしたもので・・・」
疑問に対してはエディが説明してくれた。
「なるほど、そういえば陸軍機は部隊ごとに違う塗装をしていると聞いたことがある。そういったものか」
Bерныйが言った。昔の映画や写真を見ると陸軍航空隊では盛んだったようだが、海軍ではあまりそういう話は聞かない。塗装規定が厳しいのだろうか?
「でも、なんで今更?」
「それは発案者の深雪に説明してもらおう」
深雪が立ち上がってプレゼンをはじめた。
「私たちってさ、所属も艦型もバラバラだろ。だから、みんなのわかりやすい共通点を、目に見える形で作りたいって司令官に相談したんだ。最初は艤装を丸ごと塗りたいと思ったんだが、それじゃ時間が足りないから、司令官が見せてくれた、エンブレムってやつを作りたいって思ったわけ。これを見れば、私たちは部隊の一員として一つになれるし、誰でも私たちが舞鶴の56駆逐隊だってわかるようになる。そんなエンブレムを、みんなで一緒に作ろうよな!」
少々入れ知恵したが、深雪の本心だ。皆それぞれ考えがあるように思えるが、最初に声をあげたのは、意外にもBерныйだった。
「せっかくの深雪の提案だ。それに、みんなの心の拠り所になるなら、私は反対しないよ」
「僕も同じだ。原隊でもやっていたことだし、いいアイデアだと思う」
リッチも賛成する。すると浦風たちも、「ウチも、なんか楽しそうじゃけぇ、賛成!」
「・・・私も、賜与の艤装に絵を描くのはちょっと気が引けますが、皆さんと一緒というのは、嬉しいです!」
と、続いた。日本艦たちは大体納得したようだ。
「あとは教官だけだな。教官は?」
「うん。勿論賛成だよ!Bерныйちゃんの言うとおり、みんなで決めて作ったエンブレムなら、それはきっとみんなを強くつないでくれる。それに・・・」
「それに?」
「艦娘は女の子だもの。すっぴんで外には出られないよ」
エディの冗談に、部屋は笑いに包まれる。
「はは、教官らしいなぁ」
艦娘は普通の女の子じゃない、といっていた浦風も、これには腹を抱えて笑った。
「でも、深雪ちゃん。本当にありがとう。日本に来る前に、わたしもやりたい!って思ってたけど、つい忘れてたことだから。深雪ちゃんが思いついてくれて助かったよ」
「おう!じゃあ、はじめよう!」
「それで、エンブレムには何を書けばいいのでしょうか?」
とりあえず画用紙を取り、案を出し合う。こういったことの経験の無い日本勢には、一から教えなければならない。
「そういうと思って司令官のノート」
深雪が爆弾を落とす。深雪にエンブレムが何か見せようと思ったが、私物のエンブレム辞典が見つからず、つい昔作ったノート(黒歴史)を渡してしまった。
「Stop!深雪、待ってくれ!」
慌ててノートを取り上げる。
「あっ、ちょっと、私にも見せてよ!」
「だめだ、教育上よくないものが描かれてる!」
この言葉が邪推を招く。リッチが意地悪な顔をして聞いてくる。
「ふーん、それってもしかして、裸のお姉さんとか?」
リッチの発言に、一同顔を真っ赤にする。
「ふ、ふ、ふ、不埒ですよ司令官!」
「ウチも流石にドン引きじゃ・・・」
「お、落ち着いて、爆撃機とかによく描くし。ね?司令官。怒らないからおとなしくそれ渡して」
エディと浦風がとんでもない殺気を放って詰め寄ってくる。
「そういう意味じゃなくて!」
「いいじゃねぇか司令官、かっこよかったと思うぞ」
「深雪はそうだろうが他に見られるのは拙いんだ」
深雪とは趣味が合うから、見せても大丈夫だと思い見せたのだ。だがいろいろ中二設定が長々と書かれたものを見られたら、社会的に死ねる。絶対に見られるわけには行かない。私はノートを届かないように掲げたが、
「ほい」
いつの間にか後ろに回りこんで椅子に上っていたBерныйにノートを取り上げられてしまった。取り返そうとするがBерныйは見事な連携でノートをリッチにパスした。
「へぇ、なになに?悪魔ラーズグリーズ中隊。大統領お抱えのたった4機の秘密航空部隊。裏切りによって祖国を終われた者達が結成した。一個航空師団に匹敵する戦力を持つ。うーん。随分と凝った『設定』だね・・・」
「でも、書きなぐりで妙に難しい単語使ってて、しかも使い方間違ってる・・・なんていうか・・・ダサい!」
エディがあっけなく宣告して、わたしは地に膝を付く。
「えー、かっこいいだろう?わたしは、「ヴェンデッタ」「死神部隊」かっこいいと思うぞ!」
深雪は興奮気味にシンボルを指す。深雪、お前だけだ。
「うーん、わかったようなわからへんような。兎に角、必要なことをまとめよう」
浦風が茶番を打ち切り、私を立たせる。「男はみんなそんなもんじゃ」と小さくフォローしてもらい、気を持ち直すと、説明に移った。
「エンブレムは部隊のキーワード、つまり部隊名や所属基地、兵科、部隊のモットー等を絵や言葉で表現する必要がある」
部隊がどのような集団なのかわかるよう多くの情報を入れて、かつデザイン性も重視しなければならない。
「日本なら日の丸。アメリカ政府ならタカの紋章がそれに当たるね。わたし達の場合は、56、舞鶴、日本がそれかな?」
エディがキーワードをあげて、それを黒板に書いていく。
「アメリカは入れないのか?」
深雪が提案した。確かにエディ達が中心である以上、これも重要なキーワードかもしれない。しかし深雪と私以外の反応は芳しくなかった。
「深雪、一応僕らは戦争を挟んでるんだ。僕もエディも、他の多くの艦もね。誰もが過去に向き合って、なおかつ未来を見据えられるほど、強くない」
部屋が静まり返る。彼女達は素体の人格に過去の記憶を植えつけた、意思を持った兵器なのだ。その兵器にこもった願い、喜びといった正の感情だけでなく、悲劇、憎しみや恨みなどの負の感情も、彼女達のものであり、不可分な構成要素なのだ。
「それに、私達の艦籍は、もう日本に移ってるし、あくまで1教育隊だからね。もし後進に引き継ぐことになったときに使いにくくなるから」
エディが付け加えた。深雪は自分の認識不足に気付いて俯いた。
「ごめん、考えが足りなかった・・・」
部隊に鬱々とした空気が流れる。助け舟を入れるべだろうか?
「なぁエディ。確かに不快感を与えない配慮は必要かもしれない。だが、伝えるべきことは、きちんと知らせるべきじゃないか?確かに、君達の所属は日本に移ったかもしれない。だが、それは君が君の経歴を生かして、2国の架け橋になるためだって、私はあのパーティーで聞いた。なら、今の君を、そしてこの部隊を構成する、どちらも同じぐらいに好きと言った二つの祖国は、隠すべき事じゃないはずだ」
「それは・・・そうだけど・・・」
「それに、君は後進にもこのエンブレムを引き継ぎたいって言ったじゃないか。なら、星条旗は後進にもこの隊の歩みを辿る道標になるはずだ」
エンブレムの意味を知ることで、未来の日本艦娘に、彼女達の精神を引き継げるかもしれない。それは、他でもない彼女自身の願いであるはずだ。
「それに、国旗としての星条旗はともかく、星条旗の精神は今我々に必要なものじゃないか?」
「星条旗の・・・精神?」
「星条旗の精神とは目的のための団結。アメリカの星条旗は、最初に独立した13州を13条の縞で、現在の州の数を星の数で表している。連邦制たる合衆国は、州一つ一つがバラバラだが、自由と独立のために共同している。それは、我々のあり方にそっくりじゃないか?」
偉大な目的のための団結。規模こそ違えど、その精神は変わらない。故に星条旗を描くことも間違いではないという論法だ。
「それに、星条旗は成長し続ける。今は6条、6つの星だが、この隊が成長し、志を共にするものが集まれば、星は増え続ける。この隊の歩みが、そのままエンブレムに刻まれるんだ。エディ、リッチ、これでもまだ不満か?」
2人は少し話し合って、裁定を下した。
「うん、降参。星条旗も候補に入れる。ただし、使うからにはそれ相応のバランスをとるってことでいい?」
何とか譲歩してくれたようだ。これで深雪の面目も保てる。
「だそうだ、深雪」
「やったぁ!ありがとな、司令官」
深雪は私の腰に抱きつく。
「2人とも、まるで恋人みたいです」
冗談交じりに春雨が言った。すると深雪が急に大人しく椅子に座った。
「からかうのはよしてくれ。深雪は妹みたいなもので、なぁ深雪」
「司令官と、こいびと・・・まんざらでもねぇ・・・かな?」
深雪は小声で何かブツブツ言っている。浦風とエディの視線が何故か怖い。
「しかし、バランスか・・・どうしたらいいだろう」
おそらく、日章旗を配置するか、星条旗を控えめにするかの事だろう。どちらも目立つものなので、上手く考える必要がある。
「なら、ウチに考えがある」
浦風は旭日旗の対角線上に星条旗を書き、旭日旗の足よろしく、星条旗の縞を放射状にして、互いの足を繋いだ。
「Xорошо!これなら、両方のアイデアを上手く組み合わせられる」
「旭日旗と星条旗が手を結ぶイメージだ、これなら大丈夫だね」
「夕暮に太陽が沈んで、夜の星がみえる、きれいなイメージだと思います」
「何言ってんだよ春雨。旭日旗なんだから、日の出に決まってるだろう。なぁ、教官・・・?」
深雪がリッチに話しかけたが、リッチはフリーズしていた。
「リッチ、話しかけられてるぞ」
「あ、すまない司令官。これなら問題ないだろう」
肩を揺さぶってやっと気付いた様子だった。連日の訓練で疲れているのだろうか?
「背景はこれで決まりだね。次は中心となるシンボルだけど・・・」
「記号とかじゃ消えちゃいそうだし、動物とかのキャラクターがいいかな?」
「島風なら、連装砲とかマスコットがおるけど、うちらじゃ・・・」
この部隊は共通点がないことが特徴だ。何か象徴的なものといっても、なかなか思いつくものではない。
「教官の部隊では、どんなエンブレムを使ってたんだい?」
Bерныйがエディに訊いた。
「えっと、わたし達は、鶏だったよ」
エディが描いたエンブレム。それは胸に56とかかれたスーパーマン風の鶏が、ファイティングポーズを取っているものだった。
「ファンシーですね。何だか強そう」
「こいつは力を感じる」
「なぁ、エディ?あたし達も鶏にしないか?せっかく56繋がりなんだし」
深雪の提案でマスコットは鶏になった。鶏は各自で案を出し合い、春雨が書いたポップで可愛らしいものに決まった。
「後は舞鶴、日の丸部分に舞の字を入れて、京都の花である枝垂れ桜の枝を書き込んで・・・こんなものか」
こうして大体のデザインが決まる。後は細かい修正をして、妖精さんに塗装してもらうだけだ。明日に持ち越す可能性も考えていたが、思ったより早くできてよかった。
「鶏と明け方の空ってのも上手くあっている。Хорошо!」
「まさに日の出の勢い。幸先えぇな」
完成したエンブレムを見て、皆喜んでいる様子だった。ただ、エディは何故かエンブレムを見たまま、何か考えている様子だった。
「ねぇ、司令官。まだ星の消えてない明け方の空って、なんていうんだったけ?」
「うーん。さぁ?どうしたんだ?」
「ううん、ちょっと気になっただけ・・・。それじゃあ、みんなの思いの詰まった素敵なエンブレムもできた事だし、明日も早いから、今日は解散!おやすみなさい!」
「「「おやすみ」」」
こうして、エンブレムは無事完成した。このエンブレムが、艦隊の団結を強め、栄えある歴史の証人とならんことを!
エンブレム作りが終わって、各自風呂の準備をする。
「なぁリチャード教官!今日こそは私と裸の付き合いしようぜ!」
「ウチもきょうか・・・「じゃあ、僕と深雪、Bерныйの3人で入ろう」
「ちょ、なんで一緒にはいらへんねん!」
浦風は抗議する。するとBерныйが浦風の胸を指してから、自分の胸を指した。
「・・・・・・」
理由を察した浦風は恵まれたものとそうでないものとの格差と対立を知り、ホトホト呆れ返った。
「じゃあ、あり・・・エディ、先にお風呂使うから」
「うん!いってらっしゃい!」
リッチはそのまま風呂に行ってしまった。
「ねぇ、浦風ちゃん。さっきリッチと何話してたの?」
「え、ええと・・・解決できない争いについて」
「うーん。難しそうだね」
無邪気に訊いてくるエディに、浦風はそう答えるしかなかった。
那珂「あれれ?次回予告の内容と違うぞ?」(提督の胸倉を掴みながら)
筆者「は、話の構成上仕方ない変更です」
那珂「じゃあなんでエンブレム作る話なのにイメージの一つも準備してないの?」(筆者の首を絞めながら)
筆者「は、早く投稿しようと思って」
那珂「じゃあなんでテストから1ヶ月も後になってやっと投稿したのかな?」(筆者の首に爪を食い込ませて)
筆者「・・・・・・」(ただの屍のようだ)