駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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第42話 大湊警備府

 大湊警備府・・・津軽海峡に位置する艦娘基地。本土防衛において横須賀鎮守府を補助する目的で設置され、北日本の管轄地域の防衛と哨戒・訓練を主任務とする。哨戒を目的とする性質上、常備艦娘の規模は極めて小さく、実質的に横須賀鎮守府の外郭組織としての性質が強い。

 

 

 

「大湊か・・・久しぶりだね」

「教官は来たことがあるんですか?」

「うん。戦争が終わった直後に進駐したことがあって」

「あの時はほとんど空襲で焼き払われた後で何もなかったけど、さすがに百年たったから、もう見る影もないね」

 エディ達が大湊に着いたときには、日が釜臥山のすぐ上に傾いていた。エディ達は軍港に入ると、並べて泊めてある哨戒艇や護衛艦の間を通り抜けて警備府を探す。

「この辺のはずなんだけど・・・うーん、見つからないね。」

「集積されている船はどれも老朽化が激しい。おそらく解体を待つ船なんだろう。素直に戻って人に聞いたほうが早そうだ」

 リッチがそう提案して、船団が反転しようとすると、港に複数の艦娘が入って来るのを見つけた。エディが手を振ると相手も気付いたようで、すぐにこちらに近づいてきた。

「こんにちは。わたし達、第56駆逐隊のものなんですが、大湊警備府の方ですか?」

「ぴゃん!てことはあなたが司令の言ってたお客様だね。私はここの第一戦隊旗艦の酒匂です!よろしくね!」

 エディが挨拶すると、少女はぶっ飛んだテンションで名乗った。

「ヘイウッド・L・エドワーズよ。気軽にエディって呼んでね」

「リチャード・P・リアリーです。姉共々、お世話になります」

「うん!よろしくね♪」

 酒匂はエディとリッチが指し出した手をぶんぶん振り回して握手する。まるで警戒感のない様子に、ひとまずエディは安心した。他の面々も酒匂が連れてきた駆逐艦たちと挨拶を交わす。一通り挨拶がすむと、エディは本題を切り出した。

「それでわたし達、警備府の場所がわからなくて困ってたんだけど」

「それなら大丈夫、すぐ近くだからね!案内してあげる。ついてきて!ひゅ~ん!」

 酒匂は廃艦郡を指差して入っていった。酒匂の僚艦もそれに続く。

「え?でもそっちは」

「きっとおどろくよ~♪私達の秘密基地!」

 酒匂は気にせず進んでいき、戸惑いながらエディ達も追いかける。酒匂は廃艦群を抜けて、一つの大きな船の前で止まった。一見空母のような全通甲板を備えたそれは、船尾に巨大な扉を備え、エディ達の前にそれを開放していた。

「これってもしかして・・・揚陸艦?」

「ひゅー、正解!ようこそ!大湊警備府司令部『おおすみ』へ!」

 

 

 エディ達は船尾のドックから警備府に入った。揚陸艇を収容するドックはそのまま艦娘のドックとなっており、艤装を取り外すとそのまま上階の居住スペースに入れる。揚陸艦を流用した船体は宿泊艦を兼ね、司令部機能もCICに置いてあり、基地機能が丸々1つの艦に収まっているとのことだった。

「船1つで基地になってるなんて、まるでSF小説だね」

「ホントにね。もともと陸に建設するまでの仮設基地として使い始めたらしいけど、工期が遅れている間に改造しまくったら、こっちのほうが使い勝手がよくなっちゃったんだって」

「この基地自体、横須賀系列の休養地みたいなものだからな。私達22駆逐隊も、3ヶ月の前線勤務を終えて、ここで英気を養っているというわけだ」

 興味津々に艦内を観察するエディに、案内役の皐月と長月が説明する。酒匂は司令官に報告に行っている。

「でもどうせなら横須賀がいいよね。ここは遊べる場所少ないし」

「あら~?今行ったこと、司令官に言ってもいいの~?」

 皐月が不満を洩らしていると、食堂と書かれた部屋の中から黒いワンピースを着たネコ目に泣きホクロが印象的な軽巡娘が現れた。皐月たちと同じ服を着た駆逐艦娘2人を引き連れている。皐月は軽巡の少女の笑みに引きつった表情を浮かべる。

「げっ、龍田さん。い、今のは僕、ちょっと口が滑っちゃっただけだから!司令官に言うのはカンベンして!お願いだから」

 龍田は皐月がアワアワしているのを満足げに眺めて、肩をポンッと叩いた。皐月はヒィ、と声を洩らす。

「うふふ、司令官に言うなんて冗談よ。言ってもあの人はそれぐらいじゃ怒らないから。でも気をつけてね、壁に耳あり障子に目あり。不用意な発言が何時誰の逆鱗に触れるかはわからないものよ」

「はい、気をつけます」

 皐月は素直に謝った。それを見て龍田はよしよしと頭を撫でる。

「まぁ、ここはベッドが硬いのは確かだね。おかげで毎日寝不足だよ。ハァ~」

「望月ちゃんは夜更かしし過ぎなだけじゃないかしら。ちゃんと寝ないと、そこのお客さんみたいにはなれないんじゃない?」

 龍田はエディを指して言った。

「あなたが司令官の言ってた舞鶴のひと?あたし、文月って言うの。よろしく~」

 龍田の連れの一人が握手を求めてきた。エディは笑顔で応える。

「ヘイウッド・L・エドワースよ。エディでいいよ」

「話は天龍ちゃんから聞いてるわ。この前の東京決戦では派手に暴れたらしいわね。明日は楽しみにしてるわ」

「天龍さんの知り合いなんですか?」

「えぇ、天龍型の2番艦。まぁ、姉妹って言うよりも、パートナーみたいなものね。あなたとそこの妹さんみたいに」

 そう言うと龍田はリッチに笑いかけた。初対面のはずなのに自分を知っていることに驚く。

「私としてはあなたの方が興味あるのよね~。リチャード・P・リアリーさん」

「・・・どうして僕なんです?僕はエディに着いてきただけです。僕には何も特別なものなんてありませんよ」

 リッチは警戒して後ずさりする。自分に注目するなんて、思い当たる節は一つしかない。

「でも、あなたはそのためには手段を選はなかった。そんなところかしら」

「ッ?!・・・何を、知ってるんです?」

 リッチは平静を装うが動揺を隠しきれない。龍田は笑みをうかべたまま、何も答えなかった。

「ぴゅ~、司令官。ごはん♪ごはん♪早く早く~」

「あんまり走んな、とっくらがるぞ」

「大丈夫大丈夫~!って、と、とと、ぴゃ~!?」

 話し声と共に緊張のど真ん中に酒匂が突っ込んできた。そしてずっこけた。

「おう。大丈夫か?」

 遅れて酒匂と話していた司令官らしき男が現れた。がっしりとした体つき、大柄で一見鈍そうな感じのする男だった。

「うぅ~痛いよ」

「んだから廊下は走るなっていっとるんだべ」

 男は訛りの強い口調で話しながら酒匂を抱き上げる。かかえられた酒匂はぴゅ~!と上機嫌になった。男は酒匂に怪我がないことを確認して地面に降ろすと、エディ達を見つけていった。

「あ、お客さん?おらぁここの司令官やっとります西川じゃ。ちょうどいい時間だし、食堂でお話すんだ。龍田はもう出るか?」

「ごめんなさい、哨戒の時間なので先に済ませちゃいました」

「そっか。まぁ、明日のお昼はみんなで食べっから、とりあえず今夜はがんばれ」

「行ってきます。司令官」

 龍田たちはドックへ降りていった。西川はそれを黙って見送ると、そのまま腕に引っ付いた酒匂と共に食堂に入り、エディもそれに続いた。

 

 

「ほら、久々のお客さんだからね。たんとお食べ」

 給仕のお姉さんがなべを持って配膳する。夕食はご飯と鰊の入ったお味噌汁だ。

「うちさ粗末のもんしかねが。まぁ食べて」

「「「いただきまーす!」」」

 皆で言った直後、酒匂はがっつくように、他の面々もそれぞれ食べ始めた。献立は非常に簡素ではあるが、野菜に加えて鰊の入った味噌汁は魚の出汁が食欲をそそった。

「お姉さん、おかわり!」

「はいはい、たくさん作ってるからね。どんどんお替りしてね」

 まず酒匂が、次に春雨が、その後にエディと深雪がおかわりを続けた。

「へ~、エディちゃんは大湊にいたことがあるんだね?」

「うん。でも、山の形以外は全部変わってて、はじめてきたのと変わらないよ」

「私も終戦まで舞鶴にいたけど、だいぶ変わってるのかな?」

「今度、遊びにおいでよ。私の鎮守府も見て欲しいから」

「うん!」

 エディと酒匂は早速打ち解けた様子だった。他の艦娘も談笑にふける。

「前線の戦況・・・か、比島陥落の半月前から敵の領域侵入が増えたな。今思えば、あれはこちらの注意をそらすための陽動だったのかもしれない。比島攻勢の後はまた小康状態に戻った。そこでやっと帰還命令が出た」

「予定なら2週間前には帰れるはずだったのに、あいつら僕らの都合の悪いときに限って現れるんだよね」

「敵などそんなものさ。まぁ、奴等のおかげで私の部隊も酸素魚雷の配備が決まった。これで次は存分に戦えるな。わたしが知ってることはこれぐらいだが、他に聞きたいことはあるか?」

「いや、ありがとう。こっちは内地勤務ばかりで前線に出られなかったから、直接訊けてよかったよ」

 リッチは長月に前線の戦況を尋ねた。舞鶴では軍の広報やメディアでしか情報が得られないので、前線からの帰還兵は非常に有力な情報源である。

「気にするな。代わりといっては何だが、東京決戦の話しを聞かせてくれ」

「それ!僕も気になってたんだ!」

「たいした話じゃないさ」

「何を言う、初陣で重巡を沈めて、空母4隻を白昼堂々血祭りに挙げるなんて、後にも先にも例がない」

「え!?教官達ってそんなに凄いのか?」

「是非とも聞かせてください!」

 長月だけでなく、56駆逐隊の面々も食いつく。スパイ事件もあって、エディ達の活躍は公式には伏せられている。駆逐隊でも話すことはなかったのだが、どうやら横須賀の誰か(恐らく天龍だろう)がうっかり洩らしたらしい。

「簡単なことさ。空から襲ったんだよ。パラシュートを着けて、1万メートルから奴等のど真ん中に降り立って、酸素魚雷をばら撒いたのさ」

 リッチはありのままの事実を述べる。あまりに突飛なはなしに、皆黙り込んでしまった。

「ねぇ、それってアメリカンジョーク?僕、初めて聞いたなー・・・ははは」

「にわかに信じがたいな。駆逐艦が空を飛ぶなど、想像できない。私達をからかってるのか?」

 皆あまりに荒唐無稽な話に信じていない様子だった。エディは不満そうに弁解しようとしたが、リッチはそれを制した。

「そう思ってくれればそれでいいよ」

 過去へ繋がっている以上、それがどのように自分達の秘密へ繋がるかわからない。ならば過去の事実を嘘にして、真実へ辿れなくすればいい。それが自分を守ることであり、彼女らを守ることに繋がるのだから。

「でも、かっこいいな。空飛ぶ駆逐艦って」

 リッチが次の話題を探そうと思考をめぐらし始めたとき、深雪が唐突に呟いた。

「確かに信じられねぇ話だけど、面白そうじゃん。なぁ教官、司令官に打診してみようぜ?嘘だって後からやっちまえばホントになるぜ」

「私も、さっきの話しを聞いててわくわくしました。やってみたいです!」

 春雨も目を輝かせて答える。

「そんな、駆逐艦が飛ぶなんて、ありえない!」

「そんなの、やってみなけりゃわからないだろ!」

 長月と深雪が意見をぶつけ合う。他の面々は「いいぞ!」「もっとやれ」と囃し立て、さらに自分達も議論へ加わっていった。

「ふふ、賑やかな子達。まるで学生みたい」

 給仕さんが西川司令に酌をしながら言う。

「ん・・・艦娘は妙に達観してるのが多いから、こういう若さのある子達は初めてだね」

 今まで黙って飲んでいた西川も口を開く。その表情は何処か楽しそうだ。

「じじいの心配は杞憂になりそうだ。実力は明日見させてもらうが」

「ひゃー!私が司令官のお酌するの!」

「おう、すまんすまん」

 艦娘は空を飛べるか議論に参加していた(かき回していた)酒匂が、再び司令官に引っ付く。

「酒匂ちゃんは司令官が大好きなんだね」

「うん!大好き!」

 酒匂は司令官に抱きついた。まるで親子のようだ。

「そろそろいい時間だ。酒匂、お客さんを部屋に案内してあげて」

「はーい!」

「明日の訓練の資料も忘れねで渡しておいてぐれ」

「ぴゃぁ、危なかった。司令官ありがとう!」

「ご馳走様でした」

 皆で食事を片付けると、エディ達は寝室へ案内された。

 

 

 風呂を済ませた56駆逐隊は割り当てられた寝室で作戦会議を開いた。

「明日の訓練場所は、日本海4海里の開けた海上。特に注意すべき地形はないな。天候は曇りのち晴れ、波は1m程度。事前情報が多くて助かる」

「敵は予想するまでもなく酒匂ちゃんか龍田さんを中心とする第22駆逐隊だね。酒匂ちゃんはかなり新しい装備だったから、十中八九こっちが旗艦だとおもうな」

「僕もそう思う。そうでなくてもあの装備の質は駆逐艦しかない私達には脅威だ。最優先で狙う必要がある。他の艦について何か知っている者はいないか?」

「龍田はかなり古いタイプの軽巡で、皐月たち睦月型も私達特型とは1世代前の装備だから、撃ち負ける心配はないぜ」

「初戦にはおあつらえ向きの相手というわけか。しかし深雪、古いという事は、それだけ使い込まれているということだ。状況次第では経験と果敢さを発揮する侮りがたい敵になる。特に龍田は、僕の直感だが、恐ろしい何かを感じる・・・」

 リッチは夕食前のやり取りを思い出す。龍田のリッチの全てを見透かすような視線に射抜かれたときの悪寒が、今もはっきりと残っていた。

「・・・んで、どないすんの?教官さん」

「小細工がきく環境でもないから、臨機応変に対応したいね。単縦陣を基本に状況に応じての2グループに分かれてかく乱攻撃を仕掛ける。グループはわたし、春雨、浦風のAチームと、残りのBチーム。BチームはAチームに追随する形でいくよ。リッチ、お願いね」

「了解。任せといて。さて、どう出るか・・・」

 

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