駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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第43話 大湊警備府 中篇

「それじゃあ、よろしくね!酒匂ちゃん」

「うん!絶対負けないよ!」

 演習海域に着くと、とりあえず両者が握手する。天候は晴れ、波は低く、絶好の砲撃戦日和である。

《観測ドローンがそっちをロックしている。こっちが見えっか?》

 西川からの通信だ。エディは上空を飛んでいるドローンを見つけると、手を振って応える。

「はーい!」

「うん、司令官!酒匂の活躍、ちゃんと見ててね!」

 酒匂は自信満々に言った。彼女が司令官に対して好意を持っていることは、夕食のときの態度からして明らかだった。ラブコールにも関わらず西川の態度はそっけなく、「まぁ、頑張って・・・」と言うだけだ。嫌っているわけではなく、寡黙で必要以上のことは言わない。西川という人はそういう人物なのだろう。

「それじゃあ、手筈通りにはじめよう」

「ひゅ~!絶対に勝つよ!」

 両隊は互いに背を向けると、反対の方向に離れていく。一定距離を離れたたらブザーが鳴って、それが試合開始の合図となる。

「やっぱり旗艦は酒匂ちゃんだね」

 エディは試合開始を待ちながら言う。ブリーフィング通り、エディ、浦風、春雨、リッチ、深雪、Bерныйの単縦陣を組んで航行する。

「好都合だ。旗艦が先頭を切るだろう。各員、作戦通りに行動。軽巡の無力化を最優先に。他には構うな」

「了解!」

 直後にブザーが鳴り、演習が開始される。すぐにレーダーに反応があり、酒匂の観測機が上空を通過した。情報戦をする規模ではないので、エディは無視した。

「敵艦発見!一時方向!」

「陣形そのまま!各艦、いつでも撃てるようにして」

 敵艦を目視し、兵装を確認した。敵艦隊もこちらへ真っ直ぐ接近してくる。

「そろそろ14cm砲の射程圏です。まだ撃ってきませんね」

「たぶん、このまま反航戦に持ち込むつもりだと思う。こっちから仕掛けるよ。春雨ちゃん、浦風ちゃん。魚雷発射準備」

 浦風と春雨はエディと横に並んで単横陣に切り替える。艦娘の特性上、通常の艦と違い火力は側面でなく正面に集中する。単横陣はもっとも火力を発揮できるのだ。

「射程内に入った!魚雷発射!」

 浦風と春雨は射程圏ギリギリで魚雷を発射する。単縦陣に正面から魚雷を打ち込んでも効果は薄い。せいぜい相手を慌てさせるくらいだ。しかし、エディ達の狙いはそこにあった。

「ひゃ~、撃て!撃て!」

「発砲を確認。敵旗艦応射!」

「魚雷再装填!援護するよ」

 エディも主砲で砲撃する。斉射ではなく、各砲をバラバラに射撃して、砲撃を切らさないようにする。攻撃を考えるなら悪手だ。しかし酒匂は先制雷撃を喰らった上に、砲撃を受けてエディたちに気をとられていた。その間にリッチたちBチームが右側面への機動に成功した。

「砲撃開始!撃て撃て!」

「ぴゃ!?今度は何?」

「左舷から攻撃!酒匂、発砲許可はまだか!」

 長月が叫ぶ。単縦陣の性質上、旗艦である酒匂のみがAチームに応戦し、そのまま戦闘にのめりこんだ酒匂は側面に回っていたBチームへの警戒を怠り、不意打ちを受ける形となった。酒匂に火力が集中し、被弾する。

「ぴゃぁ!?ど、どうすればいいの」

「落ち着いて、酒匂ちゃん。左に回頭して各個撃破すれば大丈夫だから」

 龍田がアドバイスする。チームを分けたエディ達の行動は、よほど統率が取れない限り、容易く各個撃破されやすい下策である。彼我の数は互角であり、火力では大湊艦隊が圧倒している以上、左舷に少し舵を切るだけで敵は分断され、左舷の敵には集中攻撃を浴びせかける事ができる。

「えっと、うん!取り舵!取り舵いっぱい!左の敵を狙って」

 酒匂ははっと気付き、回頭を開始する。しかし、その行動は完全に機を逸していた。エディ達は再装填を終え、しかも魚雷の必中位置に侵入していた。さらに、酒匂は慌てて減速しつつ必要以上に回頭したために、艦隊の速度にムラができ、酒匂だけが艦隊機動が鈍くなる瞬間ができた。そこをエディは見逃さなかった。

「今だ!魚雷発射!」

「了解!春雨!魚雷発射します」

「発射!発射!」

 発射された魚雷は先頭の酒匂、そして回頭で減速していた3、4番艦の長月、文月に命中した。

「被弾した!戦闘不能!撤退する!繰り返す、戦闘不能!撤退する!」

「うわぁ!?見ないで!見ないでぇぇ!」

「ぴゃ!?砲塔が、砲塔がない!」

 長月と文月は即時戦闘不能となり離脱。酒匂は退弾性の高い阿賀野型だけあって中破で済んだが、3番砲塔が吹き飛んで、さらに機関の出力パイプに異常が発生、速力が低下した。

「よし!追撃開始!制圧して」

 数的有利を得て、挟撃を完成させた56駆逐隊は乱戦に入る。大湊艦隊も必死の防戦を展開した。

「抱え落ちするもんか!沈んじゃえー!」

「さぁ~て、そろそろ本気出ぁーす!」

 皐月と望月はBチームに魚雷を発射、すぐにAチームに向き直って春雨、浦風と対峙する。

「浦風ちゃん、援護するよ」

「了解!おどりゃぁ!」

 浦風はエディの援護を受けながら皐月に攻撃を仕掛ける。集中攻撃を受けて皐月は呆気なく退場した。浦風は勢いをそのままに望月に攻撃を仕掛ける。望月は瞬く間に被弾した。

「ちぃっ!」

 しかし望月も最後の踏ん張りを見せる。浦風に至近弾を浴びせて、さらに背後から組み付こうとした深雪を逆に中破にまで追い込んだ。しかし、即座に春雨が砲撃を行い、兵装を全て削り取られて戦闘不能になった。

「はぁ、夜勤明けに演習なんてするもんじゃないわぁ~。まじねみぃ」

 望月が離脱し、残るは龍田と酒匂だけだ。正面にはリッチとBерный、背後にはエディがいるにもかかわらず、龍田は互角の戦いを続けた。

「ぴゃぁあ、誰か助けてぇ」

「あははははっ♪天龍ちゃんよりは上手でしょ?」

 リッチは接近して押し込もうとするが龍田は砲撃と槍を巧みに使って牽制し、酒匂も混乱しているものの、強力な15cm砲を乱射し、容易に近づけないのだ。

「くっ、手強いな」

「Bерный、無理をするな。息を合わせて仕留めるんだ」

「あら~?そんな暇は与えないわ」

 龍田は魚雷を発射してBерный達を怯ませると、エディに向かって真っ直ぐ突撃した。後方から指揮と援護に徹していたエディは単艦無防備であった。

「しまった!旗艦狙いか」

「エディ!」

 リッチは叫びながら反射的に龍田を攻撃しようとした。しかし、同時に酒匂がこっちに魚雷を向けているのを目端に捉えた。龍田は背後をさらしている。リッチの腕ならば機関部を打ち抜いて容易に止めることはできる。しかし、そこから酒匂の攻撃をよけられる保証はない。逆に酒匂は無防備な体制にあり、反転して魚雷発射管を狙えば、それで勝利となる。だがそれは、エディを守らないのと同義だ。リッチの存在意義に関わる。

「教官、酒匂を攻撃すれば試合は終わる!早く攻撃を」

Bерныйが叫ぶ。リッチの頭の中で打算と本能がせめぎ合う。

「僕は・・・僕は!エディを守る」

 リッチは全砲を龍田に向けて発射した。砲弾は龍田の機関部に・・・・・・命中しない。

「うふふ、肉を切らせて骨を絶つ」

「そんな・・・僕は」

 龍田の槍先がエディに接近する。リッチは焦りに囚われたために、勝利も信念も得ることができなかった。後悔が頭をよぎる。

「・・・・・・っと、教官はやらせないぜ」

 エディの目前まで槍が迫ったその時、横から手が入って槍を掴み取った。中破してぼろぼろになったセーラー服、さきほど望月の取り押さえに失敗した深雪である。

「深雪スペシャル!」

 深雪は掴んだ槍をエディから逸らすと、慣性をそのまま利用して、龍田を投げとばした。更に地面に落ちた龍田に砲撃を食らわせて戦闘不能にする。

「あらあら♪」

 一方、酒匂の魚雷はBерныйがリッチを庇う形で防いだ。

「さすがにこれは・・・恥ずかしいな」

「大丈夫か!」

「遅くなりました!」

 浦風と春雨も合流して、酒匂は完全包囲された。

「ねぇ、酒匂ちゃん。降伏してくれる?」

「やだやだ!最後まで戦うもん!」

 酒匂は最後のプライドで降伏勧告をけった。エディたちは酒匂の兵装を全て破壊して、試合は終わった。

 

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