駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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エディというキャラクターを掘り下げる回


まさかのコピーミス


第45話 横須賀鎮守府 問答

 横須賀

 

「それじゃあ、お世話になりました」

「おう、気をつけて行ってくるだ」

「次は酒匂が舞鶴に行くからね。そのときは、いろいろ教えてね」

 エディは大湊に別れを告げると、次なる目的地、横須賀へ向かう。横須賀も大湊からそれほど離れていないので、余裕を持って到着することができた。

「横須賀か・・・こんなに早く戻れるとは思ってもみなかった」

 一度は裏切り、二度と戻ることはないだろうと思った巣に、あっさり帰ってこられたことにリッチは感慨深く言った。

「え?何か言いましたか?」

「いや、何でもない。姉さん、僕は辰福丸を工廠に連れていくから、司令官に挨拶してきてくれないか?」

「うん、わかった。気を付けてね」

 エディはリッチと別れると、艦隊を引率して横須賀軍港に入港した。慣れた足取りで上陸すると、そのまま事務棟へ向かう。棟の入り口で、知った顔の女性が事務員と話していた。エディが近寄っていくと、相手も気付いた様子だった。

「お久しぶりです、長門さん」

「その顔、エディか?」

「はい!転属の時はきちんとお別れできなくてごめんなさい」

「いや、気にするな。急な転属で驚いたが、達者で何よりだ」

 敬礼するエディに対して、長門は握手の手を差し出して歓迎した。

「昨日酒匂から『めぇる』が来たのでな、そろそろ来るんじゃないかと思って待っていたところだ」

「連合艦隊旗艦自ら出迎えるなんて」

「教官さん、やっぱりすごい人なんですね」

「あぁ。帝都決戦では敵に包囲されていた五十鈴たちを救出し、湾内に侵入した戦艦部隊を撃退するのに重要な働きをした。しかもその後、帝都を奇襲しようとした機動部隊4隻をリチャードが考え付いた降下作戦で全滅させた。リチャードがいなければ帝都は火の海になっていただろう」

「すっげえ!」

「教官の言ってことって、ほんとだったんだ・・・」

 大湊では半信半疑だった56駆逐隊の面々も、長門本人の言葉ですっかり信じてしまった。

「そういえば、リチャードは来てないのか?」

「リッチは随伴の商船を工廠のほうに案内してます」

「そうか、彼女には帝都市民1000万人を救った英雄として、勲章を出すように司令官に頼んだんだが、何の恩賞もなく舞鶴へ左遷させて、あまつさえ箝口令まで敷いて、お前たちの事を話さないようにと命令してきた。あの日も反対派が喚いていたが、お前たちの志は国籍など関係なく、国の宝だというのに・・・もし左遷の事で恨んでいるのなら、連合艦隊旗艦として止められなかったことを申し訳ないと伝えてくれ」

 どうやら長門には例の事件の事は伝わっていないらしい。実直な彼女に嘘がつけるはずがないからだろう。他の隊員が同情的に思う中、エディは連合艦隊旗艦というの彼女の誇りの重さをうかがい知った。

「リッチは恨んでません。むしろ、今与えられている役割は、もっとわたしたちに相応しいものです。だから、長門さんが気に病むことはないですよ」

 エディが言うと、長門はそれはよかったと機嫌を戻した。彼女は子供のように素直で誠実だ。だからこそ重い肩書を得ているというのが『真実』なのだから皮肉なものである。

「それより、司令官に会いたいんだろう?」

「はい、いらっしゃいますか?」

「2階にいるぞ。この子たちは私が引き受けるから、気にせず行ってくれ」

「ありがとうございます。お願いしますね」

「あぁ、行って来い。さぁ、諸君。今日はこの長門が直々に鎮守府を案内するぞ!」

「すっげぇ、長門かっけぇ!」

「あ、あの!私、ファンだったんです!サインいただけませんか?」

「ははは!お安い御用さ」

 長門は慣れた様子で56駆逐隊の面々を相手している。普段は戦闘より広報活動に従事していることが多いと聞くが、元来子供好きなのだろう。

「それじゃあ、お願いします」

 エディは鎮守府案内へと出かけた長門を見送ると、懐かしい階段を上って執務室に入った。

「失礼します。舞鶴第56駆逐隊ヘイウッド・L・エドワーズ、到着しました」

 執務室に入ると、佐々木司令官と大鳳がいた。

「おぉ、エディか。よく来てくれた」

「はい、恥ずかしながら戻ってきました」

 エディは少々の申し訳なさを含んで対面する。

「リチャードは来ないのか?」

「まだ、会いにくいみたいなので」

「そうか、したことがしたことじゃしな。まだ整理がつかんのだろう。儂としては姉妹丼がよかったんじゃが・・・」

 大鳳の無言の鉄拳が飛ぶ。相変わらずの佐々木にエディは思わず笑ってしまった。エディの緊張が解けたのを確認すると、佐々木はエディの近況を尋ねた。

「どうじゃ、舞鶴は?もう慣れたか」

「最初は突然のことで、基地の掃除から部隊の指揮まで分からないことだらけでした。司令官は使えないし、みんないうことを聞いてくれなくって」

「はははっ!そうじゃろうな。あの時はすまんかった。反対派から君たちを守る為にはああするしかなかったんじゃ」

「いいえ、本来なら解体されていた身です。まだ艦娘でいられるのが信じられません」

「じゃが、君たちは儂らの想像を超えたことをしてくれた。僅か一月半ですべての鎮守府との演習試合の手はずを整えてしもうた。ハミルトンといったか?あの男、本当にただの記者か?」

 佐々木は本気で聞いたが、エディはかまをかけているのだろうと思った。取り敢えず事実を報告する。

「わたしにもわかりません。舞鶴までは普通の記者さんだったんです。突然軍服を渡されたときは焦って否定して、最初は書類仕事もうまくいかない様子でした。自己紹介で米軍では航空関連の勤務って言ってて、空母畑の人かと思ったんですけど、妖精さんの工場で飛行機を見たときは、海軍では言わないような言葉を使ってました。戦闘は任せっきりで一度も指揮をとったのを見たことないんです。戦闘を嫌がっている様子すらありました。執務や経営に関しては、最初は苦手そうにしてましたが、1月もたたないうちにちゃんとできるようになって。基地にも溶け込んで住民の評判まで勝ち取ってます」

「・・・想像以上の逸材じゃのう」

 狭川の報告した情報と違わない説明に佐々木は訝しがる。最初は空軍に縁故のある家庭で育った程度の善良な記者で、替えも潰し(物理)も効くだろうと思い、化かしたつもりだったが、実は米国が送った本物のエージェントではと勘ぐってしまう。尚且つエディに危害を加えるわけでも、何か工作しているわけでもなく、きちんとこちらの意図を理解しているようだから、全く正体が読めない。

「とはいえ、君達から動いたことはこちらにとっても嬉しい限り。君なりに、理想を実現する道を見つけられたのかな?」

「はい、わたしの今教えてる娘の一人を見て思ったんです。わたし達を嫌っている娘達は、たぶん心の中でまだあの戦争をしてるんだって。だからわたし達が直接会って、話をして、なによりも戦って、彼女たちの戦争を終わらせることが、その娘達の新しい未来を開く。そして、今現実に起きてる人類共通の戦いに向かうことができる。それが、わたしがここにいる意味だと思うんです」

 新しい戦いのために、旧い戦いを終わらせる。彼女はそのためのサンドバッグになろうというのだ。なんと皮肉な話だろう。

「・・・その為に、彼女たちの恨みを一身に受けることになってもか?君自身が生き返らぬキリスト(贖罪者)になっても?」

「はい」

 エディは迷いなく言い切った。狂信的ともいえる信念に佐々木は悲哀すら覚える。彼女はその目的の為に命すらも犠牲にすると言うのだ。望んで生まれたわけでもない2つの祖国の罪を、彼女一人の体で贖うと。元は佐々木自身が始めたことだが、罪悪感を抱かずにはいられなかった。しかしそれでも、自分の望みは達成されなければならない。

「そうか、なら成就させるがいい」

 佐々木は良心を押し殺して言う。もはや彼女は誰にも止められないだろう。自分もできる限りの手を尽くす。臆病な自分でも、できることは多いはずだ。彼女に望むのは一つだけ・・・

「じゃが、必ず生き残れ。君には仲間と、家族がいるからな」

 そう話していると戸の後ろから複数の足音が聞こえる。戸が開くとそこには長門に引き連れられたリッチと、56駆逐隊の面々がいた。

「僕はいいから・・・」

「だめだ、連合艦隊旗艦として、それくらいさせてくれ!」

「どうした?長門・・・」

「司令官、連合艦隊旗艦長門の名をもって、リチャード・P・リアリーに、勲章を授与すべき旨を上申する!」

 長門は大真面目に書いたリッチの戦果表を佐々木に突き付けた。

「だから、僕は勲章なんていらないですって。姉さんも何か言ってよ」

「あは、あははははっ。わたしは貰っちゃったらいいと思うよ」

「僕は姉さんがいればいいの!他に何もいらないの!」

「そう。じゃあ、わたしから勲章をあげる」

 エディはリッチにキスをした。回りが顔を真っ赤にする中、エディは佐々木に言う。

「佐々木司令。わたしのさっきの話、やっぱり無し」

「ほう、どうしてかな?」

「だって、わたしの理想は、みんなと一緒に叶えられるから」

 佐々木ははっと息を呑んだ。エディがいるこの空間、この雰囲気が、彼女の理想郷なのだと。彼女は理想を作るのではなく、他者との関係性の中にすでに持っていて、今この瞬間にもそれを広げようとしているのだと。

「そうか・・・そうか。なら、進みたまえ。広げるがいい。君の、魂の場所を」

「はい!」

 エディは茹蛸のように真っ赤になって呆けているリッチを引っ張って、部屋を出ていった。呆気にとられていた他の面々も、気を取りなおしてそれを追っていった。部屋には佐々木と大鳳だけが残る。

「のう大鳳、儂は探し続けていた答えを見つけたのかもしれん。しかしまだ弱い、注意深く見守り育てねばならん」

「それをするのが、司令官の仕事でしょう?」

「あぁ、ならば次の策を練るとしよう・・・」

 佐々木は思考の深海へと潜る。

 

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