いよいよ主人公たちの話になります。
基地から1時間、サンフランシスコから出発した民間商船団に合流し、エディとリッチの旅は始まった。船団はアジア方面に配備されるフレッチャー級6隻と護衛空母一隻で護衛され、ハワイを経由して横須賀を目指し、そこでエディ達は日本軍に合流する。更に船団は台湾、香港、最終的にはアメリカのアジア方面軍の母港であるマニラを目指す算段だ。輸送船には現在アメリカが技術的に優位な位置にある半導体や、通常兵器用の精密機器などが満載されている。深海棲艦の攻勢が小康状態にある今を見計らって太平洋航路を通過し、しばらく滞っていたアメリカ製工業製品などの輸出を行い、アメリカの優位をアジアに示したい政治的な狙いもあった。
「この船の積載物には、中国向けに輸出される武器弾薬も積んでいる。これが今回の目玉商品だから、なんとしてもこのトライデント号は守ってくれ」
商船団のリーダーであるジョージ・ペリーは、商船のデッキに上がった艦娘達に厳命した。
深海棲艦のもたらした輸送危機は、予てより人口過剰が問題となっていた中国の食糧事情に破滅的な打撃を与え、情勢不安の中、紅衛軍を名乗る軍部クーデターによって新共産党政府が立った。しかし狂信的な毛沢東主義者たちが指導する紅衛軍は、第二次大躍進運動と称した徹底的な工業の破壊と重農主義で、多数の餓死者と粛清の犠牲者を出した。
都市の資本家や地方の有力者が次々と決起し、地方でも軍閥が乱立する内戦状態が続いている。最近では欧州諸国がインドや中東諸国を通じて中国へ武器を輸出しており、アメリカもそれに参入したい狙いがあるようだ。
「どうして深海棲艦と戦うために派遣されたわたしたちが、人間の戦争の武器を運んでるのかなぁ?」
深海棲艦との戦いを世界が団結するための一歩だと考えているエディにとって、そのことは大きな疑問であった。哨戒中にこんな言葉を漏らしたのも当然である。
「ねぇリッチ、中国の人たちはお腹が空いてるから争ってるんでしょ?ならご飯を持ってきてあげるべきだと思うの」
「でも彼らは喜んで武器を買っていくよ。私たちは彼らが望むものを与えてるだけ」
リッチはさも当然のように返した。
「それに中国人はたくさんいる上に紛争で農地も工場も荒れ果てて何も生産してない。そんな彼らに食べ物を与えるのは費用の無駄だよ」
「武器を買うお金があるのに?」
「仮に食料があっても、それを誰が配分するのかな?為政者が管理しなければ、物資は行き渡らない。強い指導者を得るために、武器を必要としている。それに協力してお金も貰えるんだから、何もやましくはないよ」
「でも、でもそれって・・・」
リッチの意見はある意味正しいとはわかるが、エディにはどうしても納得がいかない。リッチはそれを察しているのか、エディを見つめたあと、振り向いて件の船をみた。その後仲間の艦娘と交代するまで二人は黙ったままであった。
船に上がって二人は仲間から食事に誘われたが、エディは食欲がないと言って仮眠室に入った。不測の事態に備えて艤装はそばに置いて横になる。
2時間ほどたった頃、ドアの開く音で目を覚ました。リッチが入ってきて、食事から戻ってきたと説明した。
「どうして食事に2時間もかかったの?」
「船の中を探検してたんだよ」
「面白いものはあった?」
エディは年相応の好奇心に満ちた顔で問いかけた。リッチは少し下を向いて、それからエディに言った。
「エディにはつまらないものばっかりだったよ。あ、コーラもらってきた。このまま哨戒に出たらお腹減るし、これでごまかして」
エディはコーラを受け取ると、喉に流し込む。思えば炎天下を哨戒したあと何も飲まずに寝ていたので、喉はカラカラに干上がっていた。そこにコーラを飲んだので、思わずむせ返ってしまう。リッチは慌てて駆け寄った。
「だ、大丈夫!?」
エディは咳き込みながらもリッチの顔を見やった。かなり心配しているのか、金色の瞳をオロオロさせている。姉妹からも少し冷淡で素っ気ないと言われるリッチも、実際は不器用なだけで責任感が強くて優しい子なのだ。やがてコーラも胃に入り、咳も収まる。リッチも安堵の表情になったが、罪悪感が沸いたのか、目を落として謝った。
「ごめん、こんなことになるなんて・・・」
背中を丸めてシュンとなるリッチは猫のようだ。エディは彼女を元気づけようと思い、にっこり笑ってみせる。
「気にすることないって、ただ今度からはハンバーガーも持ってきてよ」
冗談を交えたフォローは効果がったようで、リッチの表情も落ち着いたものに戻った。リッチは改めてエディを見つめると、今日のことについて切り出した。
「哨戒の時はごめんね。もうちょっとエディのことも考えるべきだった」
「わたしこそ、妙にへそ曲げて心配かけちゃってごめん。でも、意見が違ってても素直に言い合えるわたしたちはすっごく幸せだと思うの。だから、日本についたらそんな友達をたくさん作ろうね」
「うん、私も頑張るよ」
二人は仲直りの握手を交わした。そして二人の距離が近づいたことを確認するように、短い抱擁を交わした。
「旅路は長いけど、頑張ろうね」
「うん、きっと大丈夫・・・」
二人は再び哨戒へ向かった。
二人を百合にすべきか迷ってます。
フレッチャーさんはアメリカのダメ男製造機です。