13:14 伊豆諸島沖
「たぁぁぁあああ!」
「油断しましたね、次発装填済みです」シュゴ
「へぶしっ」
「お疲れ様!両方ともナイスファイト!」
「ありがとう、那珂さん」
演習を終えたエディ達は戦果確認のために観測船に向かい、那珂から水を受け取る。
伊豆諸島沖で行われた横須賀鎮守府艦隊との演習は、大湊戦と同じく2手に分かれて撹乱作戦を取った56駆逐隊に対して、神通を旗艦とした横須賀艦隊は統率の取れた巧みな操艦で対処し、挟撃を防ぎつつ総火力差を生かしたダメージレースに持ち込んだ。撹乱戦術に効果なしと見た56駆逐隊は突撃を敢行するも、あっさり跳ね返されて全滅。横須賀側の勝利となった。
「2つの分隊に分かれて撹乱する戦術は駆逐艦らしい柔軟な運用として評価できますが、本格的な水雷戦隊相手だと、対処されて各個撃破されるリスクが大きいです。手詰まりになると突撃する癖も良くありませんね。総火力に劣る以上短期決戦に偏重しやすくなるのもわかりますが、守備の訓練を増やして、駆け引きのための手数を増やしておくべきではないでしょうか?」
神通が指摘した。実戦経験豊富な鬼の2水リーダーには、エディも頭が下がる。
「練習艦が教えられちゃ形無しです」
「いいえ、実戦派の教育ばかり躍起になって叩き込む人もいますが、練習艦の教練と水雷戦隊の実戦訓練では、そもそも求められる範囲が違います。エディさんの分隊戦術も基礎的な訓練の習熟があってこそのものですし、十分自慢できる練度だと、私は評価しています」
「ありがとうございます、神通さん」
「それじゃあ、基地に帰ろう。もうすぐ那珂ちゃんの番組の時間だし」
「うん!那珂さんが踊ってるのを見るの、楽しみだなぁ」
14:55
「みんな、演習お疲れ様!とりあえず休憩!」
「3時から那珂ちゃんがテレビに出ます!ケーキもあるよ!食堂へいそげぇ!」
「「「はーい」」」
駆逐艦達は食堂へ向かった。エディも行こうとするが、リッチは「辰福丸の様子を見てくる」と言って立ち去ってしまった。
「知ってるのは私達だけだから、そんなに気にしなくていいのに」
「やはり、心の整理がつかないのでしょう。開き直るほうが怖いですし、今はそっとしておきましょう。それが彼女自身の罰であり、償いにもなる筈です」
神通が言う。エディは「そうだといいけど・・・」と気を揉んでいると、後ろから声がかかった。
「あっ、エディ!ここにいたのね!」
「どうも、お久しぶりです」
「漣ちゃん!潮ちゃん!それと、天龍さん!哨戒お疲れ様です」
哨戒を終えた天龍達だ。五十鈴と他の第7駆逐隊は交代したのだろう。
「おう、聞いてるぜ。大湊じゃ龍田を投げ飛ばしたんだってな」
「それは深雪ちゃんです。本人に聞いてください」
「へぇ、楽しみにしてるぜ。それより、リチャードはどうした?」
「リッチは・・・その、随伴の商船の子の様子を見てくるって・・・」
天龍はエディ様子から事情を汲み取った。
「あぁ・・・大体解った。俺が見てきてやるから、お前は休んでこい・・・安心しなって、龍田も結構面倒な奴だから、世話焼きには慣れっこだよ」
天龍はそう言って倉庫の方へ歩いて行った。
「さ、エディちゃん。もうすぐテレビ始まっちゃうよ!急ごう」
那珂が手を引っ張る。漣も手をとった。
「うん・・・じゃあ、行こう。みんな!」
食堂 15:21
「そういやエディの隊って、みんな同じマークがついてたね。すっごいクールだったから真似したいんだけど、あれ何?」
流行に目ざとい舞風は早速エンブレムのことをエディに訊いてきた。
「あぁ、あれはエンブレムって言って、部隊の団結の証なんだ。ほら、海軍のクルーのつなぎの方についてるやつ」
「あぁ、あれか」
米軍と同盟関係にあった海上自衛隊が母体である海軍も、艦ごとにエンブレムを作る文化は残っている。舞風もそれで納得した。
「それ、ゲームで見たことある!あとで見せて!」
「いいよ、流石漣ちゃん!」
テレビがひと段落すると、皆思い思いに談笑を始める。浦風も陽炎と一緒にコーヒーを飲んでいた。
「そういえば浦風、また所属換えたの?」
陽炎が呆れた様子で浦風に訊いた。彼女は年賀状を送るたびに、所在が変わっていたのである。
「あぁ、うん」
「いい加減落ち着きなさいよね?どっちつかずって訳にもいかないし。浦風なら、どこの派閥でもやっていけるはずでしょ?」
「んー、でも、うちとしてはもっと見聞を広めたいけぇ、もうちょっと自由にしたいなぁ、って」
浦風は追及を飄々と躱した。陽炎はため息をつく。
「はぁ、別にいいけど。でも、17駆逐隊に心配かけるのはいけないわ。定期的に連絡とってるの?」
「あぁ・・・うん。ぼちぼち、ね。次は呉じゃけえ。帰ったら挨拶するから、心配いらへんって」
浦風は悪びれずそう言った。その17駆逐隊のリーダーが一人ほっつき歩いてどこが心配いらないのか?そういうつっこみを抑えて、陽炎は話を移す。
「そう、でも気をつけなさいよ。アンタがいるからって、呉が何もしないとも限らないわ」
「どういうこと?」
「恍けないで。呉があの時何をしたか、なんでアタシや舞風がこっちに移ったか。知らないわけじゃないでしょう?エディに何かあったら、その時は・・・」
陽炎はエディを見つめる。軽々と境目を超えて仲間と楽しく談笑している彼女は無知な天使のように見えた。そんな彼女が、あの憎しみで過去の栄光にしがみ付いている者たちの巣窟に入って、五体満足で帰ってこられるか・・・陽炎には不安が拭えない。
「大丈夫。教官はそこまで馬鹿じゃないって、うちは知ってるけぇ。もし教官に何かあっても、その時はリチャード教官が何とかするから。多分あの2人は、ずっとそれでどうにでもしてきたみたいじゃ」
浦風は自分なりに彼女たちのことを伝える。頼りないところや、能力不足な面もあり、自分が裏でフォローしたこともあったが、どんな境遇にあっても彼女の信念は一貫していた。一度転んだ程度でダメになるタマではない。
「ま、そうかもね。でもくれぐれも、お願いね。姉としていうことはこれぐらいかしら」
「なんか、心配かけてごめんな」
「いいのよ。それより、今はあんたの心配したほうがいいんじゃない?ほら、あそこ」
「ではではこの舞風が全国の陽炎型の情報網を駆使して集めた、男を求めてさまよえる妹浦風の恋愛遍歴を・・・」
「よっ、待ってました!」
「ハラショー!」
「私、気になります!浦風さんの過去話」
舞風が勝手に浦風の昔話(事実7割増し)を始め、56駆逐隊に聞かせようとしていたのだ。
「うおぁぁぁああ!ちょっと、待って!待って!」
「何?浦風、自分で話す?」
「話すか!」
16:22 鎮守府事務棟 第1教室
「ただいま」
リッチは商談を終えた辰福丸と鎮守府に戻り、大淀にエディ達がいる部屋を聞いて教室に入る。エディは漣たちとエンブレムを作っていた。
「お帰りリッチ。大淀さんから聞いたと思うけど、辰福丸ちゃんの宿泊許可が降りたよ。今日は寮で寝られるよ、辰福丸ちゃん」
「ありがとうございます」
「いいって、辰福丸ちゃんも航海の仲間だから。リッチは、その・・・大丈夫だった?」
エディが少し心配した様子で尋ねる。リッチは思い当たる節が天龍しかないので、「大丈夫」と答えた。
「龍田もそうだが、天龍は何故かアイツを思い出してむかつく・・・」
「アイツって誰?」
「いや、なんでもないよ。Bерныйはどこにいる?」
「深雪ちゃんと一緒に駆逐艦寮だと思う。春雨ちゃんは、武器庫の見学だって」
「そうか。わかった」
11:30
「ふぅ、やっと終わったわ・・・はぁ~あ・・・もうこんな時間ね・・・」
作戦行動で山岸と出かけていた夕張は、武器庫に戻る。さまざまな兵装の予備パーツだけでなく、夕張が蒐集した貴重な試作兵器も収められている武器庫には工房が併設されており、夕張はそこにベッドや私物を持ち込んで寝泊りしていた。
「もう遅いし、今日は夜更かしせずに寝ないと・・・ん?」
夕張が扉に手を掛けたようとしたとき、中から音が聞こえた。夕張は手を引いて、慎重に中を覗き込む。
(弾薬庫じゃないから、私のパーソナルスペース以外は基本開放してるけど・・・こんな夜中に一体誰かしら?)
エディ達がいることは聞いている。またリッチが何かしようとしているのでは?とも考え、警戒しながら静かに戸を開け、電気をつけた。
「何をやってるの!出てきなさい!」
「あ、ええと・・・」
そこにはピンク色の髪の少女がいた。制服からして、白露型だろうか?
「見ない顔ね?エディのところの子かしら。こんな時間に何をしてたの?」
「はい、白露型5番艦の春雨です。ヘイウッド教官から、ここの武器庫を勧められたので、見学してました」
そう言う彼女の手には開いたオルゴールがあり、悲しげなメロディを奏でていた。
「へぇ、それに目が行くなんて。お目が高いわね」
「武器庫にあったので気になって、それで聴いてたんです。ずっと」
「確かにここには不似合いよね」
「はい、でも、時間を忘れるぐらいとっても魅かれる曲で。これ、どういった曲なんですか?」
「・・・うーん。ちょっと曰く付きで詳しくはいえないけど・・・そうね、『セイレーンの歌声』ってところかしら?悪いけど、私の私物だから、返してもらえないかしら」
「はい。曲は覚えましたから、もうそらで歌えます」
春雨は笑顔で言った。変わった子ね、と夕張は思いつつ、オルゴールを回収する。
「もう遅いから、今日は寝なさい。それと、消灯時刻も過ぎてるし、寮に入るときはこっそりね」
「もうそんな時間だったんですか?すいません。すぐ戻ります」
春雨は慌てて帰っていった。夕張は武器庫を閉めると、棚に置かれ、尚もなり続けるオルゴールを見つめた。
「ほんとに変わった子ね・・・こんなものに魅かれるなんて」
嘆きにも似た旋律を響かせる深海棲艦誘導装置(セイレーン)の蓋を閉じると、もとの場所に戻して、電気を消した。
辰福丸日記
横須賀は見たことも無いくらい大きい港で、遠く東京には天を突くような大きな電波塔がたっててホントにびっくりしました。飛行機の工場があるみたいで、新型機のサンプルがいくつか売れました。結局会えませんでしたが、ユウバリさんという収集家がいるらしいので、今後はしっかりした関係を築きたいです。
そろそろこの46cm砲を引き払わないと・・・そもそも、こんな大きい大砲を使う船なんて、この世に存在するんでしょうか?自分の積んでいる荷物の底知れなさと、その責任の重さを背負いながら、明日も航海を続けましょう。