呉の演習指揮所の中を気まずい沈黙が包んでいた。瓜生は白目を剝き泡を吹いて倒れ、佐竹はイライラした様子で机にペンをぶつける。佐竹が叩くペンのコツコツという音だけが、木造の部屋に響いていた。
「大井さんからの通信、まだありませんね」
先に戻って部屋の隅で待機していた不知火が、声を忍ばせて同じく待機していた霞に言う。先ほど北上が脱落し、部屋に戻ってきた。大井は通信機越しに何か喚いていたのを最後に、通信が途絶えた。
「大井に限って負けるなんて考えにくいけど、あの鶏付き、まったく気配を感じさせなかった。あれじゃ鶏じゃなくて梟ね」
「潜水艦を混ぜてたのでもない限り電探を使って狙撃、反撃される前に逃げたのでしょう」
「そんなの反則よ。どうやっても勝てないじゃない」
「油断して対策しなかったのはこちらです・・・大井さんも無事だといいのですが・・・」
不知火が大井の身を案じていると、指揮所の戸が開いた。
「大井っち!」
北上が入って来た人物を見て立ち上がった。大井は損傷も無く、五体無事と言った様子だ。歓喜の声が沸く。
「おお、無事だったのか。やはりアメリカ人など君の敵ではなかったか」
勝ったと思い込んですっかり機嫌を戻した佐竹は、大井を賞賛する。しかし大井が勝ち誇った顔ではない、むしろ厳しい表情であることに北上達は気付いた。
「いいえ佐竹中佐。今回の演習は、私達の敗北です」
大井は戦場での鋭い視線で言う。敗北という事実にまるで時間が止まったかのような沈黙が流れた。
「何を、言っている・・・貴様は無事じゃないか?旗艦が無事でどうして負けるのだ・・・」
「いいえ、私達呉教務部隊は、敵舞鶴第56水雷戦隊の戦術の前に、なす術もなく敗北、旗艦大井は、敵の降伏勧告を受諾し、捕虜となりました」
扉の影から2人の艦娘が入ってくる。頭に包帯を巻いた茶髪の少女と、黒髪に金を垂らした少女。その艤装には、鶏のエンブレムが鮮やかに描かれていた。
「き、貴様ら!なぜここに!?」
「大井さんに案内してもらいました。ここなら呉のみんなに会えるって。初めまして、瓜生さん、呉教務部隊の皆さん、第56駆逐隊の旗艦、ヘイウッド・L・エドワーズです。今回は演習のためにお時間を頂き、ありがとうございました」
エディが流暢な日本語で答える。全く違和感の無い敬語に霞達は驚いた。言葉が通じるとすら、彼女達は思っていなかったのだ。
「それで、わざわざ負け組の巣に何の用?まさか、わたし達を嘲笑しに来たんじゃないわよね?」
霞が喧嘩腰に言う。しかしエディはいつもの調子で手を差し伸べた。
「そんなことないよ。一緒に戦った仲間を笑うなんて、できるわけないじゃない。わたしは、みんなと友達になりに来たの」
加賀の時と同じ混乱が、再び起こった。
「は?ふざけてるの!あんな一方的な試合しといて、お友達面とか、あたし達敵同士なのわかってんのこのバカ!」
「ば、バカじゃないもん!戦ったんだから、お互いのことよく解りあえたと思うし、わたし達きっと友達になれるよ」
「だからその理屈がわからないのよバカ!」
「うぅ・・・」
エディは自説を強調するが、当然霞には通じない。リッチも困って見ていると、不知火があることに気付いて提案してきた。
「貴女はお互いのことを良く知ったといいましたが、我々は何が起きたかわからないまま撃破されました。対等に話したいのであれば、そちらの手の内ぐらい晒しても良いのでは?」
「そうだ!こいつらはインチキを使ったに違いない!どうした、話せまい?自分が不正をしたことは?」
佐竹が便乗して追及した。リッチはどうするかエディに伺う。エディは首を縦に振った。技術を独占するつもりはないらしい。
「特に難しいことではありません。2手に分かれ、電探を使って敵を待ち伏せ、視界外から雷撃で仕留めました」
「やはりそうですか・・・」
経験からある程度推測していた不知火は納得した。しかし佐竹は未だ信じられないといった様子で反論する。
「あ、ありえん!電探にそんな精度があるはずはない。第一あそこは入り組んだ海域、電探が使い物になるわけ・・・」
確かにソロモン諸島の戦いでは、電探での索敵は岩礁に阻まれ機能せず、またその島々に挟まれた狭い地形により日本軍は目視戦闘であっても優位に戦うことが出来た。
「電探については僕達は半端な物は積んでいません。地形についても、我々の『友人』が正確な海図を準備してくれたおかげで、上手く追撃をしのぐことが出来ました」
「むむむ・・・」
リッチは陸軍から与えられた海図を見せ、論破された佐竹は歯軋りする。場が再び静まると、エディは疑問に思っていたことを話し始めた。
「佐竹中佐、この戦術を作った人は、戦争の後わたし達をこの国へ派遣して、新しい日本の海軍を作らせました。わたしは彼の魂が今もこの海軍に残っていると信じて再び日本に来たんです。でも、中佐は忘れてしまったんですか?なぜ、呉は彼の存在を抹消したんですか?」
エディは昼のときとは違う静かな怒りを佐竹に向ける。自分の心の奥に眠る、大切な人。彼は彼女の乗員でも、指揮官でもなかったが、彼女自身の魂を形作った父親のような存在。アーレイ・バークを忘れさせた今の呉のあり方は、エディには歯がゆく写った。
「・・・黙れ」
佐竹にその思いは届かない。プライドをズタズタにされた彼は、もう理性を失っていた。
「黙れ鬼畜米!さっきから言わせておけば訳の分からん事を!電探など、卑怯者の使う邪道の兵器!伝統の帝国海軍にそのようなものは不要だ!愛国精神と鍛え上げられた技術、一撃必殺のこそが海軍の誇りだ!」
21世紀の軍人とは思えない発言をすると佐竹は軍刀に手を掛けた。周囲が一気に騒がしくなる。ああなった佐竹は止められないのだ。
「まぁ畜生風情には言ってもわかるまい。昼間は邪魔が入ったが、今度は打撲では済まんぞ・・・」
佐竹は刀を振りぬいた。見かねた大井が割って入る。
「いい加減にしてください!提督、私達は負けたんです!これ以上は呉の名を貶めることになりま・・・」
「降伏した腰抜けは黙ってろ!」
「きゃあ!?」
「大井っち!」
佐竹は敗北を認めるよう説得しようとした大井を突き飛ばす。大井はバランスを崩して北上に受け止められた。
「あんた本気なの?その子の怪我も、あんたがやったの?どういう事よ!説明しなさいよ!」
「流石に今の教務監督は常軌を逸していると考えます。ご再考を」
不知火と霞も忠言するが、佐竹は聞き入れなかった。
「エディ、下がって・・・(僕が殺る)」
「でも・・・」
リッチはエディを後ろにかばう。昼は不覚を取ったが、もうエディを傷つけるわけにはいかない。誓いを胸にリッチは白刃に意識を集中する。佐竹が刀を振りかぶろうとしたとき、扉の外から大声が響いた。
「なにをやっとる!」
入って来たのは中将の階級章を着けた男だった。佐々木大将と同じくらいの年齢だが、対照的な長身痩躯、神経質そうな顔つきの男は、秘書艦の淑やかな空母艦娘と、不服そうな顔の加賀、そしてにんまりとご機嫌なあきつ丸を引き連れていた。佐竹は男の顔を見るや、ひどく慌てた様子で刀を納めて敬礼した。
「き、岸田閣下!」
この男こそ、横須賀、呉、佐世保の三大鎮守府一角にして最大戦力たる呉陣営を束ねる岸田勲中将その人だ。大物の登場に先ほどまで威張って大口を叩いていた佐竹も平伏する。
「閣下、何時お帰りになられて・・・」
「ついさっきな。しかし、このザマは何だ?」
思えば指揮所の中はひどい有様である。暴漢と課した佐竹とそれに襲われる他所の艦娘、佐竹に殴られた大井と、大破してボロボロの教務部隊、そして泡を吹いて気絶している主席候補生。
「はっ!閣下、こやつら鬼畜米が卑劣な手を使って来たので、誅罰を・・・」
「愚かものがぁ!」
目を泳がせながら弁明をする佐竹に岸田は平手打ちを決めた。
「わしの目が誤魔化せると思うてか!貴様の謀議は全て露見しておるぞ!」
「申し訳ありません・・・中佐」
鳳翔に腕を掴まれた加賀がうつむいたまま答える。あきつ丸は写真を取り出した。加賀から飛び立つ艦載機の写真と、同じ機体がエディ達56駆逐隊を襲っている写真だ。
「これは哨戒行動中の我が軍の偵察機が『偶然』発見したものであります。我々がエディ殿を保護したときも、佐竹殿が入港を認めないどころか暴力を振るっていたので、憲兵隊に通報する前に一応岸田閣下のお耳にお入れした次第であります」
呉の一連の行動は、全て陸軍に諜報されていたのだ。
「閣下!これは全て呉のためであります!あの鬼畜米が呉を汚すために・・・」
「黙れ!下らん計略で客に無礼を働き、呉の品格を貶めた上に、陸軍にまで介入を許すとは何事か、恥を知れ!」
佐竹は入って来た第17駆逐隊の3隻に拘束されて指揮所から連行された。岸田中将はそれを見送ると、エディに向き直る。エディは中将を真っ直ぐに見つめ、敬礼した。
「舞鶴鎮守府所属、ヘイウッド・L・エドワーズ及びリチャード・P・リアリーです!呉へ友好と通商の為に来ました!」
「うちの馬鹿が迷惑をかけたな。話は聞いている。戦がしたいのだろう?我々の方針として、君達の入港を許可するつもりはもとよりない・・・が、戦いを挑むというのであれば何時でも来い。ここにはそれを望むものが居る」
「はい!必ず呉のみんなと友達になります!」
「ふん。なるほど、佐々木が気に入るわけか・・・だが忘れるな、縋る物がなければ強くなれぬ者もいる事を・・・それほどに人が弱いことを」
「ほら!さっさと起きなさいよこのクズ!」
中将が急電を受けて指揮所から立ち去った後、霞は椅子で伸びていた瓜生を引っ叩いて起こした。
「うぇっぷ!?あ、教官?自分、負けちゃった・・・」
「そうよ、負けも負け、大負けよ」
瓜生はそれを聞いて、目に涙を浮かべて大泣きし始めた。
「そんな・・・うぇええええん教官ごめんなさぁぁああい」
「泣いてんじゃないわよこのクズ!今回負けたんなら次勝てばいいの!ほら、さっさと立って、しゃきっとしなさいよ!・・・」
「瓜生ちゃん、さ、帰ろう」
「うぅ、ありがとう北上さん」
「さっさと歩きなさいこのクズ!あ、鶏付き!少しはやるみたいだけど、次は必ず勝つわ!覚えておきなさい!」
「それじゃ、大井っち、先に帰るね」
瓜生は北上に肩を貸され、霞に尻を蹴られながら部屋を出て行った。
「しかし、あんな戦術を取られると、うちどころかこの国のどの水雷戦隊も勝つことは困難です。あなた達の時代になってしまうでしょう」
残った不知火と大井は、エディの戦術を聞こうと駆け寄った。
「うーん、それはないと思う。あの戦術、もう使わないし」
「え?」
エディはあっさりと答える。あれほど革新的な戦術をどうして使わないのか?大井と不知火は呆気に取られた。
「あれは元々フレッチャー級の電探性能が前提だし、うちじゃ火力が足りないから演習じゃ使えないよ」
フレッチャー級の魚雷発射管は、日本より1サイズ小さいが本数の多い55.3cm魚雷5連装2基であり、9隻で駆逐隊を構成、4隻で分艦隊、最小3隻で分隊を組む。バークの戦術では3隻1分隊で計30問の魚雷火力を使うのだが、日本の場合魚雷発射管は4連装であり、かつエディ達は魚雷を持たないので、1分隊の火力は16問と、効果は激減するのだ。しかもエディ達は全滅で勝敗が決まる演習が中心であり、日米ですぐ使える新戦術研究が主体の56駆逐隊の方針にも合わないのだ。
「今回は被害を受けずに圧勝しなきゃいけなかったから仕方なく使ったけど、結局仕留めきれなかったし、当分はお蔵入りだよ」
「・・・そんな、もったいない」
不知火が洩らした。これほどの戦術を忘れるには忍びなく、すぐでなくても高性能な電探を入手すれば使えるようにノウハウは欲しい。すると大井が名案を思いついた。
「ねぇ、貴女達が使えなくても、重雷装艦の私と北上さんになら、きっと役に立つと思うの。だからその戦術、私に教えてくれないかしら?」
「なるほど、大井さんぐらい魚雷を積んでたら、後は電探を手に入れれば無敵間違いなしだね!これは名案だよ!」
「教えてくれるの?」
「うん!技術はみんなで共有しないと!」
エディは喜んで戦術の仔細を教えた。大井はそれをメモし始めた。
一方、リッチはあきつ丸と話していた。
「呉はあなた達について手を引いたみたいですね。いえ、陸軍としても、あなた方を仲間に引き入れられたことが何よりも収穫であります。辰福丸も、基本そちらで好きにして構いませんから、今後とも、宇品をよろしくお願いします」
今回の事件で陸軍は呉の弱みを握り、舞鶴を取り込むことにも成功して、ある意味一人勝ちとなった。リッチとしても、国内で力を持つ陸軍の支援は歓迎すべきことである。
「あぁ、よろしく頼むよ。それと・・・」
リッチは瞬く間にあきつ丸の背後に回り、腕を掴んで音もなく動きを封じた。
「僕らを利用したいと思うならよく注意しろ。今度エディを傷つけることがあったら、そのときはお前の命がないと思え」
「・・・よく肝に銘じておくであります」
今回は陸軍の掌の上で踊らされた形になったが、舞鶴は陸軍の駒ではない。それを解らせる必要があったので、少し強めに脅しておく。
「リッチ、終わったよ!」
大井と話し終わって、エディがリッチの元へ駆け寄る。リッチはあきつ丸を開放すると、エディの方を向いた。
「僕も丁度終わったところさ。もう遅いし、早く帰ろう」
「うん」
「ねぇ、リチャードさん、って言ったかしら?貴女の隠密も素晴らしかったわ。今度教えてくれるかしら?」
「はい、その時はもっと強くなっていてくださいね」
「えぇ、負けないわ」
リッチは大井と硬い握手を交わす。再会を誓い、エディ達は旅立った。戦いによって生まれる友情、エディの望む関係がそこにあった。
「ねぇ、リッチ」
「なんだい姉さん?」
「わたしが襲われそうになったとき、前に立ってくれたよね」
「あぁ、昼の時のようにはなりたくなかったから」
「かっこよかったよ、ありがとう」チュッ
「僕も、姉さんが大好きだよ」チュッ
エディとリッチが熱いキスを交わす。まだ見送っていた大井はそれを見て、顔を真っ赤にして興奮しだした。
「そ、そんな!?・・・私ですら、北上さんと・・・手を繋ぐのがやっとなのに・・・き、き、キス・・・うらやま・・・」
「大井さん?しっかりしてください大井さん!!」
「り、り、リチャード、あなたには絶対負けない!私も、私も北上さんといつかキスしてやる!」
こうしてリッチの奇妙なライバルが誕生した。
「しかしこれ、便利だなぁ」
宇品に帰還して深雪はサーマルビジョンをいじりながら言った。
「これがあれば電探なんていらねぇのに、何で誰も導入しないんだ?」
確かに、夜戦をするのにこんな便利なものはないだろう。時代錯誤な呉ならともかく、現代兵器の知識が多少なりともある他の鎮守府なら検討しているはずだ。しかしエディは残念そうに言った。
「それについてだけどね、サーマルだと深海棲艦は見つけられないんだ」
「え?」
「深海棲艦の体温は海水と同じくらい低くて、熱感知で捉えることはできないの」
「今回は負けられなかったことと電探の疑似体験のために仕方なく使ったけど、対人戦をやるのでもない限り実戦では使わないだろうね」
「そっか、もったいねぇな」
深雪はそう言ってなんとなくサーマルを着けて、味方を見る。ライトの明かり、艤装の熱、仲間の姿がはっきりと映る。全て生きている人間のものだ。この機械は、それを見分けるものだと、深雪は理解した。
「・・・ん、あれ?」
深雪は異変を見つける。仲間の一人の足が『見えなかった』のだ。自分より2つ前、サイドテールと帽子の艦娘・・・
「こら、深雪!何時まで遊んでる。借り物なんだから早くあきつ丸に返すんだ」
リッチに声をかけられ、サーマルを取り上げられる。電光に照らされた春雨を確認すると、足はちゃんと付いていた。
「あぁ、すまねぇ(足が冷えたのか?後でお湯もらっとこ)」
深雪はそのまま宿舎に向かった。
那珂「ということで今回もあとがき始めるよ!」
川内「今回はいつもの茶番はしないの?」
神通「提督は今テスト勉強でヒステリックになってるので、暫くはお休みするそうです」
川内「そっか、次回の投稿が遅れないと良いけど、仕方ないよね。じゃあ初めていこう」
一同「「おー!」」
那珂「今回で呉編は完結だね。エディちゃんが怪我したときはどうなるかと思ったけど、陸軍の暗躍で上手く切り抜けたみたいだね」
川内「一方で陸軍や呉のドンの岸田中将も出てきて、話が膨れ上がったから、結構戸惑ってる読者も多そう」
神通「私達も呉は古巣なので、今回は呉にスポットを当てて、私達の知る限りの解説を施して行こうと思います」
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組織編
神通「まずは呉鎮守府の組織ですね。呉鎮守府は横須賀、佐世保と共に艦娘の管理運用を担当する基幹鎮守府です。主にソロモン諸島など南海地域を活動拠点としてますね。艦娘・提督数は三鎮守府一、純軍事的には、日本最大の鎮守府です」
那珂「歴史も古いよね。舞鶴が1番最初で、2番が呉、その次が佐世保と横須賀だっけ?」
神通「そうです。2019年に初期の深海棲艦が世界各地で発生して、日本海にも結構な数が現れたんです。艦娘黎明期は舞鶴と佐世保が前線基地になって、横須賀が建造所、呉が整備訓練所になっていたそうで、今もそのころの設備がそのまま残ってます。その後日本海の掃討が終わって太平洋で深海棲艦が活発化すると、舞鶴に教育設備が移り、大整備のための大型施設が充実していた呉は連合艦隊の母港となりました。5年前に舞鶴が閉鎖されると、教育施設は三鎮守府に分散することとなります」
川内「各鎮守府の個性が出だしたのもこの辺からだよね?」
神通「はい、それまで艦娘も提督も舞鶴で一括教育していたのが、各鎮守府に提督任命権が移り、競争原理の中でそれぞれの政治的意図に沿った提督を好き勝手任命するようになります。具体的には横須賀の通常軍から引き抜き、呉の教務部隊、佐世保の公募提督でしょうか?」
那珂「呉は帝国海軍式の扱きと愛国教育だっけ?」
神通「はい、呉は帝国海軍の後継者という深い自覚から愛国心に特化した教育で有名で、大井さん達教務部隊のおかげで提督の質は高く、轟沈も少ないです。一方で海軍の栄光に拘るあまり、民族主義的な排他思想が蔓延しているといえます」
川内「でも、少なくとも私達が抜ける3年前は、今回みたいに外国人を見ただけで殴りかかるような教育はしてなかったと思うけど」
神通「おそらく教務監督の佐竹中佐の意向でしょうね。佐竹中佐はNATOとの関係が切れて久しく、愛国教育で純粋培養された世代ですから、国際的知見が狭い上に、艦娘の史実を知るうちに極端な反米主義になってしまったのでしょう」
那珂「深海棲艦のせいで外国人を見る機会も戦前以下になっちゃったからね」
神通「とにかく、呉鎮守府の政治的立場は、日本海軍単独の太平洋覇権で、国際協調を進める横須賀とは相容れない存在です」
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軍備編
川内「戦艦とか雷巡とか、やたら強い兵器も多いよね」
神通「はい、金剛型と長門を除く戦艦群を独占し、それに見合う補助艦艇群を有してます。正規空母についてもかつては日本一の保有数で、現在は新造の正規空母の就航で横須賀に追い抜かれていますが、今でも加賀さんと鳳翔さんが高練度の航空隊を有してます」
那珂「私達が抜ける前は鎮守府といえば呉で、艦娘もほぼ独占してたからね。横須賀なんてその頃は本当の意味でお飾り鎮守府だったよ」
神通「勢力が衰えた今も、戦艦の火力と質・量共に揃った水雷戦隊による高い正面戦力は攻勢作戦における中核となります」
川内「大日本帝国のロマンの詰まった、伝統の呉ってことだね」
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ドクトリン
那珂「さて、最後はドクトリンの話だけど」
神通「これは単純明快です。呉の戦術は攻撃を重視しています」
川内「あそこの提督はとにかく前に出るよね」
神通「はい、これは旧帝国海軍の伝統を継いでか、提督も艦娘と同じラインに立って戦うことを旨としてます」
那珂「充実した戦力を前面に押し出して、自ら先頭に立って勝利を掴む。非常に勇ましく、士気も上がるけど、提督の死亡率は三鎮守府ぶっちぎりのトップだね」
神通「その通り。消耗する提督に対応するために、教務部隊を作って実践的な教育を施し、厳しい精神訓練も併せて行って、艦娘に寄り添うよきパートナーとしての提督を育成します」
川内「使ってる兵器も攻撃的なのが多いのも関係してるのかな?」
神通「戦艦や酸素魚雷ですか?確かにそれも大きく関係しているかもしれません。1航戦が健在だった頃は航空作戦が主体でしたが、ここ数年加賀さんを戦場で見かけたことがないので、貴重な正規空母を温存して、電撃戦や夜戦で相手が反撃する前に敵を押し切りたい意図があるのかもしれません。電子的な技術で立ち遅れているのは言わずもがなです」
那珂「ほかに目立った欠点は?」
神通「これは日本の鎮守府全般に言えることかもしれませんが、他軍との強調性が絶望的に無いということですね。艦娘という特殊な兵器体系に現代兵器が馴染まないのは当然ですが、独立心の強い呉には協調の意思が全く見られません」
川内「教務監督が陸軍嫌い、現代兵器嫌い、海上自衛隊を黒歴史扱いだからね。電探には痛い目見たからわかるだろうけど、死んだら次の夜戦もできないのに」
神通「彼らは帝国海軍の後継者足らんという自負で自己を戒め、実際それが強さに結びついてきました。しかし、栄光に固執するあまり、その地位に胡坐をかき、過去の失敗から目を逸らして反省しようとせず、滅びを招いた戦前のドクトリンをそのまま使って技術革新も遅れています。しかし、今は2041年、私達の時代から1世紀も後です。そんなわがままが何時までも通用しません」
那珂「そんな中にエディちゃんが現れて、完膚なきまでに自慢の精鋭を叩き潰しちゃった。でも、岸田中将はまんざらでもなさそうだったね」
神通「彼も彼なりに停滞を危惧していたのでしょう。彼自信は反米ですが、生き残るためには常に強者でなければならないという考えの方ですから、それで呉が強く目覚める事を願っているのでしょう」
川内「今回も後書きが長くなったけど、次は最後の鎮守府、佐世保だね」
神通「呉と横須賀がイデオロギーで対立しているのは既に述べましたが、佐世保も強烈な個性を持っています。エディさん達はどのように振舞うのでしょうか?」
那珂「春雨ちゃんもいよいよ怪しくなってきたね。大丈夫かな?」
神通「気になる続きは、またいつか」
川内「それじゃあ今回はここまで!」
一同「「「またねー!!」」」