駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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注意!艦娘出てこない!


第53話 幕間

「なっ、何で司令官がいるの!?」

 エディは私の登場に驚いているようだ。一宮司令は楽しそうな笑みを浮かべて話す。

「貴女へのサプライズだそうですよ。舞鶴から艦で来たそうで」

 そう、始まりはエディ達の出発を見送った直後に遡る。

 

 

「ふぅ、行っちゃったな」

 私はエディ達が見えなくなったのを確認すると、妖精さんを帰らせて、振り返って基地のほうに向かう。

「さてと、こっちも行動開始しますか」

 すぐに鎮守府に戻り、旅行鞄を手に取ると鎮守府の戸締りを行う。掃除は前から少しずつやっていた。整備棟などは妖精さんに最低限の維持をするように頼んで、私は鎮守府を出る。

「間に合うといいが・・・」

 鞄を片手に基地を歩く。元よりカメラと着替えだけなので足取りは軽い。それほど時間をかけずに、私は目的の場所に着いた。全長248m、基準排水量19,500トン。平甲板に煙突と一体化したアイランド式艦橋を備え、ヘリ運用と艦隊指揮に優れた第3護衛艦群旗艦。いずも型4番艦『わかさ』だ。

「まさか本当に来るとはな。殊勝な事だ、坊主」

 昇降口で待っていた堤大佐が言う。

「えぇ、知らないのなら直接見るまでというのが、私の主義ですから」

 会議室での指摘で、改めて自分の力量不足に気付いた私は、エディ達を遠征に送り出す計画を進めると共に、堤大佐に頼み込んで軍艦に乗艦し、船というものがどのようなものかを直接体験することにした。知らない物があれば直接見て来いとは、ジャーナリストとしての師であるトンプソンさんの言葉だ。

「ふっ、小娘達を放り出しておいて、こんな所に来るとは。褒められた話ではないな。だが、心意気だけは買ってやろう。乗船を許可する、付いて来い。飯炊きから戦闘指揮まで、海の男の全てを見せてやる。肩の小さいのもだ」

「え?」

 見ると妖精さんが一人乗っていた。

「妖精さん。どうしてここに?」

「いんすぴれーしょんをもとめて」

「ふっ、妖精は外界と交流を持たないと聞いたが、殊勝なのはその妖精も変わらんか。騒ぎはおこさんでくれよ」

 どうやら技術者妖精らしい。つなぎにFSの文字があるから、フェアリーサイエンスの妖精なのだろう。特殊な商売(模型販売)で人間相手にこっそり儲けている彼らなら、なるほどおかしくはない。

「あいあいさー」

 妖精さんを私の帽子の中に入れると、堤大佐は艦内に私を招いた。狭川大佐の口添えもあっての事だが、彼が心底嫌っているであろう艦娘の提督を自らの艦に入れるのだから、大佐の懐の深さには感服するばかりだ。

「こんにちは艦長!」

「艦長!」

「艦長殿!」

 堤大佐が通るたびに皆が敬礼して挨拶する。規律は行き届いているようだ。ハンガーまで来て、整備兵と思しき中年の男と話している若い士官の前で立ち止まった。堤大佐は若い士官の肩を叩く。

「杉山少尉」

「艦長!?何のご用でしょうか?」

 杉山と呼ばれた青年は慌てて振り返る。よほど話に集中していたらしい。堤大佐は呆れて言った。

「今日は鎮守府から提督が見学に来ると言ったはずだ。少尉には世話役を任せたはずだが?なぜここで無駄話をしている」

「い、いえ・・・準備は出来てたんです。今は・・・」

 杉山は気拙そうに目を泳がす。それに対して整備兵のほうが助け舟を出した。

「いや、すまない艦長。彼をつきあわせたのは私のほうだ。そう責めないでくれ」

「特務少尉・・・」

 整備兵がそう言うと、堤大佐はそれ以上追及しなかった。軍隊では時としてこういうことが起こる。階級が低くても、経験豊富な年上の下士官が人望を集めていると、上官も彼らを尊重せざるを得ない。ましてこの整備兵が特務少尉ということから、たたき上げだということも明らかだ。

「・・・ふむ、特務少尉がそう言うなら。だが今後は気をつけるように」

「はい!ありがとうございます」

 堤大佐はそのままブリッジに行ってしまった。杉山少尉はそれを見ると特務少尉に礼を言う。

「おやじさん、助かりました」

「気にすることは無いさ。だが、熱中しすぎる癖は直したほうが良いぞ。空では命取りになる・・・それより、君が例の提督かな?私は艦載機の整備を担当している・・・名も無い老兵さ。若い皆にはおやじさんと呼ばれているが、気軽に付き合ってくれ」

 特務少尉こと『おやじさん』はどこか日本人離れした顔立ちに温厚そうな笑みを作った。一方杉山少尉は、あまり好意的ではない様子だ。

「飛行科の杉山だ。ハミルトン大尉、話は聞いている。艦内でのスケジュールは決まっている。まずは艦内を案内する。最初に言っておくが、提督だからと容赦するなと艦長から命じられている。階級は意味を成さないと思え」

 彼もまた鎮守府の専横の割りを食っていることに憤っているらしい。妙に気を使われるよりも好都合だ。

「はい、望むところです」

 杉山少尉と握手を交わす。こうして、私の『わかさ』での生活が始まった。

 

 

「それで?初日の感想は?」

「自分がもぐりだということを思い知らされました」

 おやじさんに感想を聞かれて、私は疲れた体で答えた。今日の仕事ぶりは・・・とにかく散々だった。

「ひどいもんだ。女子供相手に威張ってるくせに、大の男相手じゃ兵卒にすらビビってる」

 杉山少尉が不機嫌そうに言った。今日は近い出港に向けて艦載機整備用貨物の搬入などを手伝ったが、自分より年上の兵相手にテキパキと指示を出した杉山少尉に対して、自分は萎縮しっぱなしで仕事が進まずじまいだったのだ。

「鎮守府では、自分一人で仕事をしていたので。こういう人と共同する事にはなれてないんです」

「だからって限度があるだろう?それとも、アメリカの士官学校ではカッターを皆で漕ぐ教練はないのか?」

 無論正規海軍ならそれぐらいはやるだろう。だが、自分は戦闘機乗りを目指していたし、そもそも士官学校すら出ていない、ジャーナリストなのだ。どの仕事も性格上一人で考えて行動することはあっても、人に命令する機会なんてほとんどない。鎮守府でも、海のことは全てエディに任せて、自分は司令室で書類仕事に追われていた。

「正直な話、あまり自信がないんです。自分が命令したことが正しいか、その結果の責任が取れるか・・・」

 春雨には不安を与えてしまっただろう。今も、彼女たちを放り出してここにいる。

「誰だって最初はそういうものさ。自分が正しい事をしている確証などどこにもない。後悔は何かをした後にしか生まれない。それまでは、必死になって足掻くしかないんだ」

「もう時間だ・・・今日は寝ろ。明日もやることが山程ある」

 そうして食堂を追い出された。ベッドに横たわると、溜まっていた疲労がどっと流れ込んでくる。

「決意はしたつもりだったが、やってけるかな・・・いや、やり切るさ」

 これ以上迷うのは意志薄弱もいいところだ。気持ちを切り替えて明日に備えることにしよう。

(そういえば、妖精さんはどこに行ったんだ?)

 

 

 2日目。6時に起床。甲板に出て体操をした。朝食をとって仕事に入る。今日は甲板の掃除だ。航空科と言っても、なんだか雑用ばかりだ。

「比島陥落の後、燃料節約のために訓練に制限がかけられている。出港が近くて手が足りないこともあるが、暇な俺達が駆り出されてるんだ。訓練はしばらくお預けだな」

 私のお守りを引き受けているのもそういう理由なのだろう。

「その雑用もままならん奴が文句を垂れるな。ほら、仕事だ仕事!」

 堤大佐は船のすべてを見せると言ったが、相応の実力を示さなければ会うことも叶わないようだ。佐世保に着くまでは一週間しかない。次のステップに進むには、なんとしても杉山少尉に認められなければ・・・

「では、アルファは水汲み、ブラボーからデルタは各担当の清掃をお願いします」

 私も見よう見まねで指示する。新参者がただ命じるだけでは印象が悪いので、信頼を勝ち得るために自分も率先して加わる。掃除は鎮守府での家政の経験が役立った。みんなで協力した結果、早めに作業を終えることができた。

「よし、思ったより早く終わったな。だが、もっと効率的なやり方もあるぞ。明日は別の科の仕事もやらせる。もっと上手くやるんだな」

「はい!ありがとうございます!」

 

 

 3・4日目は運が良かった。なにせ主計科と給養科に配属されたのだから。鎮守府の会計を預かってきたのは自分だ、事務仕事も苦にならない。主計科は理想的な職場だった。現代のアメリカ人では珍しく家事も一通り出来るので、給養科でもなんとか仕事をこなせた。食堂は船員が集まるので、いろいろと話も聞ける。

「昨日までのポンコツが嘘みたいだな。一人で鎮守府を回してきたのは伊達じゃない」

「いえいえ、具材、焦げてませんか?量が桁違いなので手が回らなくて」

「いいや、悪くないぞ坊主」

「堤艦長?!いつの間に?」

「お前の飯で兵達が全滅したらかなわんからな。知り合いで提督になった男に呼ばれて、艦娘の飯を食わされて死にかけたことがあってな・・・それよりも、坊主。明日から出港だが、そうなればお前はもう雑用はしなくていい。主計科での働きぶりでお前の力量は十分にわかった。ここからは私から直接学べ」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 

 その夜は格納庫で杉山少尉やおやじさんと飲んだ。他の整備員やパイロットも飲みに出かけている。

「陸に出なくていいんですか?皆おやじさんを慕っているのに」

「いいんだよ。私はここが居場所なんでね」

「なぜだか知らないが、おやじさんは艦長命令で船から降りてはいけないんだ。整備員たちもそれを了解してる。俺が来る前からそうなってるんだ」

「まぁいいじゃないか。杉山少尉もこうしていつも残ってくれているし、さぁ、今夜は飲もう」

 おやじさんはグラスに焼酎を注ぐ。整備員の差し入れらしい。私はかなり薄めるが、おやじさんはほぼ原液のまま飲んだ。

「あぁうまい。君も飲むか?」

「遠慮しておきます」

 あんなものが飲めるのはロシア人ぐらいだろう。すると彼はコップを机において工具箱を取り出した。開けると妖精さん達が出てきた。

「あ、人間さんだ!」

「いなくなったと思ったら、こんなところにいたのか。ていうか増えてる」

 忙しくてすっかり忘れていたが、まさかここに居たとは。

「君と最初に会った後、ヘリを興味深そうに眺めていたのを保護したのさ。ちょっとしたつまみを与えたら増えてしまってな。君が持ち込んだとはわかっていたんだが、忙しそうだからとついつい整備員たちでかわいがってしまった」

「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「いいさ。我々も彼らに手伝ってもらった。彼らは皆優秀な技術者だ。作業の間にこんなものまで作ってしまった」

 おやじさんは足元の段ボール箱を引っ張りだして中身を取り出す。飛行機の胴体にヘリのローターが付いた変わった飛行機だ。

「これは・・・カ号ですか?」

「モックアップだがね。彼らから聞いたんだが、君は飛行機が好きらしいね。見たところ操縦経験もあるとみえる」

「え?分かりますか?」

「あぁ、わかるさ。君の目は海軍軍人の目じゃない。空、それも戦闘機乗りに近い雰囲気だ。昔の私を思い出す」

「おやじさんは元戦闘機乗りなんですか?」

「昔はね。歳と撃墜された時の怪我でもう戦闘機動は出来ないが。撃墜されて海を漂っていたのを助けてくれたのが、当時まだ中尉だった堤大佐だった。この艦とはそれ以来の付き合いだ。当時は彼もやんちゃで、失敗の度に当時の艦長・・・今の基地司令のお父上に怒られていた。今の君のようにな」

 あの人にもそんな時期があったとは。話しているおやじさんは本当に楽しそうだった。その後も艦長の昔話を聞き、いつの間にか消灯時間が迫っていた。

「ありがとうございました。自分も、堤大佐みたいになれるよう頑張ります」

「あぁ、頑張ってくれ。暇があったらヘリの操縦も教えよう」

「いつでも待ってるぞ」

「はい、ありがとうございます。おやすみなさい」

 

 

 それからはずっと堤大佐につきっきりで昼は仕事の補佐、夜は戦闘理論の学習をした。艦長や各部署の士官を観察し、ひたすらメモを取っていく。専門的な知識は分からないが、軍艦という社会の大まかな『形』を見つけ出す、一種のフィールドワークだ。

「ふっ、坊主も少しは様になって来たじゃないか」

「艦長の指導が上手いからです」

 時代や装備はエディたちの時代からかなり進化したが、その本質は変わらない。艦船という巨大な社会を一つの生き物として動かすのは、規律に裏付けられた徹底した分業、そして、それを管理する頭脳としての艦長の決断である。綿密に組まれたスケジュール通りに艦を運航させ、一度不測の事態が起きた時は限られた時間で対処し、船員の命を守る。求められるのは、最善であることよりも、即時に判断を下し、迷わないことである。

「言葉を発するより速く砲弾は飛んで来る。計画は時間をかけて練り、現場では思考を切り詰め瞬時に指示せねばならん。坊主はまだまだ知識は足りんが、場をつかむ能力は長けている。経験はこれからだ。よく精進しろよ」

「はい!」

「良い返事だ。陸軍からの連絡だが、彼女たちも間もなく佐世保に到着するそうだ。我々は先に赴いて彼女たちを待とう」

 エディ達は無事に旅を終えたらしい。私たちは佐世保鎮守府ビルへと入っていった。

 

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