駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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第54話 指切り

「と言うことで、抜き打ちでエディ達を見に来たんだ」

「ひっどーい!」

 私がこれまでの経緯を(ある程度ぼかした形で)説明すると、エディはぽかぽかと私を叩いてきた。一宮司令はそれを見てクスクス笑う。

「ふふふ、仲のいいことね?」

「「そんなことないです(もん)」」

「ほら、息もピッタリ」

「むう~!」

 むくれてそっぽを向くエディはとても可愛らしい。一方別に要件がある堤大佐は、一宮司令に改めて伺いを立てる。

「我々陸海共に、あなた方の参加を希望しているのです。このように急な取りやめは、我々としても困ります」

「申し訳ないわね。こちらも比島事変後は国内向けの生活資源の護衛で手一杯なもので。艦娘の空きはないんです。上海の艦は予定通り出しますので、それで我慢してください」

「それでは不安が残ります。我々第3護衛艦群も、前線に引きぬかれて武装の貧弱な護衛艦3隻しかいません。黄海には未だ旧型の深海棲艦がいる情報がある以上、本格的な水上部隊がなければ渡航は危険です」

 堤大佐が話しているのは、上海海域での陸海合同演習の話だ。当初佐世保鎮守府は参加を表明していたが、今朝になって参加を拒否したのだった。陸海軍艦隊ははすでに海上にあり、今更演習を止めることも出来ないので、こうして大佐自ら談判に来たのだ。

「その件につきましては我々も討伐を進めているのですが、影も形もつかめず、存在するかも怪しいです。そんなものに出会う確率はかなり低いかと。そのような瑣末なことと、国民の生活がかかった物資、どちらが大切かわかりますね?」

「くっ・・・」

 一宮司令は生活物資確保を盾に応じようとしない。深海棲艦発生以降多くの国が没落する中、日本が国民の生活水準を維持し続けたのは交易の7割を受け持つ佐世保鎮守府の力が大きい。同時に、護衛事業による多額の収益と経済界からの献金によって全ての予算を賄っているので、実質的に軍から独立しており、たとえ大本営であっても彼らを制御出来ないのだ。まさに、佐世保鎮守府は一宮財閥の私兵である。

「それに、そんなに護衛が欲しければ、彼女たちを使えばよろしいのでは?」

 一宮美梅はエディを指差した。エディは私の顔を見る。エディは依頼を受けたいと思っているらしい。私としても魅力的な提案だが・・・

「こちらは演習が終わったら舞鶴に帰る予定なんです。訓練部隊で経験もまだまだ浅いですし、彼女たちも疲れているでしょうから、経験豊富な佐世保にお任せしたいです」

 こちらの目的はあくまで挨拶だ。堤大佐の体面もあるし、おとなしく辞退するべきだろう。

「あらあらご冗談を。その子達の活躍はこちらにも伝わっています。あの売女はともかく、春雨や響もうちにいた時は精鋭として通っていましたよ」

 まずい。完全に押し付ける気だ。しかも一部の所属艦の古巣だけに艦娘のこともよく知っている。言い逃れ出来そうにない。

「何なら、うちの子達とぶつけてみてはどうでしょう。はっきりしますよ。貴女もそうしたいでしょう?小さな隊長さん」

「はい!そのために来ましたから!」

「ちょっ、エディ?」

「じゃあ、決定ね。演習場で会いましょう」

 

 

「ふん!商売人め・・・」

 部屋を出るなり堤大佐は不愉快そうにつぶやいた。彼の佐世保への心象はかなり悪いらしい。

「あれれ?Bерныйちゃんは?」

 部屋を出ると待っていたはずのBерныйが居なかった事にエディは気づいた。「待ちくたびれて帰っちゃったのかな?」と頭をひねる。彼女らしくないとも思うが、このフロアに隠れる場所もないので、そう考えるのが自然だろう。

「リッチたちはどこにいるんだ?」

 エレベーターを呼び出しながら他の隊員達の居場所を聞く。

「えっと、エレベーターから見える屋上庭園。金剛さんとお茶してるって」

 エディはそっけなく言う。依頼を断ったことがそんなに嫌だったのだろうか?

「じゃあそこに行こう」

「うん・・・」

 エレベーターに乗り込む。堤大佐はすぐ艦に戻るそうだ。私たちは先に降りると、屋上庭園を歩く。私の前を歩くエディはうつむいたまま終始無言だ。

「あぁ・・・その。悪かった。せっかくの任務だったのに」

「そうじゃない・・・」

 立ち止まったエディは振り返らず小さくつぶやいた。

「え?」

「違うの。わたしが怒ってるのは、悔しいのはそんなことじゃないの」

 エディは振り返って、涙の溜まった瞳で私を見た。

「なんでわたしに言ってくれないの!信じるって言ったのに!・・・司令官は、わたしのこと信じてないの?大変だったんだよ。殴られて怪我もした。でも、司令官が信じてるって言ったからガマンしてたのに・・・」

 あぁ、自分はとんだ間違いをしてしまったようだ。彼女は私に信頼を預けて、自分も遠征のことを信頼して全て任せてもらったと思っていたのだ。あんなに小さな背中でずっと大きな責任に耐えてきたのだろう。

「すまない。君を疑うつもりはなかったんだ。エディが怖い思いをするかもしれないことも少し考えればわかることだった。ただ、どうしても必要だったんだ・・・君にふさわしい司令官になるために」

 後ろから抱きしめ、頭を撫でる。髪の毛に隠れた額に触った時、絆創膏が貼られているのに気がついた。

「怪我は大丈夫か?誰にやられた」

「大丈夫。ちゃんと仕返しはしたし、これぐらいはすぐ治るから。陸軍の人たちが助けてくれたの」

「そうか。私からもお礼を言わないとな」

「うん」

 エディは何を思ったか小指を出した。

「ねぇ。指切り、して。もう隠し事しないって」

「あぁ」

 これでもう隠し事はなしだ。もし破れば、きっとリッチからひどい懲罰が待っている。

「「指切った」」

「ふふふ、司令官の・・・じゃなくて、この部隊の一番は、わたしなんだからね!浦風ちゃんに浮気したら、めっ!だよ」

 エディは計算通りとばかり私を見下ろして笑う。もしかして謀られたのかもしれないが、彼女が笑っているのを見ると、それでもいいと思った。やはりエディは笑顔が一番なのだ。ただ、一応浦風の名誉のために釈明はしておく。

「大丈夫。今回は浦風も知らないさ・・・ほら」

「司令官?なんでここにおるん?」

「それよりも教官・・・司令官に馬乗りに・・・」

「ひゅー!とってもHOTな修羅場だったネ~。それもイイけど、時間と場所をわきまえなヨ~!」

「司令官、これはどういうことで?」ゴゴゴ

 同じ庭園で騒いだのだ。きっと見られているだろうと思ったが・・・というかリッチの殺気が怖い。

「積もる話はあると思いますが、取り敢えず紅茶でも飲みながらゆっくり話しましょう」

 佐世保の艦娘がティーテーブルを指して言った。ありがたい。旅の疲れを癒しつつ、皆の報告を聞かせてもらおう。

 




 兵器・ドクトリン編
神通「さて、今度は兵器についてですが、これはサクッと説明しますね」

横鎮:5航戦を中核とする機動部隊中心。大鳳・雲龍型等新型空母も多数所属。全体として新造艦が多く、装備・ドクトリンも新しいが、一部水雷戦隊を除き総合的な練度は低く、さらに戦艦・重巡のような高火力艦不足が深刻で、決定打に欠ける。

呉鎮:低速戦艦部隊が中心。正規空母、補助艦艇にも恵まれ、質・量揃ってバランスの良い理想的な戦力といえる。一方でドクトリンは旧態依然としており、砲雷系を除いた兵器類も陳腐化が進んでいる。

佐鎮:金剛型高速戦艦、妙高型重巡を中心とした編成となっている。欧州との交易や技術交換で得られた新技術を元に独自の兵器も配備し、潜水艦部隊も充実している。ただし、空母は龍驤が最高戦力と大きく不足している。

川内「改めてみると凄く個性が出てるね」
神通「妖精さんの居住地が隔絶されていることもあって、兵器体系は鎮守府の嗜好が影響しやすいのが大きいですね。佐鎮は東南アジア一帯のシーレーン防御が主体になるので、偵察力の高い高速戦艦、重巡洋艦中心の編成になります」
那珂「スラバヤの時(ABDA逃亡記!参照)も真っ先に援軍を出せたのはうちよりも佐世保だったよね」
神通「はい。もともと彼らの担当地域だったこともありますが、それ以上に彼らの本領がなにか問題が起きた時にすぐに対処できる機動性を持っているといういい例です」
川内「でも、肝心の正規空母がないのにどうやって戦うのかな?」
神通「それにはからくりがあります。佐鎮が担当する海域は、大陸や東南アジアの島々の並ぶ狭い海域です。そこに位置する国は日本国と同盟関係にあるので、これらの島々に佐鎮は妖精軍の飛行場を配備することで空母不足をカバーしているのです」
那珂「通商保護を実質担ってるのは佐鎮だから、実質的に東南アジア諸国は佐鎮の保護下ってことだよね」
神通「そうです。都市国家上海を始めとして、東南アジアの同盟国の主要な港には一宮グループが租界を形成していて、軍港である泊地とともに、佐鎮の拠点として稼働しています。同盟国とも政治・経済・軍事において強い結びつきを持つ彼らですから、同盟国の軍隊も潜在的な戦力と言えるでしょう」
川内「他に特徴的な戦力とかはあるの?」
神通「そうですね、上海租界を警備する租界警備隊やタイ海軍の艦娘部隊のような同盟国の艦娘部隊は、補助戦力として佐鎮の指揮下にあります。EU海軍ともつながりの深いので、そちらのFS社グループ企業から輸入・ライセンス生産を行っているそうです。ドイツ製潜水艦娘の所属する潜水艦部隊なんてのもあったかと」
那珂「国際色豊かだね。FS社の技術者がハミルトンの帽子に紛れ込んだのも、それが目的だったりして。辰福丸ちゃんとしては、いい商売相手になりそうだね」
川内「それで、結局のところ三大鎮守府はどこが一番強いの?」
神通「それはなんともいえません。正面戦力では呉は他を圧倒してますが、ドクトリンも装備も化石化しています。対照的に横須賀は装備・ドクトリン共に新しいですが、構成員は新造艦や他の鎮守府からの脱落者なので士気や練度に問題があります」
那珂「佐世保は欧式ドクトリンで機動力特化だけど、航空支援が得られない自軍領域外じゃ戦力は半減するだろうし、なんだかどこもバランスに欠けるね」
神通「明確な指揮系統の元、それぞれが弱点を補い合う形で作戦を行うのが理想なのですが、どこも権力争いばかり。三年間戦争が停滞したのは、深海棲艦の攻勢だけではなく、鎮守府間の足の引っ張り合いが原因の一つです」
川内「で、どこの陣営にも属さないエディちゃんの部隊に注目が集まるってわけだよね」
神通「外国人が率いる三鎮守府出身者の混成部隊ですからね。エディさんにはよい影響を期待したいです」
那珂「今回はここまで!次回は外交編だよ!」
一同「「「またねー!」」」
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