駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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初のスマホ投稿です。


第55話 VRアリーナ

 お茶を頂きながら、皆から遠征の報告をしてもらった。温かい心でもてなしてくれた大湊や古い仲間のいた横須賀。対照的に拒絶されたが、実績で見返すことが出来た呉。エディ達を助けて、味方に引き入れようとする陸軍。私が体験した以上に、彼女たちは多くの経験をしたようだ。

「本当に色んな事があったんだな・・・今回は慣れないことだらけで苦労をかけてしまって申し訳ない。事前の調査不足も、強硬なスケジュールで疲れさせてしまったのも反省すべきだろう」

「全くだ。陸軍が居なきゃ今頃海の藻屑だった。姉さんにまで怪我をさせて、無能にも程がある」

 リッチは厳しく批難する。電話では岸田中将が二つ返事だったのだが、現場の将校がここまで対立的だったとは。無論抗議はするが、呉との関係は慎重にならざるをえない。

「まぁまぁ、なんとかなったからええやん。岸田閣下もそない嫌うちょるわけでもないけぇ」

「そうだよ。大井さんともお友達になれたし、わたしたちは艦娘同士の関係を、提督のことは司令官が役割分担すればいいよ」

 浦風とエディがフォローしてくれる。遠征中浦風は広い人脈でエディ達を支えて、エディとの関係は少し改善したようだ。呉を打ち破って部隊も結束と自信で満ちている。演習旅行自体は成功とはいかなくても、実りあるものになったと言えるだろう。

「辰福丸からの報告は後から聞くとして、取りあえずみんな、お疲れ様。後は佐世保での演習だが・・・」

「なんと!勝てばこのまま上海に行けるよ!」

「えぇ!?」

 エディが出し抜けに発表する。

「それって私達の初任務ってこと?」

「うん!だから頑張ろう!」

 エディにのせられて皆意気を上げる。私は慌てて止めに入った。

「エディ、まだ受けるって決まったわけじゃないから・・・」

「いいじゃない。みんなやる気出してくれるだろうし」

「そうですよ!司令官も何時までも尉官じゃ格好がつきません。私達で佐官の階級をプレゼントさせてください!」

 春雨までこんなことを言い出した。

「そうと決まれば演習場へ行こうぜ!金剛、早速「ぶいあーる」演習場ってところに連れてってくれよ」

「All right!きっと驚きますヨ~」

 

 

 数時間後

 

「アカン。うち、ちょっと緊張してきた」

「私達、こんなところにいていんでしょうか?場違いじゃないですか?」

「国の母ちゃんも見てるんだよなぁ・・・頑張らねぇと」

「みんな、笑顔だよ!張り切っていこう!」

 

「本番5秒前!3、2、1」

 

「Good evening!艦隊これくしょん in VRアリーナ!今週も司会は金剛と!」

「比叡でお送りします!」

 カメラに向かって金剛と相方の比叡が挨拶する。今私達が居るのは、一宮財閥傘下のテレビ局だ。佐世保の演習場は、なんとVRアリーナだった。VR(仮想現実)は20世紀にはSF作品で盛んに取り上げられ、ゲーム産業を中心に21世紀初頭まで研究が進められたのだが、高コストで採算が取れず、さらに深海棲艦との戦争によって軍事に転用できる拡張現実の方に重点が移ったため、アメリカでは失われた技術だ。一宮財閥はこの技術を艦娘の演習用として復活させたらしい。財閥はこれを宣伝と大衆娯楽として、テレビ放映しているのだ。

「ねぇねぇお姉さま、今週はどんな試合なの?」

「今回の挑戦者は、元アメリカ海軍の駆逐艦姉妹、ヘイウッド・L・エドワーズさんとリチャード・P・リアリーさん率いる第56駆逐隊デース!」

 金剛が指差すと、カメラがエディとリッチに向く。2人は緊張を浮かべながらも、自己紹介を始めた。

「はじめまして、ヘイウッド・L・エドワーズです!日本にこんなすごい技術があったなんて、びっくりです。3D酔いしやすいのが心配だけど、一生懸命頑張ります!」

「リチャード・P・リアリーです。僕達で訓練を施した自慢の部隊を連れてきました。日本の水雷戦隊とは一味違った戦いをお見せします」

「Thank you!3D酔いはテスト済みなのでno problem!安心してenjoyしてください!」

「ちなみに、エディさん達は舞鶴で教務部隊の隊長をしているそうです。噂によれば、東京決戦でも大活躍だったそうですね?」

 金剛の相方で同じく比叡が問う。リッチは謙遜して答えた。

「ただの噂です。信じるかどうかは、この演習を見て判断してください」

「COOLで奥ゆかしい、まさに和と洋のイイとこどりな回答有り難うございマス!」

「それでは早速、演習に移ります!」

 比叡が言うと、カットが入り、その間にエディ達はVR用カプセル型投影機に入る。彼女たちの目には情報投射ヘルメットから映像や音響が投影され、仮想世界の海上に立っているだろう。

 私が居る指揮室のモニターにエディ達の様子が映し出される。定点、フリー、各自の視点に切り替えられる、理想的な指揮室だ。私は通信を開いてエディたちに話しかける。

「みんな、調子はどうだい?」

《うん、絶好調!故障がないって素晴らしいね》

 彼女たちの艤装のデータは番組までの短時間で解析・入力済みだ。無論仮想空間なので、故障とは無縁、カタログスペック通りの力が出せる。

《艤装のデータを取られたのは気に食わないな。体の中を全て覗かれるようで気分が悪い》

 リッチは不機嫌そうに答えた。

《それよりも司令官、今回の編成は随分と変則的じゃないか。手を抜いたわけじゃないだろうな?》

 リッチが訝しんで言う。

「カメラの前でそんなことしないさ。だいぶ独自理論を取り入れはしたが」

 今回は3隻分隊戦術を更に先鋭化させた2隻分隊戦術を取らせた。エディとリッチ、Bерныйと深雪、浦風と春雨のチームで、こちらの管制を受けながら撹乱攻撃を仕掛ける。防御をかなぐり捨てた危険な戦術だが、地形情報、環境が事前に知らされ、さらに各自の目線まで完全に知ることができる仮想現実という前提と、何より自分の土俵である空戦理論は2機編隊(エレメント)が基幹であることから、思い切って使ってみることにした。

(プロに勝てるとは思わないが、やるだけやってみるか)

 対戦相手は軽巡長良を旗艦とする水雷戦隊。付け焼き刃の知識がどこまで生かせるか分からないが、手抜きとは言わせない程には頑張ってやる。

「各自コールサインは覚えてるな、各機前進、殲滅しろ」

《了解(ウィルコ)!》

 

 

 20分後

 

「もっと鍛えておけば・・・バタン」

《試合終了!舞鶴駆逐隊の勝利です!》

「バンザーイ!」

 耐久値を削り切られた長良がポリゴン化して消え、試合は舞鶴側の勝利に終わった。

 試合前半は戦力が拮抗していたが、駆逐艦の一隻が被弾したのを皮切りに、ハミルトンの統制のもとエディとリッチが抜群のコンビネーションで囮になりつつ、他の面々が背面から執拗に攻撃し続け、ついに敵艦隊を削りきった。

「ざぁっとこんなもんだ!楽勝だなぁ!」

 とどめを刺した深雪が言う。ハミルトンの実力に疑問を持っていたエディとリッチも「少しは見直さないとね」と、ハミルトンへの評価を引き上げた。

「やればできるやん、司令官」

 浦風もその様子を見て小さくつぶやく。呉では少し落ち着きがなかったという春雨も、何処か安心した様子だった。深雪は饒舌になって話し続ける。

「なぁエディ、このままアリーナのトップを目指すのはどうだ?きっとすぐにトップランカー入りだ・・・」

《レーダーに反応!何かが高速で接近。識別不明!》

 突如ハミルトンの緊迫した声が無線に響き渡り、エディ達は慌てて身構える。

「なんだ!どこだ!どこだってんだよ!答えろよ、司令官!!」

 深雪は混乱して叫ぶ。その間にもエディとリッチの電探が敵を割り出す。

「深雪!後ろだ!」

「え?」

 Bерныйが叫んだ直後、深雪の体に衝撃が走り、耐久値が0になりポリゴン化して消えた。

「あわわわわ・・・」

 春雨はそれを見て腰を抜かす。一瞬で深雪が撃破されたからではない。撃破した相手の正体を理解してしまったからだ。

「み、みんな逃げてください・・・」

「姿を見せなさいよ!卑怯者!」

 春雨が完全に怯えきる中、エディのサーチライトが敵の正体を映し出す。春雨と同じ黒のセーラー、白いマントに犬のような癖っ毛の金髪。

「ぽい?」

 アリーナのランク1位、駆逐艦夕立がそこに居た。

 

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