駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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第57話 望まぬ追い風

「エディ!応答しろ!エディ!」

 私は通信機に叫ぶが、声は届かなかった。電探のデータリンクもECMがかかっているのかノイズがきつく、視覚情報のみで戦況がわからない。

「無駄だ、ババアが通信を切ってる。あれじゃなぶり殺しだな」

 瑛輝が画面を見ながら言った。エディ達は一方的に攻撃を受けて、次々と撃破されていく。程なく春雨も撃破されて試合は終わった。スタジオにカメラが戻り、唖然とした金剛たちの顔が映しだされる。すぐに司会者としての顔に戻すと、金剛は試合の講評を始めた。

《Oh!ジーザス!まさかの夕立の乱入で、何とも衝撃的な幕引きデシタ!》

《やはり我らが夕立さんは違いますね!アメリカ人などものともしませんでした》

《当然デース!彼女は佐世保が誇る駆逐艦アリーナ不動のトップなのですから!》

 ひたすら佐世保鎮守府と夕立への賛辞が述べられ、エディ達の奮闘や斬新な戦術には一切触れられない。カプセルから出てきたエディ達は、不機嫌だったり、落ち込んでいたり、魂が抜けたような表情だ。金剛は彼女たちの感想を聞くことなく追い出すと、番組を終了させた。プロデューサーの男が満足気に笑う。

「やりましたな。さすが会長だ。これで高視聴率間違い無しだ!」

「あぁ、そうだな・・・」

 瑛輝は無神経にげらげら笑う男を適当にあしらい、私の隣りに立った。

「ま、テレビ屋なんてこんなもんさ。夕立相手じゃお前が指揮をとっても勝てなかっただろうし、運が悪かったと思ってくれや」

 瑛輝は私をエディ達のもとへ案内した。リッチは私を見ると開口一番掴みかかってきた。

「どうしてなんの指示もしなかった!よくもエディに恥をかかせたな!」

「教官、落ち着いて」

「僕らを馬鹿にするのも大概にしろ!CIAの犬め!」

 リッチはかなり気が立ってるようだった。Верныйが抑えにかかる。一方、エディは残念そうに俯いた。

「上海行きたかったな・・・」

 エディは任務に行けなくて落胆している様子だった。それは他の面々も同じだったようだ。皆には残念だが、諦めて別の機会に・・・

「行けますよ」

「え?」

 現れたのは美梅会長だった。

「皆さん、うちの夕立の突然の乱入申し訳ございませんねぇ。回線が切れてアナウンスができず、司令官さんの指揮も取り次げないまま試合を続けることになってしまって、お気の毒です」

 ん?さっき瑛輝は回線は落としたと言っていたが・・・

「夕立はおまけみたいなものです。試験は長良たちで十分な結果が出たので、仕事はそちらに移譲します」

「やったぁ!」

 エディは大喜びでみんなとハイタッチする。リッチもこちらの責任ではないと解って謝ってくれた。それを見て美梅会長は満足そうに立ち去る。瑛輝は私の肩を叩いて言った。

「次はせいぜい賢く振る舞うことだ。でなきゃ提督業じゃこの先生きのこれないぜ」

「ねぇねぇ司令官!そうと決まれば早速陸軍の人に挨拶しに行こう!ほら、春雨ちゃんも、ボーとしてないで早く行こうよ」

 釈然としない私を置き去りに、佐世保への訪問は終わった。

 

 

 翌日、佐世保を出航した私達は、黄海を西進し、一路上海へ向かう。

「日本が見えなくなった」

「ここから外はミサイル防衛システム圏外だ。警戒は任せたぞ」

「了解!」

 エディ達に警戒を任せ、船団は潜水艦攻撃を警戒し、3列横隊で進行する。左右翼端を第3護衛艦郡のフリゲート艦『たんば』『たんご』が固め、後方を陸軍船団、前方を56駆逐隊がピケットする。私が乗艦する『わかさ』は船団中央に位置し、旗艦として指揮と警戒に当たる。

「いやはや、海軍にもこれほどの艦が残っていたとは・・・」

 ブリッジで室伏大佐が指揮を取りつつ、堤大佐に言った。

「いえいえ、深海棲艦出現以前の老朽艦で、武装もなく使い道もないという理由で、後方に押し込められて昼寝するばかりです」

「ははは、堤くん、室伏くんは乗員の質のことを言ったのだよ。船舶部でもこの手の揚陸艦や護衛艇を持つようになったが、専門の士官育成に苦労していてね。海軍も予算削減を食らってるのにこの質を維持しているのは並じゃないと思ったのさ。どれ、艦ごと陸軍に鞍替えしないかね?」

 井上中将が冗談交じりに尋ねると、堤大佐は生真面目に辞退する。堤大佐はもちろん、陸軍船舶部の室伏大佐、その先任者でもあったらしい井上中将も、海上護衛に関しては優秀な指揮官だ。船団は彼らに任せて間違いないだろう。

《定時報告。現在異常なし。リッチが来たから交代するね》

 折よくエディが交代を知らせた。駆逐隊は3分隊に分けて、2つが警戒、1つが休憩のローテーションで哨戒に当てている。リッチがテキパキ指示してくれたおかげで、私は何もしていない。

(・・・周りが優秀すぎて辛い)

 ボロを出さないですむのはいいのだが、あまりにも場違いな自分が居てどうにも落ち着かなかった。

 そんな私の心中を察したのかは判らないが、井上中将は私に休憩を勧めてくれた。休憩室に入ろうとすると、ちょうど出ようとしていたナース服の少女とぶつかってしまった。少女の持っていた缶が床に散乱する。

「あっ、ごめんなさい。どうしよう・・・急いで拾わないと・・・」

「あの、手伝いましょうか?」

「えぇ、たすかりま・・・ひぃ!た、た、橘は武器なんて持ってませんから!」

「あっ、ちょっと・・・」

 少女は缶を拾い終わらないで走り去ってしまった。赤十字の腕章をつけた看護士がどうして武器を持ってるのか疑問に思ったが、少女が拾い損ねた缶珈琲を開けた(自販機はすぐそこにあるので、冷めたものを渡すよりは後で弁償すればいいと思ったのだ)。

「ふぅ・・・」

 カフェインが体に入って脳がすっきりする。流れでここまで来てしまったが、フィードバックすべきことは多い。遠征スケデュールの問題点の整理、妖精さんの商売の決算、敵意を示した呉への対処・・・先が思いやられる。

「とにかく、今は目の前のことだ」

 堤大佐から学んだのは現状の即時的な判断力だ。今は海の上、遠い見通しばかり見てくよくよ悩むより、今の任務を果たすことに集中すべきだろう。私が決心を固めて休憩室を出ようとすると、少女が入ってくるのに気づいた。先ほどの看護士さんだと思ったが違った。少女は私を見るなり抱きついてきた。

「しれいかん・・・さん・・・」

「春雨?一体何があった」

 そこには青白い顔をした春雨がいた。目には涙が、怯えるように私に縋り付いていた。

「助けて・・・下さい・・・。私を・・・殺してください」

 




 外交編

神通「さて、次は外交編です」
那珂「これも各鎮守府の強い個性が出るよね。ぶっちゃけ鎮守府の対立ってこれが原因でしょ?」
神通「はい。攘夷を主張する呉と対米関係を重視する横須賀との対立は、これまでの物語で明らかですが、佐世保は極めて独自路線を行ってます」
川内「兵器編で出た外人部隊や欧州交易のこと?」
神通「はい。佐世保はアジアの『旧植民地』交易を重視していると言いましたが、実はその向こうのEUとも独自の外交ルートを持っていると言われています。実際、潜水艦を通じた欧州との技術交換、兵器の融通を行っています。一宮家の長男が過去に独逸、弟が現在英吉利の駐在武官に派遣されていることからも、EUとの関係は明らかです」
那珂「この前の比島事変(ABDA逃亡記参照)で真っ先に援軍を出したのも佐世保だったよね」
神通「はい、彼らにとってEUは実質的な経済・軍事同盟国であるといえます」
川内「なら、エディちゃん達にとっては、海外艦に理解のある味方って事じゃないの?でもそれだとテレビであんな扱いはしないよね・・・」
神通「姉さんの言う通りです。実は佐世保には、アメリカと相容れない重大な対立があるんです」
那珂「対立って、呉みたいな恨みとか?」
神通「いいえ、イデオロギーとか歴史問題的な対立ではなく、より実際的な対立です。1章第一話を思い出して下さい。現在アメリカは深海棲艦戦争での遅れを取り戻すために、レンドリース法を可決して第3国に兵器供与を行っています」
川内「それでエディちゃんが来たんだよね」
神通「はい、アメリカはレンドリース法の目玉として、海外供与歴のある艦娘の旧供与国への分配を掲げています。それまで列強の占有物であった艦娘を世界に拡散する事によって、軍事的優位を見せつけようという狙いです。そしてその対象には、台湾を始めとした日本の保護国が含まれているんです」
那珂「一宮財閥の財源は艦娘を利用した軍事サービスの提供だから、もしみんなが艦娘を持ったら商売上がったりだもんね」
神通「縮小したアメリカや崩壊した中国に変わってアジアの警察をやっていた佐世保にとっては痛い話です。一方で、比島が陥落したことによって、第7艦隊のイージス艦やら、戦車とヘリを満載した揚陸艦などの艦娘以外の兵器も『オマケ』でぞろぞろとアジア各地に拡散しました。国内の武器輸出規制で堂々と『軍艦』を輸出できない佐世保を尻目に、アジア諸国の軍事バランスはアメリカ指示に傾きつつあるのです」
川内「たしかに台湾政府は、日中戦争以前の中華民国時代に輸入した寧海型の帰属問題で上海と揉めてたよね。雪風を渡す案も当人の拒否で失敗したし、台湾は佐世保を見限ってたのかもね。艦娘を持つことができない国は、もっと佐世保を嫌ってるだろうし・・・」
神通「アメリカと佐世保のアジア覇権争いにはもう一つ重大な要因があるのですが、今回はここまでにとどめておきましょう。それでは」
川内「次回も」
那珂「お楽しみに!」
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