駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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第58話 Lost

「私を・・・殺して下さい」

 私は唐突な春雨の発言に言葉を失う。無理もない、少し怖がりなところもあったが、遠征前には張り切った様子で、昨日再会した時も元気だったはずの春雨が、ここに来て唐突にこんなことを言い出したのだ。

「春雨、早まっちゃダメだ。一旦落ち着いて経緯を聞かせてくれ」

 私は春雨をベンチに座らせて呼吸を整えさせる。ついでに拾った珈琲も渡して、しゃがみこんで同じ目線で向かい合った。

「落ち着いたか?」

「はい・・・」

「取り敢えずなんであんなことを言ったか教えてくれ」

「はい・・・」

 呼吸を整えると、春雨はゆっくりと話し始めた。

「実は・・・2週間前からの記憶が無いんです・・・」

「え?」

 2週間前、つまり今回の遠征を発表した直後からということだ。

「風呂場で私に相談した時の事は覚えているか?」

「はい。あの後、お薬がなくなって、慌てて探したんです。でも、どこにもなくて・・・」

 心当たりがありすぎる。だがあれを棄てたのは春雨自身だった。

「あの薬は遠征当日に、君が棄てたよ。そのことは覚えてる?」

「!?・・・そんな・・・あれがないと・・・私・・・」

 春雨は大きく動揺する。本当に覚えていないのか?前にもこんなことはあったのか?聞きたいことは山ほどあるが、取り敢えずその薬をなんとかすべきだろう。

「薬は何だったか判るか?」

 幸いにもこの船は司令設備に特化したもので、医療施設も充実している。薬の調達は容易だろう。しかし、春雨は首を横に振る。

「あのお薬は姉から貰ったんです。怖くなった時に飲めば落ち着くって・・・」

 薬はおそらく鎮静作用のある精神安定剤だろう。しかし腑に落ちないことがある。彼女が薬を使わなかった2週間、春雨の精神状態はむしろ安定、いや快活さすらあった。

「春雨、私の知る限りここ2週間の君は精神的にほとんど問題はなかった。おかしな行動もなかったし、遠征も問題なく乗り切った。君は本当は、薬なんてなくても生きていけるんじゃないのか?」

 春雨の要領を得ない回答につい疑念をぶつけてしまう。春雨は答えることが出来ずに黙りこんだ。少しの沈黙の後、春雨は意を決した様子で切り出した。

「私じゃないんです・・・全部。実は私の中に・・・」

「春雨ちゃん!」

 春雨がなにか言いかけた時、エディと先ほどの看護士が休憩所に駆け込んできた。2人共ひどく慌てて、看護士の方は息を荒く肩を上下させていた。

「エディ?どうしたんだ?」

「敵襲だよ。司令官は早くCICに行って!春雨ちゃんも出撃するよ!」

 敵襲・・・その言葉に緊張が走る。恐れていた本番が来てしまった。エディは時間が惜しいのか春雨の手を掴んで部屋を出ようとする。私は慌ててエディを止める。

「待ってくれ。いま春雨は出撃できるような状態じゃない」

「どういうこと?」

「さっき春雨から相談を受けてた。彼女の常備薬がなくて精神的に不安定になってる」

 私はエディに状況を説明した。

「でも常備薬だなんて、わたし知らなかったよ。なんで言ってくれなかったの?」

「それを今聞き出そうとしてたんだ。エディ、今は春雨の出撃は控えさせてくれ」

「それは出来ないわ。船団全員の命がかかってるんだもの。お薬は戦闘のあとでも調達できる。でも敵はいま対処するしかないわ。指示を聞く耳と銃を打つ手が残ってる限り、わたし達がなんとかするしかないの。それがわたし達の義務だよ」

「・・・・・・」

 エディの言葉に私は反論できない。だからといって今の春雨は自殺願望すら持っている。それを前線に出すのは・・・

「出撃します」

 春雨は思い立ったように言う。

「春雨!正気か?」

「はい、大丈夫です。足は引っ張りません」

 決心とも諦観とも言える表情で春雨が言った。同時にミサイルが発射され低い砲声が艦内にも響いてきた。もはや一刻の猶予もない。

「わかった。出撃を許可する・・・だが、安全を最優先に。エディは春雨から目を離さないようにしてくれ」

「うん。私の部隊では誰も死なせないよ。司令官もサポートしてね」

 私達はそれぞれの持ち場へ走る。これが船団全体を危険に晒す重大な誤りだと気づかないまま。

 

 

 エディが艦隊に合流すると、ハミルトンから通信が入った。

《こちらハミルトン。あきつ丸の哨戒機が持ち帰った写真の照合が完了した。端末にデータを転送する》

 リッチの持っている通信端末に敵の映像が映る。エディは敵艦が古いということ以外の情報は得られなかった。

「見覚えのない型ね」

《敵は前弩級タイプ1隻と装甲巡洋艦タイプ2隻、護衛のイ級が3隻だ。船団2次方向を15ktで航行。20分で接触する》

「前弩級・・・図書室の教本に載ってたが、生き残りがまだ居たとは」

 Верныйがつぶやいた。前弩級タイプは2019年人類が初めて発見した深海棲艦で、日本海事変や第一次深海戦争で見られた、最初期の深海棲艦だ。この海域を騒がせていた不明艦の正体は、一世代前の戦争の幽霊艦だったのだ。

「相当のレア物みたいだね。だけど強いの?」

《敵戦艦は最速20ノットも出ない鈍足艦だが、主砲だけは30cm級の強力な砲を積んでいるらしい。最悪船団を迂回させることもできるが、その場合上海到着は2日遅れるとのことだ》

「その必要はない。僕達なら排除できる。違うか?」

 リッチが自信満々に言う。ハミルトンは少しためらったが、命令を出す。

《・・・解った。船団司令の許可も出た。陸軍船舶部隊は船団を直掩に、第56駆逐隊は船団が海域を離脱するまでの間、敵艦隊を『足止め』、船団の退避が完了し次第すみやかに撤退し、船団へ合流せよ》

「了解!みんな聞こえたね!わたし達は敵艦隊を『排除』して、船団の活路を開くよ!」

 エディはすぐに進軍を開始した。相手は戦艦とはいえ、観測機関が未熟で偵察機もない前弩級だったこともあり、敵との交戦は思ったよりも遅く始まった。エディたちの周囲に水柱が走り、波が体を大きく揺さぶる。深雪は見たこともないような大きさの水柱に思わず振り向いた。

「くそ、なんだよありゃ・・・直撃したらバラバラになるぞ!」

「深雪、集中して。怖いなら私の背中を見てればいい」

 リッチは深雪を窘める。近づくほど鮮明になる敵主砲の咆哮に、他の隊員も動揺するが、エディとリッチはひるまず前進を続ける。

(一体どんな経験をすればここまで落ち着いていられるんだ)

 深雪は迷うことなく自分たちを先導してくれるエディ達を見て安堵し、同時に奮い立たされた。

「わかったよ。訓練通りにやればいいんだよな!」

「その意気だよ、深雪ちゃん!」

 エディは深雪が覇気を取り戻すのを見て安心し、突撃を再開する。敵の攻撃は大きな曲線からより直線的なものになり、エディたちを掠めていった。

「司令官!海軍に砲撃支援を要請して!敵の攻撃が激しい」

《ウィルコ(了解)!任せてくれ》

 すぐにミサイルが上空を通過し、エディたちの突入を支援する。第56駆逐隊は砲撃を回避しつつ、確実に距離を詰めていき、いよいよ駆逐艦の主砲の射程圏内に入る。

「反撃開始!魚雷発射前に可能な限り敵の副砲群を減らすよ!」

 旧式とはいえ相手は戦艦なので、駆逐艦の主砲では豆鉄砲である。狙いは上部構造物やケースメイト式の副砲群といった装甲の薄い部分だ。エディは照準を定めると、敵の装甲巡洋艦を狙って斉射した。砲弾は敵の頭部と副砲郡を打ち抜き、誘爆して被害を拡大させる。

《敵砲台沈黙。よくやった》

「次も行くよ!魚雷発射準備!」

 敵に決定打を与えるために、強力な魚雷が発射される。直撃すれば戦艦をも深手を負わせるそれは、駆逐艦の決戦兵器だ。

「喰らえーっ!」

「さて、やりますか・・・」

 放たれた魚雷は敵艦隊にまっすぐ向かい、副砲に被弾して誘爆火災を起こしていた巡洋艦に命中、周りにいたイ級を巻き込んで大爆発を起こした。

「へへ、やったか?」

 爆炎を眺めながら深雪が恒例のセリフを呟く。エディは冗談半分で、それ生存フラグだよと言おうとした直後、爆炎から真黒な影が現れた。全身が焼け爛れ、顔は半分吹き飛んで醜く変形し、左手を消失しながらも立ち上がる前弩級戦艦の姿がそこにあった。

「そんな・・・」

「う・・・おぇ・・・」

 圧倒的な敵の耐久力と、醜く変わりはてた姿に皆絶望し、深雪は吐き気を催す。漂う酸っぱい臭いに、エディは正気を取り戻した。

「みんな下がって再装填急いで!リッチは援護して!」

 エディは声を張り上げて体制を立て直す指示を出した。その声に引かれた前弩級戦艦は生き残った主砲をエディに向けた。

「エディ!避けて!」

 リッチの叫ぶ声にエディは反応しようとするが、すでに主砲は彼女を捉えていた。

(だめ・・・避けられない)

 エディは覚悟を決める。リッチはエディへの照準を少しでも逸らすために戦艦に攻撃するが、その効果は微々たるもので、砲弾はまっすぐエディを捉えて・・・

「ダメぇ!」

 春雨が前に飛び出して咄嗟にエディをかばった。

「春雨ちゃん!?」

 砲弾が装甲を貫通し、彼女の脚を撃ちぬいた。脚が砂糖菓子のように砕け散り、衝撃と足を失ったバランスで反転した春雨は、エディに倒れかかった。

「そんな・・・わたしのせいで・・・春雨ちゃん!しっかりして!春雨ちゃん!春雨ちゃああああん!」

 




戦闘描写が毎回ワンパターン・・・
駆逐艦で遠距離からだんだん接近以外にどうやって書けばいいんだ・・・
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