次に気がついた時、私はバケモノになってイました。仮初の足はもうなくなって、代わりにフロート型艤装がついて浮いています。水面に映る服は黒く変色して、肌も真っ白。完全に人間じゃありません。
「あぁ・・・ぁぁああああ」
変わり果てた自分の体を見て、慟哭します。
「なんてことを・・・私はなんてことを・・・」
私はあの時✕✕だはずだった。秘密を抱えて、教官を守って。なのに・・・
「ヲマエハ其レヲ望マナカッタ」
彼女が囁く。自分の臆病に嫌気がさしました。私は、✕✕までのたった数分の痛みに耐えられなかったのです。
「チガウ・・・ヲマエノ恐怖ハ其レジャナイ」
みんなはもうここには居ない。けれど、私を✕✕するために戻ってくるでしょう。そうなれば私は皆を傷つけなければなりません。そんなこと✕✕でもゴメンです。だから・・・
「ナニヲスル!ヤメロ!」
今からでも遅くありません。私さえ居なければ、私さえ✕✕できれば、すべて終わるんです・・・
「マテ!マツンダ!」
「・・・さよなら・・・村雨姉さん・・・」
変形した砲塔を頭に向け、引き金に指をかけます。この姿を晒してしまったのは不覚でした。ですが、これで誰にも迷惑をかけずに✕✕できます。目を閉じて、引き金に欠ける指の力をいれて・・・
「あれ・・・?」
いつまでたっても砲弾が頭蓋を砕くことはありませんでした。なぜって?指が動かなっかったんです。
「どうして!どうして動かないの!?」
私はめいっぱい左手に力を入れます。しかし、指は動いてくれません。それどころか指が硬直して、ますます動かなくなるんです。
「イイカゲン、気付カナイフリハヤメロ・・・ホントウハナニガコワイカ知ッテルクセニ」
「知らない!私は、皆を傷付けたくなくて・・・」
私は彼女の声を必死に抑えます。其れは艦娘としてあるまじきことだからです。ですが彼女は、私の焦心を嘲るように最後の矢を投げました。
「自分モ殺セナイクセニ・・・」
「あぁ・・・あああぁぁあああ」
私は・・・死ぬのが怖かった。あの時そう思ってしまったんです。だから、彼女に頼って、戦いから逃げて・・・
「モウ、オマエハニンゲンデハナイ。ニンゲン達ハオマヘヲ殺ソウト狙ッテイル。奴等ノ偵察機ガ見エルカ?」
空には陸軍の哨戒機がカメラを向けています。いや!私を見ないで!
「奴等オマヘヲ殺シニ戻ッテ来ルゾ。バケモノ二ナッタオマエヲ!同胞ヲ殺サレタ深海棲艦モダ!」
「いやぁあ!やめて!」
「泣イテモドウシヨウモナイ。ナニセオマヘハ自分モ殺セナイ臆病者ダカラナ」
「うぅ、うぐぅ・・・うああぁあ。助けて・・・誰か・・・」
「オマへヲ助ケラレルノハワタシダケダ。ワタシト春雨ハ一蓮托生ダ」
「どうすれば・・・いいんですか・・・」
「簡単ナ話ダ。誰モ脅カサナクナルマデ強クナレバイイ。材料ハスデニ手ノ内二アル。後ハ任セテオケ」
周りに浮かぶのは、撃ちぬかれた深海棲艦の残骸。心の声に言われるがままに、彼女はそれに手を伸ばす。
《突入までは陸海のヘリ部隊が支援する。駆逐棲姫を優先して撃破してくれ》
「うん。わかった」
エディは通信で作戦を確認する。あの後陸軍は駆逐棲姫の残骸と春雨の身体検査を条件に、ヘリの援護と鹵獲作戦を打診してきた。春雨を売る事になる提案にハミルトンは躊躇ったが、なんとしても春雨を取り戻したいエディと、敵を突破しつつ未知数の相手と戦うのが現実的に厳しいと考えたリッチの後押しから、『春雨』に手を出さないことを条件に陸軍の案を受け入れた。
《仕留め切れない相手は海軍が始末する・・・いざとなったらこちらに連絡してくれ》
ハミルトンの乗った海軍のヘリも作戦に参加するために飛び立つ。対深海棲艦用のミサイル精密誘導装置を搭載したヘリが上空に待機し、不測の事態に備える。もしエディ達で手に負えなくなった時は、海軍の対艦ミサイルで倒す。その判断は、ハミルトンに委ねられているのだ。
《ここで見ていることしか出来ないが、春雨を、頼んだぞ》
「うん。皆、聞こえたね。必ず6人で帰ろう!」
「了解!」
エディ達はヘリを伴って進撃を開始する。周辺の敵はこちらを狙うが、陸軍のヘリが露払いしてくれる。対戦車ミサイルであっても、トップアタックが直撃すればイ級程度は数発で沈むのだ。
《敵艦撃破。案外やれるもんだな》
陸軍のヘリガンナーが呟く。確かにエディ達にとってこの攻撃は心強い。しかし、深海棲艦もやられるばかりでなかった。ここのイ級は旧式すぎて対空火器すらないものばかりだが、それでも主砲の直接照準でヘリを狙い始める。
「ヘリを守って!攻撃!」
エディはヘリを狙う深海棲艦を砲撃する。イ級は直撃を喰い、狙いが其れ、深雪の追加攻撃で撃沈した。
《助かった。ありがとう!》
「司令官、前に出過ぎないで!他のヘリも、犠牲を出さないようにしてください!」
この事態は自分たちが引き起こした以上、出来る限り消耗せずに終わらせなければならない。援護してくれるヘリも、船団を守る陸軍の船舶娘もだ。
「この勢いで行くよ。みんな、急いで!」
エディが皆を鼓舞をしようとしたその時、ハミルトンが慌てて通信してきた。
《っ!・・・急速に接近する反応が・・・敵を撃破しながら突破している》
「春雨ちゃん!」
目の前の深海棲艦を蹴散らして、駆逐棲姫がエディ達の前に現れた。
「春雨ちゃん、聞こえる?わたしだよ!意識があるなら答えて!」
「春雨!そんなかっこやめて戻って来いよ!みんな困ってるんだぞ・・・」
エディ達は呼びかけるが、春雨は答えず、うわ言のように何かつぶやいている
「シズミタクナイ・・・ツヨク・・・ナラナイト・・・」
「くそ、聞こえてないか・・・」
「あかん、こっちに来るで!」
浦風が叫ぶ。吸収した戦艦の主砲をこちらに向けた。
《やむを得ない。発砲を許可する!駆逐棲姫を撃破せよ!》
戦いの火蓋が切って落とされた。
春雨ちゃんってもしかして左利き?