「それでは、作戦終了と春雨ちゃんの退院を祝して!」
「「「乾杯!」」」
数日後、上海租界の一宮グループ経営のビルの一室で、作戦終了と春雨の退院を祝したささやかなパーティーが行われた。
「は~い、平海特製麻婆豆腐出来上がりアルヨ」
「わぁ、美味しそう」
「たんと食べてくださいね」
「はい、寧海さん達も手伝ってくれてありがとう御座います」
「いえいえ、ここの警備は暇なので。ハミルトンさんも、楽しんでくださいな」
料理は租界警備部隊の艦娘の寧海と平海が振る舞ってくれた。日本生まれの寧海と、中国生まれの平海という奇妙な姉妹艦がこの小さな部隊の主戦力であり、上海市の独立と佐世保の影響力の象徴だそうだ。
「一時はどうなるかと思ったけど、春雨が戻ってきてくれてよかった。ありがとう」
「すべて皆さんのおかげです。私はそんな・・・」
「ほら、遠慮せんでええで・・・これ食べ」
「そうアル。早く食べないと冷めちゃうアルよ」
「は、はい!」
車椅子の上の春雨は皆に急かされながらも楽しそうだ。あの後、橘丸に応急処置を施され、『わかさ』で手術を受けた。予定より二日遅れて行われた日上・陸海合同演習の間は上海の病院で検査を受け、無事退院することが出来たのだ。
「室伏大佐や堤大佐も、今回はご尽力ありがとうございました」
私はパーティーに呼んだ将校二人にも礼をいう。今回の救出作戦成功は陸海軍の熟練と協力あってのもので、艦娘だけでできることではなかった。春雨が助かったのも、陸軍の迅速な処置のおかげだ。
「いいや、私としては部下を失うことなく作戦を遂行してくれただけで十分だ」
「部下を救えたんだろう、お前にしては上出来だったと思うぞ。まだまだだがな」
「まぁ、海軍が深海棲艦を跡形もなく吹き飛ばしてしまったおかげで、陸軍は何も得る物がなかったでありますが・・・」
あきつ丸が皮肉る。深海棲艦の取り付いた艤装は対艦ミサイルの直撃で完全に消滅し、春雨の体も何の異常も見られなかったという。
「そう言うなあきつ丸。気になることもあるが、今回は一つ貸しということにしておいてくれ」
「はい。これからも舞鶴をよろしくお願いします」
「それよりも、春雨殿は今後どうするのでありますか?艤装は完全消滅してしまったわけですし・・・」
「それは本人が決めることだ。春雨、まだ心の整理がつかないと思うが、何かやりたいことはあるか?」
戦うことが出来ない以上、もう軍に身をおく必要はない。五体満足で返せないのは無念だが、故郷に帰り普通の少女として生きていくべきだろうと、私は思っていた。しかし、春雨は違った。
「えっと・・・私は・・・軍に残ろうと思います」
「「え?」」
私とエディは驚いた。
「私、あの時教官の声と、司令官の言葉を思い出せたから、戻ってこれたんです。だから、私の出来る限りの恩返しがしたくて」
「それに、教官から、大切な思い出を貰ったんです・・・」
ガタッ
「リッチ、どうしたの?急に立ち上がって」
「いや、なんでもない。続けて」
「教官に貰った、新しい私の記憶。いつかまた、教官と一緒に戦える気がしたんです」
「それってもしかして・・・」
「新世代の艦娘になれるってこと?」
「はい!今すぐは無理でも、必ず見つけます。それまでは不束者ですが、よろしくお願いします!」
春雨は車椅子を向けて敬礼する。私はカメラを向けて、その光景を切り取った。
「・・・しかし、深海棲艦の潜伏工作員(スリーパー)か、きな臭いな」
「今のところ深海棲艦に捕まって生きて帰ってきた人間は少ないので、監視は可能でありますが・・・」
「最悪隔離病棟にでもぶち込みゃいい話だから簡単だな。だが、彼女の証言が本当なら帰ってくる気のない人間がいる事になる」
「人類種に対する裏切り、でありますか?」
「考えただけで吐き気がするな。この事は特務機関に調べさせよう」
あとがき
那珂「やっほー!那珂ちゃんだよ!おっひさ~!」
神通「長かった春雨編もやっと終わりですね」
那珂「いや~長かったね」
神通「9ヶ月連載で総31話。全話数の半分ですからね。他章への伏線撒きもありますが、もっと短くすることは出来なかったんでしょうか?」
那珂「提督日常話がへったくそだからね。撒くものは撒いたから、次は短いんじゃないの?」
神通「だといいんですが・・・」
ストーリー解説
神通「春雨編は心の影と戦う春雨さんの話でしたね」
那珂「2章を始めた頃は、単に自信のない春雨ちゃんをエディちゃんが励ます話だったんだけど、深雪編が休載してる間に公式が駆逐をぶつけて来たからピンときて見切り発車的に春雨編プロットを書きだしたそうだよ」
神通「その見切り発車の結果がこれですか・・・。まぁ、章開始時に皆さんも気づいていたでしょうが、春雨さんは捕虜になって改造され半深海棲艦になってしまったんです」
那珂「深海棲艦達は春雨ちゃんの深海棲艦を制御するためにどっかで見たような洗脳を施そうとしたけど、洗脳が不十分な状態で夕立ちゃん達に救出されちゃったから、深海棲艦の人格が暴走して春雨ちゃんを侵食し始めちゃったっていうのが真相だね」
神通「春雨さんは復帰しますが、深海棲艦に侵食されて精神不安定状態が続きます。心配した提督は春雨を後方に送った。これが回想の全貌です」
那珂「村雨ちゃんが渡した元気になれるお薬って、結局何だったんだろうね?」
神通「さぁ?まぁ、お守りみたいなものなので、単なるビタミン剤だと補完していただければいいと思いますよ。それでも春雨ちゃんの心の支えになってたのは間違いないですが」
那珂「この話の顛末からして、駆逐棲姫は春雨ちゃんの恐怖の強さに比例して強くなるから、薬がなくなる頃には恐怖も克服するって刷り込みで、駆逐棲姫は自然消滅したかもね・・・」
今後について
神通「さて、今後の展開についてですが」
那珂「深雪編と同じく、ハミルトン回をクッションに入れる予定だったんだけど、ちょっと話数を消費し過ぎちゃってるから、次章に行ってもいいかもね」
神通「それと、春雨編で目立った長過ぎるあとがき対策として、解説や世界観設定は新聞記事形式で別枠に表示することも検討しています。作者のモチベーションの都合上、実際やるかはわかりませんが・・・」
那珂「最初に言及したけど、次章からは今回までの話を元に伏線を回収する形になるよ」
神通「もし次回ハミルトン回をやらずに次章に突っ込む場合は、時間軸は少し戻ります。次章の主役は愛を知らなかった2人の少女。自らの背負った運命と、知ってしまった家族の温もりとの間の苦悩。似た者同士の2人は、運命の荒波にどう立ち向かっていくか・・・」
那珂「次章、・・・編お楽しみに」