駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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第69話 Our land Our blood

「で、なんであんたらがここに居るんだ?上は僕に関わらないんじゃなかったのか?」

「その筈なんだが、会ったもんは仕方ないだろう。アタシからすりゃ、お前が友だちを作ってたほうがびっくりだぜ」

「あんたには関係ないだろ!」

「2人共落ち着け。ほら、好きなもの注文しろ。そこの嬢ちゃんも遠慮するな」

 私達はアルバコアに連れられて街の中心部の喫茶店に居る。リチャードは終始不機嫌で、アルバコアに喧嘩腰になり、そのたびにアルバコアの付き添いの男・・・ロジャーや僕が止めに入るはめになった。

「そもそも、あんたら捕まったんじゃなかったのか?」

「あぁ、ひどい目に会ったぜ。なにせ俺が喰った連中がみんな居たからな・・・今だって特高の連中が2つ向こうの席で張ってるぜ」

 私が振り返ると、ハンチングを被った男がわかりやすく顔を隠す。少なくとも暴漢に襲われる心配はなさそうだ。

「一時はどうなるかと思ったが、条約は無事締結されたからペリーのおっさんが本国送還されて事件は『無かったこと』になった。んで残されたのは船とあたし達だ。船と船員は民間からの借り物なんで、本国へ帰る目処が立つまでの間はなんとかして養わなけりゃならない。それで本国の指示を受けつつ日本政府や軍の指示でいろいろ便利屋をやってたってわけ」

「今回は政府の命令でちょっとした『積荷』を届ける予定だったんだが、先方が取り込んでてな、補給も必要だったんで舞鶴に来たんだ」

 アルバコアの説明にロジャーが補足する。捕まったとかなんとかいうあたり、まっとうな商売ではないのだろう。リチャードも「どうせろくな商売じゃないんだろう?」と疑う。

「そんなことはないぜ。なにせ大統領直々の命令だからな。戦争の行方を大きく左右する重要な任務だ。お前のところにも渡すもんがある」

「僕を巻き込むな!」

「お前じゃない、あんただよ、お嬢ちゃん」

 アルバコアが突然私の方を向く。ロジャーは手紙とウォトカを取り出した。

「先方からの手紙だ。こっちからも人を送るから、仲良くやってくれ」

 リチャードはその手紙をひったくると中身を読む。

「おい、ルーチェ」

「うるさい!・・・くそっ、聞いてないぞ・・・」

 リチャードは僕の腕を乱暴に掴んで席を立った。

「二度と僕の前に現れるな!あと僕はリチャードだ!今度言ったら沈めてやる!」

 リチャードは私の腕を引っ張ると、止める声を無視してそのまま店を出て行った。

 

 

 鎮守府へ戻ると、そのまま弾薬庫に連れて行かれた。鍵をかけられて奥に追いつめられた私を、リチャードは襟首を掴んで尋問する。

「これはどういうことだ!昼間のアレといい、この手紙といい。アカのスパイめ!」

 リチャードが押し付けた手紙を読む。ロシア語で書かれたそれは、ウラジオストクの司令官からのもので政権交代で計画に変更がある可能性があり、着任を見送るとの旨が書かれていた。

「ロシアへ行くなんて聞いてなかったぞ!一体何のつもりだ!」

「え?」

 私はリチャードが何も知らないことに驚いた。

「私は教官が既に把握しているものと・・・」

「Demn・・・司令官め」

 リチャードは悪態をつくと私に掛けていた手を緩める。

「私は記憶が戻ったらロシアに引き渡される約束だったんだ。それで迎えが来るまで、この鎮守府で待機することになったんだ」

「国交もない国にか?あの国の政権はスターリンを信奉して何千万人もの自国民を虐殺したような奴等だぞ。昼間の人攫いも、リーダーはロシア人だった。目の前で攫おうとして手紙で延期するような奴等がまともなわけあるか!」

 リチャードは拳銃を見せる。私を攫おうとした男達は下っ端2人は中国人の破落戸だったが、リーダーがロシア語を話し身のこなしも軍人然としたものだったと思う。

「アルバコアが接触してきたのも怪しい。きっとCIAが裏で手を引いているんだ」

「その・・・アルバコアは君に似ていたが、もしかして君の姉妹かい?」

 私は気になっていた事を聞いてみた。するとリチャードは私のすぐ横の壁を殴った。

「僕の家族は姉さんだけだ!姉さんが僕を人間にしてくれたんだ!アイツのことは信用するな。今日はもう部屋に戻れ・・・」

 リチャードは私を弾薬庫から追い出した。私は部屋に戻ると、気が抜けたのか、急に恐怖感に襲われた。

「深雪、ちょっといいかな?」

「ん?何だ」

「ちょっと眠れなくて、一緒に寝てくれるかい?」

「へへ、響がそう言うなんて・・・まぁいいぜ。可愛い妹なんだしさ・・・頭突きだけはしないでくれよな」

「ありがとう、深雪・・・」

 私は深雪と毛布に包まると、その温もりに沈んでいった。

 

 

 翌日、リチャードは相変わらず不機嫌なままだった。整備後の動作確認を兼ねての訓練をしたが、彼女は最低限しか喋らず、目を合わせようともしなかった。エドワーズは特にこちらを意識する様子もなく、普段通りに接してきたので彼女には昨日のことは相談していないのだろうということは解った。

「それで、昨日の続きだが・・・」

 訓練が終わると、また弾薬庫で尋問を受ける。彼女自信も記憶に制限があるので、その糸口をつかむという名目付きだ。

「佐世保からの命令は、一方的に来た。私も司令官も、そんな約束は知らなかったし、思い出したばかりで・・・」

「どうして思い出した?」

「・・・暁が・・・姉が大怪我をしたんだ」

 あの時のことを思い出す。ほんの少し目を離した隙に、大切なモノは皆消えていく。

「私の素体は孤児だったから、家族を得たのは艦娘になってからなんだ。だから、家族を守りたい思いで必死に頑張ってきた。なのに・・・思い出す記憶はみんながいなくなって、一人ぼっちになる記憶だった」

 気が付くと、特型は私一人になっていた。疲れきって虚ろな目をした帰還兵達を運び、最期の役目を終えて、戦争の記憶とともに死ぬはずだった私は、戦勝国の身勝手な分配で、多くの捕囚の民と遠い北の大地へと送られた。

「祖国が戦争を忘れ次の時代へ向かうとき、私達は異国の地で働かされ続けた・・・私達は必死で耐えた。いずれ祖国が私達を思い出し、救ってくれると信じて・・・この港に、祖国に帰ることを信じて・・・!私の体は今もあの冷たい海に沈んでいる。家族に合うことの叶わなかった多くの同胞たちの魂とともに・・・祖国は私達を見捨て、忘れた。私は、ただ家族を抱きしめたかっただけなんだ!」

 つい熱くなってしまった。自分は、彼らではないのに。記憶を植え付けられた兵器にすぎないのに。彼らと自分を重ねていた。

「それが君の本心か?」

「そうだ・・・自分ではどうしようもない運命さ。君達勝者の影のね」

「・・・はぁ、くだらない」

 リチャードはそう切り捨てた。私の記憶を、苦悩を、思いを・・・即座に怒りが湧き上がって拳を振り上げそうになった。リチャードはそれを冷めたままの瞳で言った。

「負けた気になってるんだったら勝手にそうしてろ。僕には姉さんとの生活があるんだ。手に入れるために足掻いて足掻いて、完璧ではなくても手に入れたんだ!運命なんて言い訳している奴にかまってなんていられるか」

 扉を叩く音が聞こえた。どうやらエドワーズが来たらしい。リチャードは扉を開けて彼女を迎え入れる。

「私の上司はよくこう言ってた。『欲しいものは人から奪ってでも手に入れろ』。運命なんて僕は信じない。世界を変えるのはたった一人の意思だ」

 

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