駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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第70話 自らの意思

 エドワーズの事務を手伝った後、部屋に戻りさっきのやり取りを思い出す。

 

『私は、ただ家族を抱きしめたかっただなんだ!』

『それが君の本心か?』

 

 私は感情的になっていたとはいえ、家族に会いたいと言ってしまった。私は本当は彼女達が羨ましかったのだ。似た境遇でありながら、家族と離れ離れにならずに力強く生きる彼女達が・・・しかし、リチャードはそのために大きな代償を払ってきたのだ。

 『欲しいものは人から奪ってでも手に入れろ』。彼女がいた世界はそんな理屈が罷り通るほど暗く、暴力的な場所だったに違いない。彼女がアルバコア達CIAとの関係をあそこまで嫌っていたのがその証拠だ。闇から這い上がって、黄金色の太陽のような優しい少女との生活を手に入れた彼女にとって、冷たい氷の檻の前で何もしない私は助けるに値しなかったのだ。

「私は・・・家族に会いたい。司令官と暁に会いたい・・・そのためなら」

 今頼りになるのはリチャードだけだ。司令官は味方とは思えないし、エドワーズも事態を大きくしてしまう可能性がある。司令官と密通している浦風も論外だし、他は巻き込みたくない。司令官に反感を持っていて、事情を知っているリチャードを説得するしか方法はなかった。

「さて、どうしようか・・・・」

 何か彼女を攻略する手段はないか?陸、海問わずリチャードの戦闘技能は私が見るに並以上だ。装備改造でエドワーズ達の妖精が復帰してからは射撃が正確になってしまったので、決闘で勝てるかは怪しい。

「何か利用できるものは・・・?」

 手紙と一緒に渡されたウォトカが目に入る。開けてみると、強いアルコールの匂いが広がり、相当きついものであるとわかる。私は徐ろにそれを口に含んでみた。アルコールの焼けつくような感覚が喉を通り、やがて血管へと伝わって心地よい気分にさせた。

「うん・・・これはいけそうだ」

 

 

「どういうつもりだ?」

「どうって、この前助けてくれたお礼さ」

 その夜、私は彼女を風呂に誘った。事前に深雪に風呂の話をそれとなくしておき、エドワーズと風呂にはいるように仕向けた。ついでに浦風が釣れたのは大金星だ。春雨は他人と風呂に入りたがらないので、風呂のサイズの問題から必然的にリチャードは私と入ることとなる。

「教官から聞いてるよ。送別会での飲み比べで勝ったそうじゃないか?」

「そうだが・・・」

「私もお酒には自信があるんだ。一人で飲んでも気が滅入るだけだし、飲みながら腹を割って話そう」

「バカバカしい。毒が入ってるかもしれないのに飲めるか」

「大丈夫さ」

 私はウォトカを器に注いで飲み込んだ。

「ほら、教官も飲んでくれ。エドワーズの言葉を嘘にしたいのかい?」

 姉思いな彼女に、この煽りは強烈だ。私から酒瓶をひったくると、度数40%の強力な酒をそのまま喉に注ぎ込んだ。温まって巡りの良くなった血管をアルコールが回り彼女の白い肌が瞬く間に真っ赤になった。

「ふん・・・ヒック。これえどうだ?」

 リチャードはろれつの回らなくなった舌で言う。私は自分の器に酒を注ぎ「勝負はまだまだ始まったばかりだ」と言った。

 

 

「うぅ・・・のぼせちゃった・・・」

「もうそろそろかな?」

 私はすっかり茹で上がったリチャードを風呂から引き上げる。リチャードはまだ起きている様子で、「姉さん、ありがとう」と言った。どうやら私をエドワーズと思い込んでいるらしい。好都合だ。私は彼女を部屋に連れ込むと私のベッドに横たわらせた。

「Верныйちゃんとは上手くいってる?」

「うん。なんだかむかしのぼくをおもいだしそう」

「どんなこと?」

「うん、えっと・・・かぞくがいないこととか」

 彼女は朦朧とした意識の中、過去を話し始めた。その内容は想像を絶するものだった。人間としての記憶も身寄りもない彼女は、CIAに身柄を渡され原隊の仲間に会うことすら許されないまま、人体実験や艦娘の使用が禁止されている対人戦に投入された。感情のない殺人機械だった彼女を、エドワーズが救い、彼女に依存するようになった。日本に来た目的は酸素魚雷を盗むことで、そのために島風を暗殺しようとした。東京襲撃も酸素魚雷入手のための陰謀で、事件が露見して舞鶴に隠れることになったのだ・・・

「ゔぇるはおねえさんのためにくるしんでる・・・まだいきているしまいのこと。ぼく、ねえさんのためになんでもしたのにかってにあきらめたゔぇるがはらだたしくて、つきはなしちゃった」

 彼女なりに私に思うところがあったのだ。彼女も私に諦めてほしくなかった。私はまだ姉妹を失っていない。ならば、家族のもとにとどまり続けるべきだ。誰よりも真っ直ぐな彼女はそう思っていたのだ。

「ねえさん。ぼく、どおしたらいいのかな?ぼく、ねえさんとずっといっしょにいたい。でも、ゔぇるのことがあたまからはなれない」

 彼女は私に抱きついて上目遣いに見つめる。無垢な少女の心を覗いてひどく罪悪感が湧くが、私の未来のためだ。私は胸の中の彼女の髪を優しく撫でながら、答えた。

「簡単なことだよ。私にしてくれたみたいに、彼女にしてあげればいい。リッチは優しい子だから、きっと彼女の力になれる。だから、彼女に協力してあげて。約束できる?」

「うん!ねえさんだいすき!」

「うん。いい子だ」

「ねぇねえさん。おやすみのキスして。おふとんいっしょじゃないとねむれないの」

「うんうん。だいじょうぶだよ」

 私は明かりを消して、リチャードの唇を・・・

 

 

「Facker!くそ、くそっ、よくも僕の秘密を・・・」

 翌日、案の定リチャードは顔を真赤にして怒る。

「欲しいものは奪ってでも手に入れろ、そういったのは君だろう?」

「だからって、もう!・・・うっ、おぇえええ」

 2日酔いの吐き気でリチャードの顔が青くなる。あれだけ飲ませたのだから無理も無い。

「私達は秘密を握り合うきょうだいだ。昨日の言葉通り、助けて欲しい。私の、家族に再び合うために・・・」

 私は土下座して改めて助けを求めた。リチャードも観念したのか、私に例の拳銃を差し出した。

「まずは自分の身を守れるようになる事からだ。僕を失望させるな」

「あぁ」

 私達の運命は大きく動き始めた。

 

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