駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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第75話 別れ

 舞鶴に帰還すると、基地司令と横須賀鎮守府の山岸という提督が現れた。

「初任務お疲れ様。初陣で高位の深海棲艦に遭遇して、しかも倒すなんて、君って本当に天才かもね」

「大本営も君の戦果を高く評価して、昇進を決定した。これからも励んでくれ」

 山岸は司令官に少佐の階級章を渡すと、横須賀へ帰っていった。

「戦ったのは姉さんなのに・・・」

「いいじゃないか、私達が軍令部に戦力としてカウントされてるってわかったんだ。これで任務も来るようになるさ」

 私は不満を漏らすリチャードをたしなめた。予想通り、それから鎮守府に任務が舞い込むようになった。簡単な護衛任務や、民間船徴収の手伝い、不審艦の捜索などを行った。任務先の艦娘との対外演習も行い、台湾のエドワーズの姉妹艦とも戦った。

 一方、訓練の充実も逐次行われた。

「空挺投下は無理としても、ランペリングぐらいはできるようにした方がいいと思うんです」

「でもリッチ、ヘリとか飛行機とかうちの鎮守府が借りるのは無理があると思うの」

「姉さん。縄の登り降りぐらいならここでもできるよ。うちはどうやったって遠征することになるから、戦闘地に降りることも考えると展開が早くなる訓練は必要だと思うんだ。司令官もそう思わない?」

「あぁ。ヘリについてはおやじさんに相談してみるよ。でも嬉しいな。実戦一筋だと思ってたリチャードが訓練のこともしっかり考えてくれてたなんて」

「別に・・・司令官のためじゃないよ」

 私の特訓もしっかり手伝ってくれた。暫くはロシア側の接触もなく、人間関係も改善された鎮守府は最初の頃と比べると見違えるようになった。

「事は思惑通りに運んでるね。ここまで上手くいったのは、Bерныйの助けがあったからだ」

 時々、ここが自分の求めていた場所じゃないかと思う。愛情を注げば、それが帰ってくる場所。暁が言っていた、私の居場所は、ここなのではないだろうか?

「姉妹、君が良ければこれからも一緒にいてくれないか?」

 ここにずっといたい、リチャードや深雪達と一緒に、暁の水平線を超えたい。そんな誘惑に駆られ、私は頭を振った。

「買いかぶらないでくれ。お互い、利害が一致しただけさ」

 彼女はあくまで姉妹の代わり、手伝ってもらっている立場で、本当の居場所ではない。そう、心に言い聞かせる。

 

 

「いい?みんな、降下地点についたら、ロープをおろして降下。展開して着陸地点を確保、ヘリを降下させて撤収する。いいね?」

「「了解!」」

「それじゃあ、おやじさん。よろしくお願いします」

「任せてくれたまえ」

 その日、僕達は『わかさ』の艦載機整備員で輸送機乗りの『Pops』ことおやじさんの操縦で、ヘリボーン訓練に出ていた。遠征以来司令官の懇意というこの男は、明らかに日本人ではなく、強い酒の臭いが微かにしたので不審に思っていたが、操縦の腕はなかなかで人当たりもよく、妖精からも好かれる不思議な人物だ。

「よし、停止した。いつでも降りられるぞ」

 司令官の合図でロープが投下される。

「降下して!」

「よし、いくぜ!ってわああぁあああ」

「深雪が落ちた!」

 一番に飛び出した深雪だったが、ロープをちゃんと確認しなかったのか、勢い余って落下した。

「深雪―!大丈夫か!」

「ヘリの風圧にやられたぜちくしょー!」

「あの元気さなら問題無いだろう。訓練中止!司令官、担架を取って。他は降下して深雪を運ぶんだ」

 深雪がヘマをしたせいで、降下訓練は救難訓練に変更となった。僕らは地上に降りて、深雪を収容するために担架をおろそうとしたその時、遠くからヘリの爆音が迫ってきた。

《Mi-17、ロシア軍がどうしてここに?》

 司令官が真っ先に動揺する。事情を知ってたんじゃないのか?なんであれ厄介なことになった。

「姉妹・・・」

「わかってる。取り敢えず僕の後ろに隠れて」

 ロシア軍のヘリは降下して、中から駆逐艦娘が何人か出てきた。駆逐艦娘の一人が出てきて言う。

「同志Bерный!お迎えに上がりました。我々にはもう時間がないのです!司令官より親書もお持ちしました。さぁ、早くこちらへ来てください」

 艦娘はロシア語でそう言うと親書を取り出してそれを見せた。ロシア語がわからない深雪達は何を言っているのかわからず当惑した。

「なぁ教官、あいつらなんて言ってるんだ?」

「『よぉ、ヤポニフスキー、クソは美味いか?』って言ってる。迎撃準備!」

 僕はアポ無しで接触してきたことを後悔させるために強行手段を使う。一触即発の雰囲気になるが、おやじさんのヘリが間に入った。

《ロシア人諸君。君達が何の目的を持っているのかは知らないが、ここは日本政府の主権の及ぶ海域だ。これ以上ここに留まるならば、海軍は実力を持って君達を排除するだろう》

 ロシア娘はこれを聞くと困った様子であったが、親書だけを手渡した。

「同志、我々はあなたを待っています!」

 さり際にそう言うと、ヘリに乗り込んで元来た方角へと戻っていった。皆の視線が、私達に向く。

「ねぇ、リッチ・・・どうしてあんな嘘言ったの?これってどういうことなの?」

「姉妹・・・」

「事情は後で話す。今は帰還しよう・・・」

 

 

 リチャードは基地に戻ると、エディ達にこれまでの経緯を説明した。彼女は手紙の事を隠して、私が2度も襲撃された事実を強調した。仮に見られてもロシア語が解るのは私達だけ、話は都合の良いように捻じ曲げられて、皆の反佐世保・ロシア感情は一気に高まった。

「響がそんな目にあってたなんて。そんな連中上官と呼ぶ必要もねぇ。ここは私達が立ち上がって響を守るべきだ!」

 深雪がそういったのを皮切りに、春雨、エドワーズが徹底抗戦を唱え始めた。浦風は納得していない様子だったが、白熱した皆の感情を抑えることは出来なかった。

「2人にはもっと早くに相談して欲しかったが、私も司令官としてこの事態を把握していなかった責任は取るべきだ。少し気になることもあるしな。状況がはっきりするまで、君の身柄は絶対に保証する。取り敢えず今夜は、皆で寝てくれ」

 

 

 皆が寝静まったのを見計らって、私は起き上がった。皆を起こさないようにそっとベッドを出る。

「ごめん・・・もう、これ以上迷惑はかけられない」

 皆が他人の私をここまで思ってくれたのは嬉しかった。でも、だからこそ、皆が傷つくのは見たくなかった。ここに留まれば、佐世保は皆に様々な嫌がらせを仕掛けてくるだろう。皆の思いをふいにしても、傷つくのは私一人で十分だ。背を向けて、部屋から出ようとすると、背中から声がした。

「Bерный・・・」

 リチャードだ。幸せそうな顔で寝言を言っていた。すべては彼女の言葉から始まった。

「不出来な姉妹ですまない。でも、ありがとう」

 私に夢を見せてくれて、私を強くしてくれて。君がいたから、ここまで強くなれた。私はリチャードの頭を撫でると、部屋を出た。名残惜しさに後ろ髪を引かれながらも、満月の海へと歩く。この鎮守府は私の本当に帰るべき家族ではなかったが、支えるべき仲間と、幸せがあった。暁の言っていた幸せを、図らずもここで見つけられた。深雪を助け、かつて傾きかけていた訓練部隊は、今は任務が来るようになった。

 整備棟で、艤装に描かれた鶏のエンブレムを眺める。向こうでは塗り替えられてしまうかもしれないそれを最後に目に焼き付けると、海に入った。

「До свидания(さよなら)・・・私の家族」

 鎮守府に別れを告げて、私は海へ出た。港の岸壁に着くと、煙草の明かりが黒い影を写した。

「よう、嬢ちゃん。お出かけかい?送ってくぜ?」

 競泳用の水着を着たアルバコアだ。

「あぁ、ウラジオストクまで頼む」

「了解、着いて来な」

 

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