CIAが謀略に気付いたのも同じ頃だった。ヘリから救難信号が出た直後、ヘリの応答が途絶えたのだ。
「メイソン!何があった?状況を報告しろ!くそ・・・ロシア人め!」
無線手がヘッドセットを投げつける。他のCIA職員たちも、自体の把握に奔走していた。アルバコアは無線手に飛びついて聞いた。
「おい!ロジャーは!アイツは無事なのか?」
無線手は首を横に振った。CIAは最初からロシア人に利用されていたのだ。
「くそ、くそっ・・・どうして・・・いつもこうなるんだよ!」
アルバコアが壁を殴る。壁は少しだけへこんで彼女の手から血が流れた。僕はといえば、それを漫然と見ていたが、すぐにBерныйに危険が迫っていると確信した。僕はトライデント号の船倉に飛び込んで銃を漁る。追ってきたアルバコアが僕を見ていった。
「おい!何する気だ」
「Bерныйを助けに行くに決まってるだろ」
「無茶だぜそんな!ロジャーも、彼女も、無事かもわからないのに?一人で戦争をしようなんて考えるな!」
「僕はあんたとは違う!Bерныйは絶対に生きてる・・・僕が絶対に助け出す」
「・・・・・・」
アルバコアは言い返せずに立ち尽くした。僕は消音器付きのSR-25を選び取った。もしもの時は艤装を使ってチリひとつ残らず吹き飛ばすつもりだが、可能な限り隠密に行動したい。
「ルーチェ・・・」
「僕はリチャード・P・リアリーだ。僕にからだをくれた『彼女』に誓って、僕は家族のためなら世界とだって戦う。たとえ・・・」
たった一人でも、そう言いかけたその時、船倉の外で大きな音がして、船員の男が階段から転がり落ちてきた。その後ろから降りてくる影・・・
「もう!一人でなんて言わないでよね」
「姉さん!」
姉さんと深雪がそこに居た。
「リッチが嘘を言ってることくらい、お姉ちゃんには丸わかりだよ!トライデント号があったなんてビックリだけど」
「響は私の妹だ。教官と同じぐらいに返しきれない恩もある。手伝うぜ」
2人もそれぞれ銃を選ぶ。部屋から出ようとすると、通信が入った。司令官の声で、かなり切羽詰まった様子だった。
《エディ、今何処にいる?》
「司令官?遅いよ!」
《ヘリの準備に手間取ってね。この事件の裏にはBерныйだけじゃない、世界の命運が掛かっているみたいだ。第3護衛艦群も支援する。何処にいるかわからんが近隣の米特殊部隊と共同してBерныйを救出するようにと狭川大佐からも指示を受けた。今すぐこっちに合流してくれ》
「了解!・・・ほら、みんなリッチの味方だよ」
姉さんが笑って言う。私とアルバコアは言葉が出なかった。これほど強力な味方が、あっという間に揃ったのだ。自分たちは思惑を持って必死に暗躍したつもりだったのだが結局、エディには遠く及ばない。エディはアルバコアを見ると、近寄って手を取っていった。
「えっと、リッチのお姉さん?違ったらごめんなさい。でも、大切な存在ってことは解るよ・・・Bерныйちゃんはわたしの大切な仲間なんです。彼女が居たから、リッチもわたしたちも折れずに頑張ってこれました。だから、一緒に戦ってくれませんか?」
エディの柔らかい手が潜水艦娘の冷たい手を包む。エディの温もりを感じたアルバコアは敵わないといった風で、エディを見つめた。
「ふっ、やっぱり、あんたが『リチャード』の姉で良かったよ。自分のケツぐらい自分で拭かないとな・・・いいぜ、共同戦線だ」
アルバコアは僕に、データの入ったUSBを手渡した。
「ウラジオストクの情報だ。基地の司令塔の1階に牢がある。彼女が捕まっているならそこだろう。近くにいる同僚たちには私が連絡をつけておく」
僕達が甲板で待機していると、Popsの輸送ヘリが降りてきた。ドアには機関銃が取り付けられて、完全武装の状態である。ヘリがホバリング状態で輸送船に横付けされ、浦風と司令官が手招きした。僕たちはすぐに乗り込んだ。
「みんな解っていると思うが、ロシアの基地がテロリストに占拠されて、Bерныйが危機にある。海軍とCIAは協働で基地を襲撃し、基地とBерныйをテロリストから奪還する。失敗すれば世界の終わり、成功しても外交問題になりかねない危険な作戦だが、覚悟は良いか?」
「当然!みんな行くよ!Bерныйちゃんを助け出して、ついでに世界もすくっちゃおう!」
「「「了解!」」」
「ん・・・ここは・・・」
ロジャーが殺された後、薬品で無理やり気絶させられた私は、気が付くと牢屋に閉じ込められていた。鉄の戸が固く閉ざされ、高い格子窓から細い光が入る暗い部屋。生まれてこの方規則に忠実だった私には縁のない空間に、戸惑いながらあたりを見渡した。
「よう」
窓の下の暗がりから声が聞こえて、私は心臓が飛び出そうになった、よく見ると、一人の少女がそこにいた。私よりいくらか年上の銀髪の少女は、私を見て言う。
「やっと起きたか、見ない面だが、何はともあれ来るタイミングが悪かった。私はムルマンスク。ここで隊長をやってる。アンタも艦娘だろう?力抜きな」
見た目に反して気さくな口調で自己紹介をしてきた。
「私は、Bерный。事情があって日本から来た」
「日本・・・ねぇ、賠償艦の話なら私も少しだけ聞いたことはある。深く詮索はしないが、『今度も』災難だったな」
ムルマンスクは憐れむ目をむけた。正直あまりいい気持ちではなかったが、彼女と協力しなければならない状況にあることは明らかであり、また薬のせいで妙に気分が落ち着いていた事もあって、その後は冷静に事情を説明して状況を聞き出すことに成功した。
「なるほどな。まさかロジャーが殺されるとは・・・私は大統領命令でここの基地司令を議会派に寝返らせる説得をしてたんだが・・・チビどもからアンタの話は聞いてる。地名が名前になってる身の上、アンタの名前はどっちも気に入ってたんだ。Ms.Eco」
エコーが英語で反響という事はエディから聞かされていた。それよりも、ロジャーが言っていた「アメリカ側」の工作員が彼女だったとは・・・ムルマンスクは落ち着いた様子で話を続けた。
「ロジャーが死んだとなれば潜水艦共が黙っちゃいないし、なにより追手の迫ってる以上マカロフもここに籠城はしないだろうから、私達はすぐに開放されると思う。問題は・・・」
ムルマンスクは苦い表情をする。なにやら気にかかることがあるらしい。その正体はすぐに解った。
「ここの艦娘達はどうなってる?」
「おそらく全員捕まってる。マカロフに寝返るなんてことはまずないが、あいつらじゃ艤装をつけたってテロリストには勝てない」
昨日私達の前に現れたロシアの艦娘達、彼女達がヘリに乗ってやってきたのは、単に艤装に慣れてないからだった。コルチャークがアメリカや日本から艦娘を欲しがったのはそういった事情があったのだ。
「助ける手立ては?」
「自力でここを出るしかない。港が妙に騒がしいから、逃げられる前に何とかしないとな。そこでだ同士、あの窓は肩車すれば届きそうだが、どうする?」
ムルマンスクは窓を指差して言った。同じ艦娘である以上、見捨てる訳にはいかない。何より、暁との約束がある。ここで諦めるわけにはいかない。答えは決まっていた。