駆逐艦「ありあけ」出撃します!   作:創生路ハイローラー

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第80話 復讐者達との邂逅

 牢獄の壁に何かが激突し、土埃を上げて崩れ落ちる。爆発が起きなかったことから不発弾かと思ったが、驚くべきことに牢屋の壁に突っ込んだ何かはすぐに後退して、中から複数の人影が現れた。手に銃らしきものを持っていて銃声が何発か聞こえる。そのうちの何人かが建物の穴に向き直って銃を向けた。

「伏せろ!」

 ムルマンスクの声で私は反射的に床に伏せた。直後に数発の銃弾が部屋を跳ねまわる。しかし、ムルマンスクの声が聞こえたのか、一人が「撃つな!艦娘だ!」と叫び、銃撃はすぐに止んだ。土煙の中から、数人の男達が入ってきた。一人を除き、ボロボロの囚人服を着て、ひどく疲れた表情をしている。囚人服でない男は私達を見つけると、手を貸して立ち上がらせた。

「ムルマンスク、Ms Bерный、無事だったか?」

「あなたは・・・確か・・・」

「メイソン、ヘリで死んだと思ってたぞ」

 メイソン・・・たしかここに来る時にヘリの操縦をしていた男だ。運良く生き残っていたようだ。それよりも私は周りの囚人達が気になった。

「それで、この囚人達は何者なんだ?」

「ここの近くの収容所に捕らわれていた元兵士達だ。俺が運び込まれた時に、丁度反乱が起きて、ここに連れてきた。ヴィクトル・レズノフ、それで良いな」

 メイソンが囚人服の男の一人に話しかける。この男がグループのリーダーらしい。

「あぁ。我々は我々を貶めたあの糞野郎を始末せねばならんが、このままでは我々が先に深海棲艦の餌食となってしまう。私の盟友が今必殺の策を準備している。それが成功するには君達の助けが必要だ」

 私とムルマンスクは顔を見合わせる。深海棲艦が迫っているのは明らかであり、状況を打開するには私達が戦うしかない。答えは一つだ。

「わかった。だが私達の艤装と他の艦娘を探さないといけない」

「了解した、同志よ。我々は等しく捨てられた兵士だ。裏切られ、見捨てられ、忘れられた。今日この場において我々は兄弟だ。付いて来い、こっちだ!」

 私達はレズノフに続いて外に出た。外では囚人達が超国家主義者と戦っている。不意を突かれたこともあるが、浮足立つ超国家主義者よりも囚人達の方がはるかに統率が取れていた。

「我々は皆、母なる大地の呼びかけに応じて、深海棲艦と戦った。泥と血の海を偉大なる勝利を求めて!勲章でも、栄誉でもなく、正しきことのために!だが、政府は何もしてくれなかった!我々は国を変えるために、ザカエフに手を貸した!同胞の血で手を汚し、屍の山を築いても、我々はザカエフの正義を疑わなかった!しかし、指導者達は猜疑と迫害を持って我々に報いた!多くの兄弟が無実の罪で殺され、我々は飢えと病の蔓延る檻の中へと捨てられた!苦難に耐え、開放を信じ、かつて敵であった西側の捕虜たちとも協力して、腐敗した指導者に鉄槌を下す為、復讐の為に立ち上がった!」

「「Урааааааа!」」

 レズノフは基地を捜索しながら私達に演説を打つ。彼が言葉を発するたびに、囚人達は皆奮起して歩みを早め、敵を蹂躙する。深海棲艦の砲火が降り注ぐ中でも囚人達が逃げ出さないのは、彼らが2度の戦争を共に戦った戦友であり、記憶と思いを分かちあった同士だったからだ。

 基地に精通したムルマンスクとメイソンが案内したことで、基地の掃討は早く片付き、超国家主義者達を倉庫の一角に追い込んだ。

「この建物の中に女の子を連れ込む連中を見た!」

「よし!ぶち破れ、セルゲイ!」

 レズノフの隣りにいた、身長が2m以上ある大男が、持っていたツルハシでシャッターをこじ開ける。レズノフとメイソンが飛び込み、艦娘を処刑しようとしていた超国家主義者を射殺した。

「ひぃい!助けてくれ!俺は脅されただけ・・・」

「レズノフ、こいつらはどうする?」

「メイソン、奴等はマカロフに媚びて国を売った蛆虫だ。慈悲はない!」

 降伏しようと武器を棄てた兵士も、囚人たちにリンチされ、士官は情報を聞き出すために拷問にかけられる。私たちはならず者達の断末魔を背に、ロシアの艦娘を開放した。

「同志!助けに来てくれたんですね!私達が間違っていました・・・こんなことになるなんて。うぅ」

「名前負けしたくないだけさ。信頼の名は伊達じゃない。戦えるかい?」

「実は・・・まだ満足に動けないものも多く」

「戦う勇気があればいい。私達の背中について、言われた通りに撃つだけだ」

 私達は倉庫に転がっていた艤装を見つけて装備し、海へ入った。ムルマンスクが先導して指揮をとる。

「戦闘以外の経験ならたくさんあるんだがな・・・」

「何でもいい、援護して」

「Да.攻撃開始!」

 ムルマンスク達の援護を受けながら、私は敵に接近する。狙いは防波堤を超えて港の入り口に密集した深海棲艦。

「さて、やりますか」

 私はムルマンスクに気を取られた駆逐艦を主砲の斉射で破壊。近くにいたチ級を締め上げる。この動きはリチャードに教わったものだ。気づいた敵艦がこっちを向く。

「無駄だね」

 捕まえたチ級を盾にして攻撃を防ぎ、そのまま魚雷を発射して入り口に固まっていた敵を一網打尽にする。残った敵はムルマンスクが片付けて私達は防波堤を奪還することに成功した。

「Хорошо、やるな同志。皆も続け!防波堤を盾に防ぎきるぞ!」

「「Урааааааа!」」

 私達は防波堤を防衛線にして押し寄せる深海棲艦を凌ぐ。敵は重巡ネ級を旗艦に軽巡洋艦と駆逐艦が10隻ほど。重巡の援護の下、数で押し切ろうと殺到する。こちらは防波堤があるとはいえ、重巡の火力に防戦一方になった。

「同志!敵が多すぎます!」

「弾薬が足りません!撤退を!」

「下がるな!私達が攻撃を続けなければ基地に砲撃が行く。ここが私達のアラモ砦だ!」

 ムルマンスクが皆を引き止めてなんとか踏みとどまっているが、経験の少ないロシア勢と戦うのは無理があった。これでは末期の補充兵と変わらない。

「レズノフ!策はまだか?このままじゃ全滅する!」

《まだ同志たちの連絡はない。我々もすぐそちらへ向かう。防波堤を維持してくれ》

「くそ、逃げるんじゃないぞ」

 ムルマンスクが苛立って言う。レズノフを完全に信用できる証拠はない。マカロフと同じで彼も基地の武器を奪って逃げるのが目的の可能性もある。ダメ元で舞鶴に無線で救援を求めることも考えたが、今更そんなことは出来ない。

「リ級がこっちを向いた!砲撃来るぞ!」

 その言葉と同時に、視界がクリアになり、時間がゆっくり進んでいるような感覚に襲われた。死ぬときはこんな感じなのだろう。さっきと違って不思議と恐怖は感じない。戦って死ねただけ、少しはマシなのかもしれない。そんな諦観が、頭を過る。

(いけない・・・リチャードに怒られるな)

 最期に考えることがそんなこととは、自分の無意識に呆れる。とてもとてもゆっくりと、ネ級がこちらに狙いを定める。直射でまっすぐ私を狙ってきた。これは避けられない・・・

(До свидания)

 爆発・・・ネ級の主砲が火を噴き、煙が私達を隔てる。黒い影が私の頭上を通り、死んだのは私・・・ではなく、砲塔を破壊され、船体が真っ二つに裂けたネ級だった。鉄の軋む音とともに、何が起こったのかもわからないまま沈んでいくネ級と多くの深海棲艦達。そして、頭上を通り過ぎた巨大な猛禽のような影は、その力の源である一対エンジンの爆音を上げながら私の背後に静止した。

 

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