日本軍が到着したとき、船団ではシエラー号とミンダナオ号の船員の救助活動が行われていた。
一時は船員を見捨てて逃げようとペリーが強硬に主張したが、追手の深海棲艦の反応が消えたため、他の商船の船長たちがペリーを説得して、救助に戻ったのだ。
援軍の神通は、隷下の駆逐艦に乗員救助を指示し、護衛船団に残って唯一無事であったウェーク・アイランドから事情を聞いていた。
「では他の艦娘は皆戦死したのでしょうか?」
「私がぁ・・・なさけない・・・ばっかりにぃ・・・」
ウェーキィは泣き崩れてしまった。彼女曰はく、駆逐艦隊が敵艦隊に突入後、敵と味方の反応が同時に電探から消えたそうだ。彼女の航空機は全機対潜警戒に出していたため、駆逐艦隊がどうなったかの子細はわからないのだ。
神通はウェーキィの肩に手を置くと、慣れた様子で慰める。
「大丈夫ですよ。敵艦隊はもういないんですから、今からでも捜索隊を送れば、きっと・・・」
言い終わる前に、船団の見張りが何か叫んだ。
「帰ってきた!彼女達だ!」
地平線にかすかに影が見える。キンバリーとトワイニング、マラニーが、ヤーネルとリッチ、そしてエディを曳航して戻ってきた。
「みんな、やったぁ!」
ウェーキィに笑顔が戻る。神通もそれを見て微笑んだ。
「ほらね、みんな戻ってきました」
船乗りたちは大きな歓声を上げて小さな英雄たちを称えた。日本の艦娘たちも感心した様子で、異国の艦娘を称賛した。
「彼女たちも疲れ切っています、出迎えてあげてください」
神通が駆逐艦たちを向かわせる。雪風はキンバリーに近づくと、肩を貸そうとした。キンバリーは疲労で意識がはっきりしなかったが、雪風の顔を見ると驚いた様子で話しかけた。
「丹陽さん?・・・!?・・・丹陽ちゃん!久しぶり!」
台湾組も驚いて雪風を見る。しかし雪風は困った顔をした。
「あのぅ?いつお会いしましたっけ?というか、私は雪風ですよ。丹陽って誰ですか?」
「覚えてないの?私だよ、安陽だよ!慶陽も貴陽も昆陽もいるよ!あなたの指揮下だったじゃない」
「雪風は駆逐艦ですよ、旗艦なんてやったことないですし、アメリカ人に友達はいません」
雪風はますます怪訝な顔をした。それを見てキンバリーも何かを察した様子であった。
「そう、まだ記憶がないんだ。でも、いつかまた・・・一緒に・・・」
キンバリーはここで体力の限界が来て眠ってしまった。トワイニングとマラニーも口を閉ざす。雪風はいよいよ何もわからなくなり、舞風に質問してみた。
「なんだったんでしょう?」
「さぁ?」
舞風は肩をすくめた。
船員や日本の艦娘に抱えられて甲板に上げられたエディ達は、そのまま気絶するように寝てしまった。全員艤装の損傷が激しかったが、集中砲火を受けたヤーネルと、激しい打撲の跡があったエディにはすぐに治療が必要と判断され、ヘリを呼ぶこととなった。
30分ほどで、日本海軍のUH-60Jがトライデント号に降り立った。中から白い軍服を着たまだ若い男性が、憲兵隊の腕章をつけた兵士たちと共に出てくる。
白い軍服の男は、エディ達の様子を見た後、慌てて甲板に現れたペリーに言った。
「こんにちは、私は日本海軍横須賀鎮守府司令部の山岸です。本日は災難でしたね」
「まったくです。トライデント号船長で船団長のペリーだ」
ペリーは山岸と握手を交わす。山岸は手をひっこめると、ペリーが気にならない程度にズボンに手をこすりつけた。それを見た船員は吹き出しそうになるのを必死でこらえる。
「そちらの駆逐艦はかなり疲弊しているでしょうから、日本まではわが海軍が責任を持って護衛します」
「そうしていただきたい」
ペリーはいつもの傲慢な態度で返した。山岸はそれを見ると突然口火を切った。
「それと、無線で妙な話を聞いたのでこの場で船団を臨検します」
「なっ!?」
山岸の後ろに憲兵が並んだ。ペリーは慌てて言い返した。
「何を勝手なことをいう!」
「我が国は戦争当事国に対する武器の不正輸出は禁止しています。民間船の兵器持ち込みならなおさらです」
「我々はアメリカ政府の依頼を受けて広州軍政府に兵器を運んでいる!運輸省の許可も受けている!そちらにも話が通っているはずだ!」
「こちらが傍受した無線記録には、あなたの声で危険物の積載許可のないシエラー号への爆発物積載が証言されていました。それにこの型の輸送船はまともに走れば深海棲艦に追いつかれるはずはありません。許可のない荷物を積んで過積載になったのでは?それと我が国の見解では広州軍閥は政府ではなくテロリストです」
「おのれぇ・・・」
「現在海保に連絡して運輸省に問い合わせているところです。万一違法な積載物があった場合は、それを廃棄しない限り入港は許可できません。わかりましたか?」
「くそう・・」
ペリーが反論しないのを確認すると、山岸は憲兵隊に合図をだし、臨検を開始した。
山岸は続けて重傷のエディとヤーネルをヘリに乗せると、出発しようとした。すると、意識を取り戻したリッチが近づいてきた。
「すいません!私も乗せてください!エディと離れたくありません」
「駄目だ。負傷者だけ乗せるようにとの命令だ」
「私は日本に着任予定のリチャード・P・リアリーです!」
山岸はそれを聞くと、タブレットを取り出して何かを調べたのち言った。
「確かに君はリチャード・P・リアリーだな。いいだろう、搭乗を許可する」
「ありがとうございます!」
リッチが搭乗すると、ヘリは横須賀の海軍病院へと向かった。
海軍による臨検の結果、トライデント号はやはり過積載であった。一般的な銃器だけでなく、最新鋭の戦車やヘリが分解された状態で積載され、様々な火器やミサイルの部品、誘導装置や音響兵器までも積み込まれていたのだ。他の船の一部にも武器の持ち込みが見られ、一時は海保にさらなる調査を委託することも考えられたが、アメリカ運輸省からトライデント号の積載目録が届き、トライデント号の積載物は全て認可があったものと判明。トライデント号は過積載分の武器を押収されて捜査は終了した。
深夜、真っ暗な病室。リッチはベッドで眠っているエディを前にすすり泣いていた。
エディとヤーネルは横須賀鎮守府に着くと基地付属のドックに送られ、艤装の修理が行われた。さらにエディは砲撃の損傷よりも直接殴られた傷がひどかったため、艤装を外して海軍基地附属病院に送られ、入院することとなった。艦娘の素材が人間である以上、いかに艤装の防護効果によって砲撃は防げても、直接的な打撃による身体そのものの損壊には極めて脆弱である。身体強化手術と訓練で体が強化されてはいても、人間は人間なのだ。
リッチはエディを見つめ、顔をさらに近づける。顔から首筋、体のラインをなぞるように触れた。整った顔、綺麗なブラウンヘア、玉のような柔らかで温かい肌、幼いながらも女性的な美しい曲線を持つ体。リッチにとってエディは全てが完璧だった。自分の体も同じようになぞってみるが、クセの強い金雑じりの髪も、地味な顔も、貧相な体も、すべてエディには及ばない。
「あぁ・・・姉さん・・・」
リッチは普段とは違う呼び方でエディを呼ぶ。エディはリッチを姉妹というよりも友達のように扱っていた。エディがリッチに初めて会ったとき、自分のことは遠慮なくエディと呼んでほしいと言われて、リッチもそれに従っていたが、本心では姉として「崇拝」していた。こうしてエディが眠っている時だけ、リッチは本当の自分に戻るのだ。
リッチはベッドに身を乗り出す。そのままエディの唇を奪おうとしたが、すぐにやめて、前髪を掬い上げてから額にキスをした。
「今回は失敗してしまった・・・エディを守れなかった・・・今の僕はエディにふさわしくない・・・でも、このチャンスは逃さない・・・僕が・・・エディといつまでも・・・一緒にいたいから・・・必ず守ってみせるよ。だからエディ、その時は僕を・・・」
リッチはそこで眠ってしまった。その先のことは、誰も知らない。
本編に書かれていませんが、リッチはエディをおかずにここでは言えないことをしています。
うっかり書こうとして迷った挙句、こんな陳腐な表現になってしまいました。R-18は気が向いたら一回は書いてみたいです。