それいけっ! チームシリウス!!   作:カナイガワ

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ゲテモノ料理

「蝉の抜け殻ってよぉ、食えんのかな?」

 

 全てはゴールドシップの一言から始まった。

 

 春の天皇賞を一週間後に控え、メジロマックイーンはただでさえピリピリしていた。ゴールドシップのその発言を無視し、心を落ち着けるために紅茶を一口すする。しかしそんなマックイーンの様子にも気づかず、そもそも彼女に話しかけているかも謎のテンションでゴルシは続ける。

 

「イナゴの佃煮ってあんじゃん? あれはいろいろ手間が必要みたいだけどよ、蝉の抜け殻なら軽く洗うだけでぱりぱり食えるんじゃねぇかな?」

 

「……まぁ、栄養とかは皆無でしょうけど、調理すれば食べられないことはないのではないでしょうか?」

 

 マックイーンは諦めたようにため息をつきながら、自分なりの見解を述べる。名門メジロ家の令嬢である彼女はそういったゲテモノ系を食べたことはないが、知識としては知っていた。「蜂の子はおいしい」なんて話を聞いたこともあるが、たとえそれを食べなければ餓死してしまうような状況にいたとしても、蜂の子を食べることはないだろうとマックイーンは思う。蜂蜜は別。薄め柔らかめ少なめならなおよし。

 

「だろぉ? そこでゴルシちゃん考えたわけよっ! バター醤油で炒めれば、なんでもうまいって言うだろ?」

 

 にたぁ。と、マックイーンを獲物を狩る時のような目で見つめるゴルシ。その視線を受けて背筋につららを突き刺されたような寒気を感じると同時に、話に乗ってしまったことを後悔した。この後の展開なんて容易に想像できる。一刻も早くこの場を去らなければっ!

 

「私、急用を思い出しましたので―――」

 

「そんでさっ、去年の夏から集めてきた蝉の抜け殻をバター醤油で炒めたものを米の上に乗っけた、『ゴルちゃん特製蝉の抜け殻丼』がここに―――」

 

 ―――絶対に食べたくない丼が、そこにはある。

 

 マックイーン、逃げる。彼女にしては珍しい大逃げ策だ。ちょっと掛かっているかもしれないが大丈夫だろうか。その後ろからゴールドシップ、驚異的な追い上げでマックイーンに迫る。数多の戦いを潜り抜けてきた不沈艦が抜錨されたかの如く、雄々しく猛々しく荒々しく、蝉の抜け殻丼を片手に激走する。

 

「待てよーマックイーンっ!」

 

「いやぁあああああっ! こないでくださいましっ!」

 

 絶叫が廊下の奥までこだまする。「廊下は静かに走る」が校則のトレセン学園だが、ギャーギャーと騒ぎながら走る二人は明らかに校則違反だ。だが、G1タイトルを持つ二人の走りに追いつき注意できるものは少ない。というより、マックイーンとゴルシのやり取りがもはや日常茶飯事となっており、なんなら廊下をよけて二人に道を譲り、応援する者までいた。

 

(これはまずいですわっ! 一度どこかに隠れて体制を整えないと……!)

 

マックイーンは考える。そういえば、次の角を曲がった先に使われていない空き教室があった。まだゴルシとの差は3バ身もある。先に次の角を曲がり、空き教室に身を隠せばゴルシを撒けるかもしれない! マックイーンは息を整え、覚悟を決める。大外から一気にインに飛びこみ、スピードを緩めずに角を曲がる。

 

「あっ、マックイーンさん―――」

 

 不運にも、曲がった先にはライスシャワーが立っていた。ぶつかる!! そう思うや否や、マックイーンは減速することなく思いっきりジャンプした。十分に助走のついた跳躍は悠々とライスシャワーの背を飛び超える。空中で意味もなくくるくると回転し、華麗に着地した。何が起こったのかわからないライス。呆然と固まっていると、インからインへほぼ直角にゴルシが曲がってきた。ぶつかる直前にライスに気づき、強引に体を回転させることで衝突は何とか回避した。余談だがゴルシはこの時心の中で、「デビルバットハリケーンッ!!」と叫んだという。

 

 だが、その先にいるマックイーンは躱しきれなかった。減速してはいるものの、そこそこの速度で華麗な着地姿のマックイーンと衝突する。宙を舞う二人の体と蝉の抜け殻丼。天高く放り投げられたそれは、まさに米の雨(ライスシャワー)。バター醤油のかかった食欲そそる匂いの米を、ライスは頭からかぶる。しかし具の蝉の抜け殻は、ほぼほぼ仰向けのゴルシの上を舞っていた。それは調理された抜け殻の怨念か、バター醤油を纏った鋭利な蝉の足が、ゴルシの左目に突き刺さる。

 

 絶叫、絶叫、絶叫。阿鼻叫喚の地獄絵図がそこにはあった。

 

 このあと、チームシリウスの三人はたづなにこっぴどく叱られ、監督不行き届きでトレーナーは減給されたのだった。

 




―――よい子は食べ物を持ちながら走らないでね☆
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