初めてのトレーニング授業を終えた夜、ウイニングチケットたちと仲良くなったムーンアプローズは一人の自室で机に向かっていた。
その姿勢は正しく、また表情はなかった。ノートに書きつけては手をとめ、また動き出す。
まとめている内容は今日の反省のようだった。
一二〇〇メートルを全力で走ったが、あれはあくまで体力が万全だったが故の記録だ。ムーンアプローズはまだ満足していないのだろう。
シニア中長距離六冠を目指す上で、一番の関門は春の天皇賞だろう。日本G1最長距離を勝つためにはまだスタミナが足りていない。
ムーンアプローズはすでに自分の才能に見切りをつけていた。ならばこそ、
自分のことをよく知っていれば、どんな才能にだって打ちのめされることはないと、気持ちだけは負けることがないと、両親から言われていたからだ。
気持ちだけでは勝てないが、気持ちがなければ勝てない。そうとも言われていた。
だからこそ、ムーンアプローズはいつも笑顔でいる。どんなに苦しくても笑顔でさえいれば、勝手に気持ちが下がることはないと信じているのだ。
気づけばすでに午後十一時となっていた。いまだに熱を持つ両脚を軽くさすり、後は上半身のストレッチをして、ムーンアプローズは眠る。その寝顔は眉間に皺を寄せていた。
*
午前の座学を終えては午後に教官とのトレーニングをくりかえしていると、いつの日からかトレーナーバッジをつけた人が見ていることに、ウマ娘たちは気づく。
教官の補佐をしている、どこか垢抜けない人たちは彼らを見て目を輝かせていた。
「憧れるのもわかりますが目の前のウマ娘たちと向き合わねば、トレーナーになれませんよ」
教官の叱咤がどうやらトレーナー見習いたちに飛ぶ。悲鳴のような返事をして、再びウマ娘たちに向き合うが、浮き足立っているのはウマ娘たちもだった。
「私、できる限り早く契約してもらうんだ」
「そういえば、もうすぐチーム主催の選抜レースをするチームもあるみたいだよ」
「選抜レースといえば、学園の選抜レースももうすぐだよね」
「絶対、負けないよ」
クラスメイトたちの声を聞きながら、ムーンアプローズは一人で黙々と教官のメニューに少しだけ負荷を増したものをこなす。ウイニングチケットやビワハヤヒデ、ナリタタイシンはどうやら近くにいないようだった。
誰も近くにいないことを教官は気にしているのか、チラチラとムーンアプローズの方を伺っている。しかし、最初に声をかけたときに「大丈夫です。クラスメイトにもトレーニング中は集中したいからって、一人でさせてもらっているんです」と言われてしまった以上、気にすることしかできない。
そうして、気づけばムーンアプローズはメニューを終えていた。
「今日もありがとうございました!」
そう言って、ムーンアプローズは走っていく。
教官は小さくため息をついた。
*
走っていくムーンアプローズを見ていたのは教官だけではなかった。
「あの子がムーンアプローズさん」
猫背のトレーナーバッジをつけた男が一通の封筒を持って、ムーンアプローズの背を目で追っていた。
「ライスシャワーさんと
小言をつぶやくその姿は見る人がいれば通報不可避の不審者だったが、幸運にも周囲に彼を見ている人はいなかった。
どこか幽霊のような彼はまだ独り言を口にする。
「いやいや、僕なんかが彼女みたいな明るい子を育てるなんて……今からでも無理ですって、言っちゃダメかな」
首を振ってため息をつく。どうやら無理だと判断したようだった。
「もしくは別の子を育てろって、ムーンアプローズさんを育てろって言っているもんだよ……」
のそのそと彼は校舎の影へ動く。その後ろ姿はどこか落武者を想起させるものだった。
短くてごめんなさい!
投稿する2時間前に書き始めたのですが、お察しの通りリソースを注ぐためとか言っていた作品がまだ書き終わっていません!
これもレオ杯があって、アオハル杯が始まったからです。全部サイゲが悪い。
あ、SSRライスちゃんは今までに課金して残っていたジュエル+新たに課金した三万円分のジュエル+クレジットカードのポイントで購入した一万円分のジュエル+今までに貯めていた無料ジュエルを使い尽くして完凸しました。もうしばらくは課金しません!
でも、ファインモーションがウマ娘として実装されたり、ライスちゃんの新衣装が来たらまた課金するんだろうなあ(諦め)
あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~
次の更新予定は10月の上旬です。流石にそれまでにはもう一方の作品を完成させたいところ。
それではここまで読んでくださり、ありがとうございました!
*プロローグの一部情報を修正しました。物語の本筋には全く関係ないと思うのでどうでもよいのですが、気になる方はプロローグの注釈部分をお読みください。