またこの話は時系列が前後しています。
独自設定、戦歴捏造などがあります。
この作品の世界線ではそうなっているという事でお願いいたします。
あの子を失い、いまやメジロ家の火が陰りを見せている。
ひしひしとそれを感じる。
このままでは確実に不味いと私のカンが
分かってはいたが、出て行ってしまったあの子の存在の重要さを思い知る。
あの子が居た時は本当に穏やかな時間が流れていた。
孫娘達はあの子にカルガモの様に着いて行くのが恒例の微笑ましい光景。
それだけではなく一人一人との時間も取っていた。
下手なカウンセラーよりも孫娘達のメンタルケアになっていた。
特にマックイーンは私の願いを重く受け止め追い込まれていた。
それを見抜き彼女を癒してくれた。
改めて感じる、本当にあの子に甘えていた。
そのツケが私の背中に這い登るのを感じる。
マックイーンは天皇賞を筆頭にG1を4勝、その他多くのレースで勝利を収めている。
パーマーは大逃げウマ娘として開花。有マ記念では大逃げ戦法で周囲に自らを知らしめている。
ドーベルは阪神ステークスで勝利。優駿、秋華賞とクラシックのタイトルを手中に収める。
ライアンは宝塚記念でマックイーンを抑え勝利。また多くのG1、G2で入着。
アルダンは日本ダービーと天皇賞秋で2着だったものの、その後G1で2度の勝利。
表面上は頗る順調に見えるだろう。
パーティーで内情を知らない方々からの賞賛。
メジロ家黄金の時代ですね
本当に羨ましい
御当主も誇らしいでしょう。
こめかみに力が入るのを自覚する。
握り締めた掌が裂けてはいないだろうか?
私はちゃんと笑えていただろうか?
マックイーンは左足繫靭帯炎で療養中。
パーマーは家を出て滅多に帰って来ない。
ドーベルは軽度の男性恐怖症と発覚。
ライアンは一心不乱に体を鍛えオーバーワークを繰り返す。
アルダンは無理を続けもう二度とレースでは走る事は出来ず引退。
最早、壊滅状態というべき惨状の何処が黄金の時代か。
羨ましいなら私と変わってみろ。
孫を犠牲にした名誉の何処を誇ればいい。
私は頭を抱え胃の痛みに耐える生活を送っている。
主治医に胃薬を処方される事が格段に増えた。
そんなメジロ家の中で夫はただ一人凪いでいた。
メジロ家とは別の財閥としての目白家の当主。
私の従兄弟にあたり私の愛を受け入れてくれた人。
戦乱で傾いた目白家を彼一代で立て直した鬼才。
そんな夫は日がな趣味の車の整備やガーデニング、家庭菜園をして下手な口笛を吹く始末。
稀に来る目白家の相談役としての仕事はしていたが……
この状況を嘆くでも憂うでもなくただ受け入れていた。
今までに経験のない重圧を受けていた私は思わず語気を荒げて聞いてしまった。
「何故そんなに能天気に過ごせるのですか? あの子が出て行ってメジロ家が滅びてしまいそうなのに……」
夫はただ笑い気軽に言った。
「アイツは帰ってくるさ。仮に帰らずに滅びるなら所詮はそれまでの家だったって事だ。気にしてもしょうがねぇよ」
あの戦後の激動の時代。
貴方が必死に駆けずり回って私の為だけに築き上げてくれたウマ娘の名門としてのメジロ家。
それをいとも容易く賭けにベットする。
本当に敵わない。
「それにな、婆さん。ワシがデカい賭けで負けた事あるか?」
「……無いですね。それでも今回負けるかもしれませんよ?」
「負けんさ。ワシには
本当に質が悪いすぐにこれだ。
本当に日本人だろうか?
伊達男の血でも入っているのだろうか……
「貴方は本当に……」
「なんだ? 惚れ直したか?」
「……ふふ、ずっと貴方に惚れ込んでいますよ」
夫は“そうか!”と嬉しそうに笑った。
一頻り笑うと今度はニヤリとした笑顔で私に語り掛ける。
「それにワシの孫娘達はそう弱くは無い。仮にあのバ鹿がいなくてもその内立ち直るさ」
「そうですね。信じて待つ。それが一番美しいかしらね」
「それが無くてもお前は一番美しいよ」
蔵の中の家系図でイタリアの血が混ざってないか探してやろうかしら。
夫と話して心が軽くなるのを感じる。
本当に貴方と夫婦になれて私は幸福だわ。
それはそれとして胃薬が手放せないのだけれど。
誰もが貴方を恨んでなんかいません。
メジロ家の誰もが貴方の帰還を望んでいます。
私の可愛い孫息子よ。
帰っていらっしゃい。
良バ場ですが芝の状態が悪いようです。