メジロ家の愛のターフのバ場事情   作:ボブソン888

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不動の寡黙

「目白君? やっぱり目白君じゃないか‼」

 

 折角の日曜日なのでパスタを食べる為に荒谷と烏丸と一緒にイタリアンの店へ遠出している。

 ゴールドシップは何やら用があるということで今日は不参加。

 そんな向かっている途中に話しかけられた

 

「ん? あんたは……君は上田君!? いやぁ久しいね! 中学以来じゃないか!」

 

 上田正幸(うえだまさゆき)

 眼鏡を掛けヒョロっとした印象の彼は俺の小中学校時代のクラスメイトだ。

 頭もよく学年一の秀才で生徒会長も見事に勤め上げていた。

 そんな彼は中学時代にはよく俺に何かと声を掛けてくれた。

 

「あ? なんだ? 知り合いか? しかもなんだその口調……キモォ」

「うるせぇ。中学の時の同級生だよ」

「旧友というやつか。積もる話もあるだろう。俺たちは先に行っている」

「あ、おい烏丸! ったく! まぁお前もゆっくりでいいからな。どっかの茶店で待ってるから終わったら連絡くれ」

「ああ、悪いな」

「気にすんな。んじゃな」

 

 そう言うと荒谷と烏丸はスタスタと去っていった。

 アイツ等……気を遣える事も有るんだな。

 めっちゃビックリ。

 

「……彼らは友人かい?」

「ん? あぁ……まぁ悪友だよ」

 

 立ち去った二人を興味深そうに見ている上田君がそう声を掛けてきた。

 俺は恥ずかしく相変わらず憎まれ口を聞いてしまう。

 本当はもっと感謝した方がいいのは分かってるんだけどなぁ。

 俺の悪い癖だ。

 

「そうなのかい? それにしても久しぶりだね。高校に進学する時に別の学校に行くとは思わなかったよ」

「ああ、少し色々あって家を出てね……」

 

 上田君はそう言って少しジト目をしてきた。

 正直言うチャンスは何度もあったが別に言わなくてもいいかなぁと思っていた。

 俺が腐っていた時も話しかけてくれていたのに……いま思えば失礼な話だ。

 いやぁでも恥だしなぁ。

 

「おや? ……失礼なことを聞いてしまったかな?」

「いや、ただ個人的な事だから気にしないでくれよ。……別段、不幸があった訳じゃないからね」

「そうなんだね。良かったよ」

 

 本当に個人的な事なのに方々(ほうぼう)を巻き込んで迷惑をかけている。

 だがそれでも、ゴールドシップ達や豊さん一家、バイト先の人達にたづなさん。

 家を出てその人達に出会えた事は本当に俺の人生の中の幸運で何よりの宝だ。

 

「上田君は今はどうしているんだい?」

「僕は父の跡を継ぐ為に大学で勉強中さ」

「確かお父様は弁護士だったね」

「ああ、覚えていてくれたんだね。勉強していると父の偉大さがわかるよ」

「案外近しい人というのは近すぎる故に分からない事もあるからね」

 

 上田君はしみじみと語るが本当にそう思う。

 特に親父殿は今思えばバケモノクラスのメンタルとバイタリティーを持っていた。

 おそらく日本でも有数のブラック組織に属しているのにそれを家庭に持ち込んでいなかった。

 バイトとはいえ働く事で親父の偉大さを本当によくわかった。

 しかも不肖の息子たる俺が多大なる迷惑を掛けている。

 ……今度いい日本酒でも送るか。

 

「目白君は今はどうしているんだい?」

「今は大学に行ってるよ。上田君みたいに何かを目指している訳じゃ無いけれどね」

 

 特に目標もなく大学に行っている俺と比べて上田君が輝いて見える。

 まぁ最後のモラトリアム(悪足搔き期間)だしそこまで気にしてはいないが。

 うーむ、俺は就職どうするか……

 大学で学んだ事を活かせる研究所やナノテクノロジーメーカーも気になる。

 豊さんの農園やバイトのケーキ屋にそのままでも就職もいいな。

 

「意外だな、目白君なら目白家の要職に就くための勉強をするか、君のお父様の様に中央のトレーナーになると思っていたよ」

 

 ……それこそどの面下げて戻ればいいのか。

 もう目白の名を捨てて逃げたした俺が戻る場所なぞない。

 

「……あー色々あってね。今は勘当されて母方の姓を名乗っているんだ」

「……そうなんだね。……君は変わったね。なんだか柔らかくなったよ」

「え? そうかい? 自分じゃ分からないんだけれど」

「ああ。昔の君はもっと礼儀正しかったが刺々しくて近づき難い雰囲気だったよ。裏では不動の寡黙なんて恐れられていたよ」

「ええ!? そうなのかい? 気が付かなかった……」

 

 え? 俺って怖がられたの!? 

 不良でもなんでもなかったじゃん! 

 喧嘩とかもしてないじゃん! 

 ただちょっと精神状態が最悪で闘争本能が暴走して体が闘争を求めてただけじゃん! 

 あ……それか。

 

「失礼な言い方だけれど、さっきのご友人たちに対しての口調は大分悪いけれど雰囲気が優し気で気安かったよ」

「……それは喜んでいいんだろうか?」

「誉め言葉だよ。しかし……少し悔しいな」

「悔しい……かい?」

 

 本当にアイツらとつるむようになってから俺の口調は悪化の一途を辿っている。

 自覚はあるが正直、今の方が性に合ってる気がする。

 それにしても悔しがる部分あったか? 

 上田君の方が人生勝ち組だと思うけど? 

 

「ああ、僕は彼らみたいに君に対して何も出来なかったからね」

「……上田君が悪い訳じゃなくて、アイツ等が空気を読まないで人の心に土足で入ってくるからだと思うけどね」

「ハハハ! いい友人じゃあないか! 正直、柄の悪い連中と付き合ってるんじゃないかと心配したんだ。杞憂だったけれどね」

「……まぁ本当は親友だと思っているよ。恥ずかしいから言わないけれどね」

 

 ただのクラスメイトだった俺をそんなに心配してくれるとかめっちゃ良い人じゃん。

 頭が良くて優しくて良い人とか完璧超人かコイツ? 

 そんな彼に釣られてつい本音を言ってしまった。

 柄は悪いのは否定できないけどな! 

 

「うん、だから羨ましいんだよ。僕は君のクラスメイト止まりだったからね」

「……あの頃はちょっとどうかしていたからね」

 

 そういう彼の表情は少し寂し気だった。

 正直、小中学校の時は本当にどうかしていた。

 クラスメイトとの交流もほぼ無く、ただトレーニング理論やらの栄養学の本ばかり読んでいた。

 そんな何処かクラスから浮いていた俺に上田君はよく話しかけてくれた。

 あの頃は余裕が無く気が付かなかったが本当に良くしてくれた。

 

「きっと彼らが中学時代に居れば変わっていたよ」

「そうかな?」

「きっとそうさ」

 

 小中学校は自慢じゃないがいい所の学校だった。

 その制服を着ているアイツ等を想像すると吹き出しそうになる。

 クッソ似合わねぇ! 

 

「さて、じゃぁそろそろ行くよ。引き止めて悪かったね」

「いや、いいさ……なぁ、連絡先交換しないか? 飲みにでも行こうぜ!」

 

 俺が普段の口調で話しかけると上田君は少し驚いた顔をしたがすぐに笑顔になる。

 なんだか距離が近づいた気がした。

 あの頃作っていた壁が崩れてやっと彼と向き合えている。

 

「……フフ、ありがとう。ああ是非、君とは酒を酌み交わしたいよ。その時は彼らを含めてね」

「やめとけやめとけ! アイツらうるせぇからな!」

「いいじゃないか! 君の中学以来の話も聞きたいしね! それに彼らにも中学以前の話もしてみたい!」

「……なんで好き好んで黒歴史披露しなきゃなんねぇんだよ」

 

 おうホンマにやめーや。

 アイツ等がそんなの知ったら絶対に揶揄ってくるだろうが! 

 しかも何でテンション上げとんねん! 

 そんなに俺を陥れたいのか! 

 

「ハハハ、やっぱり今の雰囲気の方がいいよ。じゃまたね」

「あぁ! じゃあな! 連絡するから待ってろよ?」

「うん、連絡待ってるね」

 

 きっと彼も俺が気が付かなかった救いの欠片だったんだろう。

 それを今になって気が付くなんて随分と遠回りをしたもんだ。

 俺の才能があるとすれば、きっと周りに恵まれる運だと思う。

 本当に恵まれている。




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