メジロ家の愛のターフのバ場事情   作:ボブソン888

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曇天を往け

 今日は俺のリクエストで駅の中の立ち食い蕎麦を食いに行く事になった。

 

「なんで立ち食い蕎麦なんだよ」

「別にいいだろ? あのチープさが、たまに食いたくなるんだよ」

「オレは構わない」

 

 あのチープな感じがなんか、たまんないんだよなぁ。

 今日はキツネ月見蕎麦にするか、かき揚げ蕎麦にするか迷うなぁ。

 

「おーおーハマっちゃってw最初は何処で蕎麦を打っているんだ、とか十割蕎麦は無いのかだのうるさかったのにw」

「まぁそう言うな。何事にも必ず最初というモノはある」

「……うるせぇ」

 

 上田は来たがっていたが司法試験の勉強がある為、今回は不参加。

 折角チープな美味さを教え込もうと思ったのに……

 ゴールドシップは駅で待っているとの事で現地集合。

 そういえばアイツってどこに住んでるんだ? 

 本人が言いたく無さそうだから聞いてないけど、もし遠くならアイツに負担かけてるしなぁ。

 

「ねえいいじゃん。俺たちと遊ぼうよ」

「そーそー。めっちゃ気持ちよくしてあげるから!」

「……ウゼェ」

 

 駅でオシャレな服を着て髪を下ろしたゴールドシップが絡まれているのを見つける。

 如何にもな恰好をした二人組のナンパに心底うんざりしたような表情をしていた。

 

「アイツ、絡まれてんじゃん」

「あ? ……あれヘッドギア外したゴルシか! 気が付かなかったわ」

「ナンパだろうな。ゴールドシップは外面はいい」

「内面も可愛いぞ? アイツ」

「お前だけだよ。それ言えんの」

「そうか? ……まぁ助けに行ってやるか」

「ならば行くか」

 

 近くに寄り、ゴールドシップの肩を手を置きこちらに抱き寄せる。

 ゴールドシップは急な事で一瞬、驚いてこちらを見るが俺だと分かると体を預けてくる。

 おい、匂いを嗅ぐなゴールドシップ。

 

「悪いな俺達の連れだ。別当たってくれ」

「あ? なんだテメェ? 俺がだれかわかってんのか?」

「お前らは引っ込んでなここらの締めてるスケアクロウのマコっさんだぞ!」

 

 ……え? 誰? 知らねぇけど? なんで案山子? 

 

「え? 誰だよ? まったく知らねぇわ。なんで案山子?」

 

 ゴールドシップ……流石に口に出すのは止めてやれ。

 恥ずかしさか怒りかでちょっとプルプルしてんじゃん。

 

「……こいつらバ鹿だ」

「安心しろ。制圧するのに1分もいらない」

「やめとけって。あーお前らな、連れがいるやつナンパすんなよ」

 

 荒谷が呆れたように呟き、烏丸は物騒な事を言い始める。

 挑発するなよお前ら……面倒臭いだろうが。

 適当にあしらえばいいから。

 あとゴールドシップ、いい加減に嗅ぐのを止めろ。

 くすぐったいだろうが。

 

「なんだテメェ! 腰抜けの雑魚が引っ込んでろ!」

「ビビッてるダセェ奴はどっかに行きな!」

 

 俺が穏当に対応しているのを怯えていると勘違いしたのか尻を蹴られる。

 荒谷達の方を向いていたから死角で見えなくて避け損ねた。

 ……まぁいいか、別にそこまで強くじゃないし。

 衝撃は来るが、それだけで痛くも無い、ただの威嚇程度の蹴りなど可愛いもんだ。

 ただ、他の三人の機嫌が何故か分かりやすく悪くなった。

 荒谷は携帯を出して何処かに電話し始め、烏丸は臨戦態勢になり、ゴールドシップは指をポキポキと鳴らし前掻きをしている。

 

「……もしもし? 俺だよ俺。詐欺じゃねぇよ。それよかスケアクロウってやつ知ってるか? ……あーハイハイ。そっち系統の奴らね。いい感じに潰しといて」

「腕をへし折って無力化する。すぐに済むから安心しろ」

「ここはアタシに任せろ! アタシのドロップキックが火を噴くぜ! 顔面崩壊させてやる!」

「お前ら早く逃げろ! こいつらがお前らの人生を滅茶苦茶にするぞ!」

 

 おい! 何でそんなにヒートアップしてるんだよ! 

 荒谷! お前は何処に電話したんだ! 潰すって何!? 

 烏丸! それは安心できないから! すぐに済めばなんでも良い訳じゃねぇぞ! 

 ゴールドシップ! 下手すりゃ死ぬわ! 女の子がドロップキックなんてはしたないでしょ! 

 お前ら何でオーバーキルしようとするんだよ! 

 ただのナンパでそれは可哀想でしょ! 

 あと何で俺がチンピラを助ける羽目になってんだよ! 

 

「……は? なんだよ……つまんねぇ。おい帰るぞ」

「はい! マコっさん!」

 

 俺の説得が通じたのか、それとも危険を察知したのかチンピラ共は退散しようとする。

 唾を吐き捨てながら煙草に火をつけ背を向けて歩き出し、取り巻きの奴が後を追う。

 判断が遅い! もっと早めに行動しろよ! 

 

「チッ、こんなブスなビッチに声かけんじゃなかったぜ」

「おい、今なんつった?」

 

 自分で出した声が明らかに低くなった。

 こめかみに力が入る。

 握り締めた掌が裂けてはいないだろうか? 

 怒りで口角が吊り上がるのが分かる。

 視界が赤く染まった気がした。

 

「こんな乳がデカいだけのブスでお前らみたいなキチガイ共を侍らかしてる売女をナンパするんじゃ無かったって言ってんだよ! やんのか!? 雑魚がよ!」

 

 よりにもよってゴールドシップの頬に唾を吐き掛けタバコを投げつけてきた。

 こいつらは今何を吐き捨てた? しかも俺の大切なモノに対して唾を吐きかけたのか? 

 更にはゴールドシップに火のついた煙草を投げつけた? 

 俺の大切な恩人(宝物)に対して? 貴様等如きが俺の誇りに悪意を向けたのか? 

 

「ハハハハハハハ……貴様等は地獄すら生ぬるい」

 

 箍が外れた。

 理性は俺に落ち着けという。

 だがこの激情は留まる事無く理性を呑み込み暴走する。

 思考が凍てつく。心が燃え上がる。腹の底からドロドロとしたマグマの様な怒りがせり上がる。

 

「やべぇこいつブチギレてる! 押さえろ烏丸!」

「任せろ荒谷。オレに秘策がある」

「離せ」

 

 荒谷と烏丸が慌てて俺を止める。

 

「落ち着け! やべぇから! ゴルシ! お前もボーっとしてないで手伝え!」

「お前らは疾くと失せろ」

「離せ」

 

 俺がチンピラに近づこうとするのをやはり荒谷と烏丸が止める。

 何故、お前等が止める? 

 

「いやいや、離したら殺しちゃうでしょ!? こいつら殺しても別にいいけどお前が捕まるのは看過出来ねぇよ!」

「殺しはしない、今後一切自立生活が出来ないようにするだけだ。離せ」

 

 荒谷がそういうがそんなにすぐには楽にはしない。

 全ての関節を外そう。全ての骨を砕こう。

 もう二度と介助無しには動け無い様にしよう。

 残りの人生を惨め人生に変えてやろう。

 

「落ち着け。お前は今冷静じゃない。前にお前は俺の人生に関係ない奴はどうでもいいって言っていた。コイツ等はどうでもいいやつらだ」

「だからこいつらがどうなろうがどうでもいい。離せ」

 

 烏丸がそう言うがだからこそ、こいつらの今後の人生を潰すのだ。

 もう二度と俺の宝物を汚されたく無いから。

 どうでもいい奴が俺の恩人を穢すのが赦せないから。

 

「……万策尽きた」

「烏丸ぁ! 秘策ってそれだけかよ! お前も落ち着けって! いつものお前らしくもねぇ!」

「こいつらは、ゴールドシップを侮辱し危害を加えた。それだけでこいつらを地獄に落とす何億もの理由になる。離せ」

 

 だからこいつらを叩きのめす。

 一切の慈悲も無く。

 ただ俺の誇り(救い)を穢した事を思い知らせる為だけに。

 

「お、おい逃げるぞ!」

「待ってマコっさん!」

 

 俺の雰囲気に見栄よりも恐怖が勝ったのだろう。

 チンピラ二人は焦った表情で逃げ出した。

 逃げてそれで終わりだとでも? その顔覚えたぞ。

 

「見つけ出して肥溜めにぶち込んでやる」

「もういいよ。アタシは大丈夫だから落ち着いてくれ」

「ゴールドシップ。だがな」

「アタシの人生にあいつら関係ないんだろ? ならそれでいいよ」

「……ゴールドシップ」

「アンタは笑顔が一番似合うよ。だからアタシの為に笑ってくれ」

「わかった」

 

 ゴールドシップの言葉で視界が元に戻り、心の熱が下がるのを感じる。

 ペットボトルの水で濡らしたハンカチでゴールドシップの頬を拭き、火傷が無いか確かめる。

 ……よかった。火は当たっていないようだ。

 

「おい、あんた血が出てるじゃねぇか……」

「ん? あぁ、手の皮が裂けたか」

「……ったく。勿体ねぇな」

 

 怒りで手を握り締め過ぎたのか掌から血が滲んでいた。

 ゴールドシップは俺の手を取ると自身の口元へ持っていき俺の血を舐め始めた。

 チロチロと動く舌が俺の掌に着いた血を舐め取っていく。

 その動きは、やけに艶めかしい。

 血が止まるまで舐め回すと満足したのか、ゆっくりと嚥下する。

 ゴールドシップは酩酊とした表情で熱い吐息を吐き出す。

 自分のハンカチ出して俺の掌に巻いてくれた。

 ……俺は何されてんの? 

 ただムフーと満足そうな表情のゴールドシップに何も言えなかった。

 ……うん、スルーしよう。

 

「おい、こっち放っておいてイチャイチャしてんじゃねぇよ。そういうプレイか?」

「してねぇし、プレイじゃねぇよ」

「そーだそーだ! ただの医療行為だ!」

 

 荒谷は呆れた顔でこちらを見ていた。

 ゴールドシップ、ただの医療行為にしては熱が籠ってたぞ。

 

「血液を舐め取るのは双方に感染の危険性がある。故に吸血プレイはお勧めしない」

「心配ありがとよ。でもプレイじゃねぇよ」

「そーだそーだ! ゴルシちゃんもコイツも綺麗だぞ!」

 

 烏丸は真剣な表情でこちらを見ていた。

 ゴールドシップ、違う……論点はそこじゃねぇ。

 

 それはそれとしてアイツ等は許せない。

 だが俺が何かしたらゴールドシップは悲しむだろう。

 だから手を借りることにする。

 

「荒谷……頼めるか?」

「はぁ……まったくよぉ。安心しろ、もう終わってる」

「ありがとう親友」

「ラーメン奢れよ? 親友」

「ふむ。蕎麦をやめてラーメンにするか。オレも奢ってもらうぞ」

「わかってるって。親友」

「なら今日はトッピング全盛の特盛でチャーハンと餃子も頼んじゃお!」

「太るぞ? ゴールドシップ」

「たまにはいいじゃんか! …その、…ありがとな。アタシの為に怒ってくれて…嬉しかったよ」

「……別に」

 

 ゴールドシップは少し照れながら微笑んだ。

 俺もこそばゆいモノをを感じ視線をそらし、ぶっきらぼうに答えた。

 合気道を習っていたのに、心の制御を失た。

 恥ずべき事だがあれは無理だ。

 また怒りがぶり返しそうになる。

 

「ゴールドシップは内面も可愛いか。なるほど少し理解した」

「ゴルシ照れてんのか? なんだよw明日は槍でも降るのか?w」

「よーし! お前らドロップキックな! アタシは最初から可愛いだろ! それに照れてねぇ!」

 

 まったく……バ鹿どもが。

 はしゃぎだすこいつ等がいて本当に良かった。

 ぶり返した怒りがスッと消えていくのが分かる。

 冷静になった思考が、こいつ等がヒートアップした理由に漸く思い至る。

 そっか、お前ら俺の為に怒ってくれたのか……

 それが堪らなく嬉しかった。

 

なぁお前ら! 俺はお前らが心の底から大好きだ!

 

 あれだけ恥ずかしがって言えなかったのに、素直に思いを伝える事が出来る。

 不思議なもんだ。 だが晴れ晴れとして清々しい気分だ。

 ……本当に、本当にありがとな! お前らと出会えて本当に俺は幸せだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくしてマックイーンの繫靭帯炎のニュースが飛び込んできた。

 空には曇天が広がっていた。

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