メジロ家の愛のターフのバ場事情   作:ボブソン888

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Vanishing

 種族が違うからしょうがない。

 幼心にしてどうしようもなく嫌いだった言葉。

 

 動物界脊椎動物門哺乳網霊長目ヒト科ヒト族ヒト属の人類種

 動物界脊椎動物門哺乳網霊長目ヒト科ヒト族ヒト属のウマ娘種

 ほぼ近似種のはずなのにその筋力の出力は桁違い。

 見た目は麗しく、人類種の頭の狂ったような対毒性、雑食性も持ち合わせ、頭脳も人類種と遜色ない。

 人類種が今日まで生き永らえたのは偏にウマ娘の名の通りに女性しか生まれないという特性によるものだ。

 それにより人類種とウマ娘種の近似種がお互いを滅ぼさず共生出来てきた。

 きっと古代に争っていればウマ娘種が圧倒しただろうが。

 

 まだ俺が幼い頃、同じ幼稚園のウマ娘に力で勝てなかった。

 そういう事も知らずにただただ俺が弱いからだと思った。

 両親に泣きながら強請り、合気道の道場に連れて行ってもらった。

 本当は空手か剣術が良かったが両親は合気道にしなさいと言われ渋々そうした。

 今思えば力では絶対に勝てないからとそうしたのだろう。

 それを理解していない俺は道場でも力を求めた。

 合気道の理念とはかけ離れた思いなのに師範は俺を否定せず破門にはしなかった。

 師範代や諸先輩方も幼い俺の無謀な挑戦を面白がり、体を作るための食事や効率の良い筋肉の付け方や筋トレの仕方、身体の動かし方や、人体の構造。観察眼。応急処置。そして様々な走り方の理論、色んな事を教えてくれた。

 それだけではなく、脳筋にならないように勉強や、メンタルケアの仕方、相手の懐に入りやすくなる話術、あとなぜか歌やダンスなども叩き込まれた。

 

 道場に通うようになってから体が出来上がって来た頃、年に何度かある本家への集まりに来ている妹分達と遊びと称し、駆けっこを持ち掛けた。

 何度も何度も誘っている内に毎回恒例になった駆けっこは幼き頃からいつも俺の惨敗で終わる。

 その度に道場で必死に鍛錬を重ねた。

 熱意と才能があったのだろう。

 道場の中でも古株になるころには、師範との演舞でもしっかりと着いて行けるようになっていた。

 これならばウマ娘に勝てるかもしれない、などと身の程知らずな自信が漲った。

 そしてその度に惨敗する。

 勝ちたいという願いは呪いになり我が身を蝕む。

 闘争本能は心を燃料に燃え上がる。

 慚愧の灰は塔が如き高さになるだろう

 そしてその度に惨敗する。

 それでも止まることはなかった。

 宛らパラシュートをつけなかったドラッグレースカーのように自壊しながら進み続けた。

 そしてその度に惨敗する。

 心が軋み、罅割れ、捻じ曲がり、錆びつき、ボロボロになった。

 だが心は折れることはなかった。

 けれども、駆けっこをすれば幼稚園の妹分たちに突き放され、本家にあるトレーニングジムで筋トレをすれば小学校に入りたての妹分たちと同じくらいしかできず、年齢が一番近い妹分には遊び半分で引きずり倒される。

 

 狡いじゃあないか。俺が必死に積み上げた努力を易々と飛び越えて。

 情けないじゃあないか。自分より幼い娘に負けてしまうのは。

 悲しいじゃあないか。絶対的に叶わないことを見せつけてくる。

 

 嫌いになれればよかった。

 恨むことで遠ざけれればよかった。

 憎悪の対象に出来ればまだ楽になれただろう。

 それでも俺の周りのウマ娘達は……従妹にあたる妹分たちはウマ娘の中でも特に麗しく綺麗で礼儀正しくいい子達だった。

 こんな俺にも懐いて慕って親戚で集まる時は年が近い事もあり、べったりだった。

 嫌うには眩しく、恨むは輝いていて、憎悪も出来ないほどに尊い存在だった。

 

 大変女性には失礼な物言いになるが、人類種の女性が居なければ男女差と受け入れることが出来ただろう。

 だが現実にはそうはならない、ウマ娘>>人類種男≧人類種女の図式となる。

 だから俺の中の呪いの様な願いは煮詰まり、闘争本能は燻り続け、ウマ娘に何が何でも勝ちたいと願うようになった。

 

 しばらくが経ち

 道場で初段をとって更に力をつけなければと思っていた。

 そんな折、師範から言われたのだ。

 これ以上の年齢が上がり昇段は条件を満たしたとしても試験を受けさせない。

 心を見つめなおせと。

 

 心が引き裂かれそうだった。

 これ以上何を見つめ直せと言うのだろうか。

 勝つ為にしてきた努力を真っ向から否定された。

 師範は確かに俺の願いを否定しなかった。

 ただ終ぞ肯定もしていなかった。

 それ以来道場には行っていない。

 

 無為に時が過ぎた。ただ鍛錬だけは欠かさなかった。

 そんなある日閃いたのだ、悪魔の様な考えが。

 行ったのだ鬼畜の所業を。

 人類種の特性を生かそう、策を巡らして猛暑日に勝負に誘い出し

 人類種が動物の中でも突出した持久力を使い、拷問じみた超長距離の駆けっこに命を燃やして。

 決して折れない心を持って彼女たちを打ち負かした。

 

 それが卑怯な事なのはわかっている。

 最低な事だとは解っているが、それでも俺は愛すべき近似種の彼女たちに勝ちたかった。

 俺の納得の為に俺に利用させられた親愛なる妹分達には本当に申し訳ないことをした。

 きっと卑怯者と、不埒者と俺の事を蔑んでいるだろう。

 安心してほしい。もう君たちと会う事はない。

 もう目の前に現れ心を乱すことなんてしないから。

 どうか俺に君たちの行く末に幸あれと願わせて欲しい。

 

 あぁ、思い出した。

 最初は君たちと並び立ちたかったんだ。

 今では叶う事のない願いだけれど、思い出せて良かった。

 あぁ、ありがとう最後に思い出させてくれて。

 じゃあもう行くよ。

 君たちの人生に燃え尽きた火のない灰はいらないから。

 

 心が軽い。蒼天に浮かぶ雲が如し。

 心が痛い。君達を傷つけてしまった事への後悔で。

 それでもささやかな勝利を誇りに思ってしまう俺は本当にどうしようもなく愚者だ。

 

 

 

「ほーん。お前バカだろ? なんでわざわざ家出たんだよ。脛齧りついてれば金も自由に使えたろうに、しかも習い事も止めちまったんだろ? 自分の金じゃなく通わせて貰えるのにホントにバーカ」

 

 荒谷 司樹(あらや しき) 粗暴で短気の能天気マッチョ。

 基本金儲けを生きがいにしている。

 なんだかんだ言っても面倒見がよくいい兄貴分の様で、特に後輩などに慕われてる。

 だがその豪放磊落な性格で俺の知らない世界を教えてくれた。

 着飾らないこいつといると俺も肩肘張らずに気が楽になる。

 

「俺は見事な判断だと評価する。敵の不得手に付け込み、こちらの得意分野に引きずり込むのは戦いにおいて常道。更には新天地に飛び出るとは、言うは易く行うは難し、剛毅なことだ」

 

 烏丸 葉兵(からすま ようへい) 仏頂面で筋肉質で目つきが悪い。

 機械いじりをよくしている。

 見た目や言動で周りから誤解されやすいが内面はかなり愉快な性格をしている。

 こいつの虚心坦懐な性格に俺は安らいだ。

 求められなければ踏み込んで来ないが必要ならばしっかりと向き合ってくれる。

 その距離感が心地いい。

 

「はぁ、お前らに話した俺が愚かだったよ」

「荒谷は兎も角、俺までとは心外だ」

「烏丸、俺は兎も角ってなんだよ? それにしても俺がせっかく金にもならねぇ話聞いてやったのになんだその言い草は? お、やんのか?」

「はぁ、ならもっとまともな返答をしろよ」

 

 もっとこう……あるじゃん? いい感じの言葉がさ……それをお前……

 

「あーはいはい。わかったよ。どっかの青い魔人みたいに"I need more power"してるのにクヨクヨ弱虫お坊ちゃまくんがよぉ」

「あぁ? なんだとこの拝金主義のクソ成金の張りぼてマッチョ野郎が……くたばれ」

「……吐いた唾のませねぇぞ! このダボがぁ! 張りぼてかどうかわからせてやるよ!」

「やってみろよ! このタンカスゥ! 誰がクヨクヨ弱虫じゃ! ボケェ!」

「round1 fight!」

 

 烏丸の掛け声で殴りかかってきた荒谷の腕を払い関節を決めようとすると間延びした学校のチャイムが鳴り響いた。

 お互いに席に座り直し弁当をしまい込む。

 

「5限ってなんだっけ?」

「現文」

「うへぇ嫌になるぜ」

「そういうな。これもまた勉学だ」

「烏丸は真面目だねぇ」

 

 ゴソゴソと鞄から教科書を出しながら雑談を続ける。

 

「お前の大好きな、人の金での習い事じゃん」

「そーだけど、現文の矢崎が嫌いなんだよ。何度も何度も訳の分からねぇ問題出しやがって、なんだよ作者の気持ちって、んなもん印税しか考えてねぇだろ」

「それに関しては俺もわからん。レイモンド・チャンドラーの作品なら分かるんだが……」

「それは作者の論旨を答えればいいのでは?」

「「あーなるほど」」

 

 このバ鹿二人は家出して高校からの付き合いだ。

 正直、無二の親友たちだと思っている。こいつらといるのは楽だ。

 一緒に馬鹿な事をするのがすごく楽しい。

 

 こんな俺を救ってくれた人がいた。

 こいつらにもたくさん救われた。本当に感謝している。

 こんな事を言うのは恥ずかしいから、我が親愛なる悪友たちには絶対に言わないが。

 

 あと一人、別枠でいるがそいつはまた今度。

 そいつにも本当に救われたがそれはそうとしても本当に疲れる。

 

 あの日々が無駄だっとは絶対に思わないが、きっとあの頃に気が付かなかった救いはたくさんあったのだろう。

 その気が付かなかったその欠片を今になって拾い始めた。

 彼女たちに対しての後悔や申し訳なさはあるけれど、それでも俺は俺の人生を好きなように生きている。

 だから俺の事など忘れ、君たちは君たちの人生を好きなように生きて欲しい。

 

 

 

 さぁ俺の新たな人生へ出航しよう。

 我が人生波高し、なれども晴朗にて視界良好異常なし。

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