「いやぁ、まさか君が担当とはね」
「不服か?」
「まさか! ……縁が合ったな」
「ああ、合縁奇縁とは、この事だな」
「まぁ約束を果たせて良かったよ」
「フフ、私も数年越しに仕事を終えれてホッとしたよ」
俺は作業着を着て、軽トラで豊さんの人参を搬入し、契約を済ませた。
エアグルーヴ。
それが数年前に聞きそびれた名前。
彼女は生徒会副会長となり、今回の契約の担当として、また出会えた。
元々、麗凛な美しさはあったが、それに加えて自信と貫禄をもって、俺を出迎えてくれた。
そんな彼女が、契約が終わり、トレセン学園の校門前まで送り届けてくれる。
「チームアルデバランの、目白トレーナーから連絡が来た時は驚いたぞ」
「あー俺の親父殿でな……まぁ勘当されているから、苗字は違うんだが」
「……まぁ深くは聞かないでおく」
「わりぃな。それにしても春休み中の、しかも日曜日なのに悪かったな」
「いや、どうせ生徒会の仕事をしていたから気にするな」
学生の大事な長期休暇に仕事をさせる……
……やっぱりブラック学校? ポリスメンに通報した方がいい?
いや、この場合は出版社の方がダメージあるか?
ともあれ、元気そうで良かった。
契約後に、彼女と色々と話が弾んだ。
生徒会の仕事とアスリートとしての充実した生活。
尊敬できるが、しょうもない駄洒落を言う会長の話。
頼りになるが、サボり癖のある口の悪い
俺が贈った薔薇を、挿し木で増やし学園での名物にした事。
ラベンダーのサシェを作り、後輩にプレゼントしている事。
数年越しに、素を見せてくれる事が嬉しい。
きっと彼女も、いいパートナーと巡り会えたのだろう。
その事を伝えると、頬を赤らめながら“別にアイツはそんなんじゃない”とポツリと呟いた。
……そうだよ、ツンデレって、こういう可愛い子が言うから絵になるんだよ。
なんで、初めて見たツンデレが、荒谷みてぇな厳つい男のなんだよ……
「さて、名残惜しいが、そろそろ行くとするよ」
「そうか、駐車場への見送りは不要か?」
「ガキじゃあるまいし、ここまでで十分だ。じゃあ、ありガァアアアッ! いってえぇえぇッ!」
エアグルーヴに別れの挨拶をしていると、俺の体に物凄い勢いで何かがぶつかって来た。
とんでもない衝撃に体幹を維持しようとするが、体勢が保つ事が出来ず引きずり倒される。
体が地面を滑り、摩擦で全身が、とんでもなく熱くて痛い!
なんだ!? なんなんだ!?
「お兄……様!」
「お兄さん!」
「……お兄ちゃん!」
衝撃の原因を見ると、そこにはマックイーンにライアンにドーベルが俺に抱き着いていた。
Oh……MY Cousins……
そりゃ、不意打ちで3人のウマ娘の突進力で来られたら、勢いよく滑るわ。
てか、よく骨が折れなかったな……
お袋……丈夫に産んでくれてありがとう!
「あー、まぁこうなるよね」
「そうですね。……独り占めは出来そうもありませんね」
パーマーとアルダンは少し離れた所でこちらを見ている。
不意打ちで出会った事で、少し混乱するが彼女達に謝らなければ……
マウントポジションの状態じゃあ、恰好が付かないが。
……あれ? もしかして、ぶん殴られる? まぁ、俺がした事を考えれば当たり前か。
「お前らに殴られてもしょうがない。好きな様になぐ「ごめんなさい……ッ!」?」
……? 何故、俺が謝られている?
謝らなければならないのは俺の方なのに。
「ドーベル? 謝るのは俺のほ「私は……私達はお兄様を深く傷つけてしまいました……」」
「マックイーン。だから俺の「お兄さんの事を考えないで! 自分の事ばっかりで……っ!」」
「ライアン……あのな、悪いのは俺だか「本当に……ごめんなさいっ……! お兄ちゃんッ!」」
お願い! 話を聞いてください!
俺に謝る機会をください!
君達が謝る必要なんて、まったく無いから!
「……だから、お前らが謝るこ「……う、うう……うううッ……! うああぁぁ……ッ! ゴメンさないお兄様ッ! 泣く資格など……ッ! 謝る権利など私には無いのにッ! ましてや貴方に会えてうれしく思ってしまって……ッ! うああぁぁ……ッ!」」
「マックイーン……」
彼女達はわんわんと泣きじゃくる。
参ったな……俺は彼女達の涙に勝ててた試しが無いんだが。
謝らなければならないのに、謝られてしまって。
まぁ美人の涙が最優先だ……俺の事情など後でいい。
落ち着かせる為に、昔の様に背中をさする。
「あー、えっと? どういう状況だ?」
「あ、スマンなエアグルーヴ」
「……春休み中とはいえ生徒はいる。流石に、ここで痴話喧嘩をされるのは困るのだが……」
状況が良く飲み込めていないエアグルーヴが、頭を抑え困惑しながら聞いてくる。
痴話喧嘩ではないのだが……
事情を知らないエアグルーヴにしたら、そう見えるのか?
ともあれ、彼女達はアスリートとして有名人だ。
そんな彼女達が男を下敷きにして泣いている……絵面がヤバいね!
俺の世間体はどうでもいいが、彼女達の名声に傷がついてしまうのは忍びない。
全力で慰めを実行する!
「ご安心を、エアグルーヴ。もう爺やに連絡して、迎えに来て貰っています」
「そーそー! まぁ、もうちょっとだけ許してあげてよ」
「……お前達はいいのか?」
「私は大学部に入ったら、兄さんを追いかけるつもりだったし」
「私も大丈夫です。……もう時間の問題だったので……兄様を逃す気など最初からありませんわ♡」
アルダン達が何か話しているが、マックイーン達を慰めるのに夢中でよく聞こえなかった。
爺やが迎えに来てくれるまで、泣き続ける彼女達を慰め続けた。
昔はもっと慰めるの、上手かったんだがなぁ……
結局、車で彼女達とメジロ家へ向かっている時も、さめざめと泣くマックイーン達を慰めた。
……ねぇ、君達。スンスンいってるけど、匂い嗅いでない?
今、汗臭いから嗅がないでくれない?
あ、違うんだ……嗅いでるよね? 絶対嗅いでるじゃん! メッチャ深呼吸してんじゃん!!
「お邪魔しています。お婆様」
「おかえりなさい。孫息子。それと、“ただいま”でしょう?」
「いえ、それは……というか婆ちゃん……体、大丈夫かよ」
数年ぶりに婆ちゃんと対面した。
最初は婆ちゃんの書斎に行こうと思った。
だが、彼女達が頑なに俺の傍を離れようとしなかった。
流石に全員だと書斎では狭すぎる。その為、応接室を使うことになった。
婆ちゃんは非常に晴れやかな表情で、ニコニコ笑っているが……めっちゃ頬こけとるッ!
病気か? 病気なんか!? 主治医! なにしとんねん!
「ええ、大丈夫ですよ。悩みが解決しましたので」
「なら、いいけどよぉ……マジで無理すんなよ?」
「お前がなかなか帰って来ねぇから、胃に穴が開きそうになってたんだよ。クソ孫」
「マジかよ……ごめんな婆ちゃん。あと居たのかクソジジイ」
ソファで足を組み、優雅に寛ぎながら珈琲を飲んでいた爺さんから声がかかる。
爺さんは相変わらず、元気そうだ。
「まったく、ワシの
「……何ものにも代えがたい、
「そりゃよかった。まぁ後は、しっかりテメェでケツ拭きな」
爺さんは“じゃあ頑張ってね! ”と腹が立つ顔でニヤニヤ笑いながら黙った。
まったく、この人は本当に……浮雲のように掴み所がないのに、人の機微には鋭い。
俺がどう切り出そうか迷っていた所に、絶妙なタイミングで話を促した。
本当に、いざという時の爺さんの姿は、どっしり構えていて安心する。
「アルダン、パーマー、ライアン、ドーベル、マックイーン。本当に申し訳ございませんでした」
俺はその場に膝をつき、土下座をした。
彼女達が何かを言おうとするのを感じたが、そのまま続ける。
これはケジメで、俺の為さなければならない事だ。
俺は顔を上げ彼女達、一人一人をしっかり見詰めて言葉を紡ぐ。
「君達を納得の為だけに利用し、卑怯な策を弄し、騙し、最低な行いをして、君達を傷つけた」
一番年上の男で兄貴分が、まだ幼い少女達にしていい事じゃあない。
“タフじゃなければ生きていけない 優しくなければ生きている資格がない。”
正しくその通りだ。
その言葉を胸に、あの炎天の日まで生きていた。
だが俺は、あの灼熱の日にその言葉を裏切った。
「罵倒されようとも殴られようとも受け入れる。少しでも君達の気が晴れるなら、それでいい」
君達には、その権利がある。
俺には、それを受け入れる義務がある。
為すべき事を為す……ただ、それだけだ。
「自己満足だと分かっている。だがもう二度と君達の目の前には表れないから安心してくれ」
俺が納得する為に利用し、今度は俺の自己満足の為に付き合わせる。
本当にどうしようもない。
愚か者にしても、ほどがある。
「赦してくれとは請わない、恨んでくれ」
これでいい……
本当は……君達に嫌われると思うと体が震える。心が張り裂けそうになる。
だが本来ならば、あの日に受けるべき事を今日まで引き延ばしていたんだ。
だから……これでいい。
「……なんで、なんでお兄様が謝るのですかッ! 最初に傷つけたのは私達なのにッ!」
マックイーンは、涙を浮かべながら叫んだ。
君達に、傷つけられてなんていない。
俺が勝手に劣等感を感じ、癇癪を起し、拗ねて、君達を傷つけただけだ。
「そうだよ……アタシ達がお兄ちゃんの事を考えず、甘えっぱなしで……」
ドーベルは耳を怯える様にたたみ、懺悔するように呟いた。
兄貴分が甘えられる事は、当たり前の事だ。
そして俺は、それを途中で放棄して、最低な方法で裏切った。
「お兄さんは自分に厳しすぎるし、あたし達に優しすぎるよ……」
ライアンは自嘲する様に、静かに涙を流して力なく笑った。
自分に厳しくなんてない……今の今まで逃げていた。
俺は優しくなんてない……君達を傷つけた。
「本当に兄さんは……私達がそんな事、望んでると思ってんの!?」
パーマーは耳を後ろに少し伏せて声を荒げた。
君達は優しいから、きっと望んでないだろう。
それは分かっているが、俺に出来る事が他に思い浮かばない。
「皆さん落ち着いてください。兄様、何故そこまでして勝ちたかったのですか?」
アルダンは優しく微笑んで俺に問いかけた。
いつの間にか、軋み、罅割れ、捻じ曲がり、錆びつき、ボロボロになった最初の願い。
もう二度と叶わない原初の祈り。
「……君達と並び立ちたかった。それが一番最初の
彼女達は体を震わせ、押し黙った。それはそうだろう。
近似種の筈なのに、その筋力の出力は桁違いでスペックが違う。
人類種の特性を、ほぼ持ち合わせている。
だからこそ、その差を埋める為に、信頼を利用し、卑怯な策を弄し、君達を騙し、……傷つけた
そんな奴が並び立ちたいだって?
呆れてものも言えない。嘲笑する他ないだろう。憤怒して当たり前だ。
「あーあ、最高の殺し文句、言っちゃって……こりゃもう止まらんな。ワシしーらね」
爺さんが何か呟いたが小声過ぎて、聞き取れなかった。
静かに聞いていた婆ちゃんは、溜息をつき彼女達に話しかける。
「貴女達、覚えておきなさい。男って言うのはね。勝手に決めて、勝手に行動するものよ」
俺は耳の痛い話に、思わず視線を逸らす。
逸らした先に居た爺さんも視線を逸らしていた……
爺さん……あんたもかい!
「だから、男を留める錨になるか、後押しする帆になるか、導く舵になるか、自分で決めなさい」
ん? なんだろう違和感がある……
その言い方だと、まるで俺がメジロ家に戻るみたいな……
「メジロ家は貴方の帰還を歓迎します。盛大にね♪」
「小悪魔な婆さんも可愛いなぁ!」
婆ちゃんは悪戯っぽく笑い、爺さんはそれに見惚れていた。
「いやいやいや! 今更そんな事、出来ねぇだろ!? あとほら! 口も悪くなってるし! メジロ家に相応しくねぇって!」
「貴方を拒む門は無いと言った筈ですよ? それに口調は、愛しの
「はぁ、ワシの妻が女神過ぎて幸せ……婆さん愛してるぜ!」
「私もですよ。愛する旦那様♪」
「あーもー! なんで婆ちゃんはジジイが関わると、いつもポンコツになるんだよ!? マックイーン達もそんな事、望んでねぇだろ!?」
「あたしは、お兄さんの優しい笑顔を見たいよ! だからおかえりなさい。あはは! やっと雨が上がったみたいだ!」「お兄ちゃん……誇らしいアタシになる為に、今度はアタシの姿をお兄ちゃんの心に焼き付いてあげるね」「並び立ちたかった……アハぁ♡本当に素敵……♡ようやく私は兄様のモノになれるのですね♡」「おかえり! 紹介したい子がいるんだ! 私の一番の親友! その子のおかげで、兄さんに相応しい私になれたんだ!」「お兄様……貴方は私を導く明けの明星です……いいえ、今度は私も貴方を導く星になります。だからお願い致します。どうか私と共に歩んでください」
いっぺんに話しかけないで!? 聞き取れねぇから! 聖徳太子じゃないんですよ!?
あーもう滅茶苦茶だよ!
パドックでの様子を見て見ましょう。
1番 メジロ■■■ 体重〇〇㎏+10
数年ぶりの出走です。
体が成長し、厚みを感じさせますね。
筋肉もいい仕上がりですよ。
ですが、他の出走者に注目され落ち着きがありません。
少し気負っているかもしれないですね…
これ、周りの出走者、全員掛かってませんか?
完全に掛かってますね……