メジロ家の愛のターフのバ場事情   作:ボブソン888

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Day After Day

 ホテルの部屋に向かっている最中に、自分の思ったよりも酔いが回っているのを自覚する。

 いつもならここまで酔わないんだが……雰囲気に酔ってしまったのか……? 

 やけに体も熱い…… 頭がフワフワとしてなんだか、変な全能感すらある。

 ただアルコールで血流が早くなったのか、鼓動が早く自身の脈動すら聞こえる。

 ふぅ、と息を吐きだし気を引き締める。

 エレベーターから降りると専用フロントがあり、細身で品のいい50代くらい男性が待っていた。

 こちらに気が付くと深く頭を下げ話しかけてきた。

 

「お待ちしていました。私、当ホテルの支配人を務めさせて頂いております、藤堂と申します。本日はご利用していただき誠に幸甚の至りでございます」

「……は?」

「……? 何かご不明な点がございますか?」

「え? いやなんでわざわざ支配人さんが俺なんかに挨拶を?」

「メジロ家の大旦那様から、何もお聞きでないのですか?」

「これっぽっちも」

 

 そういや、爺さんが支配人に礼をするとか言ってたような……? 

 あれ? ならなんでここに? 

 あーダメだなんだか頭が回らない……

 体も、なんだか熱くなってきている……

 

「左様でございますか……だいぶお飲みになったご様子、先に部屋へご案内いたしましょう」

「あー助かります。すみませんね……わざわざ支配人さんに案内お願いしちゃって」

「いえ……構いませんよ。日頃から大旦那様には良くして頂いておりますので」

 

 フラフラする体で藤堂さんの後ろを付いていく。

 頭を振り酔いを散らそうとするが、無駄に終わる。

 ……歩き辛い。

 

「こちらが当ホテルのスイートルームになります」

「え? スイート? 随分と爺さんも俺なんかに奮発したな」

 

 何でスイートルーム? 

 寝るだけなら、そこら辺の部屋で構わないんだが……

 爺さんも、なんだかんだで俺の帰還を歓迎してくれてるのか? 

 ……まぁ違和感はあるが、明日にでも考えればいいか。

 

「飲み物や、軽食類も中にご用意してありますのでご自由にお使いください。もし足りないようでしたら内線をお使い頂ければドアの前に置かせて頂きますので」

「何から何までありがとうございます」

「いえいえ、私共のおもてなしを気に入って頂ければ幸いです。素敵な夜をお過ごしください」

 

 さて、寝る前にシャワーでも浴びるか……

 服を脱ぎシャワールームへ入る。流石にこの酔いで入浴するのは危険すぎる。

 本当は良くないが、冷たいシャワーで酔いを醒ます。

 彼女達との再会の事が頭に浮かんでは消えていく。頭がボーっとして、思考が定まらない。

 

 冷水を浴びてる筈なのに、身体は熱いままだ。

 ……風邪でも引いたか? 埒が明かないので備え付けのガウンを羽織りベットルームへ向かう。

 

「お待ちしていましたわ、お兄様」

「……? 酔いすぎたか? マックイーンの幻聴が聞こえる」

 

 その声を聞き後ろを振り向くと、薄暗い室内に影が見える。

 ……やべぇ酔い過ぎた。その影がマックイーンに見える。

 

「遅かったね……兄さん。だいぶ酔ってるね……手を貸そうか?」

「アカン、パーマーの幻覚まで見えてきた。フラフラするけど大丈夫だ」

 

 今度はパーマーの声が聞こえた。

 酔いで視線が定まらないが、よくよく見ると影が複数見える。

 

「無理しないでね、お兄さん! えへへ、待ってましたよ!」

「元気がいいなライアン。何かいいことでもあったのか? それにしても俺は欲求不満なのか?」

 

 だんだんと目が薄暗さに慣れはっきりしてくる。

 下着姿のライアンに見える……なんで妹分のそういう幻覚見てんだよ俺……

 

「うん、お兄ちゃん。とってもいい事があったんだよ。そしてこれからもね……」

「それは何よりだよドーベル。でも背伸びし過ぎだな……風邪ひくぞ?」

 

 爺さんの話でそっちの方に頭が行ってんのかな……

 下着姿のドーベルは顔を真っ赤にしながら、体を手で隠していた。

 

「私の姿は如何でしょうか? ちゃんと兄様を欲情させられていますでしょうか?」

「アルダン。君は流石に言葉を選ぼうか」

 

 言葉遣いは淑女なのに、内容がはしたないからね? 

 他の子は、大なり小なり恥じらいがあるのにアルダンには一切なかった。

 

 ……さてと、んじゃ現実逃避はここまでにしますかぁ! 

 

 彼女達は男を誘惑する為だけに作られたとしか思えない、淫らな下着をつけていた。

 吐息に熱を孕ませ、目は爛々と妖しく輝いている。

 妖艶な、そして隠し切れないほどの、発情した笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 

「クソがあああぁぁぁ! 騙したなクソジジイイイィィ‼道理でやけにいい部屋だと思ったわ! 孫の為って俺じゃなくてコイツ等の事か! しかもクスリ盛りやがったな!」

メジロ家秘伝の精力剤(蛇の卵、すっぽんの血など)です。ご安心ください。私達も飲みましたから……体が熱いですわ♡」

「マックイーンさん!? 全然安心できないんですけど!? ぺってしなさい! ペッて!」

 

 マックイーンがニッコリと素敵な笑顔で教えてくれる。

 なんで、そんな怪しいモン飲んでんの!? 

 君達、アスリートでしょ!? そこら辺ちゃんとしなきゃダメでしょ! 

 それにしても、そっか~。だからこんなに下が元気いっぱいなんだね! アハハ! クソがぁ! 

 あと、モジモジしないでくれる? なんか俺がイケナイ事させてるみたいで興奮するから……

 

「色々考えて自分を誤魔化してたけど、やっぱりムラムラしてたのはそのせいか!」

「アハぁ♪ 兄様の獣欲を全部、私にぶつけて下さってよろしいのですよ♡」

「落ち着けアルダン! 錯乱してるだけだから! 冷静になろう! ね!?」

 

 アルダンは手を広げ、その情欲を搔き立てる豊麗な身躯を見せつけてくる。

 ハァハァと息を荒げ、蕩けた顔と欲情した目で俺を舐め回す様に見ている。

 ……完全に捕食者の顔やんけ! 

 ……多分、俺もそんな顔して、喰い応えがある女体を舐め回して見てるけど。

 

「アハハ、そうだね、兄さんの言う通り錯乱してるかも。で? それが何か問題なの?」

「問題しかねぇよ! 自分を大切にしろパーマー!」

 

 パーマーは頭の後ろで、手を組み笑って言った。

 あのね……目のやり場に困るから隠してくれない? 

 あと、錯乱してる自覚あるなら冷静になって? 

 ぷるんぷるん……ハッ! つい目がッ! ……顔を赤くするなら隠して? 

 

「うるさいよお兄ちゃん。もう覚悟を決めて。私は出来ているんだから」

「ドーベル! なんだそのイタリアンマフィアみたいなセリフは! そんな覚悟捨ててしまえ!」

 

 ドーベルは相変わらず体は隠そうとしているが、真剣な目で俺を見ている! 

 昔みたいなの優しい微笑じゃなくッ! 『スゴ味』のある覚悟の表情でッ! 

 ただ、それは必要ないからね!? 

 あー……下手に隠すからチラリズム感があって、より淫らに見えるぅ……

 

「あはは……でもお兄さん……苦しそうですよ?」

「なんでライアンも積極的なの? 恥じらいをもって? すぐに赤面する君はもういないの?」

 

 ライアンはウットリとした表情で俺の筋肉と……下半身を見入っていた。

 昔はもっと照れてたじゃん! 可愛く赤面してたじゃん! 

 成長したのは嬉しいけど、メッチャ複雑な気持ちになるんだけど!? 

 なんだろう……筋肉と女性らしい丸みが、滅茶苦茶リビドーを刺激するんだけど……

 

「はぁ……お兄様は私達が、どれほど想っているかをご理解されていない様子ですわね」

「あーそのー……それは本当に申し訳ない……お前らに恨まれても仕方がないと思っている」

 

 メジロ家で言った事に嘘はない……恨んでくれて構わない。

 君達からの軽蔑を受け入れる覚悟をした。それが俺の咎だ……

 でも、それとこれとは違うじゃん? 

 

「……もう体に直接、忘れられないくらいに刻み込むでいいんじゃないかな?」

 

 ポツリと誰かが言った。

 OK分かった落ち着こう! こんな形じゃお前等が後悔するから! 

 ね? これ以上お前等を傷つけたくないんだよ! 分かって!? 

 結局、俺の願いも虚しくベットへ引きずり込まれる。

 

「兄さん! あのキスの続きをしちゃうね♪ 今度は深くね……考えただけでヤッバ♡」

 

 あのキスの続きって何!? ヤバいなら止めておこ? 

 

「あ、ズルい! お兄ちゃん♪ アタシは頭を撫でて欲しいな♡」

 

 うん、それだけ聞くと可愛い要求なのに、その蕩けた表情と下着で台無しだよ? 

 

「私は兄様の匂いを堪能させて頂きます♪ あぁ……汗の匂いで気をやってしまいそう……ッ♡」

 

 君は本当にもっと恥じらいを持って? あの日の夜の警句忘れないで? 

 

「うーん、あたしはどうしようかなぁ……。あ! お兄さん手を借りますね♡」

 

 こういう事に積極的にならないで? あと、そんな恍惚とした表情で俺の指舐めないで? 

 

「あら? 私に本丸を譲って頂けるのですか? それでは遠慮なく頂きますわ♡」

 

 まぁ確かに男の本丸だけどやめてくれる? 俺のだから頂かないでくださる? 

 

 彼女達は俺の近くに腰を下ろし腕や足を絡めとる。

 あ、ダメだ完全に抜け出せない。

 酒と精力剤(ジジイの罠)のせいか力も入らない……本当は心の何処かで受け入れている。

 それでも……一縷の望みを込めて聞いてみる。

 

「お前等が何を考えてるか、俺にはわかるよ。……この先、何が起こるかもね……拒否権は?」

「「「「「ありません♪」」」」」

「ですよねぇ……やめ、ヤメロー!」

「「「「「もう逃さない♡」」」」」

 

 窓から見える月がやけに大きく、そして赤く見える。

 清々しい程、雲一つない夜空の月が愚者()を嘲り嗤う様に見えた。

 或いは、彼女達を祝福するように……

 

 

 

 

 

 

 彼女達と一緒に熱く長い夜を過ごした(うまぴょいした)……

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓から差し込む太陽の光がもう昼だと教えてくれる。

 俺はソファに座りながら部屋に備え付けてあったコーヒーメイカーで作った珈琲を飲んでいた。

 流石、高級ホテルのスイートルームの珈琲だ。若干脱水気味なのも相まって実に美味い。

 

「確かに勝ちたかったけど……こういう事ちゃうねん……ッ!」

 

 ベッドルームでは彼女たちが泥の様に眠り込んでいるだろう。

 なんで5対1で勝ってんだ……精力剤のバフがあったとはいえ俺の体どうなっとんねん……怖ッ

 

 それはともかく、これからの彼女たちとの付き合い方を考えなければいけない。

 こんな俺を好いてくれているのに、今の俺の考え方は彼女たちを侮辱している。

 “ふぅ”と一つ溜息をつき、現実逃避の為に美味い珈琲に再び口をつける。

 

 贖罪ではなく愛を送ろうか? 

 それが彼女たちが望んでいることだろう。

 そんな事は、わかってはいるんだ……

 だが……本当に俺が愛していいのだろうか? 

 彼女達の心に穴を開けてしまった事は間違いない。

 それは忘れてはいけない事だ。

 

「また、バ鹿な事を考えておりますの?」

「……マックイーン。ゴメンな……暴走して首に噛みついちゃって。痛みは大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。貴方からの痛みなら、それすら愛おしく感じますわ」

 

 声が聞こえる方へ顔を向けるとシーツを体に当て、前を隠しているマックイーンの姿があった。

 ウットリとしている表情は、幼さを感じさせるのに妖艶な艶めかしさも同時に感じさせる。

 シーツに隠れていない彼女の肌は未だに紅潮している。

 俺の視線に気が付いたのか、肌よりも赤く頬を紅潮させ恥ずかし気に視線を逸らす。

 首に噛み跡が残ってるし……暴走したとはいえ、血が出るまで噛みつく事ねぇだろ俺……

 でもなんで全員、噛まれたがったんだ? 

 

「めっちゃ足震えてるぞ」

「貴方のせいです……昨夜を思い出してしまいました♡。コホン……昔みたいに紅茶を淹れてくださる?」

「はいはい、俺の可愛いお姫様」

「もう、お兄様ったら……」

 

 マックイーンが噛み跡を摩る。……ゴメン、やっぱ痛かった? でも、嬉しそうだしなぁ……

 俺の軽口に拗ねた表情を見せるマックイーンに苦笑しつつ、紅茶葉とティーポットを取り出す。

 ムム……ダージリンか……俺としてはキーモンの方が好みだが……

 まぁマックイーンはダージリンが好きだったな。

 さてはて、昔はよく彼女達に淹れてやっていたが、腕が錆びついていなければいいのだが。

 

「ねぇお兄様……何を考えておいででしたの?」

 

 その言葉に紅茶の準備を止めてしまった。

 正直に言うべきか言わざるべきか……

 俺は彼女達の人生の道半ばに再び現れた亡霊の様なモノだから。

 きっと恩人たちの言葉が無ければ、彼女達の苦悩も知らずに遠くで留まっていた存在なのに……

 それでも、彼女達と再会して愛されていたと分かって……本当は嬉しかったんだ。

 君たちに、背を向けた俺が言える立場ではないのは分かっている。

 それでも……こんな俺が君たちを愛していいんだろうか? 

 彼女たちを追い詰めた俺に……そんな資格があるのだろうか? 

 

 結局、いう事にした。

 黙っているのはマックイーンに失礼だろうから。

 

「俺にお前らを愛する資格があるのかなぁって」

 

 振り返らずにそう言うとマックイーンはため息をついた。

 自分でも呆れるくらいにグジグジと、くだらない思い悩んでいる事は分かっている。

 彼女達の望みを昨夜、思い知らされた。

 だが、それでもあの日、俺はマックイーン達(尊いモノ)を踏み躙った。 

 ありがたい事に、自分を赦せと恩人達は言ってくれる。

 

 でも……それでも、俺は自分自身を赦せていない(納得していない)

 納得が無ければ、俺は『前』に進めない、何処へも……『未来』への道を探すことが出来ない。

 納得があれば、荒れ果てた大地(理不尽な事)だろうが踏破してみせる(乗り越えてみせる)

 我が事ながら、難儀でバ鹿な生き方だ……だが、変えるつもりはない。

 

「お兄様、ちょっとこちらを振り向いてくださるかしら」

「どうした? まだ準備は出来ていないぞ?」

「いいから早く」

 

 振り向くとポスっと軽やかな音を立てて、俺の胸の中にマックイーンが飛び込んできた。

 抱きしめると、彼女は尻尾を嬉しそうに高く振り、耳も真横を向きふにゃふにゃと揺れている。

 

「しっかりと抱きしめてくださいな」

「……ああ」

「まったく……お婆様の言う通りですわ。勝手に決めて勝手に行動して……本当に質の悪いお人」

「……そうかな?」

「そうですわ……まったく」

「……ゴメンな」

 

 マックイーンは俺の背に手を回し抱き着き、猫の様に頭を俺の胸にグリグリと擦り付ける。

 彼女の色艶のいい葦毛の髪を手櫛で梳くと、サラサラと手から零れ逃げてゆく。

 しばらく、髪の感触を懐かしみながら楽しんでいると、彼女がじっと俺の目を見つめる。

 

「資格が……とおっしゃいましたね?」

「……ああ」

「……私の想いをお伝えいたします」

 

 マックイーンは俺の胸の中で呟くように囁くように、だが強い意志を込めて言葉を紡いだ。

 その言葉を聞いて、やはり彼女たちには敵わないと自らの敗北を受け入れた。

 あれ程に焦がれた勝利ではなく、あれ程に苦しんだ敗北なのに不思議と心地よく心が軽い。

 俺たちはしばらく抱きしめ合った。

 

 本当に……本当に……遠い廻り道をしてしまった。

 それでも……ようやく『納得』ができたんだ。

 きっとこれから、辛い事もあるだろう。悲しい事もあるだろう。

 だがそれ以上に、楽しい事があるだろう。幸せな事があるだろう。

 

 そんな日々を彼女達と共に生きれることを、何よりも愛おしく思う。

 愛しているんだ君たちを……心の底から。

 

 

 

 

 

 

 ―貴方の腕の中、此処が……此処こそが私の魂の場所です―

 

 

 

 




場内にファンファーレが流れます。
ターフは稍重バ場での発表です。
京都11レース全7名……今、スタートしました!


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