チェックアウトすると爺さんがホテルのロビーで珈琲を飲んで寛いでいた。
“昨日は楽しんだか?”とほざくクソジジイを殴ろうとしたが、俺は悪くねぇ!
爺さんはムカつく笑顔で避けやがった! クソが!
婆ちゃんはいつの間にか来ていたらしく、非常に機嫌が良さそうに笑っていた。
婆ちゃん今からでも離婚した方がいいよ……え? ベタ惚れ? 趣味わりぃぞ?
執事の爺やは、漢泣きをしながら“若様の御子を抱くまで死ねませぬ”と言っていた。
まだ、先だから当分の間、生きてくれる? 存分にこき使ってやる……健康を害さない程度に。
少し早いが俺の誕生会がメジロ家総出で盛大に開かれた。
もう、いい年なんだし恥ずかしいから、しなくていいと言ったんだが……まったく。
…………ただいま。
まぁ、親世代の人達に謝罪しまくったんだけどね……本当にすみませんでした。
さて、俺がメジロ家に戻ってから、しばらく経った。
今までの分を取り戻す様に、マックイーン達との時間を過ごした。
だが、彼女達はアスリート。春休み中とはいえ、トレーニングは怠らない。
なんでも、俺の為に勝利を捧げるとか…… うん、そんなに気負わなくていいんだぞ?
今までのトレーニングよりも気合が入っているとの事だ。
俺の存在が彼女達のプラスになっているのなら、あの夜も無駄ではなかったのだろう。
まぁ戻ったと言っても、未だに一人暮らしは続行中。
自分だけの城だからな。早々に手放すつもりはない。
だが、少しずつマックイーン達が俺の部屋に侵食して来ているのだが……
うん、まあ、嬉しいよ? 嬉しいんだけど……その……なんだ……困る。
おぅ、ベットの下漁るのやめーや。 “貴方の好みは何ですか? ”って直接聞いてくるな。
泊まるのはまぁ、よしとしよう。だがベットに横になって、俺を誘惑しようとするんじゃない!
それに穴を開けようとするな! ホントにヤメテ! 針をしまいなさい!
貴方との
そんな事しなくても……お前達の事を心から愛してるから。
慌ただしくも温かな時間が過ぎ、久しぶりに荒谷達と会っている。
そして、
反応は三者三様だった。
上田は、“おめでとう”と純粋に祝ってくれた。
烏丸は、“豪胆なことだ”と相変わらずの物言い。
荒谷は、“あっそ”と関心無さげに流していた。
閑話休題、大学の長い春休みも、もうそろそろ終わり。
来年度から最終学年という事で、その前に旅行に行こうという話になった。
その計画を立てる為に、朝早くから喫茶店にムサい男共が集まっていた。
なんだろう……最近、美麗で愛らしいマックイーン達と一緒にいたから、よりムサく感じる。
その分、気楽で楽しいのだが。
しばらく、4人であーだこーだ言っていたが、気になっていた事を聞いてみた。
「なぁお前ら。ゴールドシップの事何か知らない?」
最近、連絡取れないんだよなぁ。電話しても、SMSしても無反応。
たまに、連絡が付かない事もあるにはあるが、こんなに連絡が取れないのは初めてだ。
なんか嫌われるような事したかなぁ……アイツに嫌われたら2,3週間は寝込む自信がある。
「
上田……この前紹介したばっかりだろうが。
なんか知らんがゴールドシップに興奮してサイン貰ってたじゃんか。
つまらないボケは要らないんだが……
「……聞き覚えが無いな」
笑えない冗談はやめろよ烏丸。
散々、俺達は遊んで飯を食いに行って騒いだだろうが。
まぁ、俺が拉致られる時は一度だって助けてくれねぇけどよ!
「お前、子供が出来る前に孫の名前考えてんの? 気が早すぎるだろw」
何を言っているんだ荒谷。
彼女達にはまだ青春を味わって貰いたいんだから、子供なんてまだずっと先だよ。
それに何でゴールドシップが、俺の孫の名前になるんだよ。
「何言ってんだよ……ウマ娘でスタイル抜群の葦毛で天真爛漫な美人のゴールドシップだよ」
三人は顔を見合わせている。
それは俺の事を揶揄っているのではなく、言っている意味が分からず困惑しているようだった。
てか、お前等この前、会ったばっかりじゃねぇかよ。
俺が出会った時と変わらず美人でスタイル良くて破天荒な……
もう、かれこれ長い付き合いなのに姿が変わっていない?
「わりぃ、俺行くわ」
なんだコレ……なんで今まで疑問に思わなかった……? なんで今更それに気が付く……?
心臓がゆっくりと心拍数を上げる。嫌な……途轍もなく嫌な予感がする。
胸がざわめく、脳内に警鐘が鳴り響く。
まかり間違えば取り返しのつかない事になる、そう心の何処かで不安が搔き立てられる。
「手助けは必要か?」
「……いや、いい」
烏丸は俺の様子に何かを感じたのか、手伝いを申し出る。
だが何故だろう……きっと俺だけしかゴールドシップを見つけられない。
そんな確信がある。
「……何か手伝える事があれば言ってくれよ?」
「ああ、ありがとな」
上田は心配そうに俺にそう言った。
勿論だ。意地張って本当に大切な事を見誤る様な事はもうしない。
何かあれば、お前等も情け容赦なく働かせるから安心しろ。
「おい。これ持ってけ」
荒谷は何かを俺に向かって投げた。
「……おい、コレって」
「俺のバイクのキーだ。使えよ」
慌てて受け止めると、それは荒谷が大事にしているバイクのカギだった。
決して他人には触らせない、俺達でさえダンデムする事を拒否する程に大切にしている。
「いいのか?」
「何かは分かんねぇけどよ……大切な事なんだろ?」
「ああ、俺の救いだ」
「ならサッサと行けよ。“時は、待たない”だぜ?」
まったく、本当にお前らは、俺には過ぎたるものだよ。
散々、俺を助けてくれたお前等に、更に甘えてわりぃな。
だからこそ、お前等が困った時に、俺にお前らを救わせてくれ。
「ありがとよ」
「がんばれよ」
喫茶店を飛び出ると、駐車場にあるバイクに飛び乗りエンジンをかける。
大型二輪の響く重低音を、体に感じながら心当たりの有る所まで疾走する。
ゴールドシップ……俺はお前にまだ何も返しちゃいねぇ。
だから……待ってろよ。絶対にお前を見つけ出す。
山を探した、天体観測をしたあの山を駆け登りゴールドシップを探す。
……いない。
海を探した。焼きそばを一緒に売ったあの海を走り回りゴールドシップを探す。
……いない。
色んな場所を探した。一緒に買い物に行ったデパート。一緒に遊んだゲーセン。
一緒に歌ったカラオケ。一緒に見に行った映画館。一緒に食べに行った飲食店。
ホームセンター。川。湖。美術館。ケーキ屋。雑貨屋。博物館。薔薇園。科学館。花屋。
……どこにもいない。
ここで見つけられなければ、二度と会えないという予感。
心の中に、得も言われぬ焦燥感と喪失感が去来する。
本能は何としてでも、早く見つけろと俺を急かす。
理性はゴールドシップが居そうな場所を必死に検討を付ける。
ふっと思い出す。
最初に出会った……
俺が腐っていた時にゴールドシップのおかげで、また歩き始めた場所を……
確信に近い思いつき。
不思議と人の気配を感じない公園。
ただ一人だけぼんやりと空を見上げていた。
ショールを肩にかけ白いブラウスと黒いロングスカートを着ている深窓の令嬢然としたウマ娘。
いつもと印象が違うな……だがゴールドシップだ。ようやく見つけた……
もう日も落ち始め、空は茜色と藍色が混ざったように染まっていた。
「探したぞ、ゴールドシップ……心配したじゃねぇか」
「……アタシが分かるのか?」
「当たり前だろ」
俺が声をかけると、ゴールドシップはビックリしたような顔を見せる。
まったく、何年の付き合いだと思ってやがる。
ちょっと会わないだけで、顔を忘れるほど薄情じゃねぇよ。
「何処に居ようが見つけてやるよ」
「なんだぁ? ストーカー宣言かぁ? ゴルシちゃん保護法違反だぞ?」
「うるせぇ。そんなの知った事じゃねぇんだよ」
「アハハ……そっか。見つけてくれて……あんがと」
いつもの無邪気で型破りなゴールドシップからは考えられない程……力なく笑った。
悲しんでいる様で、泣いている様で、覚悟した様な表情で……
何処か誇らし気に、使命を果たした様に、運命を受け入れた様に……笑っていた。
どちらからともなく近くのベンチに腰を下ろす。
「なぁお前はさ……アタシが未来から来たって言ったら、笑う?」
「……笑わないな」
探し回っている時に、何となく……本当に何となく、察した。
爺さんの隠し子かと一瞬疑ったが、あの砂糖を吐きたくなる程の愛妻家がそんな事する訳ない。
ゴールドシップに甘い理由も何となく分かっていた。
性格もスタイルも言動だって全く違うのに……
共通点は葦毛で美人って事以外はまったく違う筈なのに……
ゴールドシップの中にマックイーンを見ていた。
「ってことは荒谷が言ってたみたいに……お前は俺の孫って事か?」
「……まぁそんな感じ」
最初は多分、代償行為だった。
でも、それはいつの間にかゴールドシップ自身だからに変わっていた。
ゴールドシップと遊ぶのは楽しかった。いや……ただ一緒に居るだけで楽しかったんだ。
お前にいっぱい救われたな。本当に感謝している。
「俺を助けに来てくれたのか?」
「……ンな訳ないじゃん! アタシだぜ? ただこの時代に遊びに来ただけだよ」
「……嘘だな。お前は優しい子だ。誰かの為に献身する事が出来るいい子だよ」
想えばコイツの行動は全部、優しさから来ていた。
辛い時、悲しい時、しんどい時……コイツはいつも、いつの間にか一緒にいてくれた。
無理矢理連れ出して、俺の心を救ってくれていた。
俺は本当に気が付くのが遅い……
「……あんたは本当にズルい。……本来だったらあんたはまだメジロ家に戻ってない」
「……」
「隆さんの所の人参の契約の後、事故って3年くらい昏睡状態になってた筈だ」
「そう……なのか」
「あ、死んじゃいねぇぞ?」
そっか、手段は分からんが、お前がまた救ってくれたんだな。
何度も孫に救ってもらうとは……まったく……情けねぇな俺も。
「お前は本当に俺の
「……いいよ」
「しっかし、時空間移動なんてとんでもねぇな。どうなってんだよ未来は。頭狂ってんのか?」
少し湿っぽくなった空気を変える為に、極力明るく振舞う。
そうしないと、何か悲しい事を起きてしまいそうだから。
でもきっと、それは無駄な努力なんだろうと分かってる。
ゴールドシップは何とも言えない顔をしていた。
「……? なんだよ? その顔」
「……あんたの親友とマッドサイエンティストは凄いなって思っただけだ」
「はぁ?」
「なんでもねぇよ」
しばらく俺達は、無言でベンチに座っていた。
夕日に照らされた彼女はいつもの快活な姿からは、想像つかない物憂げにぼんやりとしている。
どれぐらい座っていただろうか、日が沈み始めた頃にゴールドシップは立ち上がった。
「じゃあな! いつか生まれてくるアタシをしっかり愛してくれよ」
「何言ってんだよ。今目の前にいるお前も愛してるよ」
「……そっか、やっぱりアンタはいい男だな! 流石はアタシの大好きな人だ!」
「ああ、俺もお前が大好きだよ」
……そっか、俺は君に恋をして、いつからか愛していたんだ。
パズルの最後の1ピースをはめた様に、しっくりと来た。
万感の想いを込めて、ゴールドシップに感謝をする。
「ゴールドシップ……ありがとう。俺のまだ生まれていない愛しの孫娘。お前のおかげで人生面白くなって、未来への楽しみが増えたよ」
「こちらこそありがとうございます、今代の花婿様。貴方の優しさに小さい私は心救われました。少しでも恩返しが出来たのなら望外の幸せです」
ゴールドシップはスカートの裾をつまみ、俺に向かって一礼をする。
いつもとは違う口調と行動に面食らった。
だが、何故だろう不思議とその言葉遣いは彼女に似合っていた。
俺の驚いた表情に満足したのか、ゴールドシップはニヤリと笑い俺を揶揄ってくる。
「なにびっくりしてんだよ。未来のメジロの令嬢なんだぜ? こんなのお茶の子さいさいよぉ!」
「あぁ、そうだな。今のお前も、いつものお前もどっちも素敵だよ」
……うん。心からそう思う。
今の清楚でお嬢様然とした姿も、いつもの天真爛漫な姿も、どちらも彼女に似合っている。
やはり美人だと絵になるな。
「……ほんっとぉにメジロの花婿ってやつは……女たらしもいいとこだぜ」
「えぇ……孫にまでそんなイメージなのぉ?」
マックイーン達も最近、俺を女たらしと
なら、やめた方がいいかと聞くと“それはダメ”と言われる。
なんでや……女心はよく分からん。
「やっぱり若くても、あんたは貴方だな!」
「てか本当は、メジロのウマ娘がチョロすぎるだけだろ?」
「いや、それはない」
「マジトーンで言うのはやめてくれ……」
別れの予感があった。
それでも、俺達はいつもの様に笑いあった。
それがきっと、俺達らしいから……
「……もうそろそろ時間だ。最後に目をつぶってくれねぇか?」
「最後の最後まで悪戯か? まぁ可愛い美人の孫の頼みだ。これでいいか?」
夕日に照らされて伸びる影法師は一つに繋がった。
俺を抱きしめたゴールドシップの体は……少し震えている。
彼女は驚き目を開けてしまった俺に咎めるようで、悪戯が見つかった様な表情を浮かべていた。
少し頬を膨らませたゴールドシップが、目を閉じ顔を近づけてくる。
一瞬戸惑ったが、俺はそれを受け入れ目を閉じた。
唇が俺の頬に触れる。
彼女の悪戯が成功したかの様な、恋する乙女のような儚い表情は何よりも美しくかった。
「おいおい! まさか口にして貰えると思ったのかぁ? このスケベ!」
「……まぁ正直期待したよ」
「お、おぉ……まさかそんなに正直に答えるとは……」
ゴールドシップは、俺の正直な感想にたじろいでいた。
先程の口付けの意味が“長いお別れ”なのか、それとも“再会の約束”なのか俺には解らなかった。
「じゃあな愛していたよ。私の愛おしい人! 親愛か恋慕かは自分で考えな!」
あぁ成程……俺には“ギムレット”よりも“ジンライム”が似合う。
「じゃあ今度こそ「ゴールドシップ」んっ!? あむ……んちゅ……♥んっ……ぷはっ……♥」
だから今度は俺がゴールドシップの腰と後頭部に手をまわし、抱きしめ口付けをした。
彼女はビクリと体を固くして目を見開くが、俺がそうであったように受け入れ目を閉じた。
俺の背に手を回し、俺の服を少し震えながら握りしめる。
ゴールドシップの唇の感触は、絹のように滑らかで、マシュマロのように柔らかく、薄く塗っているグロスが吸い付くようで、溶け合うように情熱的で、熱かった
短い時間だったと思う、それでも永く感じた。……永く感じていたかった。
唇を離すと二人の間に銀糸が繋がり夕日に照らされてキラキラと光る。
口を離すと銀糸の橋が架かり、プツリと途切れた。
これから離れ離れになる俺たちを暗示しているようで、ほんのチョッピリだけ胸を締め付ける。
ゆっくりとゴールドシップの体を離すとトサリと軽やかな音を立てて崩れ落ちる。
「お、おい大丈夫か?」
「あ、あぁ大丈夫……大丈夫じゃないかもしれねぇ……これがパーマーさんが言っていたキスか……やべぇなこれ」
「……? 何か言ったか?」
「い、いやなんでもねぇ……腰砕けしちまった」
ゴールドシップは瞳を閉じて、唇に指を這わせていた。
その姿は、堪らなく情欲を掻き立てる程に美しかった。
俺が見惚れていると、ゴールドシップの体から光の粒子がゆっくりと立ち昇る。
「お、おい! お前体が透けてきてるぞ! 大丈夫なのか?」
「ああ問題ない。もうすぐ時間切れだ……最後に二つ我儘いっていいか?」
「……なんだ?」
へたり込んだゴールドシップを起そうとする俺を、彼女が手で制する。
“我儘なんていくらでも聞いてやるよ! だから行くな”……とは言えなかった。
ゴールドシップは“納得”をしているんだ。その覚悟に泥を塗る事は……出来なかった。
「アタシが消えるまで頭を撫でてて欲しい」
「もちろん。もう一つは?」
座り込んでいるゴールドシップを、しっかりと抱きしめ頭を撫でた。
彼女は嬉しそうに目を細め、頭をグリグリと俺の掌に押し付けてくる。
「アタシが居た事は、皆の記憶からは段々と無くなっちまうんだ」
「そんな……どうにかならないのか?」
「そーゆールールなんだよ。例外はないんだ」
だから、荒谷達がゴールドシップの事を覚えていなかったのか……
「それでも、それでもね……貴方に覚えておいて欲しいの。無理ことだって解ってるだけど……だけれど愛した人に忘れられるのは悲しいから……」
「ああ、任せろ。お前を忘れてやるもんかよ。例え世界が忘れても、俺だけはお前を覚えてる」
もう一度、ゴールドシップの唇に口付けをした。
俺の感謝が伝わるように、俺の覚悟が伝わるように。……俺の愛が伝わるように。
「……本当に心憎いお人……どれだけ私を本気にさせるのかしら」
「先に俺を本気にさせたのは、お前自身だ」
「ならしょうがねぇな……そろそろタイムリミットだ。愛おしい貴方、宇宙一愛していたよ」
「あぁ……俺も宇宙一愛しているよ。ゴールドシップ」
ゴールドシップは、桜の花びらのようなひらひらと揺れる光の粒子と共に、消えていった。
まるでそこに、最初から居なかったように……忽然と。
「まったく……最後の最後で自分の恋と愛に気が付くとはなぁ……しかも孫とか。業が深すぎる」
喪失感でしばらく茫然としていたが溜息を一つしてその場で背伸びをする。
もう夕日はほぼ沈み辺りは仄暗く夜の帳を下ろそうとしていた。
「ありがとう。ゴールドシップ。本当にありがとう。愛していたよ」
誰に言うともなく囁いた。まったくいつの間にかセンチメンタルになっていたらしい。
これからこの喪失感を抱えて生きていく。
そうか……これがマックイーン達が味わった喪失感か。本当にひどい男だ……俺は。
周回遅れでようやく自分の所業を理解するとは……無能にしても、……程がある。
切なく甘い色褪せぬ失恋。
何時かは癒え、
雨が降ってきた、どうやらこの雨は俺の目に溜まるらしい。
そんな使い古された表現で、自分の涙を誤魔化した。
零れ落ちない様に上を向いて歩こうか? いや……やはり、前を向いて歩くとしよう。
頬を濡らす雨は、夜の闇が隠してくれるから。
「なぁんだよぉ。“愛していた”なんて過去形って事はもう愛してくれてないのかぁ?」
……結局、俺はゴールドシップに振り回されっぱなしだなぁ。
やれやれとため息をつくと、愛おしい声がする方へ振り向いた。
どうやら雨はにわか雨だったらしい。
「いっただろ? 私はメジロの令嬢だぜ? 滅茶苦茶、愛が深い一族の令嬢だぜ? そう簡単に逃げられると思うなよ? もー絶対、離さねぇからな♡」
満天の星のような笑顔でこちらを向いているゴールドシップは、少し大人っぽくなっていた。
ヘッドギアを外し、チューブトップに丈の短いライダース、スキニーにブーツを着こなしてる。
まったく、本当にいい女になって……
「格好つけてハードボイルドに決めようと思ったのに……まったくお前は」
あの喪失感は何だったのか? あの覚悟はなんだったのか?
そういう気持ちもあったのに、気が付けば俺も笑顔になっていた。
「はぁ? アタシのカレピッピは、そんなことしなくてもカッコいいんだがぁ?」
「ハイハイ、ありがとよ。お前は何にもしていなくても可愛いよ」
俺の言葉にゴールドシップは頬を赤らめ目を逸らす。口元も緩んでいる。
夜の暗さが隠してくれると思ったのか……だが、見えてるぞ
……やっぱ、可愛いなコイツ。
「バーカ……なぁ100年後ヒマ? 空いてたら宇宙に行こーぜ!」
「……それもいいかもな」
「よっしゃ! 言質は取ったぜ! いい星がある! ゴルゴル星って言うんだ! 行こうぜ!」
「おいおい……100年後のお楽しみじゃないのかよ」
ゴールドシップが俺の手を取って走り出した。
そういえば、初めてかもな……拉致られるんじゃなく、こうやって手を繋いで出掛けるのは。
風に乗ってゴールドシップの呟きが聞こえる。
―ねぇ……聞こえる? 愛してくれて……ありがとう―
外から猛烈に追い上げてきた!これはどうなる!?
七名まったく並んでゴールイン!
さぁ、どうでしょうか……七名並んでいます。
わかりません。まったく並んでいます。
写真判定です。……今、結果が出ました!
勝ったのは―――ッ!