メジロ家の愛のターフのバ場事情   作:ボブソン888

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メジロ家の愛のターフは良バ場……?
Remain


 窓から引っ越し会社のトラックが発車するのを、ぼんやりと見ている。

 季節は春。きっと新しい生活を迎える為に、近くに誰かが越して来たのだろう。

 春一番も収まり、穏やかな花の風が頬を撫で、春の生き生きとした若草の香りが鼻腔を擽る。

 視線を上げると空は青く、雲も無し。気持ちがいい春風吹く、日本晴れ。

 空はあんなに青いのに……俺の心はレイニーブルー。

 

「なぁ! テーブルはこっちに入れておいた方がいいか?」

「ああ、そこの押し入れに入れてくれ。悪いな」

「てか、黄昏てねぇでオメェもやれよ!」

「……ああ、そうだな、ゴールドシップ」

 

 現実逃避をしていたら、ゴールドシップがブーブーと文句を言う。

 愛しの従姪孫(従妹の孫) ―あの後、本当の事を教えて貰った― は拗ねた表情も可愛らしい。

 今、俺達は俺の部屋の掃除をしていた。

 

 マックイーン達に、ゴールドシップとの関係について伝える為に集まって貰う……

 未来関係の事は伝えないつもりだ。多分、信じて貰えないだろうから。

 これから起こる事を思うと、胃の辺りがキリキリと痛む。

 胃に穴が開きそう。改めて思う……婆ちゃん本当にゴメンね。

 為すべき事を為す……為すんだ……頑張れ俺。……心が折れそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

「アルダン、パーマー、ライアン、ドーベル、マックイーン。本当に申し訳ございませんでした」

 

 俺は自分の部屋で膝をつき、土下座をした。それは完全降伏の姿勢。

 これで赦して貰おうなんて考えてはいない。だが、せめてもの誠意を示すためのモノ。

 煮るなり焼くなり好きにして欲しい。それを受け入れる義務が俺にはある。

 

「……なんで、お兄様は謝っているのでしょうか?」

「お兄ちゃんはアタシ達の事をちゃんと考えた? ……不潔」

「あはは、お兄さんは優しすぎるね……誰に対しても」

「本当に兄さんは……私達がそんな事(土下座)、望んでると思ってんの?」

「返す言葉も御座いません……」

 

 あの日と似たような言い回し。だが、棘のある言葉が俺を刺す。

 アルダン以外の彼女達は後ろに耳を絞り、不機嫌な表情を隠そうともしない。

 ベットや座布団に座って居なければ、ウマ娘特有の前掻きをして威嚇していただろう。

 尻尾も立っていて、恐らくトモ辺りに力が入っている。

 アルダンはニコニコと穏やかな笑顔を浮かべ、怒りのサインは一つも出ていない。

 ……なんだろう。逆に怖いんだが。

 

「まぁまぁ、マックちゃん達ぃ。そんなに怒んなよぉ。小皺が出来ちゃうぞ★」

「「「「あ゛ぁ゛?」」」」

 

 ゴールドシップの言葉に地獄の獄卒も真っ青な重低音を響かせる……めっちゃコワイ!  

 マックイーン達の姿に、たづなさんを幻視する……

 いや、あの人は一人で、同レベルの重圧を放つな。……これについて考えるのはやめよう。

 ゴールドシップはマックイーン達のプレッシャーを受けても、お道化て煽る。

 お前なんなの? どんな心臓してんの? 尊敬するよ……絶対に見習わないけど。

 

「ワァオ! ゴルシちゃん怖ぁい♪ あぁん助けて私の愛おしいカレピッピ♪」

「ゴールドシップ……貴女は知っていたのですか? 私のお兄様だと……私が苦しんでいる時に、私にお兄様の事を伝えずに、お兄様と過ごされていたのですか? あんまりじゃないですか……」

 

 お前は何をやっているんだゴールドシップ──―ッ!? 煽っている理由(わけ)を言え──―ッ! 

 アッカーン! マックイーンがその綺麗でつぶらな瞳に涙を浮かべてる! ゴメンね! 最低な兄貴分で本当にゴメンね! 悪いのは俺だからゴールドシップを責めないでやってくれ! 

 煽った事に対しては、擁護出来ないけど……

 

 ゴールドシップもマックイーンの涙を見て、ふざけた顔を一変させ真剣な表情で語り始めた。

 ゴールドシップ……お前、なんで最初から真剣に出来ないの? 

 

「……マックちゃんさ。仮にアタシと初めて会った時に、コイツの事、教えて自分を赦せた?」

「それは……赦せなかったと思います」

 

 マックイーン達に、自分を責め無くていいと言っているのだが……

 俺が勝手に劣等感を感じ、癇癪を起し、拗ねて、君達を傷つけたのだから……

 それでも、マックイーン達は気に病んでいる。

 まったく……そういう所で俺に似なくてもいいのだが……でも、似ている事が少しだけ嬉しい。

 

「だよな? なぁあんた。仮にアタシと初めて会った時に、彼女等の事、教えて自分を赦せた?」

「……無理だな。受け入れる事が出来たのも恩人達(豊さん達)アイツ等(親友達)、そして何よりお前のおかげだ」

 

 きっと、あの時に会っていても自分を赦せず、意固地になっていただけだろう。

 仮にあの時に謝られていたら、それは侮辱だと受け止めていただろう。

 だってあの勝利は、俺にとって誇り(呪い)であり、存在価値(罪の証)だったから……

 もしそうなれば、あの時のマックイーンの言葉でも負けを受け入れられなかっただろう(“納得”する事も出来ていなかっただろう)

 

「な? マックちゃん達が苦しんでるのは分かってたけど、あのタイミングしか無かったんだよ」

「……それでも……納得いきませんわ」

「……その気持ちもわかるよ。……でもさ、アタシも愛しちまったんだ……もう、止まれねぇよ」

「……ゴールドシップさん、やはり貴女もお兄様の事を本気で……」

「並び立ちたいからって、アタシ達(ウマ娘)に本気で向き合ってくれる人……お兄ちゃんしか知らない」

「うん……お兄さんは一緒にいると、いつの間にか心を蝕まれて、本気になっちゃうよね」

「……それは分かる。兄さんってホントに私達(ウマ娘)にとってメッチャ危険だよね」

 

 あの……人の事を毒みたいに言わないでくれる? あ、そんなにジト目で見詰めないでくれ。

 キュートな小悪魔みたいで可愛いが、美の女神が嫉妬するいつもの可愛い笑顔を見せてくれ。

 ……顔を赤くするか、睨むかどっちかにしてくれる? 

 

「皆さん落ち着いてください。兄様、お願いがあるのですがいいですか?」

「俺が出来る事ならば、全力で当たらせて貰います……」

 

 アルダンは相変わらずニコニコ笑いながら、優しく俺に問いかける。

 なんだろう……その表情に怒りも悲しみも無い。……喜び? うん、これ喜びだ。

 喜ぶ要素なんてあったか? 

 

「そうですか……なら、貴方との絆が欲しいです♡」

 

 おっと~、これは完全に掛かってますねぇ……はっはっは……落ち着けアルダン! 

 マックイーン達が“それだ!”とばかりに目を輝かせる。“それだ!”じゃないが!? 

 そんなに、目をギラつかせないの! はしたないですわよ!? 

 

「……それは出来ない。お前達はまだ若い。これから色んな経験をするだろう。それはかけがえのない経験になる。せめて大学は出てからにしてくれ……」

 

 欲しくない訳じゃ無い。だが、子供が出来れば、どうしても自分の時間は少なくなってしまう。

 花も恥じらい、月も光を消す、そんな可憐な彼女達にそれはあまりにも酷だ。

 それが、俺の我儘なのは分かっているんだ。

 でも、俺がそうであったように大学で色んな経験をして欲しい。そして友情を育んで欲しい。

 それは、何ものにも代えがたい()になる。

 暗闇の荒野に進むべき道を切り開く()になる。

 折れそうになる心を支える(意思)になる。

 

「……分かりました♪ 大学を卒業したらすぐにでもお願いますね♡当然、彼女達もですよ?」

「いや、もっと青春してからでもい「いいですね?」……マックイーン達が望むならな」

 

 ……うん、マックイーン達も、めっちゃ喜んでますね。

 嫌じゃないんだけどさ。なんで、覚悟ガンギマリなん? もっと、青春を謳歌していいのよ? 

 まぁ、お前達みたいな傾国の美女に、そこまで想われるのは男冥利に尽きるが。

 

「パーマー達も、兄様が私達を捨てる訳じゃないのよ? あんまり責めないであげなさい」

「お姉様……承知しました。……流石にこれ以上は赦しませんわよ?」

「……あはは、アルダンさんには敵わないや。本当に他の子を口説かないでね? お兄さん」

「わかったわよお姉ちゃん……女たらしな言動はアタシ達以外には禁止だからね」

「……しょうがないなぁ。アルダン姉さんに免じて赦す! ヘリオス紹介して大丈夫かなぁ……」

 

 あの……人の事を、誰でも口説く軟派な女好きみたいに言わないでくれる?

 ……なんでそんな諦めたように溜息つくの? 君達に俺はどう映ってるの?

 あ、やっぱりいいです。ハッキリ言われたらショックを受けちゃう……

 

 まったく……本当に彼女達は優しい。

 理由はどうあれ俺は浮気をした。それを、アルダンの説得が有ったとはいえ俺を赦してくれる。

 本当に……俺には勿体無いくらいに、いい女達だ。

 幸せになって貰いたい……いや、俺が絶対に幸せにしてみせる。

 

「それはそれとして、兄様……愛していただけますか? 勿論、拒否権はございませんわ♡」

「」

 

 思わず絶句してしまった。この話の流れでそうなるの? 

 今、完全に違う流れだったじゃん! 赦される流れだったじゃん! 

 流石に、あの時(バフ有)みたいには無理だぞ!? 

 

「なぁ、あんた……」

「ゴールドシップ……」

 

 助けてくれるのか? お前、優しいな……

 

「アタシも頼むぜ♡」

 

 ゴールドシップ……お前、ホンマそういうとこやぞ? 

 だが、“煮るなり焼くなり好きにして欲しい”と俺は言った……男に二言はねぇ!! 

 男には引いてはいけない時がある……それが今だ! ……多分! 

 

……やって見るさ、お前達の望むままに

 

 思わず声が震えてしまった……生き残れるといいなぁ……

 

 

 

 

 

 

 熱く長い夜を、彼女達と一緒に踊った(うまぴょいした)……

 

 

 

 

 

 

「ふんふふーん♪」

「……う゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛」

 

 鼻歌と、食欲を刺激するいい香りで目を覚ます。

 体の水分が全て無くたった様な感覚……喉がカラカラで掠れた声しか出ない。

 窓から差し込む光が夕暮れと教えてくれる。どんだけ昏倒してんだよ……

 まぁ、そりゃそうなるか……なんとか、生き残ったぜ。

 鼻歌はアルダンがしていたのか……彼女は私服にエプロンの姿で台所で何かをしていた。

 

「あ、おはようございます兄様。はい、お水です」

「ああ、ありがとな……おはようアルダン……お前だけか?」

 

 アルダンから水を受け取り、一気に飲み干す。全身の細胞という細胞が、潤う様な感覚がする。

 どれだけ脱水状態だったのか……部屋を見回すがマックイーン達の姿は見えない。

 

「あら? 酷いです……私だけじゃご不満ですか?」

「そういう意図では言ってねぇよ」

「ふふ、冗談です♪ 彼女達は学校があるのでもう戻りました」

「お前はどうした?」

「自主休講です♪ ズル休みなんて初めて! ちょっとワクワクします」

 

 あーそりゃ、マックイーン達は高等部だが、アルダンは大学だからその辺は緩い。

 それに、アルダンはよく学校を休んだが、それは体調不良が大半だったもんな。

 自らの意思で休んだのは初めてなんだろう。俺も最初にサボった時はワクワクしたなぁ……

 

「さぁ兄様。お食事の準備がそろそろできます。テーブルを出してくださいな」

「あぁ、ちょっと待ってろ……あいよ」

「ありがとうございます」

「お……ニシン蕎麦か」

 

 アルダンは、お盆に丼を二つ乗せて持ってきた。これは、なかなか本格的だな。

 駅蕎麦のチープ感もいいが、やはりしっかりとした蕎麦も好きだな。

 うん、ニシンの甘露煮も甘すぎず、ニシンは肉厚で食い応えがあって実に美味い。

 ただでさえ、甘露煮は作るの面倒なのに、骨も抜いてる……メッチャ手間かかってるぞこれ……

 二八蕎麦のつるりとした食感が今の俺にはありがたい、蕎麦の香りもしっかり立っている。

 ツユも濃い口で俺好みだ。これは椎茸と鰹節、それと昆布出汁か……染み渡る。

 腹が減ってたのを差し引いても美味い。無言で蕎麦を啜る。

 気が付けばツユまで完食……ついつい夢中で食っちまった。

 

「ご馳走さん。美味かった……」

「ふふ、お粗末様です♪ お口あったようで良かった♪」

「出汁とかも自作しただろ? アルダンは料理が上手いな」

「ええ、花嫁修業としてお婆様に手ほどきをして頂きました」

 

 あー婆ちゃん滅多に料理しないけど、作る料理は全部がメッチャ美味いからなぁ……

 まぁ料理上手の理由を聞けば、爺さんに美味しい物を食べて貰いたいからと惚気られたが……

 マジで、夫婦揃って()に惚気んのやめてくれない? 

 

 俺もそこそこ自炊するが 誰かに食べさせるわけでもないのだから、雑な男料理。

 ここまで手の込んだ食事は作らない。男の一人暮らしなんて、そんなもんだ。

 しかし、ニシンもそうだが蕎麦なんてインスタント以外にウチの冷蔵庫に無かったぞ? 

 

「ニシンと蕎麦を買ってきてくれたのか? 悪かったな。代金払うよ」

「いえ? 買っていませんよ? 家から持ってきましたから」

 

 ん? メジロ家に戻って、材料を持って、また俺の家に来たのか? 

 爺やに頼めばいいのに……いや、流石に甘え過ぎか? 

 いや、爺やなら嬉々として持ってくるな。わざわざ市場まで行きそう。

 

「わざわざメジロ家に戻って、また来たのか? そこそこ遠いだろ?」

「いえ? メジロ家に戻ってませんよ? すぐそこなので」

 

 んん? 凄い離れている訳じゃないが、そんなに近くないぞ? 

 大体、往復で電車で二時間くらいはかかる。車だと、多分もっと時間が掛かる。

 しかも、メジロ家に戻っていない? ならどこから持ってきたんだ? 

 

「あ、蕎麦ですけれど、すぐ味わって頂きたかったので調理させて頂きました」

「んんん? どういう事?」

「遅くなりました……隣に越して来たメジロアルダンと申します♪」

「あ、これはご丁寧に……はぁ!?」

 

 アルダンは見惚れる笑顔でそういった。あー滅茶苦茶可愛い……やっぱり美人はズルいわ。

 ……って、今、隣に越して来たって言った? 聞き間違いか? 

 

 

「末永く宜しく願いしますね♡私の愛しの兄様♪(所有者様♪)

 

 

……あれぇ? どうしてこうなったぁ? 

 

 

 




まだ、他の話は出来ていませんが取り合えず投稿します。
それぞれに一話……出来るといいな。
次は気長にお待ちください。
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