メジロ家の愛のターフのバ場事情   作:ボブソン888

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Blue Magnoria

「貴女は付いて来なくて良かったのですよ? ゴールドシップさん」

「冷てぇ事言うなよぉ、マックイーン。同じチームメンバーだろ?」

「休みの日に悪いな、付き合って貰って」

「お気になさらず、お兄様。一緒に居れるだけで嬉しいのですから」

 

 トレーナーさんへの挨拶とは分かっています。けれど、少しデートの気分でしたのに……

 私は今トレセン学園に来ています。

 私は、直近でのレースでお兄様に捧ぐ為の勝利を収めました。

 今までで一番の会心の走りをする事が出来ました。

 誰かの為に走るのも、素晴らしい事ですわね。それが愛しい人の為なら尚更に……

 

 今日は休養日でしたがお兄様が、可能なら付き合って欲しいとお願いされました。

 お兄様に頼られて、否とは言えません。むしろ嬉しいくらいですわ。

 トレーナーさんに今までの事も併せて、お礼をする為に付き添いをしています。

 

 お兄様の持っている箱から、微かに甘い匂い(スイーツの気配)が……ハッ! いけません! 

 今は減量の為、節制中……ぐぬぬ……自分の太りやすい体質が恨めしいですわ……

 

「そういえば、お世話になってるトレーナーさんは、なんて名前なんだ?」

「あ、お伝えしていませんでしたね。沖野トレーナーです」

「……待っててくれ、少し電話する。……お休み中にすみません、師範。お聞きしたい事が……」

 

 お兄様は名前を聞くと、眉を顰め、私達から少し離れた所で何処かに電話をしました。

 “師範”と仰っているのが聞こえたので、道場主の方だとは思いますが……なぜ急に? 

 電話が終わると、微妙そうな顔になっておられました。

 

「ゴールドシップ……ちょっとこっちに来い」

「あぁ? なんだよ……」

「そ……沖野……に、マッ……は脚…………たのか?」

                  「あ? あー……、……加入の……無断で…………」

へぇ……

 

 ゴールドシップさんを呼ぶと、二人でコソコソと内緒話をしている。

 ウマ娘の耳をもってしても、聞き取れませんでした。

 あの……仲間外れにされるのは寂しいのですが……

 

「さぁマックイーン、トレーナ室へ案内してくれ」

「……えぇ、かしこまりました」

 

 二人が戻ってくると、お兄様はニッコリと笑っていた。

 ……あ、これは威嚇の笑顔ですわ。

 私に対してではありませんが、急に不機嫌になられましたね……

 どうしたのでしょうか……

 

 

 

 トレーナー室の扉をノックする。

 気の抜けた返事が返ってきたので、扉を開けるとトレーナーさんがパソコンに向かっていた。

 こちらに気が付くと、いつも咥えている飴の棒を捨て、こちらにやってくる。

 

「マックイーンからお話は伺っています。担当トレーナーをしている沖野と申します」

「マックイーンの従兄の目白と申します。お噂はかねがね……」

「んん? 目白? 何処かで聞いたことがあるな……あぁ! 浅間道場で有名な!」

「ええ……貴方の兄弟子にあたります。師範から貴方の事は伺っています……色々と」

 

 お兄様は、トレーナーさんと握手をしながら話している。先程の笑顔はそのままで……

 あ、これはトレーナーさんに対して怒ってますね。

 ……何か関わり合いがあったのでしょうか? 

 

「マックイーン、ゴールドシップ」

「かしこまりましたわ。お兄様」

「あいよ、任せな」

 

 お兄様が、私達の名前を呼ぶ。何となく、することを察する。

 私は机などを片付け、ゴールドシップがどこからともなく、マットを取り出し床に敷く。

 準備万端ですわ、お兄様。その箱は私がお預かりしますわ! 万難を排して守ります! 

 

「ん? お前等、何やってんだ?」

「マックイーンがお世話になったようで……」

「あ、いえいえ、俺はただトレーナーとして当たり前のことをしただけですよ」

「いえ、そちらではなく……俺の大事な可愛いマックイーンの脚を撫で回した方だクソがぁ……」

 

 お兄様は、にこやかな笑顔を一変させ、般若の様な表情になった。

 このような顔も出来たのですね……あの日とはまた違う表情に少し恐ろしさを感じてしまう。

 それでも私の為に怒ってくれている。私を大事に思ってくれている。それが嬉しい。

 恐怖と嬉しさ、そして愛おしさがまぜこぜになって、背筋と尾骶骨辺りがゾクゾクする。

 

「え? 急に怖い!」

「受け身を取れ、弟弟子」

「……は? え? うわ! あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛! 

 

 お兄様は小手返しの要領でトレーナーさんをマットの上に投げる。

 その動きは、演舞の様に美しく雅さすら感じさせる。

 トレーナーさんも、一瞬でスイッチが入って受け身を合わせてダメージを減らしましたわね。

 そして、トレーナーさんをロメロ・スペシャルで極めている! 私の技よりも完成度が高い! 

 キャー! お兄様! カッコいいですわぁ! 

 

「おうワレェ……! 何してくれとんねんボケェ……シバキ倒すぞクラァ!」

「マックイーンの技より痛い! しかも弟弟子って言いながらプロレス技じゃねぇか!」

「お兄様は私にプロレス技を教えてくれた、謂わばプロレスの師匠ですわ」

 

 私は、つい自慢げに胸を張って語ってしまう。

 投げ技から締め技の鮮やかな連携……流麗で惚れ惚れする程の技量。

 更には、一見乱暴に技を掛けてる様に見えて、怪我をさせてない程度に抑える配慮。

 何よりも、私の為に怒ってくれている優しさ……胸キュンですわ♪ 

 

「マックちゃんって、コイツ関わると割とポンコツになるよな」

「ギブギブ! マックイーン! ゴルシぃ! 助けてくれぇ!」

「自業自得ですわ」

「トレーナーの悪癖が招いた事態だぜぇ……まぁしょうがねぇなぁ」

 

 ゴールドシップはそういうと、どこからともなくゴングを取り出す。

 先程も思いましたけれど、何処から出しているんですの? 

 ゴングの音が部屋に6回響き渡る。その音でお兄様はトレーナーさんにかけている技を解く。

 

「痛ってぇ……いきなり酷くない?」

「沖野さん、貴方は大切な人の脚を無断で撫で回されて、笑っていられますか?」

「……すみませんでした」

「触診で解る事があるのも理解しています。ですが、せめて本人に許可は取ってください」

 

 全く、お兄様の言う通りですわ。

 私だって、触診の必要性も理解していますもの、事前に教えてくれれば許可も出します。

 それを情動で動いて、挙句に蹴られているのですもの、世話が無いですわ。

 ……そういえば、私以外でもスペシャルウィークさん達にも無断で触って蹴られていましたね。

 というよりも、ウマ娘に蹴られて痛いで済むトレーナーさんの耐久力ってどうなってますの? 

 ……バケモノじゃないですか。

 

「仰る通りです……配慮が欠けていました」

「若造の戯言と、聞き流されない事を感謝致します」

「いやいや、俺も無神経だった。そりゃご家族からしたら怒って当然だよな……」

「ご理解いただきありがとうございます。改めましてマックイーンがお世話になっております」

 

 先程のやり取りとは正反対に、穏やかな会話が続く。

 余所行きの対応をするお兄様は、久しぶりに見ましたわね……

 パーティーなどでも見ていましたが、昔よりも男らしさが増し、堂に入っています。

 いつもの優しいお兄様もいいですけれど、凛々しいお兄様の姿も素敵ですわ。

 

「それではこちらを……自作したスイーツで恐縮ですが、チームの皆さんでお召し上がり下さい」

「お、いいのかい? 悪いね……おーこりゃ美味そうだ!」

「日持ちはしますが、なるべく早めにご賞味下さい」

 

 お兄様に促され、トレーナーさんに箱を渡すと、すぐに開け、中身を確認している。

 ついつい、箱の中身を覗いてしまった……ってなかなか予約が出来ないローザキャロット!? 

 しかも、お兄様の自作スイーツだったのですか!? ック! 今は節制中……ッ! 

 お兄様が、私の勝利を祝って、色々食事を作ってくださった事が、仇になるとは……ッ! 

 なんてことですの……ッ! こんなのあんまりです! 

 ……ゴールドシップさん、何ですの? そのドヤ顔。

 貴女まさか!? ……作って貰った事があるのですね!? ズルいですわ! 

 

「……マックイーン、お前にも節制が終わったら、作ってやるから落ち着け」

「はい! お兄様! 約束ですよ!」

「アタシが間違えてた……マックちゃんはスイーツでもポンコツになるな」

 

 ……うるさいですわ。

 

 

 

 

 結局あの後、お兄様とトレーナーさんは話が弾んでいました。

 特に私の怪我の時に支えてくれた事を、感謝していたみたいです。

 ……トレーナーさんには沢山、迷惑をかけています。まぁ迷惑もかけられていますが……

 今度、二人でお酒を飲みに行く約束までされていました。打ち解けるの早すぎませんこと? 

 お酒ですか……お兄様は、かなりお好きなご様子。

 何時か、私もお兄様とお酒を飲んでみたいです。ふふ、その時は私が介抱して差し上げますわ。

 

 今はお兄様と二人きりで歩いています。

 ゴールドシップさんは空気を読んでか、用事があると言ってどこかへ行ってしまいました。

 まったく……気が利くのか、利かないのか分からない方ですね。

 

 夜空の星は、街の明かりで見えづらい。

 それでもなお、光輝く星(宵の明星)が私達を導いてくれるように瞬いている。

 ふと気になった。あの日の約束は私は果たせているだろうか? 

 

「ねぇお兄様。私は貴方を導く星になれていますか?」

「ああ、お前が居てくれるから、俺は前に進む事が出来る。ありがとな」

「よかった……」

 

 無粋かもしれませんが、ついお兄様に聞いてしまった。

 それでもお兄様は、穏やかな笑顔で私にそう言ってくれた。あぁ、本当に愛おしい。

 他人の目がない夜の闇に紛れて、お兄様の腕を胸に抱き、頭をグリグリと押し付けてしまう。

 歩き辛いだろうに、腕に抱き着く私を剥がすでもなく、お兄様はクスリと微笑んだ。

 

 

 

 

 お兄様のお家で夕飯を頂く、何時か作ってくれた時と同じ、手作りのボロネーゼ。

 貴方は“パスタは無理だった”と申し訳なさそうだったけれど、それでもとっても美味しかった。

 私、知っていますのよ? 自分一人なら雑な料理しか作らない事を。

 私の為に作ってくれる……本当に嬉しい。

 穏やかな時間に、心が癒されるのを感じる。お兄様はどうでしょうか……?

 優しい貴方は、きっと癒されると答えてくれるだろうけれど、聞くのは流石に無粋ですわね。

 

 お兄様のお家で湯を頂き、身体が温まっている内にストレッチをする。特に左足を念入りに……

 お兄様はベットに腰を掛け、私の左足を見ながら、ポツリと呟いた。

 

「もういいだろ……マックイーン。走るのを終わりにしても……」

「……まだです。私は……私はまだ走ります」

「マックイーン、何がお前を駆り立てるんだ……」

「お兄様の腕の中……それは間違いなく私の魂の場所です……ですが、あそこも、あの戦場(ターフ)も、私の魂の場所なんです」

 

 後悔する様で、懺悔する様で、悲しんでいる様な声色。

 貴方が、私の事を案じてくれている事は、分かっています。

 それでも、私はまだ走れます。テイオーがそうであったように……

 私は、彼女とライバルに成れた事を誇りに思う。

 そして、彼女に負けたくない……何にも、誰にも……怪我にだって。

 

「……俺はお前に傷ついて欲しくなかった。でもそれは、俺の思い上がりだったんだな」

「貴方は優しいですね。お兄様……だからこそ、貴方の為に走りたいのです」

「もう……止めねぇよ。俺が支えてやるから、行ける所まで行ってみろ」

「……ありがとうございます」

 

 お任せくださいお兄様。

 私に願い、私に託し、私を信じてください。

 貴方の想いを乗せて、すべてを超えてみせます。

 

 私の胸に宿っているのは、願いと想い……

 押しつぶされるような重圧は無く、私の優しく背を押してくれる。

 何処までも行ける。貴方と言う翼があるから。

 私は温かな光明の中で、お兄様を導く星でありたい。

 

 私を支えるのはチームメンバーとメジロ家、そしてなりよりも……愛しい貴方です。

 貴方に勝利と栄光を届けたいのです。

 けれど、けれどね……お兄様。

 それだけでは、嫌です。

 それだけでは、私は耐えられません。

 それだけでは、私は立ち上がれません。

 私には数多の(よすが)ができました。

 その方々にも、勝利と栄光を届けたいのです。

 私は……我儘になってしまいました。貴方は赦してくれるかしら? 

 

 胸が高鳴なった……張り裂けそうな程に。

 

「ねぇ、お兄様……今日は帰りたくないです」

「……何処でそんな殺し文句を覚えた? 悪い子だ……まぁいいさ。おいで、マックイーン」

「えへへ……失礼しますわ」

 

 私はベット中でお兄様に抱きしめられる。あぁ……心が満たされる。胸がポカポカする。

 安心してしまい、私はついウトウトと気持ちいい倦怠感に身を任せ、目を閉じる。

 

「なぁ、マックイーン……愛してる」

「私も愛しています。お兄様……貴方を」

 

 本当にズルいお方……

 抱きしめて貰えるだけでこんなにも胸が熱くなる。愛を伝えてくれるだけで胸が切なくなる。

 お兄様の体温が気持ちいい。フワフワとした、微睡みの中で、思った事を口にする。

 それが、しっかりと言葉に出来たか分かりませんが、お兄様が微笑んでくれた気がした。

 

 お兄様が帰って来るまでは、悪夢は巡り、そして終わらなかった。

 でも、今は優しい温かな夢を見る。悪夢は溶けていき、もう見ない。

 

 

 

 

 ──ねぇお兄様……私は今、とっても幸せです。だから永遠に私と共に、人生を歩んでください。私を導く明けの明星のような貴方なしでは、もう呼吸すらできないのです──

 




バ場は良……?です
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