メジロ家の愛のターフのバ場事情   作:ボブソン888

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ヘリオスは好きだけど、パリピ語が難しい……

作品タイトルを変更しました。



Why Don't You Come Down

 私は今、学園の外のファミレスでヘリオスと一緒に他愛もない話をして時間を潰している。

 今日は兄さんに、あの日にした約束の為にヘリオスを紹介するつもりだ。

 ただ、心配している事がある……それは兄さんの言動だ。

 勿論、私に対して言ってくれるのは嬉しい……凄く恥ずかしいけど。

 可愛いとか、綺麗とか、俺のパーマーとか、女神かと思ったとか。

 マジ、お爺様とほぼ言動が変わらないじゃん。

 本人達に伝えると、ムキになって否定するけど似た者同士だよ。

 

 そんな兄さんを紹介する……不安だ。

 特にトレセン学園の生徒は、男性に対する免疫が低い。

 まぁ、ほぼ女子校みたいなもんだから、しょうがないのかもしれないけど。

 そんな男性への免疫がないトレセン生徒に、兄さんみたいな劇薬を紹介する……

 今からでもやめようかなぁ……

 

「パマちんのお兄(おにぃ)に会えるなんて、マジ楽しみなんだけど!」

「アハハ……マジで会う? やめとく?」

「え? なしてそんな、ぴえん顔なん? うける★」

「いやぁ……何となくね」

「ひよってるやついる? いねえーよな!」

「……うっせぇわ」

「すいやせぇんw でもパマちんの、ちゅきぴに会えるんだもん☆彡 バイブス上がるっしょ!」

 

 ヘリオスは底抜けに明るい笑顔でそういった。

 本当に大丈夫かなぁ……不安しかない。

 兄さんの言動はフジキセキとタメ張るんだけど……いや、流石にあんな芝居がかってないけど。

 皆がフジの言動にキャーキャー言う理由が分かった。

 でもまぁ、私にとっては、兄さんとフジを比べるまでも無いけどね。

 それから私達は、待ち合わせ時間まで取り留めのない話をした。

 

 

 

 

「よぉパーマー。待たせたな」

「あ、兄さん♪ ……っん゛ん゛! 待ってたよ、兄さん。この子が親友のダイタクヘリオス」

「ウェイウェ~イ★ よろたのでぇす☆彡 ポンポォン!」

「あぁ、よろしくなダイタクヘリオスさん。パーマーからよく君の事は聞いてるよ」

 

 待ち合わせ場所のトレセン近くの公園で待っていると、後ろから兄さんに声を掛けられた。

 兄さんに久しぶりに会って、声が弾んでしまった……でも、これはしょうがないし。

 レースへの追い込みで、2週間も兄さんに会えなかったんだもん。そりゃ声も弾むよ。

 兄さんとヘリオスを合わせるのに、危機感を覚えた私の苦肉の策は時間を遅くする事だった。

 会う時間が少なければ、大丈夫だろう。

 あと、兄さんには絶対に私の親友を口説くなと言い含めてある。

 “俺ってそんなに信用がないのかぁ”って悲し気だったけど当たり前でしょ? 

 私達メジロ家の面々は兎も角、トレセン学園一のトリックスターを堕としてんじゃん。

 あの、傍若無人な気分屋に、あんな乙女な顔させてんだもん。

 あんな顔のゴールドシップ初めて見たよ。女の私ですらドキッとしたもん。

 

「ヘリオスでいいよ♧ ズッ友のお兄だもん♦」

「そうか。君がパーマーを支えてくれたんだろ? ありがとなヘリオス」

「ノープレ! ウチもメンブレの時はパマちん(ズッ友)に、かまちょしてもらってるし☆」

「そうか。パーマーと君が支え合えているなら、何よりだ。これからもよろしくな」

「りょ★」

 

 ……うん、私はヘリオスに凄く支えられている。ヘリオスが居たから、今の私が居るんだ。

 私がヘリオスを支えられているなら良かった。甘えっぱなしじゃなくて本当に良かった。

 ヘリオスの底抜けの明るさが、私を救ってくれた。

 本当に大好きな友達だ。……ずっと親友で居たい。

 

「お兄の事はメッチャ聞いてるよ☆ パマちん最近はずっと、ちゅきちゅきいってんもん!」

「ヘリオス!? ちょッ! 嘘つかないでよ!」

「え~だって、男前とか、カッコいいとか、私の大好きな兄さん♡とか、言ってるじゃん☆彡」

「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛!!」

 

 ちょっ! まちっ! ヘリオス何言ってんの!? 

 そりゃ本心からそう思ってるけど、兄さん本人の前でいう事ないじゃん! 

 私がブラコンみたいで恥ずかしいじゃん! 

 兄さん!? なんで、“あらぁ”みたいな顔してんの!? これは違……わないけど! 

 あーもー! はいはい! 兄さんの事が大好きだし! 

 なにも、ヘリオスの前で言わせなくてもいいじゃん……顔から火が出そう。

 ヘリオスのニヤケ顔が腹立つぅ! 

 

「パマちん、どちゃくそドハテンじゃん☆ ジワるw」

「まぁ、そう怒るなパーマー。ヘリオスも、そんな笑ってやるな」

「……まぁいいや。事実だし。私のカッコいい大好きな兄さん♪ 愛してる♡」

 

 これでどうだ! 私だってやり返してやるんだから! 

 たまには、兄さんが恥ずかしがればいいんだ! 

 ……あれぇ? 兄さんが嬉しいそうに笑ってる……無敵かコイツ!? ぐぬぬ……

 ん? そういえばヘリオス普段と同じ言葉遣いだよね? あれ? 

 

「……兄さん、ヘリオスが何言ってるか分かるの?」

「ん? ああ、しゃべる事はしないが理解はしてるぞ?」

「マジ!? ならベッケンバウアー、フロリダ、MJKってわかる!?」

 

 って! もうヘリオス! それ最初に私に会った時のやつじゃん! 

 いや、でもこれは兄さんでもわかんないでしょ! 

 ふっふーん♪ 私が兄さんにパリピ語を教えてあげてもいいよ♪ 

 

「話は変わるが。風呂に入ってくる。マジか。だろ?」

「MJK……パマちんのお兄だから、わかんないと思ってた……」

 

 MJK……なんでぇ!? なんで理解できてんのぉ!? 

 兄さんはパリピだった? ……いやいや、そんな訳ないじゃん……落ち着け私。

 私だってまだ全部、理解しきってる訳じゃ無いのに……

 

「バイブスぶち上がってきたぁ★ ならさ! 超やばたにえん、あざまる水産は?」

「凄いヤバいと、ありがとうだろ?」

「メッチャ分かるじゃんw うけるw じゃあさじゃあさ!」

 

 それからしばらくヘリオスが色々パリピ語を聞いて、それに兄さんが答える。

 なんだろう……胸がイガイガする。

 愛する人と親友が仲良くなるのは、いい事の筈なのに……嬉しい筈なのに。

 

「君は、明るく笑うな。パーマーが救われた理由がわかったよ、ありがとなヘリオス」

 

 なんだか兄さんが遠く感じて、ヘリオスに取られているようで……嫉妬した。

 親友に向ける感情ではない……それでも私の中の堕ちた部分が騒めく。

 その優しい笑顔を、私以外に向けないで欲しい。

 その朗らかな声を、私以外に掛けないで欲しい。

 その温かい心を、私以外に見せないで欲しい。

 私だけの兄さんじゃないって、納得した筈なのに醜い感情(独占欲)が這い出て来る。

 気が付けば、兄さんのシャツの裾を引いていた。

 

「……パーマー? どうした?」

「え? ……あ。いや、これは違くて……えっと……」

「……悪かったなパーマー。お前を無視してた訳じゃないんだ」

 

 兄さんのゴツゴツとした男らしい掌が、優しく慈しむように私の頬を撫でる。

 ヘリオスに見られて恥ずかしいのに、兄さんの手を退かすことが出来なかった。

 頬を撫ぜる掌の心地よさで、醜い感情が溶けていく。にやける顔が元に戻らない。

 兄さんの手に、自分の手を重ね頬擦りをする。爽やかで切ない香水の匂いが鼻腔を擽る。

 あ……月の香り。そっか、プレゼントの香水付けてくれてるんだ……嬉しい。

 兄さんは私の頭にキスをしてくれた。ヘリオスに見られている恥ずかしさより嬉しさが勝った。

 出来れば私の唇に……して欲しい。目を閉じて、兄さんの口付けを言葉なく強請る。

 兄さんの吐息を至近距離で感じる……ねぇ早く……キスして? 

 

ひょぉわ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! あ゛ばばばば!! 

 

 奇声が公園に響き渡り、私は驚いて兄さんとの距離を慌てて取る。

 …………あっぶなかったぁ!! 

 ヘリオスはおろか、外にいる事すら忘れてた! あのままなら完全にキスしてた! 

 ……ちょっと惜しかったなんて思ってないし! てかなに!? 

 周囲を見渡し、奇声の発生源を見つけると、木の影でサングラスとマスクをしたピンク色の髪のウマ娘(不審者)が地面に横たわりビクビク跳ねていた。えーっと、あぁ……アグネスデジタルかぁ……。

 

「うわぁ! 君! 大丈夫か!?」

 

 兄さんはあまりの事態に驚きアグネスデジタルに駆け寄り心配している。

 ……あー兄さん? その子の事はそんな心配しなくていいよ? 

 

「はううぅ! ウマ娘ちゃん達のカプの間に、他人が挟まるのはNGなのに……でもパーマーしゃんの嫉妬メス顔……脳が破壊されるぅ……でも新境地にたどり着きそう!」

「うわぁ……君、頭大丈夫か?」

「嫉妬メス顔!?」

「あ! 分かりみが深い☆ かまちょして欲しそうにして可愛いかったよね★ キュンでぇす!」

 

 兄さんが顔を歪ませてドン引きして、アグネスデジタルの頭の心配をしている。

 まぁ気持ちは分かる……私も最初そんな顔してたし。

 てか、嫉妬メス顔ってなに!? いや嫉妬はしたけどメス顔って! 

 なんかその語感だと、私がいやらしいみたいじゃん! やめてよね! 

 

「しかも、パーマーしゃんをトロ顔にまでさせて!? なんなんですか!? 貴方は何者ですか!? ご馳走さまです!!」

「おっと~こいつは強敵だぞ……苦手なタイプだ。俺はパーマーの兄貴分だよ」

「トロ顔!?」

「よく、お兄とのLOVE話してる時になってるよ?」

 

 兄さんに苦手なタイプっていたんだね……ちょっとビックリ。

 てか、トロ顔ってなに!? ポーっとしてたけどそんな顔してた!? 

 しかも兄さんの話してる時によくなってんの!? 嘘でしょ!? 

 LOVE話? ……惚気話の事かな? え? 惚気? 

 

「ヒェ!? パーマーしゃんのお兄しゃん! 先のご無礼をお許しください! お兄しゃん!」

「いや、まぁ別にいいけど。あと、君に兄と呼ばれる筋合いはないが?」

「え? ヘリオス? 私は惚気話なんてしてないじゃん……何言ってんの?」

「え? だって、あんだけカッコいいとか、大好きとか、私の兄さんとか言ってんじゃん?」

 

 ……? 事実、カッコいいし、大好きだし。私の愛してる兄さんじゃん。

 別に、本当の事を言ってるだけで惚気話じゃなくない? 

 そりゃ兄さん本人に、私が言ってることがバレるのは恥ずかしいけど、ホントの事だし。

 流石に惚気聞かせるのは鬱陶しいだろうから、遠慮してたけど…… 

 

「はうわぁ! 冷たい……でも、推しの推し! しかも、キス待ち顔までさせるなんて……ッ! 激エモ尊い! どれだけデジたんを喜ばせるつもりですか!? ありがとうございます!」

「……やべぇ。無敵かコイツ?」

「え? だってそれは別に惚気じゃないでしょ? 本気の惚気を聞かせようか?」

「え? あれでLOVE話じゃないって……正気? マジで勘弁してください

 

 ヘリオスに真顔で断られた……なんか……ゴメンね? 

 ギャーギャー騒ぎながら、時間が過ぎて、混沌とした状況が、門限が近づきなんとか収まった。

 待ち合わせ時間を遅くしておいて、正解だったかもしれない。

 ヘリオスは、デジタルを引きずって連れ帰ってくれた。397(サンキューな)ズッ友フォエバー……

 デジタルは、今度惚気を聞かせて欲しいと言ってたけど本当にいいのかなぁ? 

 聞いてくれるなら惚気ちゃおうかな? 兄さんについて色々語りたいんだよね♪ 

 ヘリオス達を見送り、電車に揺られた後、兄さんの家へ続く薄暗い夜道を歩く。

 

「そういえば兄さん、ちゃんと私の言いつけを守って口説かなかったね」

「だから、お前等の中の俺ってどういう存在なん? そんなに女好きにみえるの? そもそも、俺そんなにモテねぇからな?」

「はいはい、そういう事にしておくよ」

「マジなんだけどなぁ……」

 

 女好きって本気で思ってる訳じゃないけど……

 自分の愛している人がモテるのは誇らしいけど、それ以上に心配だよ。

 私だって、そこそこルックスには自信が有るけど、周りに綺麗な子が多いんだもん。

 誰かに取られちゃいそうで……私を見てくれなくなるんじゃないかって不安になる。

 親友にすら嫉妬する醜い感情が、ドロドロと胎の中から溢れ出て来るんだよ? 

 私の本心を知ったら嫌われるんじゃないかって、いつも怖がってる。

 それでも聞いて欲しい。見て欲しい。出来れば……受け入れて欲しい。

 破滅願望なのかもしれない。だけどこんな心じゃ、兄さんに顔向け出来ない。

 

「あのね兄さん……私はさっきヘリオスに嫉妬したんだ。親友なのに……最低だよね 」

「バーカ。親友だからって負の感情を抱いてはいけない訳じゃねぇだろ。嫉妬しようが、喧嘩しようが、最終的に赦せるのが親友ってもんだろ」

「……そうかな?」

「少なくても俺はそう思ってるよ。……てかな、俺のツレ共なんてヒデェもんだぜ? 人の黒歴史を笑顔で抉るし、暴言吐き合って殴り合いなんてよくあるし、拉致られても助けちゃくんねぇし」

「……あはは! 何それ! ……って拉致!?」

「ゴールドシップにな……」

「……あぁ。なんていうか……その、ドンマイ」

 

 兄さんと話している内に、いつの間にか私の心は軽くなっていた。

 そうだよね……親友だからって、嫉妬したり喧嘩しちゃダメなんて事は無いんだ。

 親友に嫉妬を抱いたという、鉛の様な罪悪感や不安が私の胎の底に堕ちていく。

 きっとまだ、私の中にドロドロとした深淵の泥みたいな感情は残ってる。

 でも、それでいいんだ。それをコントロール出来ればいいんだ。

 醜い感情の代わりに、愛おしさが溢れ出て私を満たす。

 

「ねぇ……さっきの続きしてくれる?」

 

 気が付けば、兄さんの家の前まで来ていた。

 あとちょっと歩けばすぐそこなのに、私は今キスをして欲しかった。

 我慢が出来ない。今すぐに貴方を感じたい。

 

「まったく、我儘で可愛いお姫様だ」

 

 兄さんが私の顔に指を添えて軽く引き、視線が絡み合う。

 兄さんの顔が私に近づいてくる。 私はそれを受け入れ、そっと目を閉じる。

 

 私の額や首、そして唇にキスをしてくれる。

 慈しむように、情熱的に、愛情を注ぐように……

 

 本当に兄さんは卑怯だ。

 額にキスするだけで、私をときめかせる。

 首にキスするだけで、私を本気にさせる。

 唇にキスするだけで、私を夢中にさせる。

 

 兄さんからのキスが私を狂わせる。

 

 目の前が白色と桃色に瞬く。世界が酩酊としたように揺れる。

 自分の意思とは関係なく足が震える。自力では立っていられないほど力が入らない。

 ドキドキと鼓動が煩い。胸が狂おしく高鳴り心臓が破裂しそうだ。

 兄さんの唇が触れた場所が、燃えるように熱く、温かい。

 厚い胸板に縋りつき、兄さんの服を力なく握りしめ、腰を抱かれてようやく立っていられる。

 息は荒くなり、ハァハァと何とか呼吸を整えようとする度にキスをされる。

 本当に……なんて卑怯者なんだろう……♡

 

 浮かぶ満月だけが私達を見ている。月光が私達を照らす。本当に無粋な月だ。

 私と兄さんの逢瀬を邪魔するな。でも、赦してあげる。あまりに綺麗だから。

 

「大好きだよ。兄さん♡ ねぇ……これからもずっと私と一緒に月を見てくれますか?」

「……ずっと前から月は綺麗だな、それだけは永遠に変わらない」

 

 ホントにキザなんだから……けど、惚れた欲目かな? 凄く素敵だった。

 本当は私だけに堕ちて欲しい。兄さんが私に堕ちてくれる……考えただけで身震いする。

 それはきっと素晴らしく、気持ちいい事だろうから……でもきっと兄さんは、そうはならない。

 色々背負い込み、傷つき、ボロボロになっても、それでもなお、折れない心を持っているから。

 私だけに堕ちてくれない事を少し残念に感じる。

 だけど、そんな兄さんに私は恋に堕ち、そんな兄さんに私の愛を捧げたい。

 

 貴方と歩む世界は、息を飲むほど美しく輝いている。

 多くは望まない、三女神様お願い。兄さんと一緒に居る、代り映えの無い明日を私にください。

 なんでもない代り映えの無い日が、貴方が居ればそれだけで特別になる。

 人寄せぬ荒野だろうと、私は貴方の横にいて貴方の手を握りしめてあげたい。

 何度聞かれようとも、何が起きようとも、変わらぬ不変の愛を貴方に捧げたい。

 

I was born to love you.(貴方を愛する為に生まれてきました)

No matter how much time goes by, I love you.(未来永劫、君の事を愛している)

 

 

 

 

 

 ──世の中のラブソングより情熱的に、貴方への愛の唄を謡わせて。今宵も月が綺麗だから──

 

 

 

 

 




バ場状態は良……?か分からないようです。情報をお待ちください。



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