メジロ家の愛のターフのバ場事情   作:ボブソン888

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見知らぬ君へ花束を

 メジロ家を勘当された事を両親にも話をした。

 なんとなくこうなるんじゃないかと薄々は感じていたのだろう。特には何も言われなかった。

 ただ俺が家を出ていくことは予想外だったらしく最初は反対していたが、俺の意思が固い事がわかると諦めたように溜息をついた。

 

 昔から本当に迷惑をかけている。

 

 それで進学にあたって小中高大の一貫校から、都外の別の高校に行くことにした。

 最初は学費やアパートの家賃なども自分で何とかすると言ったのだが、父はそれを許さなかった。

 そんな事は気にせず親に頼ればいい、それよりもしっかりと勉学に励めと言ってくれた。

 住むところは父の後輩が経営しているアパートに入れ言われ、最初は断っていたがそれが出来なければ家を出ることを許さんと言われ渋々従った。

 母には最低でも週一で必ず連絡をするように言われた。

 

 本当に頭が上がらない。

 

 父の後輩は大きな農園で野菜を作っている田所豊(たどころゆたか)さんという人だった。

 豊さんが経営しているアパートは比較的に新しく、八畳一間のバストイレ別とかなりいい所だった。

 ただ豊さんと家賃の話をすると

 

「ガキがそんなの気にすんな! 家賃はいらねぇからその分の金で遊びな!」

 

 とトチ狂った事を言って奥さんの(ひとみ)さんにシバかれていた。

 ただその瞳さんも豊さんから耳打ちされ俺の事情を聴くと

 

「家賃は気にしなくていいから幸せにおなり……!」

 

 と涙を浮かべながら抱きしめてきた。

 えぇ……親父殿どんな説明してんの? 親父殿の目から俺そんなに不幸に見えたの……? 俺は普通に今は幸せ何だけど? なんかゴメンね? 

 流石にそこまで世話になる訳にはいかないので断ろうと思ったんだが豊さんは一向に俺の意見を聞き入れない。

 しょうがないので農園の手伝いをする事で落ち着いた。

 慣れない農作業に悪戦苦闘しながら、田所夫婦の一人息子の(たかし)くんと遊んだり、勉強を教えてあげたりしていると気が付けば家族ぐるみの付き合いになっていた。

 

 今日は日曜日ということで朝は農園の手伝いをしていたが豊さん達に遊んで来いと蹴り出され時間を持て余した。

 もっと手伝いたいのだが、あまりそちらに時間を取ると青春して来いと断られる。

 なんなのこの人? 聖人? 

 とりあえず荒谷と烏丸と連絡を取りカラオケやファミレスなどで駄弁って遊んで来た。

 といっても荒谷は何か用事があるということで昼頃には解散して帰宅した。

 

 さて、夕飯の用意をするにも早いし自分の畑の様子でも見に行くか。

 豊さんは農園の手伝いをしばらくすると、何かを育てるという事は色んな大切なことを教えてくれるからやってみろと畑の一角を俺用にしてくれた。

 と言ってもそこまで流石に大きな土地ではないのだが、薔薇やハーブなどを育てている。

 ハーブなら育てるのもそこまで難しくなく、買うとなると微妙に高いし、有ったら有ったで食卓を豊かにしてくれる。

 意外にも瞳さんには好評で収穫してお裾分けをしている。

 

 作業着と麦わら帽子を被って自分用の畑に行くと制服を着た人影が見える。

 近づくとその人影は中央のトレセン学園の制服を身に包んだ凛としたショートカットのウマ娘だった。

 熱心に俺が畑の脇で育てている薔薇を見ていてこちらに気が付いていないようだ。

 

「おーい、そこの君! うちの畑に何か用かい?」

「ん? あ、すみません。……貴方は?」

 

 こちらに気が付くと涼やかな目元の彼女がこちらを振り向く。

 流石に急に男のに話しかけられて警戒しているようだ。

 

「あ、俺は怪しいもんじゃなくこの農園で世話になってる人間だから」

 

 彼女は俺の素性がわかったからか少し警戒度を下げた。

 

「そうですか。あまりに見事に薔薇が咲いているので見ていたんです」

「お、ありがとな。にしても中央のウマ娘とは珍しいな」

「……この農園の方に仕入れについてお話をしてきたんです」

「へー豊さんとか、てか君学生でしょ? しかも制服の感じからして新入生?」

 

 えぇ……普通そういうのって職員がやるもんじゃないの? 

 それを多分、学校に入りたての子に任せるって……ブラック学校? え? こわ、ポリスメンに通報した方がいい? 

 

「……ええ、担当者が来れなくなった為、社会勉強も兼ねて生徒会には入ったばかりですが、私がお願いして来させて頂きました」

「あ、そうなんだ……トレセン学園ってことは例の人参?」

 

 志願で良かった。思わず通報する所だった。虐げられているウマ娘はいなかったんや! 

 例の人参とは豊さんが品種改良をしている人参の事だ。

 通常の人参よりも糖度が高くフルーツとまではいかないがかなり甘い。

 

「えぇ……まぁそうなんですが……」

「あーその感じだと断られたか?」

 

 ただ豊さん自身は人参が嫌いらしく、俺が美味しく食える人参が出来るまで量産しないと豪語していた。

 それでいいのか生産者……変な所で職人気質だからなぁ……

 それでも人気があるらしく地元の飲食店や知り合いのケーキ屋などに卸している。

 

「はい……せっかく任された仕事だったのですが……」

「どうせ、俺の人参は未完成だからそんなに量産しねぇ! っとでも言われただろ?」

 

 俺の予想は当たっていたらしく、彼女は目を丸くして驚いていた。

 

「……えぇ、一言一句間違いなく」

「あの人、言ったら聞かない頑固者だからなぁ……まぁ完成したら優先するように口添えしておくよ」

「本当か!? ……あ、すみません」

「それが素か? 別に敬語使わなくていいぞ?」

「いえ、年長者にそのような……」

「別にいいんだが……」

 

 なんだか身内に入れば年長者だろうが命令するような女王っぽい外見なのに……

 しかし、口添えするとはいえ折角来てくれた子を手ぶらで返すのもなぁ……

 

「あ、君この後時間ある?」

「? えぇまぁ電車の時間までまだかなりありますが……」

「ならちょっと待ってろ! すぐに戻る!」

 

 そう言って彼女を待たせないように俺は来た道を走って戻ると必要なモノを籠に入れ、畑へ急いで戻る。

 

「ふぅ、待たせたな。君の好みが分からないから適当に飲み物持ってきたから好きなの選んでくれ」

「え? そんな、お構いいただかなくても……」

「いいからいいから、飲んで待っててくれよ。もうちょい時間くれな」

「……ありがとうございます」

 

 籠に入った紅茶やコーヒー、お茶などを押し付けると給水スポンジを水につけ剪定ばさみを取り出し薔薇を切り落とす。

 

「切ってしまうのですか?」

「ん? 丁度、剪定する予定だったからな」

 

 ある程度切り落としたらスポンジに薔薇の切り口を差し込みアルミホイルで包む。

 籠から包み紙を取り出し、花束を作って不思議そうな顔でこちらを見ている彼女に渡した。

 

「ホレ、お土産だ。あと去年作ったラベンダーのサシェもやるよ。ちゃんと保存してあったからまだ香りが残ってるだろ?」

「え? なんで?」

 

 彼女はキョトンとした顔でこちらを見ていた。あらヤダ、年相応で可愛い。

 

「いや、ちょい寝不足気味そうだったから、ラベンダーの香りには安眠効果のあるし」

「いえ! そうではなく! というよりよくわかりましたね!?」

「メイクで隠してるけどちょっと隈あるし」

 

 ナチュラルメイクで隠してるけどよく見ると分かる程度だし。

 その程度の誤魔化しは、散々妹分の喜ぶ顔を見るために機嫌を取ってきた俺には通じないぞ! 

 

「受け取る理由がありません!」

「受け取らない理由もないじゃん」

「そうですが……」

「知らない男に貰っても気持ち悪いかもだけどさ、花が好きそうな君に受け取って貰えるなら花も喜ぶだろ」

「しかし……」

「まぁ豊さんが頑固なお詫びって事で貰ってよ。嫌なら駅にでも捨てていいからさ」

「そんな事はしませんよ……はぁ、わかりました頂きます」

 

 俺のしつこさに諦めたのか彼女は溜息をついてようやく受け取って貰えた。

 まったくなんて頑固なウマ娘なんだ。最初から素直に受け取ればいいものを。

 俺? 俺の事はええねん。

 

「そうしてくれると助かるよ。時間大丈夫か?」

「む、まだ大丈夫ですがそろそろ向かっておきます」

 

 東京に比べると電車を逃すと待ち時間が長いからな、早めの行動が吉だ。

 彼女はサシェを鞄に入れ花束を抱える。

 

「あぁ、じゃあな縁が合ったらまた会おう」

「えぇ、ではまた縁が合えば」

「気を付けて帰れよ」

「ありがとうございます」

 

 そういって彼女は何度か振り向きお辞儀をしながら帰っていった。

 彼女が見えなくなってから自分の畑の雑草取りなど細々とした事を終わらせて最後の仕事を行う為に田所宅に向かう。

 

「瞳さん! 豊さんがまた人参の大口契約断った‼」

「あ! バ鹿テメェ!」

「なんだって! あんた! どういうことだい!」

 

 俺の一言で豊さんは慌て、瞳さんは鬼の形相で詰め寄っていた。

 そりゃ家計を預かる瞳さんにしたら堪らんわな。

 

「母ちゃん! ゴメンって!」

「あんたはいつもいつも!」

「だってまだ未完成だから! そんな半端なもん量産出来ねぇよ! 今の卸してるのも渋々なのに!」

 

 何故そこは職人気質なのかが分からない。

 ……豊さんって商売に壊滅的に向いてないな。

 豊さんがシバかれてるのを見ていると隆くんが帰ってきた。

 

「ただいまぁ! あ、(あん)ちゃん来てたんだ! ……また父ちゃんは母ちゃんに怒られてるの?」

「まぁそういうこった。終わるまで俺と遊ぶか?」

「いいの!? ならキャッチボールしよ!」

 

 隆くんはキラキラと目を輝かせてグローブとボールを取りに外に飛び出た。

 正座で説教されている豊さんが目で助けを求めてきたが無視しておいた。

 俺は火中の栗を拾うような真似はしたくないのだ! 

 

 結局、説教は夜まで続き、隆くんの勉強を見ていて遅くなった俺に夕飯を出してくれた。

 やっぱり人と食べると美味いなぁ……

 

 あ、そういえばあのウマ娘の名前聞いてねぇや。




凛とした顔のショートカットの花が好きなウマ娘…
いったい何グルーヴなんだ…?
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