これは世界最強と呼ばれるある馬のお話。   作:エタノールの神様

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更新遅れました。


我坂路大嫌成

なんだか最近飼料がおいしい気がします。ゲンマイシャワーです。

馬鳥羽さんから昨日聞いたことで衝撃的だったのは、

「スプリンターズハンデでは乗れない」ということ。

ライスシャワーの有馬記念を直後に控えていてこれないのだそう。ほんと馬鳥羽さんはなにかとつけてライスシャワーに会いに行くんだね。なんか嫉妬しちゃうなあ。

今日は一周1600メートルの芝コースでスタミナを丁寧に見るらしい。距離適正を図るんだとか。

ここで我は疑問を感じた。確かに下松牧場に一周1600メートルのコースはある。けど馬場はダートじゃなかった?前にとある少年を乗せて走ったときはダートだったよ?なんで芝になってんの?

 

困ったので寝起きの馬鳥羽さんの股にアタマを突っ込んでヒヒーン!超!ランニング!

 

「ちょっとまってよゲンマイ君、僕寝起きなんだけど」

 

知らんがな、わからんがな。

 

「朝ごはん食べてないしっ寝間着のまんまなんだけどっ」

 

知らんがな、負担重量が軽くてありがたいですがな。

 

「鐙がっ、外れてるっ」

 

知らんがな、中央のジョッキーなら鞍なくても乗れるやろ。手綱着けたまんまなだけ感謝せいや。

 

おろっ!今日あそこの柵開いてんじゃーん。あの山道駆けるの気持ちいいんだよね、日本在来馬の本能なのかな?

 

「えっあそこに行くの?まってよゲンマイ君、僕着替えてくるからおろしてくんないかな?」

 

何言ってるの?僕わかんないや。レッツらゴー!

 

かなり荒れてるけど道には砂利が敷いてあるしある程度草も刈ってあるからか走りやすいな、ちょっと蹄が痛い気がするけど。

 

途中で鹿と目があったり、タヌキに追いかけられたりしたが、30分ほど走ると厩舎裏にたどり着いた。こっちは柵がしまってたので飛び越えた。もとは障害飛越の調教受けてたのでね。馬術部に納品される予定だったのでね。これくらいはね。

 

 

 

 

一週間の馬鳥羽騎手直々の調教の末、我、ゲンマイシャワーは「とんでもない暴れ馬」のあだ名を授かった。ゲンマイシャワーでなくてサンデーサイザンスを名乗った方がよかったのかな?…どうしようサンデーサイザンスはおろかサンデーサイレンスの方が大人しいまである。いやさすがにないか。

 

なお我の調教を終えて馬鳥羽騎手がライスシャワーのもとに戻って一言。

「僕はライスに甘えてたんだね。」

競馬雑誌は馬鳥羽騎手のこの一言で個人の推測からとんでもないゴシップまでいろいろな反応で埋め尽くされた。紙面はナリタブラリアン全盛期に休養中のライスシャワーの話題で一杯というよくわからない状況になった。

 

なおライスシャワーとゲンマイシャワーは新聞を読む(ゲンマイの方は人間の脳ミソが入ってるから完全に理解してる)のでお互いこれを見て困惑した。かたや「甘えさせたつもりはない。」かたや「我なんかやらかしたっけ?」と。

 

 

 

運動会の銃声が鳴らなくなり、紅葉も真っ赤に色づいた秋。秋と言えば食欲、運動、読書などいろいろおすすめされる。

 

我、ゲンマイシャワーは馬房にてシホノアルフォート先輩の昔話を聞いていた。

 

「あの時の天皇賞(春)は悔しかった。隣のゲートでリキエイカンの奴がガン飛ばしてきたからこっちは不気味に微笑んでやったんだ。そのときこいつになら勝てると思った。けどいざ走ってみるとあと一歩、ハナ差及ばなかったんだ。俺はそのままG1を勝てずに終わった。結局10回目の未勝利戦以外全部2着。条件突破も2着続きで賞金が1600万越えたから。重賞どころかオープン戦すら勝ってない。全部ハナ差だ。48戦して1勝、他全部2着。連対率100%なんて言うけど結局勝ってないんだからそんなのなんの称号にもならねえよ」

 

なんだか酒が入ったみたいだ。

 

シホノアルフォート先輩は先週、獣医の診察を受けていた。シホノアルフォート先輩は高齢で、何ヵ月かおきに定期診察を受けている。功労馬だからかかなりの待遇だ。

しかし先週の診察は定期の奴ではなかった。夜中に定期診察なんてあるわけないもんね。

 

周りの馬達は馬術大会で苦しそうにしてたから脚を痛めたのではないかと噂していた。我は先輩に親しくしてもらっているから何か知らないかと聞かれたりもした。でも答えなかった。だってあんな賢い先輩がナスを食べて仙痛を起こしたなんて言えないじゃないか。年をとりボケた主戦騎手が会いに来て家で育てた野菜だといって食べさせてくれたものを断れなかったなんて知ってても言えない。

 

『なあ、ゲンマイ』

 

『なんだよ』

 

『お前はお前のために走れ。』

 

『ふ?』

 

『俺は元はたまたま血統書があったから競走馬にならざるを得なかったんだ。下松牧場倒産の危機を救うべく、他のたまたま血統書があったたくさんのサラブレッドと一緒に「シホノ」の冠名を幼名の上に被せて中央競馬を走った。皆わかってた。同胞たちのためにも勝たなくてはいけない。でもそれ以上に故障できない。だからほぼみんなシルバーコレクターやブロンズコレクターになった。1頭だけ、ギリギリ勝つ競馬をすれば故障しないと理論立てて走ってた同期は予後不良になった。みんな故郷のために自分の青春を捨てた。』

 

知らなかった…

 

『未だ下松牧場の経営は苦しい。しかし昔ほどではない。ゲンマイ、お前はお前の好きに走れ。調子が悪いときは競走中止したっていい。騎手が気に入らなければ振り落としてもかまわない。破天荒にレースを運んでもいい。少なくとも俺は咎めない。いいかゲンマイ、青春ってのは一度きりだ。これだけは忘れるなよ。』

 

『わかったよ、アルフォート先輩。』

 

 

 

季節外れの流星群が、夜空を駆けた。




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