昔々、華蓮なる王朝文化が咲き誇る平安の世に光と呼ばれた皇子が居ったそうな。
身分こそ低いが美貌な母と身分の高い皇族の血を引いた皇子は望まれぬ不義の子であった。
しかし皇子は頭脳明晰に運動神経抜群に気品に満ち溢れた容姿端麗な姿───この世の女性の理想象を併せたかのような人物であった。
───名を『光源氏』
数多くの恋愛遍歴を行い、亡き母の姿を求めた恋多き人生を送った者である。
親子二代に続く祖母、母、の成し遂げた栄誉ある天皇賞制覇。そしてその孫である私も親子三代でメジロ家に天皇賞制覇という栄冠を捧げる。
私、メジロマックイーンは産まれたその日から運命づけられた存在でした。
二つに積み重なった栄光ある盾の楔を三つに繋ぐ者として宿命づけられていました。
決して辞退は許されない、決して敗走などあってはならない、決して敗北をしてはならない。
子供である私に口酸っぱく言われ続けた言葉。それらを忘れることのないよう心に刻み私はトレセン学園に入学するその日までひたすらにトレーニングに打ち込みました。
脚が痛くなろうと走り続けた。
涙が出そうでも堪え前を見続けた。
淑女として正しい礼儀作法を学び続けた。
家柄、病弱な身体、数多くの重圧が降り注いだ。これでもかと苦しい思いは何度も繰り返した。けれど私は『メジロ家』に産まれメジロの姓を得た者として必ず与えられた責務を果たさなければならなかった。
───為すべきことをなす
苦痛を伴う長い日々ではありましたが、立派な家族に囲まれて代々応援してくる方達の為にも私は耐えて耐えて誰もの期待に応えられるそんな強く逞しい理想のウマ娘で在りたいと日々想っておりました。
そして月日は流れ、待ちに待ったトレセン学園に入学した私は選抜レースを走りました。
年に四度しかない開催されないトレセン学園の選抜レース。
トゥインクル・シリーズを走る為に『ウマ娘』達がトレーナーがそんな彼女達の実力を見極めそしてデビューへと導く。その最初の第一歩とも呼べるトレセン学園の選抜レース。
その中でメジロマックイーンは最も注目されるウマ娘として視線が集まっていた。長距離走者であること、名門メジロ家の秘蔵っ子であることがお眼鏡にかなったのだろう。
メジロ家に課せられた天皇賞へと挑む為のスタートライン……ここで失敗することは許されない。
煌びやかに輝く芦毛の髪をたなびかせ覚悟ある面持ちで試合に挑んだ。
───が、しかし。
『注目株のメジロマックイーンは七着です!』
結果は七着。
真剣勝負の世界。傑物揃いの精鋭が集まるトレセン学園では思いだけでどうにもならない現実を叩きつけられる。私を期待をして頂いた人達に余りにもだらしのない結果を観衆に見せてしまった。
「…………なんと不甲斐ない!」
名誉あるメジロの名前に泥を塗り敗者として哀しみと怒りに篭った感情を吐き出す他、彼女に出来ることはなにもなかった。
選抜レースの敗走から私は自身を戒めるよるうにトレーニング施設で毎日走り込みを続けていた。同じメジロ家のメジロライアンからは無理をしないようにっと声をかけて頂きましたがどうしても走る事を止めずにいられました。
メジロ仕込みの特別な練習をしているにも関わらず自身に成長の実りを体感出来ない練習なのだろうか、有るのはただ辛い疲労感とやってしまったと云う喪失感。今の走り込みでは本来の結果を得られない……けれど、でも、今何もしない訳には行かなった。
大きな失態を冒したそんな日に私は生涯決して忘れることの出来ない運命の人と出逢うことになりました。
まるで御伽噺に登場する英雄のように振りかかる災厄を祓い不甲斐ない私のトレーナーとなる誓いを立ててくれた心優しい方に。
選抜レースから数日経った夕暮れ時。
人っ子一人居ないターフで走り込みを終えた私に呟くように喋る声が聴こえた。振り返ると、遠巻きからスーツ姿の若い容姿の男性が顎に手をやり考えに耽っていた。
学園に居るスーツ姿の男性。恐らくだが彼がトレーナーであることが瞬時に理解出来た。選抜レースを見て私を視察しに来たのだろう。
顔も知らぬ誰とも知らぬ者に力がない思われてるのではないかと考えると改めて非常に悔しい気持ちになる。
何がなんでも次のレースでは結果を出す!っと更に強く再びターフをかける。しかし先程の考えが引っかかるように駆け上がるために鍛え抜かれた脚には力が入らず踏ん張れる事が出来なかった。
「はぁ……はぁ……このままでは駄目ですわ……」
額から流れる大粒の汗がターフに堕ち、疲労感の伝わる荒い呼吸だけが響く。
すると、私の前に影が降り掛かった。
「失礼。君、しっかり食事をとってるかい?」
「……え?突然どうなされッ!?」
気付けば遠巻きに居たはずのトレーナーさんが目の前に来ていた。そして彼の容姿を見た瞬間、驚愕し言葉を失った。
私は息を呑むように男性の容姿を見た。
見る人がはっと振り返るような白絹のような傷ひとつない白い肌。清廉な黒色の髪は風に吹かれて揺れ、目鼻立ちのくっきりした彫りの深い二重の瞳はメジロマックイーンを見詰めていた。
熟練の職人が作り上げた人形と言わんばかりに整い過ぎた容姿は上品と気品が眩い光の如く溢れ出ていた。
──とても綺麗なお方……
それ以外に言葉が発せなかった。
今まで出逢った異性の中で最も美しい。そして美しさの中に可憐さも備わったまるで人を惹きつける事を得意に進化したのだろうか。
「あの……メジロマックイーンさん聴こえてます?」
「はっ!?も、も、勿論聞こえていますわ!」
一瞬意識が飛んでいたようだ、彼は不安そうに小首を傾げ心配そうに見つめてくるではないか。
くっ!!?なんで私は初対面の方にこんなにもときめいていますの!?
内心大慌てなマックイーンを他所にトレーナーは穏やかな笑み浮かべる。
「選抜レースから君を観てたけど、脚に上手く力がはいってないようにみえてね。君から脚部の不調感は見られないから、もしかしたら食事をキチンと取ってない気がしてね声を掛けたんだ」
違ったら、誠心誠意謝罪するっと彼は言葉を言う。
…………図星ですわ。
マックイーンは彼の言った台詞があまりにも的確で驚愕した。彼女は体質故にかなりの食事制限を行っておりお腹の音が聴こえてくる日は度々あり、それらは全て自分が不甲斐ないと自身を律していた。
「その感じだと、どうやら当たりみたいだね」
「……はい、その通りです」
「君自身の体質や今の慣れない新しい環境もあるかもしれないけれど、キチンと食事を取らないと怪我の原因にもなってしまうよ」
今の私の心に突き刺さるような言葉数々。
本当に情けない。メジロ家のウマ娘であろうに初対面のトレーナーに真実を突きつけられる。もう頭を上げることが出来ない……
「っと……能書きはそこまでにして、実は君にコレを届けに来たんだ」
トレーナーさんは私に一冊のノートを渡してくる。
「これは……拝見させて頂いても?」
彼に了承を得て、ノートの中身を確認する。
そこには身体に付きにくい、栄誉ある食事に関する知識とレシピまで事細かに分かりやすく添えられた素晴らしい一冊でした。更にページの中には私の愛する''スイーツ''に関してもしっかりと描いてるではありませんか!?
「と、トレーナーさんこれは!」
「人を良くすると描いて''食べる''とか書く……それを少しでも理解して欲しくてね」
彼は照れたように頬を撫で、そしてマックイーンの顔を見つめ高らかに宣言する。
「僕は君の力になりたいんだ」
その言葉を聴いた瞬間……
胸が高鳴りました。
頬が熱くなりました。
私はその日、一目惚れとも言っていいでしょう。
美しい容姿も去ることなくたった独りのウマ娘の為に真心ある一冊の本を作り上げ、激励の言葉をかけてくれた。
どうしようもなく、私は彼に恋をしたのだ。
それからトレーナーさんにノートを貸して頂き、ここまで尽くしてくれるトレーナーさんに報いりたいと心から思いました。そして次の選抜レースで結果を残す事を約束し是非、専属の契約をして欲しいと懇願しました。
「次の選抜レース期待してるよ」
彼の言葉を胸に翌日からノートに描かれた食事を実践し、練習中に来てくれる彼の指導を受け次に行われる選抜レースに万全の体制で備えました。
『メジロマックイーン!一着でゴール!!!』
絶好調のままターフを掛け終えた私は会場に鳴り響くアナウスに耳を傾ける。
二番手からかなりの差を付けていたようだ。ゴールの最後では気づかないほど集中しており、これも全て私を導いてくれたトレーナーさんのお陰だ。
「トレーナーさん!!」
堂々一位の座を手に入れ、他に話しかけてくる人達を払い除けるようにトレーナーさんの元へ早足で駆け寄る。
「流石、メジロマックイーン。メジロ家に恥じない素晴らしい走りだったね」
花のような綺麗な笑みを浮かべ私を褒め讃えるトレーナーさん。
ゔ!ゔ!駄目ですわ……まだ頬を緩ませてはなりません。周りには多くの大衆が見ていますし、何よりもメジロ家の者としての顔もあります。これでもかと表情筋を強くし、なんとか緩もうとする頬を律する。
「君はやはりとても強いウマ娘だ。僕の見立てが外れることがなくて良かったよ」
駄目ですわ、駄目ですわ、彼に抱き着きいて、褒めて褒めてと頭を撫で回して欲しい欲に駆られそうになる。
「人一倍努力家であるにも関わらず、大きな目標に対してたゆまぬ努力惜しまない。君は本当に凄いウマ娘なんだね………マックイーン」
ぁぁ……駄目ですわ。いま突然呼び捨てするのは酷くずるいではないですか。蒸かした茹でたこみたいに顔が真っ赤になり脳内が蕩けそうになる。
「と、トレーナーさん。そろそろお部屋に……」
「ん?そうだね。専属契約の書類も出さないといけないし、改めてこちらこそ宜しく頼むマックイーン。共に天皇賞を制覇しに行こう」
「〜〜ッ!はい!宜しくお願いしますわ!」
差し出される手を絶対に離すことのないように握り締め、共に天皇賞を勝ち取ると誓いを立て待ちに待ったトレーナーさんとの契約を正式に受理した。
…………二人きりで話してる最中尻尾が激しく揺れているのを指摘するのは止して頂きたいですわ。
「────いまなんと?」
それから時が流れ、雨の降る日に告げれる。
『メジロマックイーンさん、大変残念ですが……貴方のトレーナーさんが交通事故でお亡くなりになりました』
残酷過ぎる事実を突きつけられた。
投稿遅くても許してくれますか?
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私は一向に構わんッ!!
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ゆ゛る゛さ゛ん゛!!