クロトがメイの口から様々な衝撃的な事実を告げられてから数十分後。彼はメイによって自分が生まれたという施設を案内してもらっていた。
施設を案内してもらっている途中でクロトは、自分が一度死んでこの世界に転生したことや、この世界とメイ達が前世のゲームの存在であることを話し、それを聞いたメイは額に右手の人差し指を当てて口を開く。
「転生……確か魂に関する概念だったわね」
「信じてくれるのか?」
てっきり信じてもらえないと思っていたクロトは、真剣な表情で考えているメイを見て逆に意外そうな表情となる。
「正直信じがたい話ね。だけど司令官は初めて私を見て、私の名前と『滅亡』の二つ名を口にしたでしょう? それに司令官が他の新人類とは別の人類という説明もすぐに納得してくれたし、その事を考えたら転生というのもあり得るかもと思ったのよ」
メイがクロトの言葉を頭ごなしに否定しない理由を聞いて、それにクロトが納得していると彼女が彼の顔を見て聞いてくる。
「それより司令官? この島と施設を見た感想は?」
「……凄い、としか言いようがないな」
メイに聞かれたクロトは自分の気持ちを端的に、そして正直に答える。
クロトが案内された施設は一言で言えば要塞であった。防衛施設や生活に必要な施設は当然、大型の飛行船を何隻も格納できる格納庫や、新しいバイオロイドから弾薬や爆弾まで製造できる工場まで全て揃っている。
元々ここは人類の生き残り、クロトをコールドスリープするための施設でしかなかったのだが、メイとその部下であるバイオロイド達が十四年の月日をかけて要塞に改造したのである。メイは世界中を探してクロトを見つけ出し、力尽くでも奪い返すと言っていたが、この要塞を見ればその本気度が理解できる。
クロトが要塞を素直に褒めるとメイが上機嫌になって頷く。
「そうでしょう。まあ、当然よね。ここには司令官が生きていくのに必要なものが全て揃っているし、一生生活できるわよ」
「いや、一生はちょっと……。俺、そろそろコーラサワー家に帰らないといけないし」
クロトは父親と血は繋がっていないが、それでも正式なコーラサワー男爵家の嫡男である。元々今回の旅はクロトが無理を言って一人で出たもので、長い間留守にすればコーラサワー家で騒ぎが起こるだろう。
血が繋がっていないのにも関わらず自分を実の子のように面倒を見てくれたコーラサワー家当主に迷惑をかけたくないクロトだったが、そんな彼の言葉を聞いてメイが怒ったような表情となる。
「はぁ!? 何を言っているのか? どうして司令官が新人類の家に帰らないといけないのよ? それに、司令官がさっき話した話が本当だったら、家に帰ったらあの『乙女ゲーム』のシナリオに巻き込まれるんでしょう?」
この世界の大元となった乙女ゲームは、ホルファート王国の王都にある貴族が通う学校に特待生として平民出身のヒロインが入学して、そこで王子と名門貴族の跡取り達、つまり乙女ゲームの攻略キャラと知り合うところから始まる。ヒロインと王子達は、三年の学園生活や冒険などを通じてお互いの理解を深めていくのだが、学園生活の三年目で隣国のファンオース公国が戦争を仕掛けてくるのだ。ファンオース公国の戦力とファンオース公国が持つ「切り札」によってホルファート王国は最初は劣勢を強いられて、最終的には自らの秘められた力に目覚めたヒロインと王子達の活躍によってホルファート王国が勝利するというのが乙女ゲームの大体のシナリオであった。
そしてクロトの実家、コーラサワー家はホルファート王国に所属している貴族の家の一つであり、貴族の人間は十五歳になると乙女ゲームの舞台となる学園に入学しないといけない決まりだった。しかも暦を計算すると丁度クロトが学園する年が、ヒロインも入学して乙女ゲームが開始される年であるのだ。
このままいけばクロトもホルファート王国とファンオース公国の戦争に巻き込まれる危険性が大きく、メイはそんなこと絶対に認められなかった。
「何で司令官が新人類同士の戦いに巻き込まれないといけないのよ! 馬鹿な新人類なんて勝手にぶつかり合って共倒れしてしまえばいいのよ!」
メイの意見は唯一の人類であるクロトを守るために作られたバイオロイドから見れば正しいのだろう。だが今までその新人類のコーラサワー家当主に当主に育てられてきた彼は、彼女の意見に首を縦に振れなかった。
「メイ。俺を守ってくれるっていう言葉はとても頼もしいし、嬉しいよ。……だけど、俺が生きる世界は俺一人だけじゃなくて、父さんや領民達も暮らしている世界なんだ。乙女ゲームの知識を持っている俺が学園でこの知識を上手く使えたら、戦争が回避できるかもしれない。……だから頼む。俺を実家に帰らせてくれ」
クロトが自分の意思を正直に話してから頭を下げて頼むと、メイは彼をしばらく見てため息を吐く。
「……はぁ。分かったわよ。人類の望みを叶えるのも私達の役目だからね。正直、新人類なんて大嫌いで、今すぐにでも残らず滅亡させたいけど、司令官が必要だと言うなら残しておいてあげるわよ」
「本当か? ありがと……」
「ただし! 司令官も司令官の仕事をしっかりしてもらうからね!」
メイの言葉にクロトが思わず顔を上げて礼を言おうとすると、それより先に彼女は右手の人差し指を突きつけてから強い口調で言う。
「忘れていないと思うけど、司令官は人類最後の生き残りなの。だから司令官には沢山の新しい人類の子供を作ってもらわないといけないの。そのための環境作りだったら大嫌いな新人類も残すし、戦争の回避だって手伝ってあげるわ」
「あ、ああ……。そうだったな。分かったよ」
「そ、そう。それだったらいいわ。……だ、だけど、最初は私とだからね」
クロトが頷き返事をするとメイは顔を赤くして言うのだが、最後の呟きは彼の耳には届かなかった。
「ん? メイ、今何か言った?」
「な、何でもないわよ! ほ、ほら! 施設の道案内はもう終わり! 次は司令官を私の部下達に紹介するわよ!」
「お、おい!」
首を傾げて質問をするクロトに、メイは更に顔を赤くして強引に会話を打ち切ると、彼の手を掴んで自分の部下達が待っている場所へと連れて行った。
この時クロトは、乙女ゲームのことに意識を向けていたためにメイが登場するラストオリジンの情報を見落としていた。
メイ達バイオロイドは、金属の骨格と身体と同化している武装以外は普通の人間と同じ身体をしており、子供を産むこともできる。
つまり先程メイがクロトに言った「子供を作る」ということは、今この世界にいる新人類の女性ではなくメイ達バイオロイドと性交渉をするということだ。
しかしクロトはその事をすっかり失念しており、後にこの些細なすれ違いがきっかけでちょっとした騒ぎが起こるのだが、それは別の物語。