クロトが浮島の要塞でメイ達、ドゥームブリンガーの隊員達と出会い、彼女達の司令官になってから一年が経った。
今年で十五歳となったクロトは、貴族の決まりでホルファート王国の王都にある貴族の学園に入学することとなる。彼の実家であるコーラサワー家の領地はホルファート王国の辺境にある浮島で、王都がある大陸までかなりの距離が離れているのだが、クロトは予想よりもずっと早く大陸に到着しようとしていた。
「本当に速いよな、この船」
飛行船の甲板に立ち、遠ざかっていく雲を見て船の速度を実感したクロトは、自分の足元を見下ろしながら呟いた。
クロトが今乗っている飛行船は、船体の上に船体よりも僅かに大きくて二等辺三角形のような形をした甲板があり、甲板の下には正面に二門の大型大砲、左右にそれぞれ六門の中型大砲を装備した外見をしていて、現在この世界で見られる飛行船とはやや雰囲気が違うように感じられた。
高速戦闘母艦アーロダイン。
メイ達ドゥームブリンガーが古代文明の技術を使い建造した船である。
一年前、クロトが要塞からコーラサワー家に戻る前に彼はメイと相談した結果、この要塞のことは世間には隠して「浮島で見つけたのはロストアイテムの戦艦とそれを管理する使い魔の女性達」ということにすると決めたのだった。そしてその偽情報を信じさせるために急ぎ建造されたのがこのアーロダインだ。
アーロダインは空母としての積載能力と戦艦としての戦闘力を併せ持つ船で、何故空母と戦艦の機能を一つにしたかというと、それはもちろんメイ達ドゥームブリンガーの能力を充分に発揮するためだ。ドゥームブリンガーは爆撃機や戦闘機の能力を持ったバイオロイドによる部隊で、ただの戦艦より空母の能力もあった方が良いとメイが判断してアーロダインを戦闘母艦として設計したのである。
「当然でしょう。私が設計して建造したこの船に遅いだなんてあり得ないわ。いいこと、戦争は速さが大切よ。敵の急所に出来るだけ速く、そして正確に大火力を叩き込めば、それだけで負けることはまずないわ」
クロトの呟きに隣に立っていたメイが腕を組みながら言うと、どこか心配そうな目を彼に向けてきた。
「それより司令官? 体の方は大丈夫なの?」
「うん? 大丈夫だけど……俺、そんなに顔色が悪いかな?」
メイに返事をするクロトだったが、実は彼は飛行船に乗ったり外を出たりする度にメイだけでなくドゥームブリンガーの隊員達から心配そうな目で見られていた。だから自分が気づいていないだけで、実は体調が悪いのかとクロトが思っていると、メイは首を横に振った。
「いいえ、司令官の体は健康そのものよ。……だけど、外の空気は建物の中に比べて『魔素』が濃いから……」
魔素とは大気中に含まれている魔法の発現に必要な元素で、この世界の人間はこの魔素を取り込み干渉することで魔法を発現することができる。
「魔素? それが一体どうしたんだ?」
「司令官。今まで言わなかったけど、人類が新人類に敗北した最大の原因はこの魔素なの」
「えっ!?」
人類が滅びた原因が身近にあった魔素だと聞かされたクロトは驚きで目を見開き、それを見ながらメイは説明をする。
「元々魔素はこの世界に存在しない元素だったけど、新人類の兵器によって生み出されてこの世界を覆い尽くしたの。新人類は魔素を使うことで魔法を発現させて人類を圧倒させたけど、魔素の本当の恐ろしさは別にあった。魔素は新人類にとっては無害だったけど、人類にとっては猛毒だったのよ」
「ど、毒!?」
思わず声を上げるクロトにメイは頷いて見せる。
メイの話を信じれば、大昔の人類は大気が毒に汚染された状況で戦いを強いられたということで、クロトは人類が敗北して滅亡した理由を理解できたような気がした。だが、それと同時に一つの疑問が浮かび上がってきた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。それだったら、どうして俺は大丈夫なんだ。魔素が含まれている空気が人類にとって毒なら、人類の生き残りの俺はすでに死んでいたんじゃないか?」
「マスターは特別だからよ。……昔の人類だって魔素の対策を立てなかった訳じゃないわ。色んなチームが魔素を無効化する道具や魔素を吸収して育つ植物を開発したりって、様々な方向から魔素に対抗する方法を研究していたわ。そしてある時、あるチームが産まれたばかりの子供に特別な手術をして、体内の魔素を分解する能力を与える技術を開発したの」
そこでメイは「だけど」と言って一度言葉をくぎると、すぐに説明を再開する。
「その頃には人類は滅亡する寸前で、研究チームは一人の子供を手術するのが精一杯。それから魔素で死ななくなった子供はコールドスリープ状態につくことになったのよ」
ここまで言われれば後は説明されなくても分かる。その手術で魔素に対抗できるようになった子供がクロトで、ドゥームブリンガーの隊員達が心配そうに彼を見てくるのは、万が一その手術に不備があって魔素で死なないか出会って一年経った今でも不安だからだ。
クロトがメイに何と言えばいいか分からずにいると、二人の背後から誰かが声をかけてきた。
「あの~。司令官様にメイ隊長。お話し中のところ失礼いたします」
クロトとメイに話しかけてきたのは、ドゥームブリンガーの隊員のダイカ……の一人である。
現在このアーロダインにはドゥームブリンガーの隊員が二十五人乗っており、そこからメイを除いた二十四人はナイトウィングとダイカ、ジニヤーにシルフィードが六人ずつという編成だった。
「ダイカ、一体どうしたんだ?」
「はい~。実は先程周囲の警戒をしてみたところ、この先の空域で一隻の飛行船が複数の飛行船に囲まれて攻撃されているみたいです。恐らくは空賊かと~」
クロトが聞いてダイカが口にしたのは空賊を発見したという報せだった。