私にはあるべき筈のない記憶がある。
それは私では無い誰かの記憶。一体誰のものなのか、それは分からない。
その記憶の中でとある少年が海賊王になる為に海に出て冒険するという本があった。海を冒険し、仲間を手に入れ、強敵を倒す。それだけなら良かった。
しかしその本には私が住むモコモ公国と全く一緒のものが登場していた。血を流し、助けがなければ全員死んでいたであろう状態で。
最初はわけがわからなかった。信じられなかった。こんな事起こるはずがないって。こんな記憶はデタラメだと思った。
でも成長するにつれて記憶に居たイヌアラシ公爵やワンダなどの人物に会っていき、妹のキャロットが生まれた時にはこの記憶は本当だと分かった。
つまり、この国は百獣海賊団大看板、旱害のジャックによって大きな被害を受けることになる。
生まれたばかりのキャロットを見る。
その未来が来れば、この子も傷つくことになる。
嫌だ…そんなの嫌だ!この子が、皆が傷つくなんて耐えられない!でもどうすれば!?
相手は懸賞金10億の化け物。簡単に倒せる相手じゃない。
それに彼らには毒ガス兵器がある。たとえ力が強くてもそれをばら撒かれたら終わりだ。
どうする?このことをイヌアラシ公爵に言う?
こんなこと信じてもらえるの?
いや、無理だ。信じてもらえるわけがない。
私はまだ歳が10もいかない子供。信じるほうが難しい。
ならどうするの?皆が傷つくことを知っておきながら何もせず、ただその時を待つの?
どうすればいいの?分からない、わからないよ。
「メーレン、ほら、妹よ。抱っこしてあげて。……メーレン?どうしたの?」
「え、あ、うん」
お母さんにそう言われ、元気な声で泣いているキャロットを抱く。するとキャロットは泣き止み、次の瞬間には笑っていた。
「あら?もう仲良くなったの?姉妹だからかしら」
「…………」
「どうしたの?さっきからだんまりして」
「い、いや…欲しかった妹が出来たのが感慨深くて」
「あら、そんな難しい言葉どこで覚えてきたの?」
「!…あはは」
記憶があるせいで妹の誕生を素直に喜べない。
頭の中は未来で起こる悲劇でいっぱいだ。
「キャッキャッ」
「それにしても抱きかかえられてるだけなのによく笑うわね。メーレン、この子を
…守る?そうだ、守ればいいんだ!
今まで誰かに伝えてそれの準備をしてもらうことばかり考えてたけど、そうじゃない。
私が守ればいいんだ!決めた。明日から…いや、今日から私は修行して、ジャック達を追い返せるぐらい強くなってやる!!
皆が寝始める夜。
私は家を抜け出しミンクのいない森に行く。
そこで強くなるにはどうすればいいのか考えていると、記憶からある言葉が告げられる。
―――筋肉を鍛えよ。筋肉は全てを解決する。
何故かその言葉には説得力があった。
そんなわけで筋トレ開始。腕立てやスクワットといった王道的な筋トレはもちろん森を駆け回ったりして筋肉に負荷をかける。
それを毎日やれば力がつくはず。
そう思っていた。しかしそれは人の目線での話。
自分が人よりも力を持つミンク族である事を忘れていた。
というのも、腕立てやスクワット程度では大して負担にはならなかった。
数やれば疲れるけど、これでは効率が悪い。
どうしようか考えていると重りを付けてする修行を思い出す。
私の体重じゃ負担にならないのならば重くなればいいじゃない。
というわけで石を持ってみる。
ズッシリしていて両手で抱えないと持てない。試しにスクワットをしてみる。あんまりだったので今度は片脚。筋肉を使ってるって感じがした。
これならば効果あるだろう。スクワット問題は解決だ。
腕立ての工夫は何も思い浮かばなかった。石を乗せるとか考えたけど、自分一人じゃ乗せられないし乗せてくれる人もいない。
仕方ないから腕立ては断念。
しかし腕を鍛えないわけにはいかない。何か腕立てに代わる筋トレをやらなければ。
私は抱えられている石を見る。このズッシリとした感覚。これより大きいものを持てばそれだけで筋トレになるのでは?
周りを探し、自分が持ってるものよりも2周りくらい大きい石を持つ。
持ってるだけではあんまりだけど、これを持ったまま走れば腕も足も腰も、全身鍛えられるかもしれない。
でもこれじゃ主に足腰を鍛えることになりそう。これもやるけど、これとは別の腕を鍛えるトレーニングを考えないと。
………もっと大きい石を持って、それをダンベル代わりにすればいっか。
そんな筋トレを毎日やって5年後。
私の力は9歳児にしては強すぎるレベルになっていた。
といっても、せいぜい木を握り潰せるくらい。力自体はジャックの足元にも及ばないだろう。
ジャックが来るまで後10年くらい。
こんな成長スピードじゃ勝てそうにない。
何か大きな変化がないと。
その大きな変化を、最近愛用している5メートルはあろう岩『ガンセキくん』を背負いスクワットをやりながら考える。
私の成長スピードからしてジャックと力だけでは勝てそうにない。
となると体術で勝負するしかない。
しかし体術を習得するには師匠が居ないといけない。でも私はまだ幼いから教えてと頼んでも教えてくれそうにないし、それに理由を問われたら答えられそうにない。
幸い、記憶には様々な体術が存在している。
詳しくやり方が分かるものからほんわりとしか覚えてないものまで、種類は豊富だ。
これらを練習して、体術を覚えるとしよう。
となると練習の時間が必要。昼にやるわけにもいかないし筋トレ時間を削って練習時間を確保するとしよう。
あと覇気だ。
これも体得しなければ話にならない。
これに関しては前からやろうと思ってたことだから修行内容は決めてある。
これの一部は昼でも出来ることだから削る時間は短めでいっか。
しかし必要な事とはいえ筋トレ時間が削られてしまったのは痛い。あの筋肉を痛めつけてさらなる高みへ成長していく感覚が好きだったのにそれが短くなってしまうなんて……。
いや待てよ?時間が短くなってもその短い時間で濃い筋トレをすればプラマイゼロ、むしろプラスなのでは?
記憶の中に短時間でめっちゃツライ筋トレがあるし、筋トレ方法を変えるいい機会かもしれない。
ある日の夜。
今日は満月なので空を見ないように気を付けねばならない。
私は武術の練習をしながら、すぐそばに置いてある実について考える。
その実はオレンジ色をしていて、ぐるぐるした模様がビッシリ。
どう見てもこれは悪魔の実だ。
一口かじれば特殊な能力を得られる代わりに海に嫌われるというあの悪魔の実だ。
これは今日偶然見つけたもので誰かから貰ったとか奪ったとかそういうのじゃない。
食べる食べないを悩んだけど、せっかく悪魔の実を見つけたのに食べないのは勿体ないので食べることにした。
強い奴は大体悪魔の実を食べてる。私の目標であるジャックも食べてる。強くなりたいのなら食べない選択肢はない。
武術の練習を一旦止め、悪魔の実を手に取る。
そして一呼吸置いてからかじると口の中に不味いものが広がりうっとなるが、我慢する。
予想はしてたけどこれはそれ以上。星1でも多いくらい不味い。
それでもなんとか食べきった後に全部食べなくても能力は得られる事を思い出す。一口かじって残りは捨てれば辛い思いをせずに済んだのに…。
まぁ食べちゃったもんは仕方ない。
少し下がったテンションで、自分がどんな能力を得たのか試してみる。
すると体が変形し始め、少し毛深くなり、額に黒い角が生え始め、体毛は黄色くなっていく。
そして変身が完了。
螺旋状の長く黒い角に黄色い毛をしたウサギになった。
……………ちょっと待って。
私、ウサギのミンクだよ?
それで能力はウサギ?
能力と種族が被るなんて………。
『はぁぁぁぁぁぁ………』
まさかこうなるとは思いもしなかった。
たとえゾオン系だったとしてもウサギ以外だと思ってた。
……ウサギね…。
はぁ…でも角が生えてるしただのウサギじゃないのは確か。
螺旋状の黒い角を持ってて、しかも体毛が黄色いウサギなんて聞いたことないし多分幻獣種。
幻獣種といえばゾオン系の力と
1つの実で複数の悪魔の実を食べたような力を得られるから悪魔の実としては当たりだけど……うーん。
ま、贅沢は言ってられない。ゾオン系なら純粋な身体能力強化。筋肉を鍛える私にピッタリだ。
試しに人獣型になってみる。
すると身長がグンと伸びて2メートルほどに、胴体と顔を除く全ての毛は黄色くそれ以外は素の白い毛で覆われ、額には60センチはある螺旋状の黒い角が生えた。それと尻尾と耳が大きくなりちょっと邪魔。
元々人獣型みたいな姿だったせいか追加されたものが少ない……。
力はどれくらい上がってる?
ガンセキくんを持ち上げてみる。するといつもよりかなり軽く感じた。
これは凄い。これがゾオンパワーか。
自分と動物が被ってて微妙な思いをしたけど、被ってたら意味がないなんてことはなかった。
これからの練習メニューに能力の練習時間も設けよう。
そしてジャックが来る前に“覚醒”させよう。
ジャックだって覚醒してるのだから、私も覚醒しないと打倒ジャックはほぼ無理だ。
覚醒って何をすれば出来るのか分からないけど、なんとか覚醒できるように頑張ろう。
ゾオン系だし体を死ぬほど痛めつけてれば覚醒するかな?
そう思い、私はガンセキくんを見た。
感想、評価、誤字報告をお待ちしてます。