私が思いついた覚醒方法はとっても簡単。
まず全力でガンセキくんを真上に投げる。そして落下地点に立ち、手を広げ、ガンセキくんを待つ。
「ぶへぇ!!」
…そして落ちてきたガンセキくんに潰される。
めちゃめちゃ痛い。
しかしこれは想定内の出来事。嘘はついてない。
これは落ちてくるガンセキくんを受け止め、全身を鍛える筋トレだ。たとえ力不足で潰されたとしても、それはそれで体を頑丈にさせるトレーニングになる。
これを毎日やっていけば相当打たれ強くなるはず。
普通なら体を壊して強くなるどころか弱くなりそうだけど、ゾオン系を食べたおかげか、それともミンク族に生まれたおかげか、今の所やればやるほど強くなっていっている。
ゾオン系は純粋な肉体強化。だから体を追い込み、強靭な肉体を作っていけば覚醒するのではと思いこのトレーニングを始めたわけだけど、こんなんで良いのかと不安が残る。
死が間近に感じられるほどのキツイ筋トレも考えたけど、それじゃ朝までに家に帰れるか分からない。
死にそうになるまでとはいかないけど少しの間は動けなくなるくらいの筋トレが丁度いい。
今だって何十回も潰されて指一本動かせそうにない。
おかげでガンセキくんを退かせられないし全身血まみれだ。
これくらいの傷ならすぐ治るけど血が毛や服に付いてるし近くに水溜りがあったはずだからそこで血を洗うとしよう。
その前にガンセキくんを退かさないと……って体動かせないから無理か。なるほど、体が動かせるようになるまでこのままね。
………今度からは動けなくなるまでやらないようにしよう。
あれから数ヶ月くらい。
だんだんガンセキくんでは満足出来ない体になってきた。
……今のは言い方がまずかった。あれだよ。ガンセキくんの重さじゃ効果が無くなってきた。
やる度に強くなっていく感覚はあったけどまさかたったの数ヶ月で潰されてもダメージをほとんど受けないほど頑丈になるとは思ってなかった。
我ながら成長速度が速い。ゾオン系悪魔の実を食べたことだし、打倒ジャックも夢じゃ無くなってきたかもしれない。
さて、ガンセキくんはもう使えないのでさよなら。これ以上に大きな岩を見つけて筋トレ道具になってもらおう。
ということで持久走も兼ねて森中を走り回って岩探し。走るのに限界が来たら30秒休憩、それが終わったらまた走る。
これで持久力が上がるだろう。めっちゃキツイけどジャックは5日間通しで戦い続けてたし私もそれくらい出来るようにならないと。
そう意気込んだのは良いものの、割とすぐに見つかってしまった。
7メートルくらいの岩だ。試しに持ち上げてみる。うん、ズッシリしてる。
人獣型で思いっきり投げてから潰されてみる。うん、気持ちい――じゃなくて痛い。でもこれじゃヌルい。もっと重くないと強くなれない。
ちょうど近くにそれより少し大きい岩があるのでこれにも潰されてみる。うん、さっきよりは良い。もう少し大きい岩は無いかな?
辺りを見渡しても自分が満足いく大きさの岩は見当たらない。
ならば見つけるまで探せば良い。
というわけでまた森中を走り回る。出来るだけ体に負担をかけるために全力で駆ける。人型で走ったり、獣型で走ったり、人獣型で走ったり、各形態の四足で走ったり。
そうして3回ほど休憩を挟み、満足いくレベルの大きさの岩を見つけられた。それは見上げるほど大きく、10メートルはありそうな岩だ。
試しに潰されてみると中々良かった。
今度からこの岩を使って筋トレするとしよう。
数ヶ月後。
また満足出来なくなってきた。成長するのは良いことだけど、このペースだと近いうちにズニーシャにある岩じゃ満足出来なくなりそうだ。
その時には私の体はカッチコチだろう。
今も10メートルの岩が降ってきても大丈夫なくらいカチコチだ。そしてそれに合わせて力も強くなっている。
岩を殴れば砕けるし、ハグをしても砕ける。
私自身の力が強くなった影響なのか獣型と人獣型のサイズが大きくなった。どれくらいかと言うと人獣型は3メートル、獣型は6メートルになった。
体が大きくなる事は質量が増えて破壊力が増すという事でもあるし、的が大きくなって攻撃を受けやすくなったという事でもある。
だけど私は体を硬くしてあるから攻撃を受けても問題無し!
むしろ鍛錬になるからウェルカム!叩いても殴っても切っても撃っても良いよ!
……誰かにそういうことされた事無いから実際は良いのか分からないけど。それに攻撃をわざと受けるのは変態みたいだ。
女の子としてそれは良いの?――否!そんなはずはない!
もっとなんかこうー女の子らしい…あの…あれとかやらないと……?……あれって何?
……………………考えても分からないし、いっか。
しかし困った。
さっきから新しい岩を探してるけどまったく見当たらない。岩ってそんなに貴重なものだっけ?おかしいな。体力増強が出来るから時間かかるのは良いけど、無いのは良くない。
でもここは象の背中の上だし、むしろ岩やら植物やらがあるほうがおかしいのか。
もしこのまま見つからなかったら次からの筋トレは何をすればいいのだろうか。腕立てやスクワットじゃもう何回やっても苦痛にはならない。
麦わら達はどうやって強くなってたっけ?
久々に記憶を遡ってみる。……なるほど、強敵と戦って強くなってるのか。
なるほど強敵ね。ジャックが最初に浮かんだけどここには居ない。となるとイヌアラシ公爵やネコマムシの旦那かな。
でもあの人達はかなり偉い人だし、私の修行に付き合えるほど暇だろうか。それにそんな事をしたら家族の皆に修行してるってバレてしまう。
出来る限り修行してることは秘密にしておきたいし、戦って強くなる方法はやめておこう。
となると他に何か別の方法で鍛えないと。
もう一回記憶を遡ってみる。
ん?別のものだけど高い塔から降りて登っては降りてを繰り返す修行があるな。
これは良いかもしれない!もし代わりの岩が見つからなかったらこれで鍛えよう!
見つからなかった。やったぜ。
それじゃ早速塔に登ろうかな。
私が登るのは岩探しの時にちょくちょく目に入ってた岩の塔。高さは大体数百メートルくらい。かなり太いので塔というより山だ。
ここから落ちて体を痛めつけて、登って筋肉を鍛える。高さもあるので体力だって鍛えられる。なんて効率的な修行だろう!
これを考えついた人は天才に違いない!
人獣型になって予想以上に凸凹してない岩肌に指を刺してグイグイ登る。4分の1くらい登った時に、人獣型じゃキツさ半減だと思ったので人型に戻る。
そして頂上に到着した。
この岩塔はズニーシャの背中の端っこにあるもので、方向によっては下を見れば海が見える場所だ。
私は人型のまま落ちようとしたところで踏みとどまる。
何故なら私が落ちようとした方角は外側、つまり海にドボンコースだったからだ。
おお、怖い怖い。私は能力者だから落ちれば救いのない死が待っている。修行で死にましたは笑えない。
私は方向転換して森のある方へと向かう。空は真っ暗で月は半月だ。
そういえば
(1…2…3っ!)
軽くジャンプして岩塔から飛び降りる。
目を閉じながらも分かる、落ちているという感覚。
風切音が聞こえるし重さを感じない。めっちゃ怖い。けど楽しい。
目を開けてみる。するともうすぐそこまで地面が迫ってきており、次の瞬間には地面に叩きつけられていた。
「――っ!!」
痛い。めっちゃ痛い。でも大丈夫。
これくらいで良い。これなら体がもっと頑丈になっていく筈だ。
よし、これを繰り返してやっていこう。
5年の歳月が経ち、私は14歳になった。
あの日から5年間、私は岩塔から飛び降り続けた。慣れて痛みをあまり感じなくなっても、落ちる体制を変えれば痛みが増したため岩のように数ヶ月で効果が無くなるなんて事にはならなかった。
しかし、それでもいずれ終わりは来る。
とうとう飛び降りても痛みを感じなくなってしまった。
もっと高い塔に登って落ちれば良いかもしれないけど、ズニーシャの背中にあるどの塔から落ちても、どんな体制で落ちても痛くなくなってしまった。
高所から落ちて無傷なのはカイドウを思い出すけど、あれは1万メートルから落ちて無傷だ。
私は数百メートルだし、格の違いを思い知らされる。
打倒カイドウじゃなくて良かった。
そんな私は防御力だけでなく攻撃力も上がっている。
力が純粋に上がったのもあるけど、武装色を安定して使えるようになったのもある。
どうやら私は武装色が得意らしく見聞色より習得が速かった。そんな見聞色も意識を集中さえすればかなり広い範囲を探知出来る。
正直私にとって覇気が使えるようになったことより伸びた身長の方に驚いてる。
獣型は10メートル、人獣型は5メートルと伸びまくっている。強くなった証なんだろうけど、ここまで大きくなるとジャックと戦うとき周りの被害が凄そうだ。
まぁ人獣型とか獣型の身長が伸びるのはまだ許せるけど、人型の身長が伸びるのはやめてほしい。
子供で育ち盛りだから身長が伸びるのは喜ばしいことだけど、流石に2メートルは伸び過ぎ。
私まだ14歳だぞ?
周りからの視線が刺さって下手な修行よりキツイ。
はぁ……飛び降り筋トレの効果が無くなった今、私はどうやって筋トレをすれば良いの?
そういえば筋トレで肉体をかなり強化したはずだけどまだ覚醒してないじゃん。ひょっとしてまだ筋肉が足りないの?
もしそうだとしたら筋トレ手段が無くなった私に出来ることは無い。
今思いつくのはズニーシャからの飛び降り……てこれは海にドボンするから駄目。
あ、これホントに筋トレ手段無いやつだ。
じゃあ他の方法を試してみる?もしかしたら鍛えられた筋肉じゃなくて、変身した回数で覚醒するのかもしれない。
そんな考えから人型と獣型と人獣型を高速で入れ替えてみる。
半ばやけくそ気味で変身を繰り返してると、後ろから声がかかった。
「ゆガラ…何をやっている」
その声が聞こえたと同時に変身を止めたらちょうど人獣型になった。まるでスロットマシンだ。
そんなこと考えてる場合じゃない。
やばい。一番見られちゃいけないところを見られちゃったよ。
それに相手は高速で変身を繰り返す不気味な奴に声をかけられるというとんでもないハートの持ち主だし、結構やばいのでは?
いや、相手が冷静でいてくれるのはむしろ嬉しい。錯乱して叫ばれるよりそっちの方が私の話を聞いてくれるからね。
ゆっくりと声のした方を向く。声のした方は斜め上、ここは森だし木の上にいるのだろう。
しかし人獣型の身長は5メートル、ほんのちょっと上を向けば見える位置にいた。
そこには片目の無いジャガーのミンクがいた。
ズニーシャの身長は3万5千mらしい。