口調合ってないかも。
この人を私は知っている。初めて会うけど、この人を知っている。
確か名前はペドロで、ミンク族の中でかなり強い部類に入る人だったはずだ。片目がない事からビッグ・マムに50年分の寿命を奪われた後ということが分かる。
さて、どう説明しようか。修行していた事を言うのは確定事項だけど、突然そのことを言うのは怪しい。
まずは挨拶して、それから話そう。
「どうも」
「………」
どうも…で合ってるかな。こんにちはの時間じゃないしこんばんはの時間でもない。かといっておやすみは侠客団のペドロに言う言葉じゃない。
まずい……挨拶から失敗したかも知れない。でもこれ以外の挨拶っていったらガルチューくらいしか思いつかない。
……ま、いっか。挨拶を2回やるのは変だしこのままいこう。
「何者だ」
お、そっちから声をかけてくれるのか。それに問いかけ。会話がしやすくなった。
「私の名前はメーレン。あの、ここで見たことは内緒にしてくれますか」
「……何をしていた?まずはそれを教えろ」
「悪魔の実の練習です。せっかく悪魔の実を食べたのに、使いこなせないのはもったいないかなって」
「悪魔の実………ゾオン系か」
ペドロは木の上から私を見て動かない。
その目は完全に不審者を見る目。1つでも怪しい動きをしたら排除される気がする。
もし戦う事になったら勝てそうにない。
一応武術の練習はしてたけど、実際に戦った人と妄想で戦った人では実力差があり過ぎる。
妄想なら自分の好きなように戦えるし予想外の出来事が起きる心配もない。実際、私は妄想で負けたことがない。
それでジャックと戦ったけど、お互いに攻撃が通らず泥試合になるばかりだった。
話を戻して、怪しい目で見るペドロの警戒をどうやって解かせようか。まずは人獣型を解除しよう。
私に戦闘の意思が無いことを伝えれば、突然斬られるとかされないはずだ。
人獣型を解除するとシュルル…と体のサイズが縮んでいく。黄色い毛は白に戻り、額の角は引っ込むように消えていった。
そしてあっという間に無害な少女に!2メートルあるけど。
よし!これで警戒が少し緩くなったはず!
……あれ?あまり変わってなくない?むしろ強くなってない?
あれか、無言で形態変化したから何か企んでると思ったのか。
ならば簡単。
態度でダメなら言葉で表す。
「警戒しないでください。私に敵対の意思は無いので」
「…もとより敵対するつもりは無い。ただ奇妙な奴だと思っただけだ」
なん…だと…?
私はペドロが警戒してると思ってたけど、実はそんな事が無かったってこと?
奇妙だとは思われてたみたいだけど。
何が原因でそう思われたのかなんとなく分かるけど、それを許容するわけにはいかん。
彼はこれから色々お世話になるであろう人物だ。そんな人物に、奇妙なイメージを持たれるのは良くない。
なんとかしてそのイメージを変えなければ!
「奇妙な奴とは失礼ですね!私はただ練習をしてただけです…!」
「その練習が奇妙なんだ」
私もそう思う。悪魔の実の覚醒するにはどうすればいいのか思いつかず、半ばやけくそ気味にやってた練習モドキだ。奇妙としか言いようが無い。
それでも奇妙と言われるのは傷つく。
「…奇妙…奇妙…」
「…そういえば悪魔の実のモデルは何だ?」
おっとペドロからの質問だ。
悪魔の実のモデルか。ゾオン系にはこれがあるから、たとえ同じイヌイヌの実でも差があったりして面白い。
古代種とか幻獣種とか種類も多いし、これだけ聞くとゾオン系が最強種みたいだ。実際最強か?使い手によるか。
それで私の悪魔の実だけど、実は正式名称を知らない。
悪魔の実の図鑑があれば知れたけど家や図書館を探してもそれらしいものは無かった。見落としてる可能性もある。
それでも変身後の姿からして、一応図鑑が無くてもそれっぽいのは考えつく。
「ウサウサの実モデル『アルミラージ』です」
「………聞いた事が無いな」
「それはそうでしょう。なんたって幻獣種ですから」
幻獣種…そう、幻獣種ですから。幻獣種なんだ。
幻獣種といえば特殊能力。幻獣種であるアルミラージも当然特殊能力を持っている。持っているはずなんだ。
なのに……未だにその特殊能力を使ったことが無いのは何故だ?
何故なんだ?使い方が分からない。まるでそこに無いかのように。
いや、あるはずなんだ。無いなんてことは無い。そうなんだ。そのはずなんだ。
あー嫌な事を思い出してきた。目を逸らさないと。
そういえばもうそろそろ家に帰る時間だ。早く帰らないと睡眠時間が少なくなってしまう。
ペドロにさよならを言って、さっさと帰ろう。
「ペドロさん、そろそろ寝る時間なので帰ります」
何か言いたそうなペドロに背を向け、家へと走り出す。
ちゃいちょい後方確認しながら家に着き、体を洗ってベッドにダイブ。
そして目を閉じ、眠りにつこうとしたその時、名乗っていないペドロの名を言ってしまったことを思い出し、やらかしたと気づいた。
現在真っ昼間。
私は家から離れた場所にある広場に来ていた。
そこは元気な子供達がかけっこしたり、戦士ごっこしたりして遊んでおり笑顔が溢れる遊び場と化している。
私としてはこんな人が集まる場所に行きたくない。小さな子供達の中に2メートルの私が居たら目立つからだ。
周りの子供達は遊びに集中して私を見てないけど、遠くから子供達を見守る大人達はチラッと見たりジロジロ見たりしている。
なんだか森の中の電波塔のような気持ちだ。
そんな目に合うのに私がここに来ている理由は―――
「お姉ちゃん!早く修行しようよ!」
―――妹のキャロットに誘われたからだ。
彼女は現在10歳。記憶によれば未来の恩人の手助けをする優秀な子になるらしい。
そんな彼女が何故修行をしようと言っているのかというと、事の始まりは昨日、彼女が将来『銃士隊』になると言い始めた時のこと。
私はその日、自分の部屋のベッドの上で座禅を組み見聞色の練習をしていた。集中して周りの気配を探る。本気を出せばご近所さんの動きを全て把握出来る。
私が見聞色の練習をしていると一階から声が聞こえた。何だ何だと耳を澄ましてみたらどうやらキャロットと母さんが言い争いをしているようで。
珍しいなと思いつつ聞いていると急いで階段を上がる音が聞こえてきた。
そして私の部屋のドアが勢いよく開き、座禅を組んだ私を見て何を思ったのか、しばらくの沈黙。
そして目を輝かせ、キャロットはこう言った。
「お姉ちゃん強そう!弟子入りしていい?」
……そういうわけでキャロットを鍛えることになった。
鍛えるといっても岩塔から飛び降りさせるわけではない。簡単な模擬戦をやって、戦い方を学ばせるだけだ。
キャロットにも強くなって欲しいけど、そんな危険な事をしろだなんて言えるわけがない。
「それじゃいくよ!」
「ん」
返事をするとキャロットが私に向かって走ってくる。その速度は目で捉えられる程度で、彼女の手からビリビリと電気が発生している。
そして彼女は私から数メートルにまで接近すると走り幅跳びのように飛び、私に拳を振り下ろす。
私はその振り下ろされた拳を掴む。これだけではないはずだ。
次の攻撃に備え、彼女の先を知るために意識を集中させる。
「え、あ、あれ?」
……どうやら次の手を考えていなかったらしい。
キャロットは防がれた拳を見て慌てている。
ここは姉としてアドバイスをしてあげよう。
「手が駄目なら足を使おう」
「あそっか」
腹に迷いのない蹴りを入れられる―――が、私のカチコチボディのおかげでノーダメージに終わる。それどころか攻撃したキャロットが痛がっている。
自分の体がかなり硬いと分かった喜びよりも、妹に迷いなく蹴られたショックのほうが強い。
ちょっと泣きそう。
まぁ10歳は早い人なら反抗期だし、これくらいはね。仕方ないことさ。
「〜っ!足も駄目だったよ!」
涙目で抗議するように声を上げるキャロット。泣きたいのはこっちの方だ。
「なら頭を使おう」
「えい!!」
ゴチン!
「〜〜ッ!!」
「……少しは迷え」
ため息を吐きながら手を離す。
記憶にあるキャロットはこんな性格では無かったけどその時は5年後。10歳から15歳の間は特に性格が変わる時期だし、記憶のようなキャロットを見れるのはこの時期を乗り越えた先だろう。
「頭も駄目だったよ!!」
両手で頭を抑え、私を見上げるキャロット。
今の流れで分かったことは彼女の実力じゃ私の体に傷一つ付けられないということだ。だから正直言って、彼女にできることは無い。
そんなわけで沈黙し、子供達の声だけが耳に入ってくる。
「まぁ………その……頑張れ」
「頑張ってるよ!!」
「もっと頑張れ」
「どれだけ!?」
「あそこから飛び降りるくらい」
数百メートルはある岩塔を指差す。
キャロットはその指差す先を見て青ざめる。
「死んじゃうよ!!」
「大丈夫、鍛えていれば死なないから」
信じられないといった表情で岩塔を見つめるキャロット。
いくらミンク族が生まれながらの戦闘種族だからといって、数百メートルからの飛び降りはただの自殺行為だ。
「もう一回やる?」
「…やる!」
この後めちゃくちゃ模擬戦した。
途中から周りの子供達にも見られて恥ずかしい思いをしながらキャロットの相手をした。あの子は見られて恥ずかしくないのだろうか?
模擬戦の後は人参を数本買って間食タイム。
広場のベンチに座って私は一本、その他はキャロットが食べた。それでも足りないというのでもう一本買った。
おかげでサイフが軽くなったよこの女郎。
夜。
私は一番高い岩塔の上で座り、モコモ公国を眺めていた。
これは修行では無い。かといって休憩でも無い。
私は将来について考えている。打倒ジャックの先を考えている。
倒せた場合と倒せなかった場合について考えている。
倒せなかった場合は?
“記憶”通りに事が進み、ワノ国でリベンジすればいい。ジャックを倒す事だけを目標にするならばそれでいいけど、私の目標はみんなを守ること。これじゃ守れてない。
倒せた場合は?
大看板が倒されたとなれば、百獣海賊団は黙っちゃいない。より大きい規模で攻めてくること間違いなしだ。
飛び六砲か、大看板か、その両方か。カイドウ自身が面白がってくるかも知れない。
もしそうなったらみんなを守れる気がしない。
……四皇は理不尽だ。
それでも戦わなければならない。
もう私に残された筋トレはズニーシャの登り降りくらいだ。それもいつものように体が慣れ、効果が無くなるだろう。
そうなってしまったら残された筋肉増強方法は悪魔の実の覚醒のみ。今まで目指しても出来なかったものだ。希望は薄い。
覇気は最近伸びた感じがしない。彼らに対抗するには一番大事だというのに。
武装色は内部破壊、見聞色は未来視を目標としているがそう簡単に習得出来る技術ではない。しかしこれらを習得しなければ勝てる可能性が芽生えない。
こんな状況でも私は彼らに勝てると思い込まなければならない。彼らより強くなれる自信を持たなければならない。
でなければ覇気は成長しない。どんな壁が立ちはだかっても、それをぶち破る勢いを保ち続けなければ。
適当な石ころを拾い、覇気の力をそれの内部に入れるイメージをする。石にヒビが入る。
一瞬、上手くいったように思えたが私が無意識に力を入れただけだった。
「ジャックが来るまであと5年か……」
あと5年……え?5年?マジ?
…もうすぐじゃん!こんなこと考えてる場合じゃない!筋トレしないと!
塔から飛び降りるじゃ足りない。ならばズニーシャから飛び降りれば良いじゃない。
そうと決まれば海方向にジャンプ!
下を見れば青い海が映り、視界の一部は高速で通る象の肌が映り続ける。
このまま何もしなければ海に叩きつけられてしまう。それも良いが、私は能力者のため泳げず死んでしまうので海に落ちないようにしなければならない。
そこで私が考えたのは海に落ちる寸前でズニーシャの足にしがみつく作戦だ。
そうすることで落下の勢いを止めるために全身の筋肉を使い、鍛えることが出来る。完璧な筋トレだ。
さて、そろそろしがみつかなければ。手足を使って虫のように張り付くつもりで力を込める。
ウグググググッッ!!!
摩擦で熱い!予想以上の負荷で筋肉がキツイ!!
岩塔から海面まで1万メートルは確実!その勢いをちょっと舐めてたかも。
う、もう疲れてきたけど休むわけにはいかない。休んだら勢いに負けて海にドボン!
ある人は言った。
『死に立ち向かったとき、人は真の力を引き出し、己自身を成長させる』と。よく聞く話だ。
私は今、これまでにないほどの力を引き出している。
その調子で少しずつ勢いが弱くなっていき、しがみつき始めてから約100メートル先で止まった。
下を見てみると海はすぐそこ。もう数メートル先にいっていたら死んでいただろう。
死んでいたかもしれない恐怖と、生きている喜びを息と共に吐き出し、気を引き締め直す。
ここからモコモ公国のある背上によじ登って戻らなければならない。霧がかかってるようでよく見えない背上にだ。
「…………………………はぁ……」
自分で始めた事だけど、地獄だこれ。
アルミラージ
黄色または黄金の毛と、螺旋状の長く黒い角を持ったウサギ。
めっちゃ獰猛で自分より大きい動物や人間を額の角で刺し殺して食べる。
本来はそれだけで特殊能力は無いが、流石にあれなので成長速度を早める能力がある。実力、筋肉、身長等。
感想、評価等お待ちしております。